それぞれの葛藤
お市が安土に向かってから、台湾、ルソンに明の民から亡命を希望する報告書が相次ぐ。
その対応を四人の男が協議していた。
「亡命は構わないが、問題があり過ぎる」
弾正は三人に向かって呟く。
「確かに、明との情勢が不安定な今、受け入れると難癖を付けられかねないでおじゃる」
雉麻呂が問題の一つを提示する。
「それに・・・殆どが病を患っているで御座る」
熊が苦悶の表情を浮かべながら話す。
「それも天然痘ときた・・・まずいぜっ」
鴉も苦悶の表情になる。
「姫様ならどうなさるか・・・わしには読めぬ」
弾正も苦悶の表情になる。
「しかし、我らは姫に大見得をきったでおじゃる。何とかせねばならないでおじゃる・・・」
雉麻呂も苦悶の表情になる。
「我らは気付かぬうちに、全ての決断を姫様に、委ね過ぎていたのかも知れん・・・」
弾正が前を向き、三人を見ながら話す。
「姫がどうするのかではなく、我らがどうしたいかを、考えた方が良いでおじゃる。全ての責任は我らで取れば良いでおじゃる」
雉麻呂も前を見て、三人に話す。
「某は、病を患った難民は受け入れられんと思うで御座る」
熊は思った事を発言する。
「差別するのはどうかと思うぜぇ。どうせ受け入れないと言っても、勝手に密入国するだろうし、それだと俺達が知らないうちに、天然痘が台湾に広がる恐れがあるぜぇ」
鴉が発言する。
「完全に入国を拒否すれば、織田を頼った者を守らないという事にもなる。これは織田の政策に反する考えじゃ・・・」
弾正が発言する。
「しかし、織田の政策は、織田の民に関してだとも言えるでおじゃる。入国を拒否するのは、間違った事ではないでおじゃる」
雉麻呂がそう発言すると三人は雉麻呂を見る。
「惨い事を言うかもしれないでおじゃるが、明の民は明の政治にて、動くべきでおじゃる。織田は明に介入はしないと思うでおじゃる」
雉麻呂が強い視線を三人に向けながら話す。
「何故そう思うので御座るか?」
熊が雉麻呂に質問する。
「大陸の民は変にプライドがあるでおじゃる。それが邪魔をして、織田の政策を受け入れないと思うでおじゃる。それに介入するつもりだったら、幾らでも介入出来ていたでおじゃる。それをしていないのは面倒ごとが多すぎるのを、嫌ったからでおじゃろう」
雉麻呂が答える。
「じゃなんで織田は台湾とルソンを取ったんだ?」
鴉が質問する。
「それは異国に対しての防衛線と考えたのと、大陸から離れている事も要因の一つであろう。姫様は大陸から離れた、海に囲まれた国を統治する事から始めるつもりなのじゃろう」
弾正が鴉の質問に答える。
「じゃ姫さんは民を区別してるってのかよっ!」
鴉は立ち上がり、怒りを露にする。
「鴉殿、落ち着くで御座る。始めはと言ったで御座ろう、全てをいきなり出来る訳無いで御座る。一番それを苦しく思うのは姫で御座ろう・・・」
熊はそう言って鴉を見つめる。
「すまない・・・取り乱した。そうだな、姫が一番辛い思いをするな」
鴉は頭を下げて、落ち込む。
「今、世界で一番強い海軍を持つのは、日の本の織田であるのは間違いないでおじゃる。その優位性で周辺の孤立した国や未開の地を織田の領地又は傘下にする事が姫の考えと思っておる。その為にはここ台湾は重要な場所でおじゃる。大陸を開放するには人も物資も足らないでおじゃる」
雉麻呂は三人を見て話す。
「話は逸れたが、今回の亡命もなにやら裏がありそうじゃ。病に冒された者ばかりだと言うのが不審に思うのじゃ・・・」
弾正が思った事を話し出す。
「たしかになぁ、姫さんの痛い所を突いてきてるしな。その辺は諜報に任せるか・・・」
鴉が呟く。
「では、雉麻呂の案で良いな?」
弾正が呟くと三人は頷いた。
こうして明からの亡命者は受け入れられないとの通達をする。
これに反発した台湾の民の一部が決起する。
これに対して、四人は織田の民では無い者は守れないと話をするが受け入れられず、内乱の様相となった。
それは各地に飛び火して、とうとう織田は最終勧告を行う。
「織田の政策を受け入れられない民は、織田の民と言えない。即刻織田の領地より去れ。去らないで抵抗するのであれば、武力を持って排除する」
その勧告さえも無視されたのである。
そんな時、一人の女と片目の子供が船に乗って台湾に着いた。
「ごめんね、皆に苦労かけちゃったね。後は任せて・・・」
俺は下を向いて、落ち込んでいる四人に話しかけると織田の兵を率いて各地の反乱軍と対峙する。
「おおっ!お市様じゃ」
「これで我らが、がんばった甲斐があると言うものじゃ!」
「四人の悪臣に対抗した甲斐があったわ!」
「四人の悪臣に極刑を!」
「明の民を助けてあげてくだされ!」
砦に立てこもり、次々と俺に向かって話しかける反乱軍
「あんた達、なに言ってるの?なに考えてるの?あたしを何だと思ってるの?」
俺は冷めた声で叫ぶ
「えっ・・・」
砦の中から不安と驚きの混ざった声が聞こえてくる。
「あんた達なんか勘違いして無い?この台湾は織田の領地、其処に住む民は織田の民。大陸明の領地に住む民は明の民。住む国の政策に法って行われる。私は偽善者にはなれないわ、他の国の民まで助ける義理は無い。織田の気分次第よ、あんた達が行ってる事は織田に弓引く行為、甘えるな!このまま私に殺されるか、国を出るか決めなさい!」
俺は叫ぶと砦から、次々と人が急いで出てくる。
「お市様に逆らうつもりはないのです。我らの思い違いと甘えを正す機会を下さいませ・・・」
民を扇動したであろう男が、俺の目の前に来て土下座をして頭を下げた。
「あんたがこの乱の首謀者ね?名前は?」
俺は男に質問する
「李旦と申します。我が首にて他の民に恩赦をお願い致します・・・」
李旦は頭を下げて、首を前に出す。
「ふ~ん、あんたおもしろいわね。暫く、あたしの元で働きなさい」
俺はしゃがんで李旦の頭を上げて見つめる。
「えっ!」
李旦はすぐ目の前の俺を見て、顔を赤く染める。
「んっどうしたの?」
俺が首を傾げながら呟く。
「天女だぁ・・・」
李旦が顔を赤くして下を向き呟く。
「はぁ?こんなおばさんを見て、天女はいいすぎよ・・・フフフッ」
俺は少し恥ずかしくなって顔を背ける。
「いえ、私のような者と同じ目線で話をするその心に惚れました。お近くで勉強させてください!」
こうして台湾の乱は急速に収まり、李旦を付き人にしたのであった。




