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お市の天下漫遊記  作者: 女々しい男
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片目の化け物

明の万暦帝に宰相として仕え、多大な功績を残していた張居正が病の為、死去する。

張居正の死によって箍が外れた万暦帝は、次々と悪令を発して民衆の反感を買い始めると、その矛先を外に向けようと画策する。

その矛先に日の本を選ぶと、信長の元に高圧的な使者を送り付けた。

「なんだこの忙しい時に!このままでは我は市に会わせる顔が無いというのに・・・」

信長は焦るような顔をして怒鳴る。

「上様、お気持ちは我らも同じで御座います。なれど明の使者を待たせる訳にも参りませぬ」

半兵衛が信長に諌めるように話しかける。

「上様、此処は我らにお任せを。官兵衛、上様と共に使者の話を、聞いてきてくだされ」

十兵衛が信長と官兵衛に話しかける。

「くっ・・・後は任せる。行くぞ!官兵衛」

信長は暗い顔をして謁見の間に向かう。

「官兵衛殿、明はおそらくルソン、台湾の返還を言いにきたのであろう。今回はのらりくらりと、はぐらかせるが良策だ。今、姫に負担はかけられん、良いな」

半兵衛は官兵衛に念を押すように話す。

「分かっております。ただ私では、上様を押さえられるか・・・」

官兵衛は少し、暗い顔をする。

「自信を持て、お主は織田の三兵衛が一人だと自覚せよ!」

半兵衛が叫ぶと、二人は官兵衛を見つめる。

「お任せを・・・」

官兵衛は笑顔を浮かべて、信長の後を追ったのであった。


台湾にて織田の政策を推し進める俺は、多忙を極めていた。

そんな時、安土から緊急の使者が来た。

「暑いわぁ・・・んっ?熊!久しぶりね。どうしたの?そんなに慌てて?」

俺は扇子で扇ぎながら、熊に話しかける。

「姫!申し訳御座いません・・・」

いきなり、土下座して謝り始める熊

「なっ、どっどうしたのよ!訳を聞かないと謝る理由が分からないわ」

俺は困惑しながら、熊に話しかける。

「我ら、姫様より梵天丸様のお世話を命じられておりました。それなのに・・・申し訳御座いません・・・」

熊は頭を下げたまま、頭を上げようとしない。

「何かあったのね・・・」

俺は扇子で扇ぐのを止めて、冷めた声になりながら、熊に話しかける。

「梵天丸様が・・・病にて、明日をもしれぬ状況に御座います。お役目果たせず、申し訳御座いません・・・」

熊は泣きながら、俺に話す。

「なっ・・・」

俺は扇子を落とし、心が引き裂かれるような衝動を受ける。

「信長様が、全国の名医と呼ばれる方々を、安土に招いて治療に専念させておりますが・・・姫様、速やかに安土にお戻りくださいませ!」

俺はすぐにでも駆けつけたい衝動に駆られるが押し殺す。

「行けないわ。あたしが今、此処を離れる訳には・・・」

俺は熊にそう告げると数人の男が入ってくる。

「姫様、安土に戻り、梵天丸のお傍に居てあげてくだされ・・・」

久爺が俺の前に来て、そう呟く

「弾正・・・」

俺は涙を浮かべている久爺を見て、心が強く締め付けられる。

「姫、麻呂からもお願いするでおじゃる。梵天丸の元に行ってあげて欲しいでおじゃる」

熊に付いてきたのだろう。雉麻呂も俺に帰れと言う。

「でも・・・」

俺は心が揺れ動く。

「姫さん、俺や熊、弾正、雉麻呂がいるんだ。気にせず、行ってこいよ。それとも俺達じゃ役不足かい?」

そう言って、俺の前に立つ鴉。

「・・・すぐに戻るから、それまで頼んだわよ」

俺は皆の気持ちが嬉しくて、涙を流して、頭を下げていた。

「「「「御意!」」」」

鴉達が俺を送り出す。

俺は急ぎ、船に乗り込み安土に向かった。

船を走らせ、馬を駆けさせ、安土に着いた俺はボロボロの服のまま、安土の城に入り、梵天丸の元に向かう。

「梵天丸!梵天丸!」

俺は叫びながら、城の中を走り、特別室に向かう。

「姫様、申し訳有りませぬ。もうしわけ・・・」

虎は痩せこけた顔をしながら、涙を流し、俺に詫びる。

「・・・間に合わなかったのね」

梵天丸の死が俺の脳裏を過ぎる。

「いえ、お命は助かりました・・・」

虎は土下座して頭を下げたまま話すが、頭を上げようとはしない。

「えっ、助かったのなら、何故そんなに謝るの・・・梵天丸は何処?」

俺は梵天丸が寝ている部屋の襖を開けようとする。

「あけないで!あけないで!かかさま・・・あけないで・・・」

襖の向こう側から、梵天丸の声が聞こえる。

俺は梵天丸の声を聞き、安心と共に開けようとすると、虎が俺の手を押さえる。

「何をするの・・・虎」

俺は怒気を込めて虎を見つめ、冷たく話す。

「姫様、梵天丸様の顔を見て、驚かれないで下さいませ。我らは、梵天丸様を傷つけてしまいました・・・」

虎は俺にしか聞こえないような、小さな声で涙を流しながら呟く。

「心配は無用よ・・・」

俺は襖を開けると、俺に背を向けて、座り込んでいる梵天丸を見つける。

「かかさま・・・なぜ開けたのですか」

梵天丸は泣きながら、話し出す。

「梵天丸が病にかかって、生死を彷徨っていると聞いて、居ても経っても居られず、安土に戻ったのです。会いたくて、会いたくて戻ってきたのです・・・」

俺は優しく梵天丸に話しかける。

「僕は、かかさまに嫌われたくないのです・・・梵天は、化け物になってしまいました。この顔を見られたら、かかさまに嫌われる・・・」

そう言って肩を震わせながら、泣く梵天丸。

「そう、梵天丸は化け物になってしまったの・・・なら、この母と一緒ね」

そう言って微笑みながら話しかける。

「そんなことはない!かかさまは化け物じゃない・・・」

梵天丸は怒鳴るように話す。

「お前の母は幾万の人の命を奪ってきた。化け物の王、第六天魔王よ」

俺は悲しげに話す。

「違う!かかさまは魔王じゃない!」

梵天丸は振り返り、俺を見て叫ぶ。

「やっと、顔を見せてくれたわね。ありがとう梵天丸、あたしの愛しい子」

そう言って俺は泣きながら、梵天丸を抱きしめる。

「かかさま・・・」

梵天丸は俺に抱きしめられながら、硬直する。

「寂しい想いをさせてごめんね。ごめんね・・・梵天丸」

俺は泣きながら、強く抱きしめた。

「かかさまは、この顔を見て、僕を嫌いにならないのですか・・・」

梵天丸は顔を下を向けて話す。

「梵天丸がどのような顔になろうと、心が醜く無ければ良いのです。見た目など気にする母と思っていたのですか?」

俺がそう言うと梵天丸は泣きながら、俺にしがみついた。

「梵天丸、この母に命を預けれますか?」

俺は梵天丸を離して、顔を向かい合わせる。

「僕はかかさまの為なら死ねます!」

梵天丸は強い視線を俺に向けながら話す。

「その右目を母に貰えますか?」

俺は梵天丸の腐れて飛び出た右目の眼球を見つめる。

「はい、かかさまにあげます!」

梵天丸は俺を見つめて話す。

「虎、すぐに火鉢と、沸騰させたお湯に綺麗な布を漬けたまま、持ってきなさい!」

俺は虎に叫ぶ

「はっ!」

虎は俺に返答すると、急いで用意する。

「もし、梵天丸が死んだら、母も共に死んであげます」

俺は懐から守り刀を取り出すと火鉢の上で赤くなるまで刀を炙る。

その光景を覚悟を決めて見つめる梵天丸。

赤く熱した守り刀を素早く振って、梵天丸の右目を切り取った。

「うぐっ・・・」

沸騰したお湯に漬けられていた布を、箸で取って絞り、切った傷口に当てる。

痛みを我慢する梵天丸を抱きしめ、俺はすぐさま、右目を切った刀を使って、自分の太腿に刺す。

「うっ・・・」

刀を刺した俺を見て、梵天丸が驚きながら、俺を見つめる。

「貴方の痛みを分けて欲しかったの・・・」

俺はそう言って、優しく梵天丸に微笑んだ。

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