十字軍来襲
薩摩を出航して、琉球に到着すると鴉が港で俺を待っていた。
「鴉、元気してた?あんた、焼けすぎてるんじゃないの・・・」
俺は真っ黒になった鴉に話しかける。
「ここは暑過ぎるぜぇ、まっ女も解放的で熱いけどなぁ」
鴉は助平な顔をしながら俺に話しかける。
「そんなに気に入ったんだ・・・永住する?」
俺が手を叩いて話す。
「いやいやいや、帰らせて帰らせて・・・」
涙目で訴える鴉。
「う~ん、申し訳無いけど、まだ帰国はさせれないわ・・・」
俺が真剣な顔で話す。
「あらぁ~、そろそろかい?」
鴉も俺の顔を見て、真剣な顔をする。
「ええっ、馬鹿な奴らが呼んじゃったみたい」
俺が呆れたように話す。
「それはまた、姫さんもゆっくり出来ねぇな。お肌もカサカサしてきたか?」
鴉が俺に喧嘩を売る。
「・・・死にたい?」
俺は鴉を見て呟く。
「すいませんすいませんすいません・・・」
白目になりそうなのを我慢しながら、俺に謝罪する鴉。
「もう三十路が近いのよ。仕方ないでしょ」
俺が呟く。
「完全な行き遅れだな・・・」
鴉が地雷を踏む。
「死んだぞぉ・・・」
俺は鴉を睨み、片手を挙げると、三人の忍びに取り囲まれて、縛られ、海に落とされる鴉。
「ああぁ・・・たっがぼっ、たっすがぼっ、しっぬっ、、、ぶくぶくぶく」
海に沈む鴉を、冷めた目で見る俺。
「あっああっ・・・」
そんな俺を見ながら言葉にならない声を出す。男がいた。
「んっ?あんた誰?」
俺は男に話しかける。
「お初に御目にかかります。尚永と申します。宰相様」
深々と頭を下げる尚永。
「ああっあんたが琉球の王様?」
俺が尚永を見ながら話す。
「王とは名ばかりで、織田の庇護の下、何とか運営出来ている次第。お恥ずかしいばかりで・・・」
困ったような顔をしながら話す尚永。
「いいえ、貴方の英断で双方、血を流さずにすんだわ。ありがとうね尚永」
俺は頭を下げて、話す。
「顔をおあげくださいませ。時勢ですので、それに今は、織田の庇護に入れて良かったと、皆思っております」
尚永は深々と頭を下げる。
「もし、織田の人間でも民を泣かすような事したら、すぐにいいなさい。消してあげるから・・・」
俺はそう言って微笑むと、尚永は引きつった顔をしながら頷いていた。
「しかし、姫さんがこんな所まで来るってのは、結構やばいのか?」
海から脱出出来た鴉が話しに加わる。
「う~ん、時間は出来たのよね。明のおかげでね・・・」
俺は顔色を変えずに、此処に来た理由を伝える。
「なるほど、苦渋の選択だったな。姫さん・・・」
鴉は両手を組みながら話す。
「台湾、ルソンに撤収の使者を出して欲しいの。後、避難したい住民がいたら出来るだけ、乗せて戻ってきて欲しいの・・・」
俺は申し訳無い顔をして鴉に伝える。
「いいぜぇ、でもそんなに乗せれないと思うぜぇ」
鴉は俺を見て話す。
「金品や武器、玉薬は置いてきていいわ。出来るだけ、人を優先して・・・」
俺は鴉を強く見つめながら話す。
「相変わらずだな姫は・・・じゃ琉球にいる船全部使わせてもらうぜ」
鴉はそう言って俺を見る
「ええっ構わないわ。残った民は、地獄を見る事になるでしょうけど・・・」
俺は顔を伏せる。
「姫、これはどうしようもない。その国の人間が決めたんだ。日の本じゃない・・・尊重もしなきゃな」
鴉はそう言って、俺の頭を撫でる
それから鴉は数日で準備して台湾、ルソンに向かった。
鴉がルソン、台湾に着くと明の役人が到着しており、引継ぎをすると住民の移動で一悶着する。
「何故、民を連れて行く!民は明の物だ!」
少し偉そうな役人が鴉に怒鳴りつける。
「はぁ~?人を物扱いかぁ?何様だ!」
鴉は激怒していた。
「鈴木殿、ここは落ち着いて。お役人様、此処にある金品、武器、玉薬は置いていきますので、お見逃しいただけませんか?」
男は金品等を指差しながら話すと、頷きながら役人は、見て見ぬ振りをするようになる。
「小西殿、すまぬ。頭に血が上ってしまった」
鴉が頭を下げながら、小西に謝罪する。
「下の名前で結構で御座います。それに鈴木殿のお気持ち、痛いほど分かりますので・・・」
そう言って暗い顔をする小西。
「では、俺も下の名前で良い。しかし良いのか?隆佐殿はキリシタンであろう?異国といや十字軍とやらと戦うのは・・・辛くないか」
鴉は少し下を向いて話す。
「重秀殿、お市様は改宗しろ、信仰を捨てろとは仰いません。キリスト教は素晴らしいと仰ってくれた。ただそれを扱う者によって、変わるのが悪だと仰る。宗教とは強制する物ではないし、それを理由に争いを起こして良い訳でも無いと仰った。何を守りたいのか?お市様に問われた時、私は答えられなかった」
隆佐が空を見ながら話す。
「・・・・・・」
鴉は静かに聴いていた。
「お市様は弱い民を、弱い人を守りたいと仰った。その為に手を汚し、血反吐を吐いても、泥水を啜ろうとも、どんなに罵られようが構わないと仰った。私はお市様の中にマリア様を見た。背教者と呼ばれようと私は構わない覚悟が出来たのです」
隆佐は鴉をみて強い覚悟を伝える
「そうかい、俺もあんたと同じさ。俺も姫さんの中に菩薩を見たよ」
鴉は微笑みながら話すと、二人は悲しく微笑みあった。
希望した民を全て乗せる事が出来なかった。
きっとあの方は悲しむと、それが分かっていたから・・・
それから一月も経たない内にスペインの無敵艦隊を主力に十字軍の大船団がルソン、台湾を襲う。
織田家はすぐに援軍を出す旨を使者として出すが、ルソン、台湾への介入を恐れた明から、援軍無用との返答を貰った為、手出しが出来なくなっていた。
そんな明の軍勢は十字軍に手も足も出ず、壊滅する。
原住民は略奪や焼き討ちに遭い、女は犯され、弄り殺しの目に遭う。
遥か遠方の船の上から、静かに涙を流しながら、見つめる女がいた。
その後、ルソン、台湾は異国の手に落ちたのであった。




