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お市の天下漫遊記  作者: 女々しい男
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朝廷の闇

我も歳を取ったか。あのような無様なやられ方をするとは、姫に顔向けできんな。

しかしあの者、何所かで見た顔なのだが想い出せん。

あの感じ、あの動き、古き忍びの型に近かった。

あれは秘とされる大伴流ではなかったか。

もし、大伴流ならば・・・朝廷の忍び、敵は朝廷内部の者になる。

思い出した。あの男は・・・

そう考えていると人が来たようだ。

この感じは姫様か。何と、はしたない歩き方なのだ。

急いで此処に、向かっている姫の足音が聞こえると、何故か嬉しくも有る。

「どこよ!鳶は何処いるの!」

「こちらで御座います!」

「大丈夫なんでしょうね!息してるのよね!目覚ましてるの!動けるの!ねぇ!大丈夫なんでしょうね!」

「加藤様は、安静になさらないといけませんので、姫様、声は小さめに・・・」

「ああっ、わかったわ・・・早く何処よ!」

俺は気が気でなかったが、鳶のいる部屋に入ると、鳶が半身を起こして、俺を出迎えていた。

「鳶っ!」

俺は半泣きで鳶の横に座り、手を取って声をかける。

「姫、お役目を果たせず、申し訳ありません・・・」

鳶は痛々しい感じで頭を静かに下げる。

「いいの!動かないで、私が甘く見すぎたの。ごめんね・・・ごめんっ」

俺は泣いていた。

「段蔵、姫を泣かせるとはまだまだよのう」

「太平の世で腕が落ちたか?」

百地と藤林が嫌味を言うが、顔は鳶を心配していた。

「相手は分かっておるのか?」

久爺が鳶に問いかける

「確信がある訳では無いが、俺を斬った男は大伴の動きだった」

鳶が問いに答える

「なっ!」

「そんな馬鹿なっ・・・」

百地と藤林は目を見開いて驚く

「大伴とな?」

「何?それ?」

二人の様子を見て久爺が話し出し、俺は問いかける

「忍びの祖とも言われる。大伴細人の流れを組む。朝廷の闇に御座います」

百地は静かに話し出す

「大伴氏の事か?確か初代征夷大将軍、大伴弟麻呂も大伴の出ではあるが、しかし平安中期以降からは没落して消えた家であろう?」

久爺が話し出すと藤林が首を振りながら答える

「表向きから消えただけです。闇には依然勢力を保っております」

「ただ、表向きには出て来ない為、我らにも実情は掴めてはおらんのだ・・・」

百地が悔しそうに話す

「それが本当であれば、姫の考えが当りましたな」

久爺は俺を見て呟く

「土佐に介入出来て、大伴を動かせるのは、一条内基しかいないわね」

俺が呟くと久爺が頷く

「でも、一条内基だけでは織田には敵わないのは分かってるはず、それでも動く。唆した者がまだいるはず」

俺は顎に手を当てて考える

「しかし、一条内基だけでは大伴を動かせるとも思えません」

藤林が俺に疑問を投げかける

「姫様、此処は上様に話を通したほうが良いかと・・・」

久爺は俺に提案する

「そうね、あたしだけでは手に負えないわ。あたし無官だから、朝廷が相手だと、兄様しか手出し出来ないわ」

俺が立ち上がり、動こうとした時に鳶が話し出す

「姫、我を斬った男。滝川一益」

「なっ・・・」

俺は織田の内部にまで敵が入り込んでいる事に恐れを感じていた


京の一条邸の一室で四人の男女が話をしていた。

「土佐があのように早く露見するとは、計算外ですな」

滝川一益が話し出す。

「あの女が動いておったとはのう、なんとも鼻が利く女じゃ。忌々しいでおじゃる」

一条内基が相槌を打つように話し出す。

「ほんと、あと少しで土佐が手に入って、足場が出来てたのに。悔しいわ」

小少将が顔を歪めて、内基に寄り添いながら話す。

「しかし困りましたな。もうあちらでは許可が出て、編成中との事。この日の本に、足場を早く作っておかねば、計画が実行出来ませんぞ」

男が静かに話し出す。

「在昌、何か手はあるのでおじゃるか?」

内基が問いかける。

「肥前にも種は撒いております。いずれ芽を出し、花が咲きましょう。ところで滝川殿、お市の飼い犬はちゃんと始末出来ておりましょうな?」

在昌は一益を睨みながら話す。

「心配するな賀茂殿。間違いなく、仕留めたわ」

そう言って胸を叩く一益。

「それなら良いのです。顔も見られている以上、危険ですからね・・・」

在昌は一益を見てにやりと笑う。

四人の会話は深夜まで続いていた。


俺は急ぎ、安土に戻って信長と話しをする。

「ふむ、朝廷か。何処まで浸透しておるかだな」

信長は顎に手をやり、考え込む。

「それに織田の内部も、掃除しなければなりませぬ」

俺は信長に向かって、話した時に官兵衛が割り込む様に進言する。

「お市様に位階と官位を授与されては如何でしょう」

その言葉に十兵衛が驚いた顔をする。

「官兵衛、お主がそんな提案をするとは思わなかった」

そう言って官兵衛を直視する十兵衛。

「十兵衛殿、わしはお市様が嫌がる事を申しただけで御座います」

官兵衛は笑いながらそう話す。

「官兵衛!いらない事言わないでよ!仕事増えちゃうでしょうが!」

俺がそう言って官兵衛を見ると、してやった顔をしていた。

「おおっ官兵衛、お主良い事を言ったのう。良し、そうしよう!」

信長は手を叩いて、笑顔で話す。

「やめてぇ!」

俺の叫びは、むなしく安土の城に響き渡った。

そして従一位参議という位階と官職を授与されてしまうのであった。

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