表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お市の天下漫遊記  作者: 女々しい男
10/36

鳶の不覚

土佐から堺に向かう船に一人の女が乗船していた。

女は船室の中に入ると口を開く。

「いるんでしょ。出てきなさい・・・」

女がそう呟くと一人の男が姿を現した。

現れた男の顔を見て安堵の表情を浮かべる女。

「お主らしくも無い、付けられるとはな」

そう言って手にした棒手裏剣を女の後ろに向かって投げる。

「クッ!」

投げられた棒手裏剣が男の腕をかすり、傷を付ける。

「なっ!誰!」

女は自分の後ろにいた男に向かって、驚きの表情を浮かべる。

「そいつは鳶加藤、お主の邪魔をした者の飼い犬よ・・・」

謎の男は呟くように話す。

「我の穏形を見抜くか・・・」

鳶は男と対峙しながら話す。

「わしらに穏形は通じぬ、生かしては返せぬゆえ・・・死ね」

片手を上げると数人の男が鳶を囲む。

「これほどの手錬がおるか・・・ここは引く」

鳶は男達を見て、瞬時にこの場から逃げる事を決める。

「ほう、さすがは鳶加藤、判断が早い・・・しかし、逃げ切れると思うてか」

男はすぐさま、追撃して切りかかり、船の縁まで追い込む。

「クッ!」

鳶はかわしきれず、肩を切られて海に飛び込んだ。

「もはや、助かるまい」

海を眺めて呟く男。

成り行きを見守っていた女が話し出す。

「さっきの棒手裏剣にも、その刀にも、毒が付いてるようね。それに船から落ちて、陸地まで泳ぎきれる距離でもないでしょうしね」

女が呟くと男が話し出す。

「仕留めたかどうか確認をしたかったが、仕方なかろう」

二人は鳶が落ちた海を見て呟いていた。


暫く、土佐に滞在していた俺達は、鳶の報告を待っていた。

「わざと逃がして、泳がせて、黒幕まで一気に行きたいところだけど・・・」

俺が梵天丸と遊びながら呟く。

「ちと、遅いですな」

久爺が呟く。

「段蔵がしくじるとは思えませんしな、何やらあったやも・・・」

百地がそう口にした時に、見知らぬ男が慌てて現れる。

「んっ!お前は根来の手の者か?」

藤林が男を見て呟く。

「はっ!津田算正の使いの者です」

男は俺を見て、素性を語る。

「何で?津田殿があたしに用事があるの?」

俺は首を傾げて使者を見る。

「加藤段蔵様が重症にて、当家にて養生中との事を伝えに参った次第」

頭を下げて話す使者。

「・・・すぐ行く」

俺は氷の様な表情に変わり、立ち上がる。

「姫!おまちを、鳶程の手錬がやられたとあらば、警護を厚くせねば危険です!」

藤林が叫び、百地が首を動かして同意する。

「そんな暇はない・・・」

俺が冷めたような言葉を返すと二人は沈黙する。

「藤林殿、阿波に行って柳生宗厳という男を連れてきてくれ」

久爺は依頼する

「おおっ!畏まりました」

藤林はすぐに姿を消して阿波に向かった。

「百地殿、姫の周辺警備に忍びを配置してくだされ」

「御意!」

「蜂殿、川並衆を館の周りに配置してくだされ」

「わかったぜぇ!」

二人に指示を出すと、久爺は梵天丸を抱きかかえ、俺に話しかける。

「姫、あまり気になされますな。我ら姫の為なら、この身朽ちても構いませぬ。鳶もそう思っておりましょう」

俺は自分の甘さに腹が立って立ち尽くしていた。

敵を甘く見ていた。鳶だけで十分であるとの慢心が、招いた結果を俺は、強く後悔していた。

「少し、落ち着かれよ」

久爺は茶を俺に手渡す

「鳶を倒せる手錬なれば、おのずと人物が限られてきますな・・・」

久爺は庭に出て話しかける

「織田の手に落ちてない、手錬を使える者。親直を操った女、小少将。もはや確証に近いわね・・・」

俺は落ち着きを取り戻しながら茶を口にする

「土佐はあの者らの息がかかっておりますからな。主犯は・・・」

久爺が口を濁らせる

「さすがに兄様とも相談しなきゃならないわ。あいつ等が馬鹿なことする前に止めないと・・・不味い事になる」


数日後、急いで来たであろう二人の男が、疲れも見せずに、俺の前に肩膝を付き、挨拶する。

「松永家家臣、柳生宗厳で御座る。これは嫡男、厳勝で御座る。先代様より、お市様警護の任を承り、参上致しました」

真面目だ。堅苦しいぐらい真面目だ・・・俺は心の中で呟く。

そんな時、宗厳と厳勝に向けて、棒手裏剣が四方から飛んでくる。

「なっ・・・」

俺が驚いていたら、一瞬で全ての得物が叩き落されていた。

得物が落とされたと同時に百地と藤林が二人に切りかかる。

二人は流れるような動きで避けて、刀を二人の首元に触れた所で止める

「降参じゃ」

「参った」

百地と藤林は白旗を揚げる

「腕試しをされるとは、中々手厳しいで御座るな・・・」

宗厳が少し拗ねたように話す

「姫の警護、抜かりが有ってはならぬゆえ・・・申し訳ない」

藤林は、悔しそうな表情をしていたが、二人に謝罪する

「いや、良いで御座る。某も姫には、期待している一人ですからな・・・はっはっはっ」

宗厳はそう言って笑っていた

「しかし、柳生は剣の道を究めようとする武士。姫の考えは合わぬのではないのか?」

百地が不思議そうに話しかける

「柳生の剣は活人剣、人を生かすために剣を振るう。誇りや名誉で振る気は御座らん。姫の考え、行動は、柳生の本質と被っておる。ゆえ、この任の話を聞いた時に、我ら二人、天命と思ったほどよ」

柳生の二人はそう言って微笑んだ。

そんな二人を見て、お供の者達は、つられた様に笑い合っていた。

「揃ったようね。じゃ鳶のいる所まで行きますか」

「「「「「「御意!」」」」」」

そして俺達は、急ぎ土佐を出て、紀伊に向かったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ