『 視線 』
落ち着かない。
大分前から、外を歩いていても家に居ても……いつも嫌な視線を感じるんだ。
無言電話とか直接的な嫌がらせはないけれど、毎日毎日他人に覗かれて気持ち良い訳がない。
「もう我慢の限界だ」
視線の正体は、知ってる。
彼女が何処に居て、どうやって僕を見ているのかも。
「今から行くよ」
ナイフを手に取った僕を、貴女はどんな気持ちで見てるんだろう。
落ち着かない。
大分前から、外を歩いていても家に居ても……いつも感じていたあの視線がなくなってしまったから。
ナイフを突き刺した感触だけが手に残り、僕は何だか。
「……あ」
その時だった。
あの、彼女の視線が帰ってきたのは。
背筋が冷たくなる感じ、それと共に訪れる奇妙な安心感。
「おかえり」
彼女の生死なんて関係ない。
この視線が、いつの間にか僕の一部だったんだ。