逃げられない現実
面白くなるための話。
バンッ!
32歳、独身、無職の男は町をとぼとぼ歩いていたら、黒服集団に攫われて、何やら暗い部屋に放り込まれた。
「イテテ……」
ここがどこなのかは当然見当もつかないし、あれからどれだけ時間が流れたのかもわからないし、俺のいた町からどれほど離れているかも全くわからない。
なぜなら、俺は車の中に連れ込まれた後、すぐに眠らされてしまったからである。
そして今、この部屋に放り込まれた時の衝撃で目が覚めた。
何が起きているのかさっぱりだが、とりあえず辺りを見回す……暗くてよく見えない。
下手に動くのは危険だと思い、しばらくじっとしていると、部屋に明かりが灯された。
そして、部屋全体を眺める。
部屋はそんなに広くはないが、狭くもない。大人が10人入っても余裕がありそうだ。
部屋の中央には机とガラスで仕切ってある。
ちょうど、牢屋に入れられた人が外部の人と面会を許された時に使う部屋のようだ。
ガラスには下の方に少し小さな穴が空いていて向こう側の音が聞こえる構造になっている。
そしてその向こう側には、見るからにヨボヨボの老人が椅子に腰掛けていた。
「さぁ、座りたまえ」
老人の他には誰もいないようだ。
俺は言われるままに、老人と向かい合う。
「ここはどこなんでしょう」
「君には、これから渡す資料の人間たちをあるスポーツで勝たせるために采配を行ってもらう」
「は?」
「戦う相手は私が用意してきた」
「あの、質問に答えてもらっていいですか?」
「駄目だ、君は私の話を黙って聞いておけ」
なんて理不尽。
だが、逆らう勇気をないし、反抗した途端黒服男が入ってきて殺されるかもしれない。
怖いから、話を聞こう。
「まぁ、今話した通りだ。君はこの選手たちを使って相手に勝てばいい、しばらくここから出ることはできないが、君たちがどこで何をしていようが心配する人間なんているのかい?」
……確かに俺がどこで力尽きていようが心配する奴なんでいないだろう、だがなぜこの老人がそんなことまで知っている。
「いろいろ考えているようだな、言っておくが君を解放する気はないし、君も帰る場所はない、だからとりあえずこの資料に目を通せ、読み終えたらやってもらうスポーツ名を発表しよう」
聞きたいことも、わからないところも山ほどあるが、この状況では従うしかないだろう。
「はい」
老人から10枚ほどだろうか、束になっている紙を受け取る。
「流石に自分の立場を理解したようだな、素直な奴は好きだぞ」
言わせておけばいい。
この資料を見れば、多少は状況が飲み込めるかもしれない。
そう思い、一枚目の白紙をめくる。
選手No.1 伏見
男 17歳 170cm 55kg 右投左打 高校生
打撃力:B
守備力:B
投手力:C
走力:A
選手No.2 田中
女 18歳 145cm 38kg 右投右打 高校生
打撃力:E
守備力:E
投手力:E
走力:E
選手No.3 中島
男 20歳 168cm 60kg 右投右打 会社員
打撃力:D
守備力:E
投手力:E
走力:D
選手No.4 川岸
女 22歳 160cm 45kg 左投左打 大学生
打撃力:E
守備力:C
投手力:E
走力:B
選手No.5 米澤
男 22歳 180cm 75kg 右投右打 消防士
打撃力:C
守備力:C
投手力:E
走力:C
選手No.6 関根
女 25歳 155cm 50kg 右投右打 フリーター
打撃力:D
守備力:C
投手力:E
走力:D
選手No.7 井上
男 26歳 170cm 52kg 左投左打 図書館司書
打撃力:E
守備力:D
投手力:E
走力:C
選手No.8 伊藤
女 29歳 150cm 45kg 右投右打 主婦
打撃力:E
守備力:E
投手力:E
走力:E
選手No.9 豊田
男 31歳 185cm 90kg 右投右打 漁師
打撃力:A
守備力:D
投手力:C
走力:E
なるほど。
「野球ですか」
「その通り」
ニヤリとした老人の顔と向き合いながら、俺はまだ状況を飲み込めていない。
面白くなってきたぜ?