思い出の丘
「うー……」
「どうしたんだにゃ、晴彦?」
シャミが心配そうな顔をしてこっちを見ていた。
結局あまり眠れなかった俺は、朝食を食べた後で眠気が一気にきてしまった。
「いや、なんでもない……」
「そうかにゃ?」
あの本に書かれてた『エクスプロージョン』について聞きたいけど、勝手に入ったから聞きにくいんだよな……。どうしようか……。
「まぁ、なら今日はシャミのことを手伝ってもらおうかにゃ〜」
俺がそのことをシャミに言おうかどうしようか悩んでいると、先にシャミが俺にそう言ってきた。
「雑用か?」
「そうだにゃ。働かざるもの食うべからずにゃ。これでもシャミは働いてるんだにゃ」
シャミは胸を張って、俺に自慢するようにそう言った。
働くか……。シャミにはお世話になってるんだ、頑張るしかないな。
「わかった。それじゃ、基本的に何をするんだ?」
「シャミは森で薬草やキノコをとって、それを村で売って生活してるにゃ。だから晴彦にはそれの手伝いをしてもらうにゃ」
「なるほど」
山菜採りみたいな感じか。それなら、昔おじいちゃんの家に行った時にやったことあるな。結局、疲れて山小屋で寝てたけど……。
「まぁそんにゃに難しくにゃいから、一緒に頑張ろうにゃ!」
「おう。頑張ろう」
ニコニコしながら言ってきたシャミに対して、俺はそう答えた。
俺たちは早速支度をすると、山菜採りのために森へと向かったのだった。
「シャミ〜、これは?」
森についた俺たちは、早速山菜採りを始めた。
俺は最初にシャミが見せてくれた山菜と似たような草を見つけたので、シャミの方を振り返りながらそう言った。
「んにゃ? ……晴彦、言いにくいんだけどにゃ、それはただの雑草だにゃ」
「そ、そうか」
シャミが俺の持っている草を見ると、微妙な顔をしてそう言ってきた。
わかるか! 普通におなじだろ!
やっと一つ目が採れたと思って、見つけた時は凄く嬉しかった。しかし、偽物だとわかった瞬間どうでも良くなって俺は、その草を放り投げた。
シャミはそんな俺を見てまた苦笑いをした。
「にゃはは。頑張るにゃ晴彦」
「ありがと。少なくとも今日の晩飯分は稼ぐよ……」
俺はそう言って再びその辺りを探してみるが、やはりどれも同じような草にしか見えなかった。
しばらく探していると、シャミが俺に近づいてきた。
「どうだにゃ?」
ニコニコ顏のシャミが俺を覗き込むようにしてそう言ってきた。
「ダメだ、全然わからん」
「そうかにゃ……。大丈夫だにゃ晴彦! シャミも最初は全然取れなかったにゃ」
「そうなのか?」
「そうだにゃ。……昔はこうやってお師匠様と一緒に山菜採りをしてたにゃ。でもにゃかにゃか見つけられにゃくて落ちんでいたシャミを、お師匠様はいつも励ましてくれたにゃ」
シャミは笑って、昔の思い出を懐かしむようにそう言った。
「そうなのか……。優しいお師匠様だな」
「にゃはは。魔法の修行をしている時は、鬼だったけどにゃ。……そうだ晴彦! 今からいい所に連れて行ってあげるにゃ!」
シャミはそう言うと、座っていた俺の手を掴んで立たせた。そして、そのまま森の奥の方てと引っ張っていく。
「お、おい。どこに行くんだ?」
「なーいしょだにゃー」
シャミの顔を見ると、まるで子供のように無邪気な笑顔をしていた。
しばらく歩くと、俺の手を掴んで前を歩いていたシャミが立ち止まった。
「ついたにゃ。シャミが落ち込んでた時、お師匠様はよくここに連れて行ってくれたんだにゃ」
シャミはそう言うと、俺に道を開けてくれた。俺がシャミの開けてくれた道を進んでみると、そこには俺とシャミが始めて会ったあの丘があった。
「ここは……」
「にゃはは。ここに来るのは1日ぶりだにゃ晴彦」
シャミはそう言って笑っている。
「ここに来ると、シャミはいつもお師匠様ことを思い出すにゃ」
シャミはそう言って歩きだし、ある場所で立ち止まってそこに倒れるようにして寝転んだ。
「晴彦も来るにゃー」
「わ、わかった」
寝転がっているシャミは、まだ丘への入り口から動いていなかった俺に向かってそう言った。俺はそれを聞いて、シャミの所まで歩いて行く。
あの時は気づかなかったが、この丘は色とりどりの花が咲いていてとても綺麗だった。どれも地球では見たことの無い花だ。
「さ、晴彦もここに座るにゃ」
シャミは俺が近くに来ると、自分が寝ている横を指して、そこに座るように言ってきた。
俺言われた通りにシャミの隣に座る。
「晴彦は、これからどうするんだにゃ?」
横で寝転がっているシャミが、突然そんなことを言ってきた。
「どういうことだ?」
「……このままスズ村に残るかどうかにゃ」
そういうことか……。
「俺は……」
その後の言葉が出なかった。正直言って、今の自分に魔王としての自覚がないからだ。
俺は確かに九条さんから説明を受けて、魔王という職業を選んだ。だか、こうやってシャミと一緒にスズ村で暮らしていくことを、心の何処かで望んでいるのかもしれない。
横を見ると、シャミは俺のことをじっと見つめていた。
「今はまだ……、俺にはわからない」
俺は俯きながら、そう答えた。
それを聞いたシャミは、しばらく何も答えずに空を見ていた。
「……晴彦さえよかったら、シャミはずっといて欲しいにゃ」
「シャミ……?」
しばらくの無言の後、シャミが不意にそう言ってきた。
「にゃはは、にゃんでもにゃいな」
シャミは笑ってそう答えた。
しかしそう答えたシャミの顔は、少し赤くなっていた。
その後も俺たちはその丘で休んでいた。隣ではシャミが相変わらず寝転がっている。
さて、そろそろ行くか。
丘に来て結構な時間がたったので、そう思った俺は草の上から立ち上がりつつシャミに向かって話し掛けた。
「シャミそろそろ帰ろうか」
だが、シャミからは返事がなく、不思議に思った俺はシャミの方へと視線を向けた。
すると、シャミは心地よさそうに、草の上で目を閉じ、すぅすぅと息を立て─まあ要するに……眠っていた。
その顔があまりにも気持ちよさそうでシャミを起こす気には、そうそうなれなかった。
俺は仕方無くもう一度草の上に寝転がり、
「まあ、もう少し休むか」
そう言って、もう一度シャミの方に視線を向ける。シャミは相変わらず気持ちよさに眠っている。
俺が視線を戻し、目を閉じて聞こえてくる風の音を楽しんでいると、日の光の暖かさが適度な眠気を誘ってきた。
あまり眠っていなかった俺がその眠気に勝てるはずもなく、いつの間にかシャミと同じ顔で眠ってしまっていた。




