お風呂
俺が見事魔法によって岩を粉々に砕いたあと、シャミからさらに二つの魔法を教えてもらった。
一つは自分の前に火の壁を作る防御魔法の『ファイヤーウォール』。
二つ目は攻撃魔法で、さっきの『ファイヤーボール』よりも攻撃範囲の広い『ファイヤーウェーブ』である。
二つとも何度か失敗したが、何度かやっているうちに出来るようになった。
「いやー、これくらい優秀だと、師匠として誇り高いにゃ」
「そうか? 」
俺はシャミの方を向いて笑いながらそう言った。
「そうにゃ! 晴彦は本当に優秀だにゃ。普通なら、三ヶ月でやっとここまで出来るようににゃるくらいにゃ」
「そうなのか……。でもやっぱり、シャミの教え方がいいからだよ」
「にゃはは。そう言ってくれると凄く嬉しいにゃ。よし、とりあえず今日はこのぐらいにするにゃ」
「そうだな。ありがとうなシャミ」
俺も流石に疲れていたので、今日の魔法の修業を切り上げることにした。
喉が渇いていたので、シャミに水をもらうことにする。
「晴彦、シャミは汗かいたからお風呂に入ってくるにゃ。晴彦もくるかにゃ?」
シャミが俺に水を渡しながらそう言ってきた。
お風呂か……。俺も結構汗かいたから行こうかな。
あまり汗をかかない体質だったが、魔法の修業の最中でけっこうかいてしまった。
「俺も行くよ。……あ、でも着替えがない」
しまった。なんも持ってきて無いんだった。
「着替えかにゃ? ……ちょっと待つにゃ」
そう言ってシャミは奥の部屋へと歩いて行き、すぐに戻ってきた。手には、多分自分で着る用の着替えと、それとは別に男が着るような服を持っている。
「晴彦はこれを使うといいにゃ」
「いいのか?」
「いいにゃ。ずっと使ってにゃいやつだけど、ちゃんと洗濯はしてるから安心するにゃ」
そう言って、シャミは持っていた服を俺に渡してきた。村で見かけた男の猫耳族が、同じような服を着ていた気がする。
「ありがとな。ところで、これって誰のなんだ?」
「それは、お師匠様のやつにゃ。気にしにゃくていいからにゃ」
シャミのお師匠か……。一人暮らしって言ってたけど、昔はその人と住んでたのかな。
「さ、早くいこうにゃ」
そんなことを考えていた俺をシャミが引っ張って、温泉へと案内してくれた。どうやら外にあるらしく、家から歩いて三分ぐらいすると目の前に建物が見えてきた。
「ついたにゃ」
「まじか……」
俺は普通の湖みたいなのを想像していたのだが、想像よりもちゃんとしている。いや、もはや見た目は日本の銭湯のようだ。流石に煙突はなかったが。
「どうしたんだにゃ?」
「いや、ちょっと驚いただけだ。気にしないでくれ……」
ここに来て驚いてばっかりだが、流石にこれは凄いな……。
「そうかにゃ? それじゃ、シャミは着替えてくるからまた後でにゃ、晴彦はあっちで着替えるといいにゃ」
俺たちが中に入ると、シャミはそう言って二つに分かれている扉の、左の方に入って行った。
俺もシャミに言われたとおり、反対の右側の扉を開けて入る。やっぱりその中も、銭湯の中にそっくりだった。
凄いなおい。
あまり考えても仕方ないと思ったので、服を脱ぐとロッカーのようなところに置かれてあったカゴに入れ、タオルを持って温泉へと続く扉をあけた。
「本当に温泉だな……」
目の前には、俺も日本で見たことがあるような景色がひろがっていた。屋根がなかったので、露天風呂だ。
「晴彦もきたかにゃ」
俺が唖然としてその光景をみていると、後ろからシャミの声がした。
……え?
声のした方を見ると、タオル一枚のシャミが平然とした顔で、俺が入ってきた扉とは違うもう一つの扉の前で立っていた。
な、なんでシャミがここに!?
それにびっくりした俺はとっさに目をそらし、シャミを見ないようする。
「どうしたんだにゃ?」
この状況に凄く焦っている俺に対して、シャミの喋り方はいつもとかわらず落ち着いていた。
「どうしたんだにゃ? じゃねぇよ! と、とりあえず俺出るから、そこから動かないでくれ!
俺はそう言うと、ここから脱出するために入ってきた扉まで急いで戻ろうとしたが、途中でシャミに捕まってしまった。
「何を言ってるんだにゃ、さっさと体を洗うにゃ。そのままだと、シャミの家にも入れにゃいにゃよ?」
「い、いいから手をはなしてくれ」
「晴彦は強情だにゃ。とりあえずシャミが体を洗うにゃよ!」
シャミはそう言って俺を近くのイスまで引っ張っていく。
や、やばいこのままだとやばい!
そう思った俺は抵抗しようとしたがシャミの力が想定外に強く、無駄に終わってしまった。抵抗虚しくシャミによってイスに座らせられると、シャミは俺の後ろに座った。
「さぁ、シャミが洗ってあげるにゃ」
シャミが家から持ってきていたタオルに、近くに置いてあったビンの中の液体をたらして泡をたたせた。。ある程度泡がたってくると、シャミが俺の背中を洗い始める。
ゴシゴシ……
「どうだにゃ晴彦、気持ちいいかにゃ?」
「あ、あぁ。確かに気持ちいいけど……」
俺にとってはそれどころじゃねーよ!
「にゃんだにゃ晴彦。もしかして、シャミには洗って欲しくにゃいのかにゃ?」
俺が気まずそうにしていると、シャミの声からはだんだん元気がなくなってきた。
「ち、ちがう! ただ、こういうのに慣れてなくて……」
シャミだって女の子だ。女の子と二人っきりでお風呂に入る、ましてや体を洗ってもらうなんて、男としてはいいかもしれないけど俺にとってはただ恥ずかしいだけだった。
「ならよかったにゃ。猫耳族はみんな家族にゃ。家族の体を洗うのは、シャミたちにとって普通のことなんだにゃ」
「シャミ……」
俺は少し嬉しくなった。それは、シャミが俺のことを家族と思ってくれているということだからだ。
「さ、後ろは洗い終わったにゃ。次は前を……」
「いや、前は自分でする!」
シャミが全ていい終わる前に、俺がそう言った。
そのあとも、シャミが前を洗いたがったり、俺がシャミの体を洗ったりして大変だったが、体を洗い終わった後で入った温泉はとても気持ちよかった。
「シャミ、ここって地下からお湯が出てるのか?」
風呂に浸かっている俺は、同じく風呂に浸かっているシャミに話しかけた。もちろん、シャミの方は見ずに。
「確かちがうにゃ〜。昔、この村に魔王様が来てこの温泉の近くででスッゴイ魔法をとなえたんだにゃ。その魔法は噂によると、一生消えることのない火の魔法みたいで、もともと小さな湖だったここはその魔法によって温められて、今みたいな感じになったんだにゃ。それで、そのままにしておくのもにゃんだからって魔王様が言って、ここが建てられたらしいにゃ」
魔王……か。今思うと、ジグリードに来てからその単語を聞くのは始めてのような気がする。もしかしたらその魔王は、俺みたいに地球から来た日本人なのかもしれないな。
「晴彦どうしたんだにゃ?」
「いや、別になん……ってうわ!」
俺がいきなり黙ってしまったので、それをシャミが不思議に思ったのか俺を覗いてきた。もちろん裸でだ。
「どうしたんだにゃ〜?」
風呂に入っているからなのか、今のシャミは凄く色っぽい。それでなくてもシャミの体は獣のようにしなやかな体つきだし、出ているところはしっかりと出ているのだ。
「と、とりあえず俺はもう出るよ!」
俺はとっさにシャミにから視線をそらすと、立ちながらそう言った。
「そうかにゃ? それじゃシャミもそろそろでようかにゃ。それじゃ、また後でにゃ〜」
シャミはそう言って、風呂から出た。俺はそれに対して、わかったと言いうと急いで更衣室へと向かった。
ふぅー。一時はどうなることかと思ったけど、温泉気持ちよかった……。
もちろん、シャミに洗ってもらったのも、気持ちよかった。
俺は一通り体を拭いた後、シャミから貸してもらった服に着替えてから外に出た。
「大きさは大丈夫かにゃ、晴彦?」
新しい服に着替えたシャミも出てくると、俺にそう言ってきた。多分服のサイズのことだろう。
「あぁ大丈夫だ。少し大きいけど気にするほどでもない」
「それは良かったにゃ。さぁ、湯冷めする前に帰るにゃ」
「そうだな」
お風呂からの帰り道、俺たちは会話をしながらゆっくりとシャミの家まで帰った。
今日のうちにもうひとつあげたいと思います。