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スズ村

「これがスズ村か……」


村の前に行くと、俺の口からはそんな言葉がでていた。少し遠くで見た時に感じた、のどかそうな雰囲気そのままだ。


「ようこそにゃ、晴彦」


「お、おう」


シャミは俺の方に振り返ると、ニコニコした顔でそう言ってくれた。


「それで、どうするかにゃ? どこかによるかにゃ?」


「いや、今は別にいいよ。特によりたいところはない」


「分かったにゃ。それじゃとりあえずシャミの家に行くにゃ」


「うん、分かった」


そう言うと、歩き出したシャミについて行く。俺は歩きながらこの村のことをいろいろ観察してみることにした。家はみんな木で作られていて、もちろんコンクリートで作られた家など一つもない。村人もちらほらいて、みんながみんな、シャミが前を通ると手を振って挨拶していた。そうやってキョロキョロしていると、一人のおばさんが歩いている俺たちの方によってきているのに気がついた。


「お、シャミちゃん。おかえりなさい」


「ん? あ、ミケおばさん。ただいまにゃ」


ミケおばさんと呼ばれたその人は、シャミにそう言われたあとで俺の方を不思議そうな顔をして見てきた。ちなみにこの人にも、他の村人にも猫耳や尻尾がある。どうやらシャミと同じ猫耳族というものらしい。


「シャミちゃん、この子は?」


俺を見たおばんさんは、再びシャミの方を見てそう聞いていた。


「ん? あぁ、相楽 晴彦って言うらしいにゃ。あの野原で会って、なんだか帰るところがにゃいらしいから、連れてきたにゃ」


「そうかいそうかい。晴彦ちゃん、よろしくね」


それを聞いたおばさんが、再び俺の方を見て笑いながらそういった。


「は、はい。よろしくお願いします」


「やだねぇ、そう硬くならなくていいわよ。この村何もないけど、ゆっくりしてってね」


優しい人だな。猫耳族は温厚な人が多いのだろうか。


それから俺たちは、ミケおばさんと少し会話をした後で別れて、再びシャミの家にむけて歩き出した。数分もしないうちに、シャミが止まったので俺がどうしたのか聞いてみると、シャミはニコニコしながらこう言った。


「ここがシャミの家にゃ。さ、入るにゃ」


みると、前には木造建築のそれほど大きくない家がたっていた。さっき見た家とほぼ一緒だ。


「おじゃまします」


「はいはい、いらっしゃいにぁ」


そう言ってシャミは俺を家の中へと入れてくれた。シャミは一人で暮らしていると言っていたが、家の中には数人が食事出来るほどのテーブルと、その周りに4つのイスがおいてあった。


「あんまり見られると少し恥ずかしいにゃ。今お茶を入れるから、晴彦はそこに座ってるといいにゃ」


「ご、ごめん。分かった、ありがと」


シャミは恥ずかしそうにすると、さっき俺が見ていたテーブルの所を指差して俺にそう言っきた。俺が言われた通りにイスに座ると、それを確認したシャミが台所に行ってポットに茶葉? をいれていた。


この世界にも、ポットみたいなのがあるんだな。地球にあるものとは少し形が違うけど。


俺がそんなことを考えていると、シャミがそのポットに水を入れ、何か言葉をはっした。すると、突然ポットの下で火が起こった。


「……え!?」


「ん? どうかしたのかにゃ?」


俺の声に反応して振り返ったシャミが、不思議そうな顔をして俺に聞いてきた。


「シャミ……、今何をしたんだ?」


「にゃにって、一体にゃんのことにゃ?」


「その火のことだよ! 何もない所から突然火が出たじゃないか」


もちろんシャミがポットを置いている台にはコンロなどない。本当に突然火が起こったのだ。


「それはまぁ、魔法を使っただけにゃんだけど」


「魔法……、あれが魔法なのか」


「晴彦は魔法を見たことがないのかにゃ? またまた珍しいにゃ〜」


シャミはそういいながら、温められたお茶をコップに入れて俺の所に持ってきてくれた。


「ありがとう……」


「いえいえにゃ。それより、晴彦はこれまでどういう生活をしてたんだにゃ? 魔法も知らにゃいなんて、よっぽどの世間知らずにゃ」


流石に疑われてしまったようだ。俺はびっくりして、シャミから視線をはずして頭を必死に回転させた。


「それは、その……。そ、そうだ、実は俺あの森に住んでたんだ! それで……家があったんだけど、流石に古くなってたのか突然崩れたんだ。それでしょうがないからあの森をさまよってたら、シャミにあって……」


さすがにこの嘘は無理か…?


そう思ってシャミの方をゆっくり見てみる。するとシャミは悲しそうな顔をして俺のことを見ていた。


「うぅ……、大変だったんだにゃ……。今日からここを自分の家だと思っていいから、元気だすにゃ」


「あ、ありがとう…」


……騙されてたよ。とっさに出た嘘とはいえ、俺は悪いことをしてしまったと思って、すごく心がいたんだ。


「……家族はどうしたんにゃ?」


「家族は、……遠い所にいるよ!」


とりあえず今回もとっさに嘘をついて誤魔化そうとした。まぁ、実際遠くにいるのは本当なので嘘ではないが……。


い、痛い。心が痛い。


「そうにゃのか。……シャミの家族も、今は遠くにいるにゃ」


「シャミ?」


今シャミが自分の家族の話をした時、さっきよりももっと悲しそうな顔をしたことに俺はきずいた。


「な、なんでもないにゃ! それより、何か話をするにゃ晴彦!」


「と、突然だな…」


話をはぐらかされた気がするが、俺はシャミに嘘をついてしまった身なので深くは聞けなかった。仕方なく、この世界ではない地球の話をする。もちろんこの世界でのことのように話した。



しばらく話をしていると、あたりがすでに暗くなっていることに気がついた。シャミがあまりにも聞き上手だったので、ついつい時間を忘れてずっと話していたようだ。


「晴彦の話は面白いにゃ、ずっと聞いていられるにゃ!」


「褒めすぎだよ。シャミのツボが浅いんだ」


「そんにゃことないにゃ。自信をもつにゃ」


少し言いすぎだと思うが、あまりそういうこと言われたことがなかったので正直に嬉しかった。


「そろそろ晩御飯にするかにゃ」


「ち、ちなみにそれって、俺もいただいていいのか?」


「もちろんにゃ。飢え死にされても、困るだけだからにゃ」


よかった。


まぁそんなことはないだろうと思っていたが、なんだかそのままいただくのも失礼な気がしたので聞いてみたのだ。


「それじゃ作ろうかにゃ。ほら、晴彦も手伝うにゃ! 働かざるもの食うべからずにゃ」


「もちろん! なんでもやるぞ」


ジクリードに来てからすでに半日ぐらいがたっていたが、まだ何も食べていなかったのでお腹はペコペコだ。


やっと何か食べれる! ジグリードの料理も気になるし、楽しみだ。


そう思いながら、シャミの手伝いをした。



「よし、これで完成にゃ」


料理開始から、30ほどで完成した。実にうまそうだ。


「よし、それじゃさっそく食べようかにゃ。晴彦、そこにあるお皿をテーブルに並べてほしいにゃ」


「おう!」


俺がお願いされた通りに置いてあったお皿をテーブルに並べ終わると、そこにシャミが料理を盛った。ナイスチームワークだ。


「さぁ食べるにゃ。いただきますにゃ!」


「いただきます!」


俺もそう言うと、さっそく料理にがっついた。


こ、これは! 見た目は普通の焼き魚だけど、ふっくらとした身はまるでお肉を食べているみたいだ! うまい……うまいぞ!


久しぶりの食事だからか、それともただ単に美味しいのかわからないが、あまりにも美味しかったのでもうすぐでなくなりそうだった。

そんな俺をみて、シャミがポロっとこんな言葉をこぼしていた。


「やっぱり、一人で食べるよりずっと美味しいにゃ」


必死にがっついている晴彦の顔を見ていたシャミの顔は、笑顔でいっぱいだった。














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