シャミ
「…ん。…ここは」
目を覚まして周りを見ると、視界には果てしなく木々が続いている。どうやら俺が目を覚ましたところは、どこかの森の中のようだ。
さっきのことは覚えてる。確か、九條さんと話していたら地面に穴があいて、そこに落ちたんだっけ…。でも、体は不思議と痛くないな。…とりあえずここにいても仕方ない、歩こう。
俺はこの森から出ることにした。頭が少し痛んだが、それは我慢するしかない。
しばらく歩いていると広い野原のような所に出た。森の中がかなり薄暗かったため、太陽の光が眩しい。
ん、あれは…?
向こうの方で何か動いたような気がしたので、俺は確認するためにそこまで歩いて行った。するとそこには、一人の少女が倒れていた。
「っておい!大丈夫か!?」
俺は急いで近づくと、その少女の体を揺さぶった。
「…い、痛いにゃ。誰だにゃ…、気持ち良く眠ってたのに起こしたのは」
しばらくして、少女は目を覚ますと迷惑そうな顔を俺に向けて、そう言ってきた。
「な、なんだ寝てたのか、ごめん。倒れてるもんだと思ったんだ。…ってその耳」
「ん?耳かにゃ?」
そう言って、少女は自分で自分の耳を触った。
さっきは慌てていて気づかなかったが、その少女の頭の上では猫のような耳がひょこひょこ動いていた。
何かのコスプレか?でもこんな所でそんなことするわけないし。これはいったい…。
「何かおかしいかにゃ?シャミは猫耳族だから、この耳がついているのは当たり前にゃ。ところでおたくは、どちらさんにゃ?」
「そ、そうか…。俺は、相楽 晴彦って名前だ。」
「相楽 晴彦…。にゃんだか、珍しい名前だにゃ。まぁそんなことはどうでもいいにゃ。私はシャミって言うにゃ、よろしくにゃ」
シャミと名乗ったその少女は、ニコニコしながら俺にそう言ってきた。よく見ると、彼女には尻尾もついている。その時、俺は九條さんが言っていたことを思い出した。
『そうですか。それじゃ、さっそくですが相楽さんにはジグリードの方に向かってもらいます。後のことは自分の力でどうにかしてくださいね。大丈夫です、あなたには魔王の力があるんですから!』
そうか、九條さんの言ったとおり、本当に俺は…ジグリードとかいう世界に来てしまったのか。
「どうしたのにゃ?」
不意にシャミがそう言ってきた。見ると、シャミが俺を不思議そうな顔で見ている。
「い、いや何もない。ちょっと聞きたいんだけど…、ここってジグリードっていう所で間違いないんだ、よな…?」
まだここがジグリードだと決まったわけじゃない。一応聞いてみるか。
「晴彦はなかなかおかしなことを聞くにゃ。確かにここはジグリードだけど、そんなのは子供でもわかることだにゃ」
「そ、そうだよなー。俺もわかってたよ?ただちょっと気になっただけだ」
ダメだ。シャミの顔がどんどん、怪しそうなやつを見るような顔に変わってきている!これ以上は怪しまれないようにしないと…。
「まぁ、別にいいけどにゃ?とりあえず、シャミはそろそろ家に帰るにゃ。それじゃ、バイバイにゃ晴彦」
そう言ってシャミは俺に手を振ると、俺が来た方の森の反対側へと歩いて行こうとした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!実は俺帰る所がないんだ…。よかったらシャミが帰る所に連れて行ってくれないか?」
俺が今言ったことは本当だ。ここがジグリードだと分かった今、俺には帰る家もなければ親しい友人もいないのだ。この機会を逃せば、俺はこのまま野垂れ死んでしまうかもしれない。そうならないためにも、俺はシャミについて行っていいかどうか頼んで見ることにした。
「ん?そうなのかにゃ?晴彦もなかなか大変なんだにゃ〜。いいにゃ、それじゃあついてくるにゃ」
「ありがとう!助かる」
シャミは俺の方を振り返ると、そう言ってくれた。
本当に助かった!これでなんとかなるかもしれない。ここがジグリードだと分かった時はどうしようと思ったけど、これでなんとかなりそうだ…。
そうして俺は、少し前を歩いていたシャミについて行った。
「ついたにゃ」
シャミについて歩いているとシャミが不意に振り返り、指を前に差しながら俺にそう言ってきた。俺はシャミの後ろを歩いていたので体をずらし、シャミの指差す方を見ると、そこには村のようなものがある。実際に村をみたことはないが、よくゲームなどで見る光景と似ていた。
「ようこそ晴彦、ここがシャミ達の村、スズ村にゃ!」
「スズ村…」
見た感じ、すごくのどかそうな村だ。所々に村人らしい人影も見える。
「さぁ、あと少しだにゃ!ついてくるにゃ」
「お、おう」
そう言って再びシャミは歩き出した。少し遅れて俺もそれについて行く。
この世界に来て始めての村だ。どんなところなんだろう。
「晴彦は、村についたらどうするにゃ?」
俺がそんなことを考えていると、前を歩いていたシャミが歩きながら俺に聞いてきた。
「そうだな…。今のところは、何も考えてないな」
「えー、そうなのかにゃ!?そんなんで大丈夫なのかにゃ…?」
「いや、大丈夫じゃないな。どうしようか…」
実際、何をすればいいのかわからないのは本当だ。俺がどうしてここに来た理由は魔王になったからだが、俺にはここで何をすればいいのかまだまだ分かっていない。
こんなことになるなら、あの時九條さんにいろいろ質問していればよかった。
俺が一人で後悔していると、シャミがわざわざ止まって俺の方を見てきた。
「んー、何もすることがにゃいなら、シャミの家に来るかにゃ?どうせシャミ以外は誰も住んでないし、部屋もあいてるからにゃ」
「いいのか!?」
「いいにゃ。ちょうど雑用してくれる同居人が欲しかったところにゃ」
よっしゃー!これで本当になんとかなりそうだ。とおぶんはシャミにお世話になって、計画が決まってらでて行くことにしよう。
俺はそう決めてから、前にいるシャミに向けて話しかけた。
「ありがとうシャミ。何から何まで本当にすまない!」
「いいにゃいいにゃ、困った時はお互い様にゃ。その代わり、家ではちゃんと働いてもらうからにゃ?」
「あぁ、分かった」
俺はシャミを見ながらしっかりと頷いた。シャミは俺が頷くのを見るとニコッと笑ってくれて、最後に、よろしくにゃ〜と言うと、再び村にむけて歩き出した。
そうこうしているうちに、俺たちは村の入り口についた。




