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自覚

ティアのお父さんが連れ去られた後、俺とシャミは打ちひしがれていたティアを連れ、村長の家に行った。

戦闘によって出来たキズや、汚れた服。ティアの尋常ではない様子を見たスズおばさんやゴロウさんは、凄くおどろいていた。

俺があの丘で起こったことを話すと、ケガに効く薬草をもらったり、ご飯を用意してくれた。

しかし、その間も、ティアの方はずっと黙っているままだった。


「仕方にゃいにゃ……。聞いた話しによると、ティアちゃんのお母さんは、ティアちゃんが小さい時に病気で死んでしまったらしいにゃ、だから、それからはずっとお父さんと二人で暮らしていたらしいからにゃ……」


「そう……なのか……」


村長の家からの帰り道、俺たちは暗い夜道をトボトボと帰っていた。

俺は、そんなシャミのの話しを聞きながら、拳を握りしめた。

もちろん、シャミを救い出せたことは、本当に嬉しいことだ。しかし、それと引き換えに、助けてもらった仲間の大切な人を失わせてしまったのた。俺はそのことが悔しくてたまらなかったのだ。


「シャミのせいだにゃ……」


隣を歩いていたシャミが、立ち止まって、ぽつりとそんなことを言った。


「シャミ……」


俺は、そんなシャミに、どう接していいかわからず、また、拳を固く握りしめた。



俺とシャミはその後、一言も話すことなく家についた。

こんな気分で修行が出来るはずもなく、その日はそのまま二人とも寝ることになった。

寝る前に、シャミに一言声をかけてみたが、返ってきた言葉は、やはりいつもの元気なシャミのものではなかった。


俺は、助けられなかったのか……。


ベットに入っても、考えることは一つしかなかった。もちろんティアのことだ。助けてもらった時のことを考えると、今のティアを考えるのはとても辛い。


体に疲れが溜まっていたのか、そんな感情とは裏はらに、意識は深い眠りへと落ちて行った。


「さがらさん……、相楽さん……」


耳元で、なんだか懐かしい声がした。


ん……。


「あ、やっと起きた。」


そう言って、俺が寝ている横に座っていた男性は、立ち上がって近くの椅子に座った。


「あなたは……」


「はい。こんにちは相楽さん」


ニコニコしているその顔に、俺は見覚えがあった。面接の時に会った、九条さんだ。


「く、九条さん!?そそ、それじゃここは……?」


「もちろん、地球ですよ」


ニコニコ笑顔を崩さないまま、九条さん椅子に座っている。

俺はとりあえず立ち上がると、九条さんが指示してくれた椅子へと座った。

よく見ると、この部屋はあの時の部屋と一緒のようだ。時間としては、一週間もいっていないが、なんだか懐かしい気分になった。


「それで、いったいどういうことなんです?」


やっと状況を掴めてきた俺は、早速ここに呼ばれた理由をたずねてみた。

すると、九条さんは真剣な顔をして、俺の方をじっと見てきた。


「相楽さん。あなたは何のためにジグリードにいったか、忘れてしまったんですか?」


その言葉を聞いた瞬間、いったい何のことだろうと思った。


「あなた今、何のことだろうと思ったでしょ?」


ギクッ!


「ど、どうしてそれを……?」


九条さんは、少し呆れたような顔をしてため息をつくと、再び俺の方を見た。


「そりゃわかりますよ。あれだけのんびりしてたら、魔王としての仕事を忘れてしまうのも無理はないでしょう」


「な、なんかすいません……」


表情こそ怒ってはいないが、九条さんから何かしら怖いものを感じた俺は、自然と謝っていた。


「まぁいいです。今日相楽さんを呼んだのは、そのためですから」


そう言って九条さんは席を立つと、後ろにあった棚から水晶を持ち出し、俺たちが座っている机の中央に置いた。


「これは?」


見た目は普通の水晶で、特に何もなさそうだが。


「まぁ見ていてください」


そう言って、九条さんは両手を水晶の上にかざした。

すると、さっきまで何の変哲もなかった水晶に、一人の男性が映し出された。


「ティアの、お父さん……!?」


周りが暗くてはっきりとは見えないが、それは確かにティアのお父さんだった。


「そうです。あなたの魔王としての自覚がないばかりに連れ去られてしまった、魔王軍の民です」


その言葉を聞いた瞬間、俺はまるで鈍器で頭を殴られた感覚を味わった。


魔王軍の民……?


「何を唖然としているんですか。あなたは魔族の王じゃないですか。それとも、この人は自分と何も関係ないと言うんですか?」


そう言って、九条さんは水晶に写っているティアのお父さんを指差した。


そうだ……、俺はいったい何のためにジグリードに行ったんだ……?確かに最初は興味本意だった。でも、あの世界での俺は、魔王じゃないのか?

俺は、本当に何もわかっていなかった。

自覚が……なかった……。


「やれやれ、やっと魔王というものについて、考えてくれましたね。もうこれにこりたら、しっかり仕事をしてくださいね」


九条さんは、置いてあった水晶を棚に戻し、もう一度俺の前に座った。


「九条さん……俺……」


「相楽さん、確かに今回の事件はあなたの国で起こったことで、私には全然関係ありません。ましてや、魔族の誘拐なんて今こうしている間にも起こっているんですから。しかし、あなたがこれからしっかりと、魔王としての仕事をこなしてくれるなら、私にも考えがあります」


下を向いていた俺は、その言葉を聞いた瞬間顔をあげた。

そこには、真剣な顔をした九条がいた。


「確かに、魔王軍の全ての民を救うのは不可能です。でも、目の前に悲しんでる人がいるなら、助けてあげるのが王だと私は思います」


ティアさんのお父さんを助けてあげてください……。


最後に九条さんの言葉を聞いたのは、それが最後だった。

俺はいつの間にか、シャミの家のいつもの所で寝ていたのだ。


そして、俺が起きた時、ちょうどシャミの家の扉を叩く音がした。扉を開けるとそこには、涙の後が痛々しいティアがいた。


「はるひこ……さん……。どうか……わ、私に……力をかしてくれないですか?」


言っている最中にまた泣いてしまったティアを抱きしめた。


「あぁ、当たり前だ」



ひとまず、この作品は終わりにします。

中途半端なところですが、本当にすいません。

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