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祭り 後編

俺がティアに助けを求めた後、道端で話をするのもなんだったので、シャミの家に行くことになった。

冷静になった俺は、もしかしたらシャミが家に帰って来ているかもしれないと考えたが、家に入ってもシャミはいなかった。


「お邪魔します……」


先に入った俺が家の中をキョロキョロしていると、後ろにいたティアが家に入ってきてそう言った。

知らない人の家なので緊張しているのか、オドオドしている。


「うん。とりあえず、そこに座ってくれ」


俺は、いつも食事をとっているテーブルを指差すと、そこにティアを座らせた。


「綺麗な家ですね。ここは、春彦さんの家なのですか?」


「それをシャミが聞いたら喜ぶよ。いや、この家はシャミの家で、今俺はここに居候させてもらっているんだ。」


それを聞いたティアは、頷きながら俺を見ている。


「そうなんですか」


「うん。……それより、すまないティア」


俺は、机に頭をぶつけそうになるくらい、頭を下げて謝った。


「え! ど、どうしたんですか」


ティアはそんな俺を見て、凄く慌てている。何に対して謝っているのか、わからないようだ。


「もちろん、いきなり巻き込んでしまったからだ。会って間もないティアに対して……」


「い、いいんですよ」


「で、でも……」


「いいんです! 困っている人を見捨てることは出来ませんから」


ティアは、俺のことを見ながら、そう言って笑ってくれた。


「ティア……、ありがとな」


「いえいえ。それじゃ、話してください。何があったんですか?」


「うん……」


俺は、今さっきまでのことを話す。その間ティアは、真剣な顔で聞いてくれていた。


「……と、いうことなんだ」


「なるほど……。わかりました」


ティアはそう言って、考えるそぶりをした。



「……それなら多分、役に立てると思いますの」


「本当か!?」


それを聞いた俺は机に乗り出して、ティアにつめよった。


「は、晴彦さん!?」


ティアはびっくりしてしまったようだ。顔を赤くして、すぐ近くにある俺の顔をみた。


「あ、す、すまない」


慌てて席に座り直す。


「そ、それで、力になれるってどういうことだ?」


「はい。私は探知系の魔法が使えるんです。それで、シャミさんの居場所がわかるかもしれません……。とりあえず、何かに水をためて持ってきてください」


「わ、わかった!」


俺は急いで台所に行き、そこに置いていたボウルに水を入れて、ティアの所に持ってきた。


「ありがとうございます。……それでは始めます。『サーチ』」


ティアがそう言うと、ボウルに貯めていた水が光りだす。そして、その水面には、ぐったりしているシャミが写っていた。





「おい、まだか?」


「まだだ、もう少し待ってくれ」


まだ太陽は上っているが、森の中は暗い。その中で、二人組の男が、一人の猫耳族の女性を担いで歩いていた。


「はぁ、その魔法、便利だけど使い勝手が悪すぎるぞ」


女性を担いでいる男が言った。


「まぁそう言うな。俺の勘だと、もう少しでつく」


前を歩いている男が、笑いながらそう言った。


「本当かよ……。まぁいいさ、この仕事が終わったら、カルスの街で乾杯だ」


「いいな。あと、女な」


二人はそう言って笑いあっている。そして、しばらく歩いていると、開けた場所にでた。そこは、晴彦とシャミが出会ったあの丘だった。

日差しが三人の顔を照らす。

前の方を歩いていた男は、フードをかぶった、少し痩せている男だ。暗い青色の髪が、風によって揺れている。

もう一人の男は、痩せている男と同じ暗い青色の髪、短髪で眼帯をした、腕っ節の強そうな男だ。

そしてもう一人、担がれている女性は、シャミだった。






「「はぁ…はぁ…」」


薄暗い森の中を走る二人の影があった。

晴彦とティアだ。


「晴彦さん!まだつきませんか……?」


後ろを走っているティアが、必死に走りながら俺に聞いてきた。


「もう少しだ!」


俺は、それに対して振り返らずにそう言って、走る。


ティアの魔法によってシャミの居場所がわかった俺たちは、すぐに家を出て、目的の場所へと急いだ。ティアは、乗りかかった船だと言って、俺についてきてくれたのだ。


それにしても、よりによってあの場所だとは……。


魔法によって見えた場所は、あの丘だったのだ。


もう少しだシャミ、今いくぞ……!


そう思うと、俺はさらにスピードを上げる。不思議と足は軽い、魔王の力なのか、地球にいた時より早くなっている気がするし、走りにくい森の中でもあまり疲れない。


「はぁ…はぁ…、は、速い……。仕方ないですの……。『エンハンス』」


後ろで遅れそうになっていたティアが、そう言うと、さっきまで遅れていたのに、俺の隣に並んだ。

どうやら肉体強化の魔法を使ったようだ。

そうして俺たちが、あの丘を目指していると、すぐに丘に着くことが出来た。


「はぁ…はぁ…。シャミ……」


丘についた俺は、すぐに辺りを見回した。

すると、丘のちょうど真ん中辺りで、男が二人いて、その近くに、シャミが倒れていた。





「今日はありがとう」


「いえいえ、私もいろいろお話を聞けてよかったですよ。ありがとうございます」


話が終わった二人は、家を出ながらそんな話をしていた。


「にしても、ティアが帰ってきませんね」


ティクスは、今だに帰っていない我が子を思いながら、そんなことを思った。


「確かに、風呂に行くだけにしては遅いな。魔法でみてみるか?」


「そうですね、念のために確認しておきましょうか」


ティアが風呂に行ってから、結構の時間が立っていたのだ。流石に遅すぎると思ったティクスは、娘の居場所を確認することにした。


「わかった。あれを使うといい」


ゴロウは、雨水を貯めている瓶を指差してそう言った。


「はい。それでは、『サーチ』」


ティクスがそう唱えると、丘のような所で、男と立っているティアが、水面に写っていた。


そこには晴彦とティアしか写っていない。


「この場所は?」


「あぁ、ここならすぐにつくよ。 若いもんに案内させよう」


そう言って、ゴロウが呼んだ猫耳族の青年と一緒に、ティクスはティアがいる所まで行くことにした。





「ん?なんだ」


そんなに広くない丘だ。俺たちに気づいたガタイの良い男が、そう言って俺たちの方を見た。


「お前か! シャミをさらったやつは!」


「シャミ? ……あぁ、もしかしてお前は、こいつの仲間かなんかか?」


そう言うと、地面に倒れていたシャミを、俺たちに見せるように突き出してきた。どうやら気絶しているようだ。


「春彦さん……」


「わかってる。シャミをどうする気だ!」


「どうする? ハッハッハ!」


それを聞いた男は、何がおかしいのか笑い出した。


「何がおかしい!」


俺は、そんな男の態度に腹が立って、そう叫んでいた。


「何がおかしいってお前! 人間が魔族を連れ去る理由なんて二つしかねぇ!」


男は笑いながら続けて話す。


「殺すか…奴隷にするかだ…!」


男は終始笑いながら、そう言って、掴んでいたシャミを近くの地面に放り投げた。


「シャミ!」


「おい、あまり傷をつけるなよ」


後ろにいた、痩せている男が、そう言ってガタイの良い男に注意する。


「おっとすまねぇ。そこの魔族のにいちゃんが、あまりにも面白いことを言うからよ」


「なんだと……!」


「は、春彦さん!」


いい加減、男に腹が立っていた俺は、魔法を唱え、手のひらの上に炎を出していた。

ティアは、そんな俺をみて驚いている。

それはそうだろう、その炎は、今までの出した炎の大きさの二倍はあったからだ。俺の魔法を始めて見たティアからしたら、その大きさに驚くのも当たり前だった。


「な、なんだありゃ」


ガタイの良い男も、その炎の大きさに驚いている。


「まずいな……。俺に任せろ」


そう言って、痩せている男が、前に出てきた。


「ファイヤーボール!」


俺が放った炎は、凄い勢いでまっすぐ二人の方に向かっていく。

幸い、シャミは当たらない位置にいる。


ドン!!


ダイナマイトが爆発した時のような音がして、辺りに煙が立った。


やばい、威力が強すぎて、シャミにも被害が!


「シャミ!」


俺は、シャミがいた所に走って行こうとした。しかし……


「おっと、俺たちの心配はしてくれないのかい?」


見ると、地面に転がっていたシャミごと、光の膜ような物で囲まれていて、腕を組んだガタイの良い男と痩せている男が、そこに平然と立っていた。


「危なかったな。もう少しで、俺たち消し炭になってたぞ」


「ハッハッハ、大丈夫だ。お前がいなくても、あれぐらいなら俺も回避は出来る」


「くっ!」


俺は、二人を睨みながら、後ろに下がる。


「もう来ないのか?なら、こっちから……」


そう言って、腰にぶら下げていた剣を引き抜きながら、俺に突っ込んできた。


「死ね」


男は、俺に剣を振り下ろす。


くっ!


俺は、とっさに右に転がってよける。


「ほう、ただ魔力がでかいってわけじゃないな。いい反応だ」


男は、よけた俺を見ながらそう言ってきた。


「でも、次はどうかな……!」


再び、男が俺に向かって剣を振り下ろす。


速い!


今度も、なんとかギリギリの所でかわしたが、男は次々と剣で攻撃してくる。


「春彦さん、援護します!」


そう言って、ティアが俺に攻撃してくる男に向かって手を突き出す。


「おっと、そうはさせないぞ」


痩せている男が、そう言って、ティアに対してファイヤーボールを放っていた。


「くっ!『ウォーターフォール』!」


ティアがそう言うと、目の前に滝のような物が出来て、その滝によって、ファイヤーボールがかき消された。


「ほう……」


それを見た男は、感心したようにティアを見た。


「邪魔しないでください!『スプラッシュ』!」


ティアが魔法を唱えると、大量の水が男に向かっていく。


「おっと。『ーーー』」


男が何か唱えると、またさっきの光の膜が現れて、ティアの攻撃を防いだ。


「なかなかやりますのね……」


ティアは笑いながらそう言っているが、内心焦っているだろう。額には、焦りのせいか汗をかいている。


「……ん、んん……」


二人が男と交戦している時、シャミがやっと目を覚ました。


「う、うるさいにゃ……。って、にゃんだ!?」


いつの間にかあの丘にいて、晴彦が人間と戦っていたのだ。


「あぁ、起きたのか?」


晴彦と戦っていた男が、起きたシャミに気づいた。それを聞いた晴彦も気づく。


「シャミ!」


「おいおい、よそ見してる場合か?」


振り下ろされた剣をよけていた俺を、男が蹴り飛ばしてきた。


「ぐっ……!」


俺はまともに蹴りを食らってしまって、立つことができなくなってしまう。


「俺は無駄な殺生はしないんだ。そこで大人しく眠ってな」


男はそう言って、起きたシャミのもとに歩いて行った。


「晴彦!!」


「シャ、シャミ……!」


俺は立ち上がろうとするが、痛みで立ち上がれない。届くはずのない手をシャミに必死に伸ばす。


「お前はもう少し眠ってろ」


男が、シャミに対して当身をしようとした。しかし、シャミもやられるばかりではない。それをすんでの所で回避すると、男の股間に一発蹴りを入れると、俺の方に走って来た。


「ぐっ!」


当然、急所に蹴りを入れられた男は苦しそうにすると、地面に膝をついた。


「晴彦! 大丈夫かにゃ!」


シャミが、倒れている俺を立たせながらそう言ってきた。


「お、俺は大丈夫だ」


今だに痛みはあるが、なんとか歩ける。

ティアの方を見ると、そっちは魔法同士の攻防が続いていた。


「しつこいですの!」


そう言って、『スプラッシュ』を唱えるティアに対して、あの防御魔法を使う男。それが終わると、次は男の攻撃の番。それが続いている。


「なんで、ティアちゃんがこんにゃ所に……」


シャミは、ティアがいること自体に驚いているみたいだ。


「シャミ、俺はもう大丈夫だから、ティアを助けてやってくれ」


「わ、わかったにゃ」


シャミがそう言って、男に向かって魔法を繰り出し始める。

男も、流石にキツイと感じたのか、一回二人の魔法を防ぐと、もう一人の男の方にに下がっていった。


「立てるか?」


「あ、あぁ。少々痛むが大丈夫だ」


ガタイの良い男はそう言うと、ヨロヨロしながら起き上がった。


「そうか。流石に魔法を使いすぎた。今回はいったん退散するとしよう」


「くっ! 仕方ないか」


ガタイの良い方がそう言うと、痩せている男の方が、何か呪文を唱え始めた。


「ティア、やっと見つけた!」


「お、お父様!?」


男が呪文を唱え始めると同時くらいに、その後ろの方から、犬耳の紳士と猫耳族の青年が現れた。しかし青年の方は、二人の人間を見ると、逃げるようにすぐに森に引き返した。


「おっと、いい所にきたぜ」


「な、なんだお前たちは!」


「うるせぇ!静かにしてろ」


ズン!


「ぐっ……」


ガタイの良い男が、当身によってティクスを気絶させると、ぐったりしたティクスを担ぐ。


「お父様!」


「にゃにゃ!」


「お前ら! その人を返せ!」


三人がそう叫ぶと同時に、男二人とティクスの周りから凄まじい光が起こる。そして、その光がおさまった後、二人が立っていた場所には、誰も立っていなかった。


「お……、おとう……様? 」


俺の目の前に残ったのは、唖然としているシャミと、絶望に打ちひしがれるティアがいる。

そして祭りの終わりを告げるように、太陽が沈んで行き、夜の静寂がやってくる。






読んでくれてありがとうございます。


雑になってしまったのと、文字が多くてすいません。


よかったら感想など、よろしくお願いします。

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