祭り 中編
俺は、シャミから着替えを受け取ると早速温泉に向かった。
シャミの方はというと、まだまだ遊び足りないらしく、俺に着替えを渡すとすぐに広場の方に行ってしまった。
まぁ、シャミまで一緒に入ろうなんて言い出したら、また大変なことになりそうだったのでよかったが。
そうこうしてしているうちに、目的の場所についた。相変わらず外見は銭湯のようだ。
さっさと風呂に入って、シャミに合流しよう。
俺はそう思って脱衣所に向かい、服を脱ぐと風呂場に入る。周りを見回してみるが誰もいない。どうやら俺一人のようだ。
こんな広い風呂を独り占めっていうのは、凄い贅沢だな。
そんなことを思いながら頭と体を洗い、その後で風呂に浸かった。
「ふぅー……」
気持ちいい……。
結構疲れていたみたいだ。風呂に入って肩まで浸かると、つい、気持ちいい時に出るため息が口から出てしまった。
しばらく浸かっていると、だんだん熱くなってきた。
もう少し浸かっていたいけど、そろそろ出ないとのぼせそうだな。
そう思った俺は立ち上がって、風呂から出るために出口へと向かおうとした。すると、俺が立った、ちょうどその時に、女の更衣室から一人の少女が出てきた。
「……」
「……」
びっくりして動けなかった俺は、その少女と一緒になってしばらく固まっていた。
よく見ると、その少女はさっき村で見たティアという、フント村から来た少女だった。風呂に入るために束ねられた金色の髪が、美しく輝いている。
「えっと……、この村のかたですの?」
ようやく動き出した少女は、俺のことを見ながらそう言って来た。
「あ、あぁ。今はここに住んでるんだ」
い、いや、こんなことを言っている場合じゃない!
俺は、何も着ていない体を隠すために、そう思いながら、すぐさま風呂の中へと戻った。
「そうですの。 私は隣のフント村からきたティアと申します。よろしくお願いしますね」
「こ、こちらこそよろしくお願いします……。」
少女は笑顔を浮かべながらそう言って、体を洗うために、お湯が貯めている所へと歩いていく。そして、洗い終わるとこっちへとやってきて、風呂に浸かり出した。
もちろん! 洗っている最中など見ていない!
「ふぅ……。気持ちいいですね」
小さな口で息を吐きつつ、俺にそう聞いてきた。
「そ、そうですね……」
この世界の住人は、みんな裸に抵抗がないのか!?
「あなたの名前はなんて言うんですか?」
俺がそんなことを考えながら熱くなっていると、隣まで寄って来ていた少女がそう聞いてきた。
「え、あぁ。俺は相楽 春彦って言うんだ……いや、言うんです」
偉い人なんだろうと気付いた俺は、途中から敬語で話しておく。
「そんな堅苦しくなくても大丈夫ですの。春彦さんと言うんですね」
少女は笑いながらそう言って来た。
俺の方は今だに焦っていたが、少女の方はやけに落ち着いている。
「あ、ありがとう。」
俺はそう言うと、あまり隣を見ないようにして風呂に浸かっていた。
「春彦さんって、珍しい髪の色をしていますのね」
突然ティアが、そう言ってきた。
「あ、あぁ……。な、なんか珍しい種族らしいからな……」
焦って言ってしまい、言葉がつまりつまりになってしまう。
「そうなんですの?触って見てもよろしいですか?」
ティアはそう言って、さらに俺の方に近づいてきた。
「え、え……?」
「失礼しますね」
サワサワ……。
頭の上で、ティアの手が動いている。
「もふもふしていますね……」
「そ、そうか……」
な、なんなんだこの状況は! と、とりあえず、もう出よう!
「ティ、ティア? 俺はもう出るから」
はやくこの場所から逃げ出したかった俺は、まだ髪を触っていたティアの手を優しくのけて、そう言うとすぐさま出口の方へと向かった。
「あ、はい。さようなら〜」
後ろの方で、ティアが俺に対してそう言っているのが聞こえた。
.
「賞金稼ぎの人間!?」
ティクスから話を聞いたゴロウが、大きな声でそう言った。
村長の家で話している二人は、さっきまでとは違い、かなり深刻な顔をしている。
「はい。フント村でも数人の行方不明者が出ています。」
そう言ったティクスの顔は、悔しそうな顔をしていた。
「そうか……。お前のせいではない、あまり気を落とすな」
ゴロウはティクスの肩を叩きながら、そう言って励ました。
「ありがとうございます。どうか、スズでは誰も行方不明者が出ないことを祈っています。」
「ありがとう。所で、対策などはうっているのか?」
「はい、フント村で一番腕のたつ者に見回りさせています。おかげで最近は行方不明になるものもいません」
「そうか……。こっちに来ている可能性もあるな」
「そうですね。なので、一応スズ村でも見回りが出来る者に、やらせておいた方が良いかと思います」
ティクスが真剣な顔をして、ゴロウにそう言った。
「そうだな。なるべく早い方がいい、今日からさせるとしよう……」
「それが良いかと」
今だに深刻そうな顔をしている二人は、そう言い合うと、次にまた違う話を始めた。
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「ふぅー。いっぱい遊んだにゃー」
手に、春彦にあげるためのお土産を持って家へと向かうシャミは、楽しそうな顔をしながらそう言った。
春彦、喜んでくれるかにゃ……。喜んでくれると嬉しいにゃ。
シャミは持っている物を見ながら、そんなことを思った。
中には、屋台で売っていた食べ物や、フリーマーケットで買った服などが入っている。
楽しみな気持ちを噛み締めながら家へと向かうシャミが、二人の人間が近づいていることなど気づくはずなかった。
.
焦った……。
銭湯からでた俺は、そんなことを思いながらシャミの家へと帰っていく。
いきなり金髪美少女が、裸で入ってくるんだもんな。
俺は、あの時のティアのことを頭に浮かべしまった。
いかんいかん。さっさと帰ろう……。
浮かび上がってくる裸のティアをかき消しながら、家へと向かう。
家に着いたが、シャミはまだ帰って来ていなかった。そのままそこにいても仕方なかったので、俺ももう一度広場に向かうことにする。
ん……?
広場に向かっている途中、道に転がっている袋を見つけた。中を見ると、食べ物や、男性物の服が入っていた。
おかしい……。この辺りにはシャミの家しかないのに。なんでこんな物が……。
俺は焦る気持ちを感じながら、荷物を持って広場に走った。
広場に着いた俺は、フリーマーケットをやっている所へ行き、この服のことを聞いた。
「この服って、ここで売っていたやつか!?」
「え?んー、これは違うな」
若い猫耳族の青年は、その服を見ながらそう言った。
「そ、そうか。ありがとう!」
俺はそう言うと、次の店でも同じ質問をした。すると、ちょうど5店目で、シャミが買って行ったと言う情報が入った。
「それなら、シャミちゃんが買って行ったよ。なんで男性用の服なんて買うのか聞いたら、喜ぶ顔が見たいからにゃ、ってすごく嬉しそう顔をしながら言っていたよ」
店番をしていた、お婆さんは、そういいながら笑っていた。
シャミ……。
俺は、お婆さんに礼を言うと、荷物が落ちていた所へと走り出した。
きっとシャミに何かあったんだ!
全速力で走り、やっとの思いで荷物が落ちていた所へと辿り着いた。しかし、そこから俺に出来ることなんて限られている。
「シャミ! シャミー!!」
叫びながら周辺を探してみるか、誰の声も帰ってこない。さっきまでは風呂に入ってさっぱりしていたが、今は汗でべとべとしている。
くそ! どこにいるんだ!
俺は焦りながら、シャミを探す。
「シャミー! いたら返事してくれ!」
いくら叫んでもシャミの声はしない。しかし、かわりに、ついさっき聞いたことのある声がした。
「ど、どうしたんですか?」
後ろを振り返ると、驚いた顔をしているティアが立っていた。
これ以上どうしたらいいのか、わからなくなっていた俺は、全然話したこともないティアに対して、
「頼む、シャミを助けてくれ……!」
そう言っていた。
遅くなりました、すいません。
いつもより、量が多くなってしまいました。もしかしたら疲れてしまうかもしれません。すいません。
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