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祭り 前編

今日は、フント村からお客さんが来る日だ。スズ村では朝から祭り騒ぎで、この村にこんなに人がいたのかと、思うくらいの人がいた。


「どうしてみんな、こんなにはしゃいでいるんだ?」


疑問に思った俺は、横にいたシャミに聞いて見ることにした。


「フント村からお客さんが来る時は、いっつもこんな感じにゃ。年に一度のお祭りみたいなものなんだにゃ。」


そう言ったシャミも、心なしか楽しそうに見える。


なるほど。これは、この小さな村での一大イベントなのかもしれない。

そう考えたら、この騒ぎようも納得できる。

道には、小さいが屋台のようなものが並んでおり、いろいろな物を売っている。それを買って行く子供や、恋人同士なのか、手を繋ぎながら歩く二人。

本当にいっぱいの人がいた。


「春彦、シャミ達もいかにゃいか?」


そう言ったシャミの瞳は、キラキラと輝いていて、まるで子供のようだ。


「そうだな。せっかくの祭りなんだし、俺たちも楽しもう」


「そうだにゃ春彦! 楽しむにゃ!」


そう言って、シャミは俺の手を引っ張る。俺は、そんなシャミに遅れないように、しっかりと着いていった。





春彦とシャミが、お祭りを楽しんでいる頃、スズ村に向かう一つの馬車があった。


「お父様。スズ村にはまだつきませんの?」


長いブロンドの髪と、可愛く垂れた犬耳が頭に生えている少女は、目の前に座っている紳士風の男にそう言った。

男は優しい笑みを浮かべると、少女の頭をなでながら、


「そんなに慌てなくても、スズ村は逃げたりしないよティア」


そう言った。


「わかってるけど、楽しみで!」


「ティアは本当にスズ村が好きだね」


「うん! だってあそこには温泉があるし、村の人みんなが優しいから!」


ティアと呼ばれた少女は、可愛いい笑顔でそういうと、窓をあけ、外に顔をだした。


「見てお父様、スズ村が見えたわ!」


遠くに見えるスズ村を指差しながら、少女は嬉しそうにそう言った。



.



「んー、いっぱい食べたにゃー」


隣で歩いていたシャミが、お腹を抑えて、満足そうにそう言った。


「確かに、もう食べれん」


二人で屋台の食べ物を食べようとしたら、広場で早食い大会の受付けをやっていることに、シャミが気づいた。

もちろん、シャミはそれに出たいといいだし、成り行きで俺も出ることになった。

俺とシャミは元から食べる方ではなかったし、思った以上の量があったので、全て食べきった後はご覧の通りになっていたのだ。


「にしても、惜しかったにゃ。あともう少しだったのににゃ」


シャミが悔しそうな顔をして、俺に言ってきた。


「でもまぁ、楽しめたからいいだろ?」


「にゃはは、確かににゃ。んー、これからどうしようかにゃ春彦?」


笑顔になったシャミは、俺にそう聞いてきた。


これからか……。腹は張ったしな。とりあえず、服についた生クリームをどうにしたいな。


俺がそんなことを考えて歩いていると、突然向こうの方で、村人達の声がしてきた。


いらっしゃーい!!


ようこそー!!


「な、なんだ!?」


俺は驚いて、村人達の声がした方へと振り返った。見ると、俺とシャミがいる所の村人も皆、声がする方へと向かっている。


「どうやら来たみたいだにゃ! ほら、シャミ達もいくにゃ!」


「お、おい!」


そう言ったシャミは、皆の声がする方向へと俺を引っ張っていった。



しばらく歩くと、道に人だかりが出来ていた。そして、その人達全員が、さっきと同じようなことを言っている。


凄いな。いったいどんな人が来るんだ?


「春彦、もうちょっと前に行ってみるにゃ」


そういって、シャミは人混みをかき分けて前に行く。


「わかったわかった」


俺もそれについて行く。

ある程度進んだ後で、やっと広い所に出た。そしてちょうどその時、俺の前を馬車が通り過ぎる。

俺は、その馬車から頭を出して、皆に手を振っている少女を見ることが出来た。


「ティアちゃんは相変わらず可愛いにゃ〜」


いつの間に隣に来ていたのか、シャミがそう言った。


ティアっていうのか。確かに可愛かったな。


俺は、通り過ぎて行く馬車を見ながらそんなことを考えていた。


しばらくして騒ぎは収まったが、祭りはまだまだ続くようだ。

広場でまたイベントが始まっているのか、さらに賑やかになっているような気がする。


「さてと、どうしようかにゃ」


俺の隣にいるシャミがそう言って、腕を組んで考えている。どうやらシャミも、この祭りをまだまだ楽しみたいようだ。


てか、その前に風呂に入りたいんだよな。


俺は、まだ少し体についている生クリームを見ながら、静かにそう思った。これが、早食い大会の時について、凄くベトベトしていて気持ち悪いのだ。


「シャミ、悪いけど風呂に行っていいか?」


俺は、生クリームがべったりついている所をシャミに見せるようにそう言った。


「にゃはは、それじゃ一回家に戻ろうかにゃ。新しい着替えを用意しなくちゃにゃ」


「ごめん、ありがとな」


「気にしにゃいにゃ〜」


笑顔でそう言ってくれるシャミに対して、心の中でもう一度感謝すると、俺たちは家へと向かった。



.



春彦とシャミが着替えを取りに行くため、家に帰ろうとしている頃、この村の村長であるミケおばさんの旦那、ゴロウの家に馬車が着いていた。


「ようこそスズ村に、ティクス」


ゴロウは、馬車から出てきた紳士風の男に向かって、凄く親しげに声をかけた。


「はい、ゴロウさんもお久しぶりです」


ティクスと呼ばれた男はそう言うと、ゴロウに手を差し出した。ゴロウもそれに答え、二人は握手を交わす。


「元気そうで何よりだ。ティアちゃんも元気にしてたかい?」


「はい! ゴロウおじさんも、元気そうでよかったです」


ティアは、笑顔いっぱいでそう答えた。それを見たゴロウも笑顔になり、


「おぉ、そうかそうか。ありがとね」


そう言って、ティアの頭を撫でた。


「ゴロウさん、そろそろ」


その光景を微笑ましく見ていたティクスは、ゴロウにそう言った。


「あ、あぁ、すまない。中に入ろう」


そう言って、ゴロウはティクスを誘導するように、家へと招き入れた。


「お父様、私、温泉に行って来てもいいですか?」


ティアは、ゴロウと一緒に家の中に入ろうとしているティクスに向かって、そう言った。


「いいけど、一人で大丈夫かい?」


それを聞いたティクスは、心配そうな顔をして、ティアを見た。


「ティアはもう大人です! 一人でも大丈夫です!」


「ティア……」


ティアはそう言っているが、やはり心配なティクスは、なかなか了解を出せないでいるようだ。


「まぁまぁいいじゃないか。この村に、ティアを襲うようなやつはいないよ」


ティクスの前にいたゴロウが、笑いながらそう言っていた。


「ゴ、ゴロウさん……。……仕方ない、わかった、行ってきなさい。でも何かあったら、すぐにここにもどってくるんだよ?」


「お父様大好き! ゴロウさんもありがとうございます! それじゃ、行ってきますわ」


そう言ったティアは、馬車に戻ると、持って来ていたカバンの中から何かを取り出して、温泉の方へと嬉しそうに走って行った。


「やれやれ」


それを見ていたティクスが、そう言って、少しのため息を吐いた。


「まぁまぁ、元気なのはいいことじゃないか」


「確かにそうですけど、やはり心配なんですよ」


まだまだ心配そうな顔をしているティクスは、ティアが走って行った方向を眺めている。


「君は相変わらず、心配性だな」


ゴロウはティクスを笑いながら、そう言った。


「ゴロウさんは心配しなさ過ぎです。はぁ……、それじゃ、そろそろ話を始めましょうか」


「そうだな、行こうか」


二人はそう言って、家の中へと入って行く。

そして、入って行くティクスの顔は、さっきまでの幸福そうな顔ではなく、まるで、不吉を運んでくるような顔をしていた。











投稿遅くなりました。


リアルの方で学校が始まり、忙しくて書く時間があまり取れないのが、原因です。

すいません。



今回から、前編、中編、後編というふうにやって見たいと思います。

これからも頑張ります。

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