プロローグ
働きたくない。
俺がそう思っていると、いつの間にか大学を卒業して一年がたっていた。
俺は今までの人生で苦労したことはない。それなりの中学に入って、それなりの高校に入り、それなりの大学に入った。
大学に行ったのだって、まだ遊びたかったからだ。
でも今年で俺も、23歳になってしまった。
親からは大学も出たんだから、いい所に就職するだろうと期待されていたが、卒業してから一年間、俺は何もしていない。
このままだと流石に親からは愛想つかれ、近所の人たちからはニートだと言われ、友達からあいつは駄目なやつだと言われてしまう。
正直俺はそれでもいいのだか、親に迷惑がかかるのは流石に心がいたんだ。
一年間遊んだんだ。そろそろ俺も頑張らないとな…。
そう思った俺は早速ハローワークに向かった。そして俺は、そこでなかなか面白そうなものを見つけてしまったのだ。
「魔王…」
そう魔王だ。
『新しい魔王になってみませんか?月給はあなた次第』
正直就職できたらなんでもよかった俺は早速そこに電話してみた。
すると、なぜか何も話をせず、すぐに面接の日にちが決まってしまった。
面接当日。
今俺の目の前にはスーツを着たおじさんがいる。今回俺の面接をしてくれる、九條さんと言うらしい。
「あなたが今回魔王に就活を希望された、相楽 晴彦さんですね?」
「は、はいそうです」
「緊張なさらなくて大丈夫ですよ。リラックスしてください」
九條さんは笑顔でそう言ってくれたが、つい緊張してしまう。
俺の緊張はまだほぐれていないが、九條さんは早速話を続けた。
「ところで、相楽さんは魔王というのをご存知で?」
魔王…か、それってやっぱりRPGとかに出てくるあれだよな。
でも本当にあれかどうかは、わからないか。
「わかります、けど。本当に僕が考えているのと一致しているのかどうかはわからないです。」
「あー、多分同じなので心配なさらなくていいですよ。とりあえずこれからあなたは、ある世界の魔王になってもらいます。もちろん、あなたがきちんとこの契約書にサインしてくれさえすればの話ですけど。」
そう言って九條さんは、ペンと一枚の紙を俺の前に置いた。
「見てもいいですか?」
「どうぞ」
俺は早速その紙を見てみたが、そこには名前を書く欄以外には何もなかった。
怪しい、怪しすぎる…。
「どうしましたか?」
「い、いえ別に」
俺は精一杯の愛想笑いをするが、多分その笑顔はさぞかし引きつっていただろう。
「詳しい説明の方は、そちらの方にサインをしてからになります。口外されては困りますからね」
「はぁ」
全く信用できないが、どうやらこの紙にサインしたら採用してくれるらしい。
そう思った俺は、九條さんに紙と一緒に渡されたペンで自分の名前を書いた。
「ありがとうございます。これであなたは剣と魔法の世界、ジグリードで唯一の魔王になりました!おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます」
九條は拍手までして俺を祝ってくれた。
大袈裟すぎる気がするな。
「では何か質問はありますか?」
「質問ですか…」
質問…。
何も考えなしにここに来たから、特に何もないな。
「今は特に、ないですね…」
「そうですか。それじゃ、さっそくですが相楽さんにはジグリードの方に向かってもらいます。後のことは自分の力でどうにかしてくださいね。大丈夫です、あなたには魔王の力があるんですから!」
「ちょ、…え?まだ親とかに何も言って無いんですけど。待って…、…え!?
俺がそう言っていると、いつの間にか今まで座っていたソファが突然消え、俺の足元にはぽっかりと大きな穴が空いていた。
「そちらの方は、任せておいてくださ〜い」
「えぇぇーーー……」
そのまま穴の中へと落ちて行く。
最後に俺がみたのは、ニコニコしながら手を振る九條さんの顔だった。
相楽を見送ったあと、九條はさっきまで座っていたソファに座りなおした。
「ふぅ、最近来なかったのでこのまま駄目になると思いましたが、よかったです。まぁこんな怪しい仕事に面接を受けに来る人も少なくなってきましたらね。彼は、どのような結末を迎えるのか。…なるべく長く生きて欲しいですね」
そう願わずにはいられないとゆう顔をして、九條はゆっくりと消えていった。
よろしくお願いします。