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アイテム鑑定士の業務内容  作者: 冴野一期
一章(後編)
15/27

損益分岐点。

 フィノ・ニーベルンが、自らのギルドを出たのは昼前だった。手にバスケットを持って、鼻歌を奏でるような軽やかさで門をくぐった。

「ふふっ。久々に一日、お休みが取れました」

 大通りから職人街へ。

「リアン様、お元気にされていますかねぇ。立派な淑女になられる日が楽しみです」

 なじんだ道のりを歩きながら、金髪翠瞳の少女に思いを寄せた。最初こそ、世界のすべてに怯えたように、自分の足下にくっついていたのに。

 少女の視線は、日毎に職人の手先へ、職人自身へと移っていった。

 そして、エリオットが森から帰還した日。折りしもジークハルトの旧友である、レティーナの葬儀が重なった。

「あの時は……。折れてしまったかと、心配しましたが」

 次第に、その影も薄れているようだった。そこにはきっと、少し風変わりな、一途なエルフの存在があったに違いない。

「本当に、季節がひとつ移ろうだけで、ヒトは変われるものなんですね」

 良い意味で、生命は変わる。

 支えとなる目標がひとつ増えるだけでも、ぜんぜん、変わってくる。

 フィノは、自然と足取りが軽くなっていくのを感じていた。 

「まぁ、正直なところを言えば口惜しいなーと思うのも、ありますけれど」

 身近な男性に、大事な妹を取られた、といったような感じだ――。とは言っても、まさかそのとおりに「手を出している」はずも無かろう。

 リアンの方は、明らかに異性への好意として相手を見ているが、ジークハルトは彼女のことを「優秀な弟子」ぐらいにしか見ていない。失った恋人への喪失感を埋め合わせるには、リアンは幼すぎる。

「あと何年かしたら、どうなるか分かりませんけどねー」

 いざ、その時を考えると、勝手ながらも嬉しいような、悲しいような気持ちになった。もしかすると「ダメですよ、結婚なんて早いですよ」ぐらい言うかもしれない。

「うーん、言っちゃいそうですねー」

 誰がなんと言おうと、リアンはフィノにとって、大事な大事な妹分だ。

 もやもやと思いながら。気がつけば、鑑定士の店まで辿りついていた。久しぶりにメイド服を着てきたので、どんな反応をされるか楽しみだ。

 

 ――カラン、コロン、カララン。


「こんにちは」

 耳慣れた鈴の音を聞きながら、店の扉を抜けた。

「バカかおまえは! そんな格好でこっちに入ってくるなっ!!」

 店内に入った途端に、いきなり店主の罵声が飛んできた。一瞬、メイド姿の自分のことを言われたのかと思ったが。

「だってだって! 着る服がないんだもんっ!」

 廊下に繋がる扉から、慌てて羽織っただけの、白い長袖のシャツ。男物である。

 その下には何も身につけていない、金髪翠瞳の美女が顔を覗かせていた。二人の視線が同時に、メイドの格好をしたこちらに向けられる。

「……フィノ?」

「フィー!」

 店主の男は、いくらか驚いた顔で。後ろにいた美女は、ぱーっと明るい笑顔になっていた。

「フィー、ひさしぶ……、はわわわわわわっー!?」

 うつ伏せに、盛大にすっ転んだ。

「リ、リアン、様……?」

 フィノは反射的に、その天然ドジっぷりこそ、彼女がエルフの王女リーアヒルデであると悟った。膝上で中途半端にひっかかっていた、桃色のパンツも見覚えがある。彼女に買い与えたものであったから。


 ――――――――間。


「………………ご主人様、いえ、ジークさん?」 


 にっこり。


「ちょぉっと、よろしい " で す よ ね " ?」


 フィノが、ジークハルトの方を見る。

 曇り一点すら存在しない、完璧な微笑。

 カツンと一歩近づくと、場末の鑑定士はとっさに一歩身を引いた。


『――【闇】を知る我、命ず。<冥界に住まいし黒狼の牙。我が手に生ぜよ> 』


 呼応する。

 フィノの両手に、唐草で編んだバスケットが床に落ち、中身が僅かにこぼれる。

 気に留めず、感情のない紫の瞳を宿し、現れた黒鋼の手甲を店主に向けた。鋭く尖った牙は、触れさえすれば、何者をも噛み千切ってしまえそうである。

「……ジークハルト・ワーグナー様。簡潔に、かつ明確な説明を希望します。言い訳は不要です」

「わかった。わかったから、落ちついてくれ、たのむ」

 じり、じり、じりっと、メイドと鑑定士との距離が縮まっていく。

「だ、だめでうっ! だ……ふみゃうっ!」

「お前は引っ込んでろ! 話がややこしくなるっ! あと、下になにか履けッ!」

「ジークさんッ! どこ触ってるんですかァァーッ!」

 かくして、三すくみの闘いが小一時間ほど、小さな店内で繰り広げられていた。


 屋根裏部屋にて、フィノは、己の主を問い詰めていた。

「もう一度お聞きしますよ。リアン様っ!」

「……」ふいっ。

 姫君がベッドの端に腰をかけ、正面に立つメイドから視線を逸らす。

「リアン様っ、本当に、ほんっとぉ~に、ご自身から望んだんですねっ! ジーク様から強引に迫られたんじゃないんですねっ!」

「……」こくん。

「だからって、【時空】の秘術を用いるなんて無茶苦茶ですっ! 本当にもう!」

 素直にうなずく王女に対しても、メイドは腕組みして叱りつける。少し目を離していた隙に、大きく見目の変わってしまった主に対して、なんども同じことを繰りかえしていた。

「いいですか、リアン様っ! 私が貴女をここに置いてギルドに帰ったのは、私が別の用件も抱えていて多忙であったこともありますが、なにより、貴女の成長になると思ったからでして――」

「……さい」

「え?」

 ぼそっと言った。耳の先まで真っ赤に染まっている。ぷるぷると、両肩を小刻みに振るわせて、彼女は告げる。

「フィー、うるさい。わたし、どうして怒られなきゃいけないの?」

「は、はい?」

 上目づかいに、細い眉を曲げる。

 どこか煩わしそうに、リーアヒルデが、フィノに告げた。

「わたし、もう子供じゃない。身体だっておっきくなったし、ジークハルトの役にもたってるよ。わたしにアイテムの修理や、付与を頼みに来るお客さんだって増えてるんだから」

「リ、リアン様ぁっ!」

 王女が拗ねたように唇をとがらせる。言われたメイドは、紫色の瞳を大きく見開いて、正直に「がーん」とショックを受けた顔をする。

「リアン様が反抗期だ……」

「ちがうもん。わたし、もう大人だもんっ! ジークと結婚だってできるんだから!」

「結婚ですって!? だめですよっ! リアン様は身体が大きくなっただけ! 体は大人で頭脳は【ちみっこ】ですっ! 結婚だなんて、この私が絶対に許しませんっ!!」

「なんでフィーの許可がいるのっ! おかしいよっ、フィーのバカっ!」

「そういうことをおっしゃっている間は、お子様なんですーっ!」

「子供じゃないって言ってうの~~っ!」

 きゃあきゃあと、姫君とメイドが言い争っていると、どすどすと、階段を駆けあがってくる音が響いた。叩きつけるように扉が開く。

「うるせぇ! 商売中だ! 静かにしろッ!」


 朝から起きた騒動は、フィノがリーアヒルデを連れて帰ったところで収まった。身支度の洋服や、その他、何から何までを買わないと気が済まないようだった。

 尾根の向こうに陽が沈み、今夜は星がよく見えた。ぽっかり浮かぶ満月が、世界を薄く照らしている。

「そろそろ店を閉じるか」

 表に出て、入り口の扉にかけたプレートを裏に返す。

「よぉ、ジーク。話は聞かせてもらったぞ」

「……エリオット」

 短い蒼髪を揺らして、片手をあげる二枚目の男がいた。いつものように黒一色、そろそろ暑苦しいだろうロングコートを着て、腰元にも変わらず飾り気のない長剣を覗かせる。

「結婚式には呼べよ」

 いきなりそう言った。脇に抱えていた紙袋の口を持ち、掲げる。

「久々に酒でも飲もうじゃないか」

「…………」

 ジークハルトは無言で、店に戻らんとする。

「おいおい、せめて一言ぐらいあってもいいだろう」

「閉店だ」

「そう無下にするな」

「閉店だ」

「レアな年代のヴィンテージワインと、ツマミを持ってきたんだ。少しぐらい付き合えよ」


 結局のところ、押しに負けて、ジークハルトは店内に戻っていた。

 食事をする居間の机の上、波々と、二つのグラスの中に赤いワインが注がれる。

「さて、乾杯するか」

「しねぇよ」

 厭そうに眉を寄せ、ジークハルトは一息に煽る。空になったグラスの中へ、机の上に乗った高級ワインを傾け注いでいく。傍らに広げられた燻製肉も噛みちぎるように食らった。

「少しは遠慮しろ。高いんだぞ」

「知るか、俺にとっちゃタダ酒だ」

 エリオットが「まったく」とか言いながら、こちらはワインの匂いを嗅いだ後に、ごく少量を口付けた。優雅にワインを楽しむ男に苛立ちながら言葉を投げる。

「リアンはどうしてる」

「おっ、やはり気になるか?」

「うるせぇ」

 つまらなそうに言ってのけると、エリオットは、一口サイズに切られたチーズを摘みながら、どこか楽しげに言葉を返す。

「安心しろ。うちのギルドにいる女たちが面倒を見ているはずだ。俺が夕方に城から戻ったときには、すでに着せ替えショーが開催されていた。状況を聞きたいか?」

「興味ねぇよ。それよりアイツ、フィノとは上手くやれてんのか?」

「あれはまぁ、仲がいいことの裏返しだな。そして俺はというと、まったくもって蚊帳の外なのさ……」

 エリオットがしみじみ言う。ワインをさらに一口。

「ドレスを作る布が足りんから買ってこいだの、着飾るアクセサリーが無いから宝石店に予約してこいだの、ついでに調味料が切れたから一瓶買ってきてだの、便利に使われる始末だ。挙句には『そこに立ってると邪魔だから、どこか行っててください』と言われるんだな、これが……」

「だからってウチに来てんじゃねぇ。酒場にでも行ってろよ」

「一人で飲んでても寂しいのだ」

「知るか」

「いやいや、知っておくべきだぞ」

 もう一口ぶん傾けてから、エリオットが突っ伏した。

「……俺だって、頑張ってるんだ、頑張ってるんだよ……」

「相変わらず酔うのはえーな」

「酔ってない。お父さんは頑張ってるのだ!」

「うぜぇ」

 素直に吐きこぼしてから、高級なワインを水のように煽った。エリオットはふたたび背筋を伸ばし、やはり優雅にグラスを揺らすも、ペースは速い。

「おい、無理すんなよ」

「無理などしていないっ! 酒は俺を裏切らないっ!」

「テメェ、吐いたら叩きだすぞ」

 睨んでから、ジークハルトもまた一息にワインを煽った。

「それより、森の探索の結果はどうなったんだ」

「それも難しいな。『精霊の泉』は発見したんだが……」

 エリオットが苦い顔をして、深刻そうに漏らした。考え込むように口元へ指を添え、思案げな表情を浮かべる。

「予想通り、泉の水には魔力を奪う【逆転】属性――呪いが、付与されていた」

「解いたんだろ、てめぇの力でよ」

「まぁな。村にも【転移】の属性を施しておいたから、大型の【魔石】があれば、エルフの里まで一瞬で移動できるようになった。【水】を持ち運ぶのも容易だ」

「それで、なんか問題があんのかよ」

「あるんだ」

 エリオットが頷いた。

「【逆転】の呪は解いたが、肝心の泉に含まれた【魔】が思っていた以上に薄い」

「……どういうことだ?」

「今までエルフ族と取引していた <精霊の霊薬> よりも、大きく効果が落ちている」

「他に源泉があるんじゃねぇのか?」

「いや、間違ってはいない」

 エリオットは言い切った。そして酒を煽る。

「……あれでは、研究で練成された安物の効果しか期待できない。それだから大々的に泉の発見を街には伝えてないし、まだ流通もできていない。だから、だな……」

 言葉を区切り、エリオットが言いにくそうに発した。

「俺たちは、泉に呪いをかけた術者の存在を見つけ出さねばならない」

「そいつが真相を知ってるから、ってか?」

「……たぶんな」

 ふら、ふらと左右に軽く揺れながら、今度はちびり、と口付けた。

「だが、それが見つからないときた」

「捕らえたドレスの女は?」

「拷問官がやり過ぎて、口を割らせるまえに死んだと聞かされた」

「うさんくせぇな」

 ジークハルトが、ハッ、と笑い捨てる。 

「城にいるどっかの奴が、一枚噛んでやがるだろ」

「恐らくな、実は見当もついている。その男が今日になって言ってきた」

「なにをだ?」

 エリオットが琥珀色の液体を一息で煽り、飲み乾した。最高に重々しいため息を漏らす。

「エルフの里を壊滅させたのは、あるいは、リーアヒルデ王女かも知れん、とな」

「……ふざけんな」

 机の上に拳が落とされる。グラスが音を立てて机にこぼれた。

 ジークハルトが、瞳を激怒の色に細める。

「あのアホが、んな事するわけねぇだろうがっ!」

「だが、そろそろ話を聞く必要があるだろう。街の経済にも関わっているのだからな」

「エリオット、てめぇ」

「睨まれても答えは変わらんぞ、ジーク」

 殺気に近い覇気を向けられても、エリオットは平然としていた。むしろ口元を歪ませて、ほろ酔い加減を楽しんでいるようですらある。くくっと笑い、緑色の瓶を大きく傾け、互いのグラスに赤い液体を注いでいく。ワインはそれで空になった。

「おまえが、そこまで感情をむき出しにするとはな」

「っるせぇ」

 最後は一気に飲みほした。顔がわずかに赤くなったのを見てみぬ振りをして、エリオットもグラスを傾ける。

「リーアヒルデは王城の連中には変わらず、ニーベルンのギルドで預かっていると通している」

 たん、と空いたグラスが鳴る。

「しかし、さすがに連れてこいと言う意見が大半を占めてきた。正直、真っ向から反論もできんところだ。これ以上匿っていれば、俺たちのギルドが、エルフの王女を手篭めにして、泉の権利を独占するのだという総意になりかねん」

 悪いが、俺にも守るべきものがあって。

 そこには優先順位も存在する。エリオットは言った後で、席を立った。

「二日後、また来る。答えを出しておいてくれ」


 一人、ジークハルトは暗くなった店内にいた。作業机のある表に戻り、天井にかかった明かりをつける。

 リアンの力を持ってしても、巻き戻すことも、止めることも適わない。

 死んだ人間が蘇らないように、世界を刻む時だけは戻せない。

「さぁ、どうする?」

 残り二日で金と道具をかき集めて、二人で街から逃げ出そうか。

 いや、そんな面倒なことはしなくていいのかと考えなおす。

「リアンを見捨てるのなら」

 所詮は行きずりの関係に近い。短くも楽しい時間だったと思いさえすれば、自分はこの場でなんの問題もなく生きてゆける。人肌が恋しくなれば商館にでも通って、適当な女を抱けばいい。店主と客という間柄はとても気安くやりやすい。

 掌が、腹を貫いた傷痕を抑えていた。あの日以来に定めた生き方は自分の性にあっていると思っていた。

「……なぁ、ワーグナのクソジジィ」

 壁にかかった、赤ら顔の肖像画を見て、ジークハルトは呟いた。

「テメェは、どうして、俺なんかに声をかけたんだ」

 なんの関係も、接点も無かった。

 ナイフを振るい、血肉と、それを得るための金を求めていた少年に声をかけたのは、その老人だけだった。

『――ワシは、強欲じゃったからのぅ』

 いつものように、酒場で飯を食らいつつそう言った。

『誰にも知恵を授けることなく、そのまま、逝けばよいと思っておった』

 だが、不意に怖くなったと言った。

 暗い地の底から這いずり出てきたような、死に瀕した少年と出会ったときに。

『似とると思った。ワシは知恵だけ重ねてきたが、その本質は五十歳も下のガキんちょと、大差ないのだと知ってしもうた。このガキんちょが、五十年後にワシのようになるのかと思うたら、なんかのー、救えんなーとか、思うてなー』

 安酒の入った酒瓶をあおり、ふぇふぇふぇ、と笑った。ジークハルトの皿から肉を取りあげようとしたので、とりあえず殴った。

『手加減せい! えー、だからのー、結局のところ自己満足じゃよ。今までは自分の為に、ひたすら知恵を積み重ねてきた。そして最後に、その知恵を五十歳も下の小僧にさずけてやった。そんなところぢゃわぃ』

 ぐっ、と親指を立て、もう少し言葉を続けた。

『――よきものは、より、よきものになる、その義務がある。ワシは思っておるよ』

 カラカラと笑って。

『やはり、ワシはこの街が好きかもしれん。生きとりゃ、また会おう』

 いきなりそう言って、そしていなくなった。以来、二度と姿を見ていない。

 ただ、それで繋がりが切れたのだと思ったら甘かった。今までは、店主と客の間柄でしか無かった酒場のオヤジが、ジークハルトに向けて一通の封筒を差しだした。

「あのジイさんから、おまえにだ」

 開けば、入っていたのは小さな鍵と、土地の権利書と、何故か得意げに親指を立てた、赤ら顔の肖像画。


『ゲイルフリート・ワーグナー・ツヴァイ より、ジークハルトへ』


 つらつらと、土地の譲渡に関連する細かい事柄が、長文に分けて記されていた。ジークハルトは必死に目を通し、どうにか理解した。

『――ようするに、ワシの養子になりゃ、ここの土地をやるぞい』

 用紙の一番下、空欄になっているところにサインした。

 瞬間に、野良犬だった少年は「ジークハルト・ワーグナー」という称号と、帰る家を得た。一人、からっぽの門戸を潜った時に、ここに店を開こうと思った。

 むかし、見捨ててしまった少女が、その生き方が似合うと教えてくれたから。どんなに金が欲しくても、もらった片眼鏡だけは手放せなかった。

「結局のところ、俺は……。なにひとつ、自分で決断して来なかったな」

 誰かに救われ生きてきた。もしくは流されるように。

「俺は所詮、たいしたことのねぇ場末の鑑定士だ。けどよ」

 今は自分の限界を、ある程度知っている。

 故にこつこつと、わずかな水滴が、石に穴を穿つようになるまで歯を食いしばった。

 一件も客が入らない日も珍しくは無かったから、盗賊まがいの仕事も兼業して食い扶持を稼いだ。しかし同時に、そんな自分が口惜しくてたまらなかった。そこから連れ出してくれた【光】が、

「リアン」

 変われるかもしれない、と思う。

 変わりたい、と思う。

「今度こそ」

 己の意思を貫き通そう。

 生も死も気品はあらず。魔都の代名詞であるその言葉。

 ジークハルトは両手の拳を握りしめる。

「二日もいらねぇよ」


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