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もう一度君に会いたくて  作者: 澄葉 照安登
第一章 この世界で
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この世界で 五

俺は夏希が帰ってくる時間――夕方に、もう一度夏希の家に行った。

また清水家に行くのは、やっぱり気まずさがあったが、それでも俺はたった一人の協力者に会うために行った。

でも、インターホンを押せない。緊張しているんだ。

 夏希は、仲良くなれる相手には、仲良くなれそうな相手に対してはきつくなってしまう。じゃあ、俺に対してもそうなる時が来るのか? っていうか、なんでそんなことをするんだ、夏希は、わからない。

「悠喜、こんなところで何してんの?」

と、俺が変なことで頭を使っていると、後ろから協力者の声が聞こえた。

「まだ帰ってきてなかったのか。って、見りゃわかるよな」

 俺は体を夏希の方に向けて夏希の目を見る。

「お前のことを訪ねに来たんだ。で、早速だけど、また頭貸してもらいたいんだが……」

「戻る方法を考えろってことでいいの? それなら協力するって言ったじゃない」

 信用してなかったの? と少し不機嫌そうなご様子。でも、きつい態度になるっていうのとは違う。

 俺は一つ息を吐いてから、ここで話をするのかどうか聞いた。

「あたしの部屋に来た方がいいんじゃない? 七海と会ったら気まずくなると思うし」

 それもそうだな。あいつは学生だから、もしかしたらすぐに帰ってくるかもしれない。玄関で鉢合わせするよりは、夏希の友達として部屋にいた方がいいだろう。

「なつ……清水がいいなら、上がらせてもらうよ」

俺は夏希と言いかけて止めた。意識すれば簡単に呼び方なんて変えられるから問題ないのだが、やっぱり自分の苗字を自分で呼ぶのは抵抗がある。だが、こいつからの頼みなので仕方がない。

俺は玄関で靴を脱いで階段を上り、夏希の部屋に入る。

ガチャ、っと夏希が部屋のドアを開ける。シンプルな部屋。そこはやはり俺の部屋と同じに見えた。

夏希は部屋に入ってタイヤのついた椅子に腰かけ、俺にベットに座るように促す。

昨日と同じだな。

「……あたしも学校で少し考えてみたんだけど……情報が足りないから、あんまりわからなかったんだけど、あたしと悠喜が同一人物かどうか、そこが重要になる気がするの」

「……どうういうことだ?」

反応が遅れたのは言葉の意味が分からなかったわけじゃない。ただ単に届かなかっただけだ。脳に。いきなり夏希の方からこうやって切り出してきたんだ、まずは話を聞くよりも「ああ、本当に協力してくれるんだな」っていうことが浮かぶだろう。

「つまり、あたしと悠喜が同一人物なら、性別だけ変わった一人の人間だとしたら。あたしたち二人がそれぞれ何かをすればいいんだと思うのよ。……けど、もし仮に、全く違う関係性のない人だとしたら、あたしはあくまで他人。あんたが元の世界に戻るためのカギにはならないと思うの」

「つまり、同一人物なら二人で頑張ればよくて、他人ならもう一人カギになる人間を探さなきゃいけないってことか」

 夏希の考えはすこしずれてるような気もするのだが、まぁ、考えとしては全く的外れではないだろう。

 でも、関係性がないっていうのはあくまで向こうの世界での話で、こっちの世界では俺の立ち位置にいる夏希は重要人物だと思うんだがな。

「そういうこと。それで、悠喜が向こうの世界にいたときの友達とか、関係が深かった人とかはいないの?」

「いるにはいるけど……家族以外で一人……」

「だれ?」

「……風美だよ」

 風美……。確かに風美ならカギにふさわしい人間かもな。俺とも夏希とも関係が深いたった一人の……夏希にとっては友達で、俺にとっては大切な人だから。

「風美? 知り合いだったの?」

「ああ。たった一人のな」

「……そう」

 夏希は何を思ったのか、少し声のトーンを落として静かに返事をした。夏希も同じような立場だから、同情でもしているんだろうか?

「で、ちょうどいいから風美のことなんだが……。俺はもう一回風美と付き合いたい」

「…………え!? 付き合いたいってっ……それにまたって……彼女だったの!?」

「違う違う! そういう意味じゃない! 友達としてとか、大切な人としてだよ」

 大切な人としてって、結構大胆なことを言ってる気がしなくもなくもないのだが、事実だからしょうがない。

「だから、俺としても風美は何かありそうな気もするんだ。俺とおまえが仲いい友達だからな、風美は」

 共通点。それをしらみつぶしに当たっていくのが無難かもしれない、という言い訳を自分にして俺は提案した。本当はただ風美と話して、前みたいに……何回も同じことばっかり考えてないでさっさと前に進もう。

「それに、俺の知ってる風美なら、すんなり受け入れてくれると思うんだ」

「悠喜の知ってる風美っていうのは、あっちの世界の風美っていうこと? その風美と性格とかが同じならってことでいいの?」

「清水は理解が速くて助かるな。そういうことだ」

「そう。だったら今風美を呼ぼうか? そうすればきっかけくらいは作れるし……」

「いや、今はさすがに…………でも、俺は学校にも行ってないから会う機会がないんだよな」

 なら今の方がいい気もするんだが…………。

「……やっぱりいきなり呼んでも、なんか……」

 なんで俺はこんなにしりごみしてるんだ? 俺こんな奴だったのか? チキン野郎だったんだな、俺って。まぁ、自分から誰かとの関係を築こうなんて今まで一度も思わなかったから、どうしたらいいのかわかんないんだよな。

 そんな俺に、夏希はアドバイスをくれる。

「でも、友情に時間は関係ないとかいうけど、友達になるのに早いに越したことはないと思うよ?」

「…………そういうもんなのか?」

「多分ね。今じゃなくてまた今度、っていう風にやってるとどんどん後回しにしちゃって、もう自分から動けなくなるかも知れないからね」

「ずいぶんと詳しいな……」

 母さんが話してたみたいに、人との交流が苦手だとはとても思えない。

「これは別に実体験じゃないよ。風美が言ってたの」

 風美が? あいつこんなこと言うのか。確かに想像できなくはないが……少し意外だ。いつもアニメとかの他愛もない話ばっかりだからな。

「それで、どうするの? 今呼んでみる?」

 ……………………どうしよ。

 いや、確かにまたすぐに風美と話せるようになるなら早いに越したことはないと思うんだけど、どうも緊張するというか……後ずさるというか……。

 …………今「このチキン野郎が!」って殴られる絵が浮かんだんだが……やばいな、実際にありそうだ。

 ……あぁもう! 悩んでても仕方ないだろ!? だったら早く前に進めよ!

「…………風美がオッケーなら、呼んでくれ」

 まったくもって、人の――俺の心は不安定だな。感情を一定になんて誰もできないだろうが、ここまで上下運動とかが激しいとさすがに俺自身も驚く。

「分かったよ。悠喜のことはある程度話しちゃっていい?」

「それはお前に任せる」

 風美はいきなり「パラレルワールドから来た男の子が家にいるんだけど、その男の子が風美に会いたいって言ってるの」と聞かれたらどうするだろう。考えるまでもない。俺の知っている風美なら、無論……。

『その子に会ってみたい! 今から行く!』

という感じになるんだろうな。

でも、風美がもしそういう性格でなかった場合、冗談でも言っているのかと思ったり、笑ったりするだけだろう。

「もしもし風美――」

清水もそれくらいはわかっているのか、電話に向かってしゃべっている声を聞いても、俺の今の状態に関して触れてるような言葉は聞こえなかった。

男の俺からすると少し長めの会話を終わらせて、清水は俺に報告する。

「今暇だから来るって。悠喜のことも話したけど、そんなに気にした様子はなかったかな?」

 あ、そうですか。なんか気にした様子がないって、少し傷つきますよ?

 まぁ、そんなことはどうでもいい。今俺の頭の中では風美と初めて話した時のことを何とか思い出そうと、脳細胞の一つ一つを念入りに調べていた。そんなに昔のことじゃないはずなのに思い出せないんだよ! 確かに昔は全くと言っていいほどの無関心だったけど、記憶にくらい保存されてるだろう!?

 とりあえず、風美が初めて俺に話しかけてきたときの俺の対応は思い出したけど、俺の初めての言葉が思い出せない。

 話しかけられた時の対応は、全く意味がないから却下だ。だってまずはじめに風美にやったことは無視だったからな。

 それでしつこく何回も話しかけられて……。何回か相づちはうった気がするけど、それじゃ意味がない。もう少しちゃんと思い出さなくては……!

 最初の言葉最初の言葉……………………。

 俺は風美が家にやってくるまで永遠と脳みそをフル回転(?)させていた。

 この時清水が俺に何か話しかけたりしていたのなら、俺はその話を全く聞いていなかったんだろう。話しかけられたなかったことを祈るばかりだ。

 ……………………思い出せそうだぞ! えーと…………。

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