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もう一度君に会いたくて  作者: 澄葉 照安登
第四章 二人の世界は
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二人の世界は Ⅹ

 夏希が学校に行くようになったのは昨日。つまり昨日は月曜日だった。

 そう考えると色々おかしい点が浮かび上がってくる。

 夏希の学校へ行く日数が少ない。

 夏希が学校を休んだのは昨日一昨日を入れ、さらにその日ち日前も休んでいた。つまり、土曜日日曜日だけでなく、金曜日も夏希は学校を休んでいたということになる。

 別に十二月に開校記念日や代休なんていうものは存在しないし、休日が普通に存在しているのは冬休みに入ってからのことだ。クリスマスくらいしか休日に指定されている日はない。

 だとしたら、なぜ夏希は金曜日に学校に行かなかったのか。

 夏希はたかが彼氏が出来たくらいで学校を休むようになるような不真面目なやつではない。第一、母さんが何一つ注意しなかったところを見ると金曜日は休日だということでも違いなかったはずだ。

 けど、そうすると何もかも納得がいかない。

 なんで夏希が学校に行かなかったのか、それは何をどう考えようと理解することができない。

「悠喜、食べないの?」

「え? あ、ああ。ちょっと考え事してて……」

 俺は曖昧な返事をして夏希が用意してくれた朝ごはんを口にした。

 朝ごはんといっても今日は夏希も俺もコンビニで買ったオニギリやパンなんかだが。

 父さんと母さんには夏希が一言いって出てきただけなので顔を合わせてはいない。

 つまり、俺と夏希は今食べ歩きをしながら学校へ向かっているところだ。

 正直俺は学校に向かう必要はないのだが、夏希がなぜか頼んできたので、ならば別に断る理由などもなく何も考えずに了承したのだ。

 見知らぬ生徒が通学路を歩いていたら、誰もが振り返るのではないかとも考えたが、その心配は杞憂に終わり、いつも通りの道のりを静かに歩いていた。

「二人とも、そんな世界を隔離しないであたしも入れて欲しいんだけど〜」

 と、間延びする声が前から聞こえてくる。

「隔離って、そんなことしてないって」

 夏希が答えるとニヤッとした笑みを浮かべる女子生徒。俺と夏希がよく知る友達。

「でも、二人は付き合い始めたんでしょ? ちゃんと告白して」

「か、風美ッ、あんまそういうことを……ッ」

 俺は焦って少し大きな声が出てしまう。

 もちろんこれは風美にからかわれているだけ。そんなのは分かっているがどうにも条件反射で反応してしまうのだ。もっと堂々として要らばいいのに、と自分のことながら思う。夏希はといえばいつも通り頬を染めている。

 俺はそんな夏希を見てため息混じりに微笑むと風美に向き直った。

「……まったく、風美はなんか愉快犯じみてるよな」

「うん、まぁ楽しいからね。二人とも反応が素直だしね」

 心底楽しそうな笑みを浮かべる風美。自然と苦笑が浮かぶ。

「でもね、二人とももう否定はしないってことは、ちゃんと付き合ってる自覚はあるわけでしょ? だったら嘘じゃないし言っても問題ないでしょ?」

「いや、それはそうかもしれないけど……」

「それに楽しいし」

 ……愉快犯の代名詞、風美でいいんじゃないだろうか。っていうか、風美こんなやつだっけ? いや、かすかにこんな光景が昔にあったような気がしなくもない……。

「……夏希? どうかしたの、ボーっとして」

 と、不意に風美の意識が俺の隣にいる夏希へと向き、俺もそれに釣られ夏希の方へと視線を向ける。

「えっ? あ、なんでもない……」

 ……どこか、夏希の表情が暗いような、そんな気がする。

 いや、ここ最近俺のせいで夏希の表情が暗くなっているのは事実だ。俺が、考え事をしたりすると夏希は決まって表情を暗くした。

 元をたどれば原因は父さんの話だ。

 この世界の清水悠喜。その存在のせいで俺の悩む時間は確実に増えてしまった。俺自身がそう感じるということは、周りから見ても明らかなのだろう。俺はそれをうまく隠せなかった。俺自身の失敗だ。

「そんなボーっとしてるようなら、悠喜くんに誘導してもらう? 腕でも組んで」

「う、腕……!?」

 頬を真っ赤に染めてうつむいてしまう夏希。俺と夏希は他人にからかわれるとすぐに反応してしまうタイプなんだろう。前々から分かってはいたが。

 俺たちはそんな風に風美にいじられながらしばらく歩いていく。

 先日よりも寒さが増した冬の空気は、防寒具を装備していない俺にとってはかなりの痛手で、せめて手袋があればなぁ、と惜しんでしまう。

 大きな道に出ると学生が一気に増え、いよいよ平日だなと実感する。

 平日にこうやって学校への道のりを歩くのがとても久しぶりに感じる。実際のところ一週間ちょっとしか経っていないはずだが、もっと立っている気がしてならない。

 最近は、忙しかったというより、大変だったからな。

 だから、時間が進む感覚も少し特殊なのかもしれない。いろいろありすぎて。

「ふぅ…………」

 と、不意に夏希が息を吐いたのが聞こえた。

 少し不思議に思い振り返るが、別段変わったところはない。ゆっくりと歩く夏希の姿が映るだけで違和感は何もない。

 しかし、今の明らかに不自然な吐息が気になって仕方ない。

 一体今の吐息にはどんな意味が込められていたのだろうか。

「二人とも早く〜! 二人で仲良くしてないでさ!」

そう思いながら横断歩道をわたっていく。朝からテンションの高い風美は小走りで行ってしまったので横断歩道の先で待っている。

「三連休でデートにでも行ったのかもしれないけど、ずっと余韻に浸ってるのはよくないよ!」

 風美の下らない挑発に苦笑しながら横断歩道を進む。

 いつかの風美との登校を思い出す。この世界ではない、別の世界の。

「ねぇ、悠喜。悠喜は言ってたよね、もう十二月だって――」

 と、おもむろに夏希がうつむいたままに口にする。

 俺はいつものように夏希へと視線を向け、次の言葉を待つ。

「でもね――」

しかし信号が、チカチカと点滅し始める。

 それに気づいて俺は少し早足になるが、夏希は歩調を変えずにゆっくりと歩く。別に渡りきる前に赤になってしまうということはないとは思うが、少し急いだほうがいいのでは?

 そう思いながら風美いる放談歩道の先へと視線を向ける。しかし夏希は言葉を続けた。

「今日は――」

 そこには、先程とは違い少し焦ったような表情をしている風美がいた。学校の開始のチャイムに間に合わないのだろうかと思いながら時計を確認――などできるはずもないのでクエスチョンマークを浮かべるのみ。

 ただ、風美のその表情は、どこか見覚えがあって。

 瞬間俺は弾かれたように道路の先を見る。いや、先というにはあまりにも近いところを。

 俺の視線の先には一台のトラックが――。

 そこでようやく気づく。風美のあの表情に既視感を抱いた理由、俺たち以外誰もいない横断歩道、どんどん迫ってくるトラック。


「――十一月、二十七日だよ」

 ――あの日と、同じなんだ。俺がこの世界にやってきたあの日と。

 

瞬間、俺は少し後ろにいた夏希の手を取ろうと手を伸ばす。

 夏希の言葉は、正直聞こえていなかった。この状況のせいで、夏希が一体何を言ったのか、理解できなかった。ただ、わかったのは。今日は、あの時の同じなんだということ。

 しかし、俺は今の状況を理解するのに少し時間を使いすぎた。俺が夏希の手を取った頃には、俺たちとトラックとの距離はもう1メートルもなかった。

 あの時の、再現だ。

 あの夢の再現。

 どうやったって助からない。そんなタイミングを思わせる。

 そしてそれと同時に、これは夢なんじゃないかと思う。だってこれは、あの時と全くしっしょなのだから。だったら、目が覚めたらいつも通りの布団の中――。

 ……いつも通り……? いつも通りって、どこから見たいつもだ?

 これは、目が覚めたら。どの世界にいるんだ?

 そんなことを考えていても仕方がない。今は、何かをしなくちゃ。たとえこれが夢だったとしても、好きな人が巻き揉まれるのは防がなきゃいけない。

 そう思って振り返って俺が見たのは。

 ――笑顔で涙を流す夏希が、俺から離れていく姿だった。

「――ごめんね――」

夏希に突き飛ばされたんだと気づいた頃には、もう遅かった。

 ――鉄の塊が、俺と夏希の間に割り込んだ。


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