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もう一度君に会いたくて  作者: 澄葉 照安登
第三章 友達から他人、友達へ、そして……
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友達から他人、友達へ、そして…… ⑩

誤字脱字の指摘等ありましたらよろしくお願いします。


「あたしとこうやって話してるけど、それは違う世界のあたしにその事実を伝えたところで、それは結局違う世界のあたしには通用しない」

 風美の口から発せられる容赦ない言葉が俺を間違いなく攻撃している。

 どういうことだ? 風美は知っているのか? 俺がこの世界の人間じゃないことを。だから風美はこんなふうに的確に言えるのか? でも、だとしたらさっきはなんであんなと遠回りな言い方をしていたんだ? 風美の作戦なのか?

 俺の頭の中にクエスチョンマークが溜まっていく。

 それでも必死に何かを言おうとする自分。もう何をいえばいいのか、何を言おうとしてるのかすらわからなくなってくる。

「でも、それは、仮の話だろ……。今は関係ない……」

「そう、あくまで仮の話だよ。でもね、そういうことなの。あたしでも、あたしじゃない人はいる。悠喜君にとっての、本当の風美ちゃんは、一人しかいないんだよ」

「そんなのわかってる。だから俺はお前のことが……」

「違うよ、悠喜くん。あたしは悠喜くんに好きになってもらう資格なんてないんだよ。時間も、気持ちも、全部が悠喜くんとは違うんだもん。だから悠喜くんは、あたしのことを好きになれないの。ここにいるあたしのことは」

 資格がない? 時間が違う? 気持ちが違う?

 それは遠まわしに付き合えないって言われてるってことなのか? でも、何か違う。

「風美、俺はお前のことが好きだ。それは、間違ってるのか?」

「…………」

 しばし静寂が場を支配する。そして風美は、俺に向かって剛速球を投げてきた。


「うん、間違いだよ。ただ、思い込んでるだけ」


 風美の容赦ない言葉に、俺は大打撃を受ける。

 好きな相手に気持ちを伝えた。けれどそれは間違いだと、好きな相手に言われた。オブラートに包まずに、ただまっすぐに一言で俺に伝えてきた。

「……悠喜くん。あたしのこと、可愛いって思ったことある?」

「いきなり、なんだよ」

「変な質問だけど、ちゃんと答えて。絶対に嘘はつかないで」

 風美のまっすぐな視線にたじろいでしまう俺は、素直に言うという選択肢しかない。けど、それはどんな答えになるのだろうか。

 風美のことを可愛いと思ったかなんて、俺はこの世界に来る前の風美に対してちゃん己の恋愛感情を意識していたわけじゃない。それに、この世界に来てからも風美と過ごした時間はほんのわずか、それに加え俺は元の世界に帰るという目的のためにがむしゃらに動いていた。そんなことを感じる暇などなかった。

 つまり、俺は風美に対してそんな感情を抱いたことはないというこ――。

 …………え!? どういうことだ? なんでそんな結論に至る! そんなことはないはずだ!

「悠喜くん、どう? あたしのこと、可愛いって思ったことある?」

 違う! 見逃してるだけだ! 七海の件もあったから頭の中の記憶がごちゃごちゃになっているだけだ! ただそれだけ! 少し考えれば簡単に出てくる!

 俺は焦る。風美のことを可愛いと思ったことがない。それは、一体どういうことなのか。ならば俺はどうして風美のことを好きになったのか……。

「……悠喜くん、やっぱり、そうでしょ?」

 じゃあ、なんで俺は風美のことを好きになった? 一体何が原因で、何が元になって風美に対して恋愛的な感情を抱いたんだ? 

 この世界じゃ風美と過ごした時間は少なくて、とてもそれだけで心変わりするようなことじゃなかった。けど俺は今風美のことが好きで……

 なら、元の世界のときに? けど、俺は自覚していなかった。それなのに好きになった原因がわかるのか? 俺は、ただ風美と一緒にいただけだ。退屈な日々を過ごしてきただけだ。ただ、それだけで、何も思わなかった――。

 いや、違う。そうか、ほかには何も思わなかったんだ。

 前に俺だって自分で気づいたじゃないか。一緒にいたい。それだけでよかった。その気持ちが強くて、かけがえのない存在になっていた。ただそれだけのことだった。

 特別なことはなくても、一緒にいたいと、一緒にいて心地いいと思えるのなら、それが、俺の気持ち、俺が風美のことを好きになった原因なんじゃないか。

 俺は視界を遮り思考していたのを止め、風美の目を見る。

「……悠喜くん、可愛いなんて思ったことないでしょ?」

「…………ああ、そうかもしれない」

 けど、それがどうした。一緒にいたい、それだけでいい。特別な感情は、いらないんだ。

「ほら、そうでしょ。それで、あたしのどこが好きになったの?」

 俺は躊躇することなく自らの気持ちを口にする。

「一緒にいて、楽しかったからだ」

 もう俺は、迷わない。そうだ。俺は好きなんだ、風美のことが。一緒にいたいんだ、風美と一緒に。

 だが、風美は俺の言葉に一つ息を吐く。

 そして、俺の強くなった心をまた、不安にさせる言葉を放つ。

「……悠喜くん。それは、好きになる理由にはならないよ」

 一瞬、一体風美が何を言っているのか理解できなかった。

 理由にならない、なら、何が理由になるというのか。

「悠喜くんは、好きになるってことがどういうことだか分かってないよ。だから、気付けない。一緒にいたいなんて、好きになる理由にするには不十分だよ」

 風美、お前は一体何を行っているんだ。一緒にいたいって思うのが不十分なら、何が十分なんだ。どんな理由をお前に伝えれば分かってもらえるんだ。

「人が人を好きになるには、一緒にいたいって思わないといけないよ。けど、それは人と一緒にいたい、そういう気持ちなんだよ。好きな人と一緒にいたい、そういう気持ちじゃない」

 何が違う? 俺の言葉が足りなかったのか? ちゃんと細かにそう伝えていれば――。

「一緒にいたいだけなら、友情でもなんでもいい。けど、恋は違うんだよ。恋は、相手のことを、異性としてみなきゃいけないんだよ。一緒にいて楽しいじゃなくて、可愛いと思うから触れ合いたくて、一緒にいたいんだから」

 可愛いっていう理由がなくちゃ、好きにならないのか? 恋にならないのか? だから風美はあんなことを聞いたのか? でも、一緒にいたいってことには――。

「綺麗な少女漫画みたいなのじゃなくて、ケータイ小説に近い感じ。両方とも一緒にいたいなんてよく使われてるよ。けど、両方共かわいいっていう気持ちだってあるし、ケータイ小説なら、もっと上がある」

 もっと上? 一体何のことを言っているんだ?

「本当に好きなら、もっと触れ合いたいって思うの。でも、悠喜くんはさっき、それをやめた。それはどうして?」

「それは、お前があんな……いきなり言うから」

「あたしはしてほしいって言ったのに、悠喜くんはしたくないって思ったんでしょ?」

 だから何を! 一体何の話をしているんだ!

「悠喜くん、恋愛っていうのは、必ずしも綺麗なものじゃないんだよ。体だけを求める最低なのもある。気持ちは関係なくて、彼氏彼女がほしいからっていうだけの醜いのもある。今の悠喜くんみたいに、自分の思い込みから逃げ出せなくなるような、どうしよもないのもある」

 思い込み? 一体何が思い込みだって言うんだ――。

「悠喜くん、恋愛は、誰かを傷つけてできてるの。けど、傷つけるものを間違えちゃいけない。大切な人の傷ばっかり深くしちゃいけないんだよ。だから、正直に言わなくちゃいけないんだよ」

 一体何がッ、俺の何が思い込みだって言うんだ!!

 俺が自分の内側で弾けそうになるのを触発するかのように風美は次々と俺を追い込んでいく。そして最後に、トドメの言葉。


「好きなんでしょ、夏希のことが」


「違う!!!」

 俺はすぐさま否定する。相手の間違った見解はっすぐさま捨てさせなきゃいけない!

「なんでそんなに焦ってるの。悠喜くんはあたしのことが好き、そう言ったよね? それが本当だったら、あたしに何言われても、揺れないはずでしょ」

 ちがう、このままじゃ風美が俺から逃げてしまう気がするから、だから必死に止めてるんだ。俺のこの気持ちが、風美に伝わるように。

「風美ッ、こんなのなんの意味もないッ。風美の答えはッ!?」

 ああ、本当だ。俺の声は早口で、荒々しくて、いつもの調子なんてまるでなくて、そうそれはまるで、焦りに焦ってどうしよもなくなっているかのように。

 俺の問いかけなど答えず、風美は自らの言葉を続ける。

「……悠喜くん、ポッキーゲームの時、最後まで行かなかったよね。あのままいけば、悠喜くんは好きな女の子とキスできたかもしれないのに、自分の意志でそれを止めたでしょ。それは、どうして?」

「あんなとこでッ、夏希もいる前でそんなことできるわけないだろ!!」

「…………ほら」

 風美がゆっくりと俺に顔を近づけてくる。小悪魔のようなその行動に俺は動揺しながらも、絶対に視線をそらさないと決意しまっすぐに見つめる。

「……こんなキスはしたくない。ノリに任せたキスをあたしとの初めてにしたくない。そういう感情じゃないんでしょ。夏希が見てたから。夏希の前ではしたくなかったんでしょ」

 風美が堂々と自分の考えを口にしていく。それは本当に俺を追い詰めるような言い方で、それを聞いていると、本当に間違っているのは俺の方なのではないかと思い始めてしまって、だんだんと、自分の輪郭がぼやけてきてしまう。

 風美はかぶりを振り俺に向かって、俺の奥底にある何かと同調させるように言う。

「……ううん、違うね。夏希があんな傷ついた顔してたから、嫌になったんでしょ。たとえ『最後まで行かないと決めてた』ゲームだとしても」

 風美は、夏希の顔が見えていたのか? だったらなんで、親友が傷つくようなことをしようとしたんだよ。

 それに、なんだよ最後まで行かないと決めてた、って。

 その言い方じゃ、まるで俺が、そんなことは――キスなんてことはしたくないと思ってたみたいじゃないか! 俺が自分でそれを、拒んだみたいじゃないか!

 その通りだと言わんばかりに風美は続きを口にする。

「好きな人の前で、あんなゲームはしたくなかった。早く終わらせてしまいたかった。そうなんでしょ、悠喜くん。あたしじゃなくて、夏希を優先したんでしょ」

 風美の攻撃的な言葉に、だんだんと俺は力を失っていく。けど、そう思ってしまうのは、もしかしたら、風美の言っていることが――。

「…………どういう、ことだよ……」

「悠喜くんは夏希のことが好きってことだよ」

 何の躊躇いもなくそういう風美は、自分の言葉に確信を持っているようで、俺はそんな風美を見ていると、本当は俺の方が間違っているのではないかと思ってきてしまって……。

「悠喜くん、もういっかい聞くよ。……あたしのこと、可愛いって思ったことある?」

 そんなの、今更答えを変えたところで何の意味もない。

 それに俺は今、自分の事を理解できない。

「…………ごめん」

「……ううん、いいよ。それが悠喜君の気持ちだから」

 少し柔らかくなった風美の口調。けどそれはつまり、今俺がどのような状態になっているのか、風美は本当に理解してしまっているということだ。理解しているから、少し悲しそうな表情をするのだろうか?

「夏希のことは、可愛いって思ったことある?」

「…………ある」

 何度も何度も、ふとした仕草だって可愛いと思ってきた。それをごまかすように、自分らしくないなんて言い訳してさんざん隠してきたんだ。

「夏季、今傷ついてるよ。悠喜くんがあたしに告白なんてしたから」

「………………」

 風美の言葉は、俺の中から何かを押し出そうとしているかのよう。

「どうするの。悠喜くんが間違えたから、もしかしたら本当に取り返しのつかないことが起こるかもしれないんだよ。夏希は悠喜くんを気遣って、自分の気持ちをなかったことにしちゃうかもしれないんだよ」

「……………………」

 風美から見た見解で言っているだけに過ぎない言葉でも、それが真実なのではないかと思えてきてしまう。それは、自分というものがだんだんと現れ始めているからだろうか?

「悠喜くんは、今何をしたいの? ……何をしなきゃいけないのッ?」

 風美が、そう質問してくる。風美が言葉で俺に答えを伝えるんじゃなくて、俺に答えを出させるために。

 そもそも答えなんてないこの質問。けれどだからこそ、俺自身が出さない答えは全て間違いになってしまう。風美に伝えられた回答をそのまま実行しても、それは俺の回答じゃない、正答にはならず、誤答になってしまう。

 俺が今、何をしたいか、何をすべきか、何を成し遂げなくてはいけないのか。

 俺の中で、モヤのように広がっていた何かが、溶けるように消えていく感覚。モヤなんてかかっていると感じたこと等なかったのに、今は自分の気持ちというものに違和感がある。靄がかかっていたと一瞬でわかる。

 靄の晴れた俺の心は。何かを考えるまでもなく誰かを欲する欲望が湧き上がってきて、それがどこに向いているのかも鮮明に分かる。

「…………俺は――」

 今ならわかる。自分が何を間違えていたのか、自分が何を見失っていたのか、何を思い込んでいたのか。その全ての答えが自分の中で簡単に出てくる。

 風美のお陰なのだろう。俺一人なら間違いなくその誤った道を進んでいってしまっただろう。けど、風美は、俺にこんなふうに気づかせてくれた。俺の気持ちを、絶対に間違えてはいけない、好意というものをッ。

 俺の出した答えは、とても単純で、それがあっているのか間違っているのかなんてわからなかった。けど、俺は今までの中で最も人間らしい、自己中心的で、まっすぐで、ねじ曲がって、止まることを知らない思いを口にしていたんだ。

「――夏希を抱きしめたい!!」


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