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もう一度君に会いたくて  作者: 澄葉 照安登
第三章 友達から他人、友達へ、そして……
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友達から他人、友達へ、そして…… ⑨

お久しぶりです。

ここしばらく更新も何も無しで読者の方にはご迷惑おかけしました。

毎度のことですが、感想や誤字脱字のしてき等ありましたらよろしくお願いします。

「…………やっぱりダメだ……」

 瞬間、俺は風美の肩を掴んで俺から離す。

 ――今、何かが俺の頭を過ぎった。何かが俺を引き止めた。何かはわからないけど、俺の中の何かが俺を引き止めた。

 こんなのでいいのか、これでいいのかと、直感的に思ってしまった。

 風美は何か悲しそうな、苦しそうな表情をする、それ見て俺の胸も痛むが、俺はなんとか、静止することに成功する。

「……なんで? やっぱり、あたしじゃダメ……?」

「そうじゃない……けど、こんなのはおかしい……」

 俺は風美の方を掴んでいた手を離して言葉の続きを言う。

「どうしたんだよ……いきなり……。お前らしくない……」

 違和感が凄まじい勢いで攻めてくる。これは、俺の求めていたものじゃない。風美に、自分をしててこんなことをして欲しいと思ったわけじゃないんだ。

 そう言うが、風美は本当におかしくなってしまったのかまだ俺に近づいてくる。

 俺はまた肩を掴んで、多少強引に風美を揺らそうとする。

「かざ――ッ!?」

 だがその瞬間、風美は俺の胸元を掴んだまま仰向けに倒れる。俺もそれに引きずられるようにベットに倒れこむ。ベットが二人分の体重でキシッ、と音を立てる。

 俺は咄嗟に手をついて無様に倒れることは回避できたのだが、状況があまりによくない。

 俺のこの混乱している状況では今何が起きているのかすらまともに理解できない。

「……悠喜くん……」

 俺を呼ぶ甘い声に俺の頭はさらに掻き回される。

「ねぇ…………悠喜くん……」

「…………やめてくれ……」

 無意識にそんな言葉が出る。

 たまらない。たまらない。悔しいとかじゃない、わからないんだ。なんだこれ、何がしたい何が起きてるんだ。分からない。なんでこんなことを…………。俺はこんなことをするために告白したわけじゃない――。

「俺は、こんなことをしてもらいたいわけじゃない…………」

 俺は力なくそう言う。どうしよもないほどの絶望感が俺に襲い掛かる。だがなぜ? 別に俺は風美と一緒にいたいと思っていただけ、ふれあいたいと思っただけだからか? ここまでのことはしなくてもよかったからか? でも、止めたじゃないか。だったらなんでこんな気持ちになってるんだ……。

 俺は自分自身がわからなくなってくる。なんで俺はこんなに暗くなっているんだ。なんで俺は好きな相手に笑顔を向けてやれないんだ。なんで俺は風美にちゃんとした言葉をかけてやれないんだ。なんで俺は夏希じゃなくて風美に――え!?

 なんだ、今の…………。なんで今夏希なんて言葉が出てきたんだ? ここに夏希は関係ないハズなのに、なんでだ…………。

「……あたしには、して欲しくないってこと?」

 違う違うそうじゃない。風美がそんな風にしてくれるのは、それを許してくれるのは素直に嬉しいと思うんだ。そこまで信頼されていることを誇らしく思うんだ。

 けど――。

 違うんだ。違和感がどうしても取り払えないんだ。風美がそんなことを言うことが信じられない。だって今までの風美からはそんなこと考えられなくて、風美が何かおかしくなってしまったような気がして。どうにもならない違和感が、俺を静止させるんだ。

「……あたしは、悠喜くんに何されても、いいよ……」

 違うんだッ。そうじゃない、俺はそんなことを望んでないッ。

「そういう問題じゃないだろッ」

 風美はそういうことを軽々とするようなやつじゃないんだ。だから俺はどうしよもなく違和感を感じて。素直になんてなれなくて……。

「やっぱり、あたしにはして欲しくないんでしょ?」

「そうじゃない、俺は――」

「じゃあ、あたしがお願いしたら、してくれるの?」

「違う! お前はそういうことをする奴じゃないだろ!」

 俺の声が荒くなる。感情的になってきてしまっている。これじゃダメだ。早く頭を冷やして冷静に。まずは考えろ。

「……悠喜くんは、あたしだから嫌なの?」

「そうじゃないんだよ! けど、何かおかしいんだよ!」

 俺は風美を押し倒した状態のままただ叫ぶ。内容なんかない、薄っぺらい怒鳴り声。ただ相手を恐怖でおさえ付けようとするのと同じ。見てくれだけ大きく見せようとする毛を逆立てる猫と同じ。

 ただやめてほしい。それだけを思う。

「……何が違うの……。好きって言ってくれたのは、嘘なの?」

「違い違う違う!」

 俺は駄々をこねる子供のように面倒くさい言い方をする。

 嘘なんかじゃない。けど、っ絶対に何か違うだろ! そんな風に風美は冷静だけど、絶対におかしいだろ、こんな状況!

「お前らしくない! お前はこんなことする奴じゃないんだ!」

「なんで、そんなことわかるの?」

「それはずっとお前を見てきたから――」

「あたしじゃなくて、『風美ちゃん』を、でしょ」

 ……………………一体、何を言ってるんだ、風美は。俺が見てきたのは、風美じゃない? 俺が見てきたのは『風美ちゃん』? どういうことだ? 俺が見てきたのは確かに風美だ。それ以外何もない。

「……ごめん…………」

 と、突然、風美が謝罪を言葉にする。なにが? 何が起きているんだ?

 別に俺は風美に謝られるようなことはないはずだ。さっきのことなのか? 俺があんなに怒鳴ったから、悪いことをしたと思って誤てきた? それとも、わけのわからない矛盾した言葉を謝るため?

 だが、風美の本当の言葉の意味はそんなことじゃなくて、もっと俺を混乱させる――いや、俺を落ち着かせるための大きな、大きすぎる衝撃を与えてくれた。


「あたし、夏希に全部聞いたの…………悠喜君のこと」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で時間が止まる。

 俺のことをすべて聞いた…………? それはつまり、俺の今の事情をすべて知っているってことか? 俺がこの世界の人間じゃないことも、あの朝の俺の行動のことも全部?

 俺は、隠していたはずのことを知られてしまって、知られていて、少なからず焦る。

 だが、それならそれでもいい。

 いずれは話さなくてはいけないことだったかもしれないのだから。その時期が早くなっただけだと考えればいいだけのことだ。

 ようやくまともに頭が回るようになってきたおかげでなんとかパニックにならなくて済む。冷水をかけられたような状況を体験したおかげで多少は冷静になれたようだ。

「……そうか……ぜんぶ……」

「うん、全部聞いた。……悠喜くんの、風美ちゃんに対する気持ちも、それが本物だってことも、ちゃんと全部聞いた」

「だったら、なんでいきなりあんな行動を――」

「止めてくれるってわかってたから」

「だからって、あんなことをしなくても」

「だって、悠喜くん気づいてないんでしょ、自分の気持ち」

 気づいてない、という言葉に疑問を抱く。俺の気持ちは風美にむいている、それを風美自身もわかっているといった。なのに、気付いていない?

 またわからなくなりそうな俺の思考を止めるように風美が続きを告げる。

「悠喜くんは気付いてないよ。だって、あたしと『風美ちゃん』は同じ人じゃないもん」

 何を言ってるんだ? 風美は俺の事情を理解しているんじゃないのか? だったら同一人物じゃないなんてこと言わないはずだ。だってそのまま、中川風美なのだから。

「悠喜くんは、この街に来る前に好きだったあたしと同姓同名の女の子がいた。それでこの街に来てあたしを見て、そのことあたしを混ぜて考えるようになった。この街に来る前の『風美ちゃん』と、ここいにる風美を。……夏希が言ってたよ、この街に来た時、悠喜くんは危ない精神状態だったって。それで、あたしのことを混ぜちゃったんだよね。多分さ。……好きな人って、それだけすごい存在だから」

 風美の言い回しに、違和感をかんじる。さっきから風美は、この街という言葉をよく使う。この世界ではなく。俺の事情をすべて話してもらったのならば風美は俺がこの世界の人間ではないということも知っているはずだ。なのに、まるで風美はさっきから俺をどこか遠い町の人間だと思っているかのような喋り方だ。

「……待ってくれ風美、お前は俺がどこから来たのか知ってるのか?」

 俺は気になって訪ねてみる、すると、

「ううん、場所は知らない。でも、どこか別の街から来たって言ってた」

 ……そういうことか。おそらく夏希は、俺の現実的に話せるような事情はすのまま知る限りの知識で話したが、現実離れしたパラレルワールド絡みの話を風美にしっかりと説明したわけではなさそうだ。

 俺はどこか違う街から来たことになっているというところから、俺の家族の事とかもおそらく伏せてあるのだろう。

 でも、それなら風美のこんな言葉に惑わされはしない。別人なら変に混同してしまっていると思われてもしかたない。けど、風美はまるっきり同一人物なんだ。だったら風美の言葉は俺には通用しない。

「で、悠喜くんはまだ『風美ちゃん』とあたしを同じにしちゃう? 結構ストレートに言っちゃったけど」

 風美の表情は、さっきまでとは全然違った。夏希が前に見せたあの決意の表情だ

 前にも風美がこんな表情を見せた時があった気がする。そう、あれはつまりそういうことだったんだ。

 俺がこの世界に来て風美のことを好きになったというのは信じられない話だった。だからそれを裏づけする話が聞きたかった。そしてそれは二人の風美が登場する物語になっていた。そして風美はこう解釈したのだ。

――あたしと、もう一人の風美ちゃんを同じ人だと思ってる。

 だから風美はそれを確かめるためにこんならしくもないことをしたんだ。だから俺はこの行動に違和感を感じていたんだ。

 だが、風美は風美だ。同一人物の風美なら何も心配はない。

「同じになんかしてない。俺は、風美が好きだ」

 風美は悔しそうな悲しそうな複雑な表情で俺に言う。

「悠喜くんも頑固だね。『風美ちゃん』はあたしじゃないんだよ。今まで見てきた風美ちゃんはあたしじゃない」

「俺が見てきたのは、たしかに中川風美だ」

「………………悠喜くん、もしもの話をするよ」

 風美はこれでは埒があかないと思ったのか一度話を終えてほかの話をする。だが、それは全然他の話なんかではなく、むしろ正すぎる真実だった。

「もしもここにあたしがいて、違う世界にもうひとりあたしがいても、そのもう一人はあたしじゃないんだよ」

 あまりに的確すぎる例えに、俺は息を呑むしかなかった。


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