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もう一度君に会いたくて  作者: 澄葉 照安登
第三章 友達から他人、友達へ、そして……
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友達から他人、友達へ、そして…… ⑥

感想、誤字脱字などありましたら指摘よろしくお願いします。

 ガヤガヤと騒がしいお昼休みの時間。あたしはいつも通り夏希とお昼を食べていた。

 教室内で机を二つくっ付けて向かい合いながらお弁当箱を広げて談笑しながら学校での数少ない自由な時間を過ごす。何もあたしたちだけではない。お昼休みのはじめは皆こうして過ごす。それは当然のこと。

 あたしも笑いながら夏希と一緒にお昼ご飯を食べているんだ。――表面上は。

 内心では、これっぽっちも笑えてない。笑顔になんてなれてない。どうすればいいのかわからなくて、それでいつもどおりにするしかなくて笑顔を作ってる。

 今日の朝のことは、何かの冗談だったのだろうか。そう思えるほど信じられない出来事だった。夏希と付き合ってるはずの――どこからどう見ても彼氏彼女の仲に見えるあの二人。夏希と悠喜くん。あたしはその悠喜くんに告白された。

 今ではちゃんとわかっている。あれは悠喜くんの本当の気持ちなんだと。けど、分かっていても分かりたくない。

 まず、分からない。なんで悠喜くんがあたしのことを好きになったのかなんてこと。あたしたちはまだあって間もなくて、喋った時間も顔を合わせた時間もほんの数時間なのに、そんな少ない時間であたしの何を好きになれたって言うんだろうか。あたしの見た目? ううん、そんなはずはない。あたしなんかよりよぽど夏希の方が可愛い。女の子らしく長く伸びた黒い髪の毛も、綺麗で長いまつげも、口元も、何気ない仕草だってそう。何もかもがあたりよりも女の子らしくて可愛い。

 そんな夏希がそばにいるのに、なんであたしなの?

 正直告白された瞬間、冗談かいたずらかと思って、話を聞いて本当だってわかって、二股でも欠ける気なのかと思ってビンタしそうになって。なんか、全然わからなかったなぁ。

 悠喜くんの告白もわからなかったし、それを聞いてあたし自身がどう思ったのかもわからなかった。嬉しいって思ったわけでも、嬉しくないって思ったわけでもない。どっちでもなくて、でも驚いて、頭に血が登りそうになって、なんて答えていいかわからなくて、あたしはあそこで悠喜くんに返事ができなかったんだ。

「その卵焼き、中に入ってるのカニかま?」

「うん、そうだよ。一つ食べる?」

 そう言って弁当箱をあたしに差し出してくる夏希。

 あたしなんかよりも女の子っぽいのに、絶対にあたしよりも苦しい何かを知ってるんだ。確証なんかないけど、入学当初の夏希の暗い姿を見てしまったんだからそう思うのも仕方の無いことだと思う。

 そして、あんなに暗かったのに、今はこうして明るい姿を見せてくれる。あたしとは違う、ただ明るいんじゃなくて、優しい明るさ。

 あたしは、優しくできる人っていうのは何かを背負ってきた人だと思ってる。苦しいことを知っているからこそ、その苦しみの分優しくなれるって思ってる。

「もっちろん。卵焼きいる?」

「うん、ありがとう」

 夏希は微笑みながら言う。

 ほら今だって。あたしと一緒で笑顔を作ってる。ほかの人なら絶対にわからないだろうけど、あたしにはわかる。夏希は今、本当は暗い状態なんだって。

 夏希は自分の暗い部分を隠すのはうまいんだ。照れたりするとすぐわかっちゃうけど、自分のマイナスな感情はなるべく隠そうとする。特にあたしには。

 暗いのは昔の夏希を見ていれば一目瞭然なのに、今の夏希の暗いところはよく見えない。

 何かを隠してるっていうのはわかる。それが暗い部分だってことも。けど、どういうことなのかなんていうのは全然分からない。もしかしたら、あたしの今の気持ちに気がついているのかもしれない。無理に笑顔を作っているということに。

 もしそうなら、気付かせないくらいの話をしなきゃ。それと同時に、確かめなきゃ。

「でさ、結局悠喜くんはどうなの? 彼氏とかじゃないの?」

 あたしは、いつも通りの口調で笑顔のまま冗談めかして言う。

「ち、違うってぇ。悠喜は、その、別に特別なことなんて何もないし……」

 夏希はいつものように――取り繕っていう。表情の変化がいつもと違う。こんなのすぐにわかる。無理に自分の表情を変えようとしてぎこちなくなっている今の夏希なんか、全部わかる、簡単に伝わってくる。

「本当に? 悠喜くんも同じようなこと言ってたけどさぁ」

 あたしはお弁当箱に残っていた最後のおかず、夏希と交換した卵焼きを口に放り込む。

 夏希はもうお弁当箱を片付け始めている。まだ全部食べ終わってもいないのに。

 別に夏希の嫌いなおかずがあったというわけではないはずだ。夏希は特に好き嫌いとかもしないし、特に体調が悪いわけでもないはず。仮に悪かったとしてもこうやって学校に来ているときは元気を装うためにいつもどおりちゃんと食べるはずだ。

 それなのに夏希は残した。

 一体夏希に何があったのかは知らないけど、相当大きな出来事だったんじゃないだろうか。あたしの考えすぎかもしれないけど。

 もともと夏希はそんなに食べるほうでもないし、よく考えてみればこのぎこちない感じは自分の体調不良を隠すためのものなのかもしれないと思えるじゃないか。

 そう思える、ハズなのに。

 あたしの頭からはどうしても夏希のこの状態の理由を決め付けてしまっていた。

「悠喜が、そう言ったんだから。……それで合ってるよ」

 だからあたしは夏希のこういう言葉に納得がいかなかった。

――夏希は、悠喜君のことが好きなんじゃないの? 

 どうしたってその疑問が何度も頭の中でグルグル回って夏希の言葉がうまく信じられない。どうやったってうまくいかない。簡単なことのはずなのに、どうしたってうまくいかない。友達なら、当然のことのはずなのにっ。

「そう……。ねぇ夏希。じゃあさ、あたしが悠喜くんに告白してもいい?」

「ッ!!」

 こんな意地悪な言葉しか出てこない。

 言うなら素直に今日の朝にあったことを話してしまえばいいのに、それすらもできずにただ、あたしは夏希の言葉にムカついていた。

「あたし、実はちょっと気になってるんだ、悠喜君のこと。面白い人だと思うし、不思議な人だとも思うんだ。だから、あたしは悠喜君のことが気になってる」

「そ、それは……告白しなくても……いいんじゃないの……?」

 うつむき、表情を隠しながらそういう夏希。戸惑っているのが目に見えてわかる。

「でも、知りたいなら恋人の方が早いでしょ。それに、あたし本当に悠喜君のこと、好きなんだよ。夏希だって見てたでしょ。ポッキーゲーム」

 あたしの言葉に、夏希は顔を歪める。うつむいていてもわかるほどの変化。それが物語る夏希の気持ち。夏希だってあれを見ていていい気持ちなんて絶対にしなかったはずだ。だからこそ、あたしはあそこであれをやったのに。なんで夏希は、止めてくれなかったの?

 今なお考え続けているあの時のこと。恋バナだって始めようとしたのは夏希と悠喜くんの気持ちをなんとか聞き出そうとしたから。それなのに七海ちゃんに矛先がむいてしまった。流れ的に矛先を変えるのは不自然だった。そんな状態だったのに、さらに予想していなかったことが起きた。

 悠喜くんは、夏希とだけじゃなく、七海ちゃんとも何かを共有しているということが。

 夏希と共有している秘密みたいなものはすぐにあるって気付けた。別に考えるほどのことじゃなかったし。深くも考えずに二人はそういう仲だと思っただけだった。

 けど、七海ちゃんの場合はちょっと違う。あたしの頭の中で考えていたことがどんどん崩壊していく。

 夏希と悠喜くんは付き合っているわけじゃなかった。お互いに好いているわけでもないし、悠喜くんの好意はあたしにむいていた。それにさらに追加で七海ちゃんとの何か深い秘密の部分。そしてなによりその七海ちゃんの態度だった。

 七海ちゃんのあの分かりやすい動揺の仕方、夏希とそっくりだった。

 悠喜くんは他人の感情とかを感じ取るのは得意そうじゃないから気づかなかったのかもしれないけど、あの場にいた全員、少なくともあたしと夏希はすぐに気づいた。七海ちゃんの好意が悠喜くんに向いているということに。

 別に悠喜くんと七海ちゃんに接点がないと思っていたわけじゃない。七海ちゃんは夏希の妹だし、顔を合わせることだってあったはずなんだ。だから二人が顔見知りだったということに驚きはしなかったし、むしろ当然だと思った。

 あたしが七海ちゃんお気持ち云々以前に驚いたのは、二人の秘密の共有についてだ。

 悠喜くんは七海ちゃんの秘密を知っている。あたしはもちろん、夏希ですら知らない七海ちゃんの本当の秘密の部分を。

 それをあの場所で話さなかったのは、もちろん七海ちゃんのことを思ってだろうが、それにしたって夏希が知らないようなことを二人だけで共有するのはどうなのだろう。あたしは正直、気に入らなかった。あの時はまだ夏希と悠喜くんが付き合ってると思っていたから余計だったけど、夏希にすら秘密にすることってなんだよと、軽い怒りを覚えた。

 当然あたしだってわかってる。こんなのはあたしの個人的で身勝手な感情。読者が抱くような作者に対するねじ曲がった意見と何も変わらない。見ることしかできないのに、ただ戯言にしかならないような文句を言う。あたしはそれがわかっているのに、やめられない。身勝手な意見は収まらない。

「……夏希。場所、変えようか」

 あたしは教室の人の多さを見て、これ以上話すのは得策ではないと感じた。

 あたしは立ち上がり、教室を出て行く。夏希はそのあとについてきてくれる。

 向かう先は人気の少ない場所。今の時間ならうってつけの場所がある。

 あたしは階段を降り、靴に履き替えて校庭の近くにある体育倉庫に向かった。

 当然こんな時間に体育倉庫が空いているわけもなく、ここに近づく人など誰一人いない。

 あたしは体育倉庫の裏側、ちょうど校庭からも校舎からも死角となっている場所へと足をすすめる。あたしは一体何をしているんだろう。こんなところに親友を連れてきて、まるで脅迫でもするような雰囲気ではないか。

 それでもあたしはここで夏希と向かい合う。ここなら、いつも発言をあまりしない夏季だって、ここでなら言いたいことを言えるはずだから。人目を気にしなくていいこの場ならば。

「夏希、正直に話して。悠喜君のことと、それから……夏希のこと」


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