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もう一度君に会いたくて  作者: 澄葉 照安登
第三章 友達から他人、友達へ、そして……
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友達から他人、友達へ、そして…… ④

感想、誤字脱字の指摘等よろしくお願いいたします。

 俺はなんとか夏希のおかげで野宿をせずに済んだのだが、七海のあの甘い言葉が脳内を彷徨っててどうも良く眠れなかった。

 それだけじゃない、なんだか夏季がぎこちないというか、変に遠慮しているような気がしたんだ。言葉ではなく夏希の行動から俺が感じただけだが、どうにも夏希が俺のことを変に気にしていた気がしてならない。いつものように赤面していたのならば別に俺もこんなふうに考えていない。けど、夏希は明らかに気を遣っていて、赤面して照れているのとは違っていた。

 そのなんとも言えない空気の中、俺は寝付けなかった。そのため眠りも浅く朝四時に起きてしまって二時間程度の睡眠で俺は翌朝を迎えた。

 俺は夏希を起こしては悪いと思い、物音を立てないように部屋の床に寝っ転がったまま寝たフリをしていようかと思ったが、どうにも気が落ち着かない。俺は忍者よろしく忍び足で廊下へと出て、そのまま家の外へ。

 朝靄がかかっていてさらにまだ夜中の如く暗い道路を街灯が照らしていた。

 一度目を瞑って目を闇に慣れさせる。そして一度空を見る。

 星や月が光っているが、真夜中というほどの暗さではないことに気付く。空の端はほんのりと青色に染まり始めていて、おじいさんの朝のランニングには丁度良いくらいだった。

 俺は空を見たまま家と道路の境界線を超える。

 俺はそのままどこへこうかと思案をはじめる。もちろん金のかかる所にはいけないし、第一こんな早朝からやっている等二十四時間営業のコンビニくらいのものだ。

 俺はとりあえず軽く散歩でもするかと歩き出そうとした。

「あれ、悠喜くん? 何やってんの?」

 と、いきなり聞き覚えのある声が俺の名を呼ぶ。声のしたほうを見てみればそこには俺の元の世界からの友人、俺個人の感情から見ると好きな人の風美が、コートに厚手の手袋、マフラーという防寒ばっちりな格好で立っていた。

「風美。お前こそこんなところで何を――」

 風美の家の場所は知らないが、家の場所が近いからといってもこんな朝早くから外出しているのは気になった。だが、その答えは俺のすぐ足元にあった。

 小さくて真っ白の耳がピンと立っているよく見るあの動物。

「犬の散歩か」

 俺はそう言いながらしゃがんでその真っ白の小型犬――チワワに向かって冷たくなり始めていた手をそっと差し出す。警戒しているのか、簡単には近づいてこようといない。

「この子はちょっと恐がりさんだからね。名前はミルク。あたしはミルって呼んでる」

 名前を呼ばれたチワワ――ミルクは風美の足元へと逃げていってしまう。

 くすくすと笑いながら風美はミルクを抱き上げ、俺に近づいてくる。

「ほら、大丈夫だよミル」

 そう言って俺ではなく愛犬へと語りかける風美。

 俺は風美に抱かれているミルクへと恐る恐る手を伸ばす。そしてミルクの鼻先に軽く触れる。すると、一度触れたからなのか俺の手の匂いを嗅いでくる。そして俺の指を舐め始める。風美は顔をほころばせる。

「ねぇ、ところで悠喜くんは何やってたの? もしかして、ストーカー?」

 つい最近猛烈に憎悪の対象となったその単語を俺は冷たい声で切り落とす。そして俺は変な誤解をされないようにと、ある程度嘘を交えながら説明する。

「早く起きたから少し散歩しようと思っただけだよ。犬はいないけど」

「あはは、おじいちゃんみたい」

 風美が微笑む。ミルクがブルっと身震いする。

 俺の行ったことがそんなにおかしかったのだろうか。というか犬の方に関しては若干寒気がするような言葉だったのか、ただ単に寒かったかくすぐったかったかどれなのかはわからなかったが、なんとなく後者な気がした。

「でも、面白いね。夏希の家の前で合うなんて」

 風美は笑顔で言う。俺はそれに冷静な口調で「ああ」と返した。

 確かに、俺が夏希の家から出てこなかった場合に風美とここで遭遇していたらそれは面白い偶然かもしれないが、俺は今この家から出てきたので偶然とは思えない。

 風美の愛犬が風美のことをまっすぐに何かをおねだりするように見つめている。

「犬なんて飼ってたんだな。知らなかったよ」

 風美はミルクの額に自分の額をこすりつけながら「そんな話しなかったしね」と陽気な声で言う。ミルクが風美の耳を舐める。風美の方はなんでも無い風で俺の方を向き直して聞いてきた。

「悠喜くんは、犬好き?」

 唐突に聞かれて、俺はその犬にカテゴライズされるミルクのことを見る。

「まぁ、フツーの人並みには好きだな」

 流石にさっき風美がやっていたみたいに顔を舐められるのは少し嫌だが。嫌いではないということを言う。

「じゃあ猫と犬、どっちの方が好き?」

「……猫、かな」

 ぱっと頭に浮かんだのが世話のかからなそうな猫。野良でだって生きていけるし、飼い主になつくよりその家自体になつくという点においても、そっちのほうがめんどくさくなくていいと思った。

「おぉ、猫派か~。あたしは犬派なんだよね。フレンドリーなのが好き」

 そう言ってミルクのことを見る風美。ミルクも風美を見る。

 確かに、さっきの風美の様子から言っても犬派で間違いないだろう。犬を本当に好きじゃなかったらさっきみたいに額同士を合わせたり、今みたいに意思疎通したかのように視線を合わせることもできないだろう。

「でも、悠喜くんは猫派っぽいよね」

 風美はそう言って俺の方を見る。

「猫派の中には、かわいいって言ってそっちのほうを好む人もいるけど、他にもいろいろ理由があるんだよね。で、たいていの人は自分と相性が合うかどうかで分かれるんだよね。ほら、悠喜くんって、あんまりフレンドリーにしないでしょ?」

 たしかにその通りだった。俺は心の中で何かを思ってもあまり表に出さないし、フレンドリーという言葉は全く俺に当てはまらない言葉だ。

 風美は「それとさ」と続ける。

「なんか、悠喜くん猫っぽいんだよね。それもクールっぽいんじゃなくて、なんかちょっと違うの。なんか気になるクールっぽさ」

 クールなのかクールじゃないのかそこははっきりして欲しい部分ではあったがあまり突っ込まないことにしておこう。それよりも重要な言葉があった。

「気になるってどういうことだ?」

 俺が聞くと風美は「よくわかんないんだけどね」と前置きしてから言った。

「なんか、借りてきた猫みたいっていうのかな?」

 その言葉の意味はさっぱりわかんなかった。なんで借りてきた猫? それって猫かぶりってこと? 腹黒に見られてるってことなのか?

 俺は若干落ち込みそうになるが、風美が「まぁ、忘れていいよ」という。

「でも、ちょっと違うんだよね。悠喜くんは何かが違う。野良猫っぽいんだけどそれも違うし、けど飼い猫っぽいわけじゃないの」

 動物にして説明されても俺の頭の中では風美が何を言っているのか理解どころか、脳に取り入れることさえうまくいっていない。

 飼い猫だの野良猫だの。あんまりわからなかった。

「まぁ、気になるんだよ悠喜くんのことが。夏希の様子見てても」

 そう笑顔で言った風美はミルクを下ろしてもう一度俺の方を見てくる。

「……本当に二人は付き合ってないの? どこからどう見てもそうだよ」

 風美は心底不思議そうに聞いてくる。どこからどう見てもと言われても、どこをどう見たらと聞き返したいくらいだ。多分風美は俺と夏希が二人でいるというところを最初に見たからそういった固定観念があるだけで、そのへんを完璧にといてしまえばこんなことを聞かれずに済むだろう。というか、今なんでこいつはまた疑問形で聞いてきたんだ? ……ああ、なるほど。なんとなくわかった。つまりこいつは、

 ここに夏希がいなくてからかいがいがないから素直に聞いてきたんだ。

「どこをどうみても付き合ってないだろ」

 まぁ、だからといって俺の答えは今までとなんにも変わらないんだけどな。

 けど、もしかしたら俺のこういう曖昧なところがいけないのかもしれない。付き合ってないならそれ相応の、というか証拠を見せなくてはそれこそただの照れ隠しで誤魔化じていると取られてしまっても仕方の無いことと言える。

 付き合っていないというのを証明するためには何をすればいい。付き合っているというのを証明するならば方法はいくらでもある。相手が自分と同じように付き合っていると言ってくれればそれでいい。もっと簡単なのはキスしてしまえばいい。まあ他人の前で堂々とキスできる人間などそうはいないと思うが。

 付き合っていない場合はどうするか。これも相手に付き合っていないと言ってもらえばいいのか? だがそれでは二人とも照れ隠しをしているのではないかと思われてしまうのではないか。いや、事実今がその状況だ。ならばどうすればいいか。

 それを俺はもう一度やっているではないか。

 付き合っていないのならば――好きな人がほかにいるならば、その好きな人を言ってしまえばいいだけのことだ。夏希の好きな人を、ではない。

 俺の好きな人を、だ。

「だって俺は……」

 ただ、ここで口ごもってしまえばまた昨日のように流されてしまうのではないか? かといっていつもどおり平然と言ったところでそれも信じてもらえないのではないだろうか。

 だとしたら、どういう風に言うべきなのだろうか。

 告白など一度も経験したことのない俺ではどうしたらいいのかなど思いつくはずもなく、俺はやはり昨日のように、

「お、お前のことが好きだから。昨日も、言ったよな……?」

 口ごもってしまう。無意識に昨日も言ったという言葉が出てきてしまう。それこそ本末転倒。昨日も言ったと言ってしまえば昨日と同じ『友達』としての好きだと言っているようなものではないか。

 俺が今言っているのは『恋愛』としての好きなのに。

「そういうのは恋愛対象として好きな人に言わないとダメだよ」

 やはり風美は昨日と同じように返してくる。

 俺はイライラしてしまう。風美に対してではなく、自分に対して。なんで自分はこうやって言葉を使うのが苦手なんだと。なんで遠まわしに言ってしまうのかと。

 けど――

「だから言ったんだ」

 苦手ならなおのこと、必要最低限で終わらすんじゃなく、それに証明するためのもうひとつの言葉を足せばいいじゃないか。

 いくら言葉を重ねても墓穴を掘るだけになるのかもしれない。けど、言葉を伝えるのなら、だ。今俺が伝えようとしているのは言葉じゃなくて気持ちだ。言葉を使っていても気持ちを伝えようとしている。だから、伝わるはずだ。俺が必死に伝えようとすれば。

 昨日俺は伝えるって決めたんだ。今はそれができるチャンスなんだ。

 だったら伝えるしかないだろ。迷ってためらって臆病になるな。もう言い出してしまったんだから止まれはしない。だったらここで言ってしまおう。

 今の俺の気持ちを、その本人の前で、誰でもない俺自身の言葉で、告白というやつをしっかりとやりきるしかないだろ。だから言ったんじゃないか。

だって俺は本当に――。

「風美の事を恋愛対象として、好きだから言ったんだ」


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