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もう一度君に会いたくて  作者: 澄葉 照安登
第三章 友達から他人、友達へ、そして……
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友達から他人、友達へ、そして…… ②

感想、誤字脱字の指摘等よろしくお願いします。


 夕方、五時頃になり外も暗くなってしまったころ、七海が帰宅して来た。

 何かするでもなくダラダラと、それこそ向こうの世界での俺の日常のようにイミのない時間を過ごしていた俺たちは、というか風美なんだが……。七海が帰宅したのを察知すると七海のことを呼びとめ、部屋に招き入れたのだ。

「…………なんであんたまでいるの……」

 ジト目で睨まれた。いや、なぜかはわからないが、何か気に触ったのだろう。なんせ七海は姉のためにその周りにいる男を排除しようとしたことがあるのだから。被害が俺だけで収まってよかったと言わざるおえない。

 あぐらをかいて苦笑いで見上げた俺は「なんでまたきつくなったんだ」と思う他ない。

 つい最近というか昨日の出来事だが、七海がストーカーと正面から向き合ったあの時、あのくだりの話を通して俺と七海の間柄は時間的な関係ではなく、精神的な親友というか、家族よりも信頼できる唯一の男の人にグレードアップしたはずなのだ。それなのになぜ今日になってまたトゲトゲした言葉を投げかけられたのか、全くわからない。

「いや、特に理由はないけど……」

 俺の小さな返答をかき消すように風美が「まぁまぁ」と言いながら風美を半ば強引に、無理やりに部屋に引きずり込みドアを閉めてしまう。一応言っておくが、ここは夏希の部屋であって風美の部屋ではないぞ。

「七海ちゃんも来たから、ガールズトークしようよ!」

 俺をまるっきり無視した提案に苦笑いしか浮かばない。

 制服姿で立ったまま風美のいきなりの提案を聞いていた七海は小声で「シャワー浴びたいのに」と不満の声を漏らす。七海、お前は運動部じゃないだろ、といつだかと同じようなツッコミを心の中でして、七海が発した不満の声を聞こえなかったことにする。もちろん風美は聞こえていないようで「さぁ座って」などと夏希を差し置いて言っているが。

 俺は女子三人の空間から軽く距離をとって変な話題を振られないように構えておく。体育座りで隅っこに移動するのでは帰って目立ってしまうので軽く距離をとって体の状態はそのままあぐらにして。

 だが、夏希は俺の行動に気づいたようで苦笑いを共有する。

「それで、ガールズトークっていうのはいいんですけど。……なんでこれがいるのかわからないんですけど」

 俺に向けられた言葉だけ明らかに声のトーンが違った。だからなんでそんな刺々しいんだよ。確かにガールズトークをするって言うなら俺はこの場にいちゃいけない、最も不要な人物であることは俺自身も自覚しているが、昨日あんなに抱きついてきたあの可愛らしい清水七海はどこに消えたんだと不思議に思えてくる。

「大丈夫、男の子がひとりくらいいたほうが面白いんだよ♪」

 なんとも愉快犯な風美が楽しそうに言うもんだから俺は嫌な予感しかしない。というか七海の発言のせいで俺は風美に認識されてしまったようだ。無駄な事をしてくれる。

「でも、ガールズトークって何するの?」

 と、夏季が苦笑いのまま素直な疑問を口にする。確かにガールズトークというのは一体なんなのか気になる。俺は今までそんな単語を聞いたことがないので意味のまま『女の子の会話』というふうに考えたのだが、何か違うのだろうか? もしそうならば俺は速やかに退室しなくてはいけないのだが、風美いわくいたほうが面白くなるそうだ。

「そんなのもちろん恋バナだよ!」

 これまた満面の笑みで宣言する風美。俺は呆れたため息、夏希はなおも苦笑い。そしてなぜか七海はびくっと反応する。フツーその反応は夏希がするはずだろ。

 風美が敏感に七海の反応を感じ取ったため視線が七海に向く。いや、矛先が七海に向くといったほうがわかりやすい。

「その反応は、もしかして七海ちゃん、絶賛恋愛中?」

 なんか絶賛発売中みたいなことを言った風美だが、どうやらそれはあながち間違いではないようで、七海は赤くなりながら「違いますっ」と否定してくる。

 そんな反応は風美を喜ばせるだけであって、逆効果でしかないと理解している俺は心の中で七海に同情しておくことにする。

「あたしは、男の人が苦手で……ッ!」

 たしかにその通りだ。昨日までストーカー被害に遭っていた七海は恋愛なんてしたくても出来なかったのだ。その七海がなんでこんな風に何かを隠そうと必死になっているんだ? と、ここまでの事情を知っている俺はなんとなく予想できた。これはアレだな

「……一目惚れか?」

 俺は素直な疑問を口に出した。すると七海は両目を見開いて俺の方を見る。

「ば、馬鹿じゃないの! なんでそうなるのよ!」

 なんか怒鳴られた。けどその反応はイエスということだろう。七海がそんな風に恋愛できるようになったのは喜ばしいことだ。男性恐怖症的な状態から一気に一目惚れとは、さすが乙女というか、だてに乙女チックな少女ではない。

 風美も同じことを思ったのかニヤニヤしている。

「ねぇ、誰? クラスの男の子?」

「違いますよ! 第一、一目惚れでもありません!」

「そうなの? じゃあもっと気になっちゃうなあ」

 風美、楽しんでるなぁ……。あいつは清水家の人間と一緒に入れば退屈という単語を辞書から消滅させることができるんじゃないだろうか。

 だが、俺はここで素直な疑問。

「お前今まで男性恐怖症だったろ? 一目惚れじゃなかったなんなんだよ?」

 わりと乗っている俺がいた。いや気になるとかではないが、疑問に思ったことを聞くというのはつい最近もやっていたことで、七海に対してだからなのかもしれないがいろいろ素直に話してもらえると思ってしまうのだ。たとえ七海の口調が刺々しくなっても。

 俺の質問に七海が答えるよりも先に、風美が言う。

「え? そうだったの? どうして男性恐怖症?」

「そ、それは…………」

と、とたんに口ごもってしまう七海。どうしてだと思った瞬間自分を殴ってやりたくなる。七海の男性恐怖症の原因を知っているのは俺だけじゃないか、と。

七海は家族に心配をかけるのが嫌でずっと言えなかったというのに、こんなナチュラルに質問してどうするんだ。気まずい空気になるとかそういうことじゃなく、七海が口ごもるのはわかっていたことじゃないか。なんで気づかなかったんだ。

だが過ぎてしまったことは仕方ないので俺はどうにかフォローしようと考える。

「か、風美、あんまりそういうのは聞いちゃいけないと思うぞ」

 七海の前に出て俺は言った。

 咄嗟に出たのはそんな言葉だった。これくらいしか言ってやれない自分が情けない。

 風美は頭上にはてなマークを浮かべ、夏希は顔に不安を表していたが、あんまりこの話題を続けるのはいいこととは思えなかったので、俺は強引に続かせる。

「それより、ずっと前から好きなら、いったい誰なんだ?」

 こう言えば少なくとも風美の興味はこっちに来るのでいいだろう。そしてそのまま風美が雰囲気を押し流してくれることを願う。

「な、なんであんたがそんなこと聞いてくるのよ!」

 そこには突っ込まないで欲しい、これでもお前のためを思ってやったことなんだ、少しは大目に見てくれるとありがたい。そして立ち上がらないでくれ。座ってくれ。スカートだから、お前スカートのままだからっ。

 俺は変に口を出すわけにはいかず表面上は平静を装う。

「あっ、もしかして悠喜くん? 悠喜くんのことが好きなの?」

『え?』

 風美のいきなりの突拍子もない発言に俺と七海、そしてなぜか夏希までもが声を上げる。

 俺は反射的に七海の方を見る。目が合う、逸らされる。え? 何だその反応。お前まさか………………。

 お前も夏希と一緒でこういう話題苦手なのか? 俺は驚きながら思う。

 確かに姉妹だから似ているところがあってもいいとは思うが、なんでそういうところが煮るんだよ、もう少し柔軟に対応できるようにしないと色々困るぞ。

「…………ち、違うもんっ!」

 子供っぽく否定する七海、これは風美が喜ぶぞ。なんぜ夏希のあの赤面をおもちゃ替わりにする奴だからな。

 だが、今回は俺が助け舟を出してやれる。

「風美、それはないぞ。だってこいつ、俺に変態だとかばっかり言ってんだぞ」

「それは好きの裏返しってことで」

 意地でもそっちの方向に持っていきたいのか。でも、これいえば納得するだろう。なんだか気はずかしいな、実際俺だってなぜかドキっとした言葉だしな。

 まぁ、この際仕方がない。俺はあくまで平静を装いながら言う。

「それにこいつ、最後には俺のことをおに――」

「いやぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」

 直後俺の真上から悲鳴にも似た……というか明らかに悲鳴が聞こえた。俺は咄嗟に両手を駆使して耳をガードすることに成功する。

 だが、のし掛かりを避けることは出来なかった。七海が俺の上にのしかかってきたのだ。

 俺の上に馬乗りになりながら七海は真っ赤な顔で言う。

「な、何言ってんのよあんた!」

「いや何って、俺はただ事実を」

「一体何が事実だっていうのよ!!」

「だからお前が俺のことをおにい――」

「それ以上言うなあぁぁぁぁあぁぁ!」

 女の子特有の甲高い声で俺の耳がダメージを受ける。いやそれ以前にさっき押し倒された時に背中思いっきり打ってて、結構痛いんだが……。

 俺が横目で夏希に助けを請おうとするが、おそらく意味がないので却下。

 風美に目で助けてくれと訴える。だが風美はニヤニヤしたまま「ツンデレ可愛いなぁ」とつぶやいていた。傍観者か、お前は傍観者なのか? 少しは助けようとしてくれよ、原因はおそらくお前にあると思うからな。それともうひとつ言わせてもらうと、この世界にはツンデレなんていうものはいない。七海がこうなってるのはそういう理由じゃない。いや、ちゃんとした理由がわかるわけでもないんだけど。

「一体いつあたしがそんなことを言ったっていうのよ!!」

「いや昨日お前のことをおぶってる時に、ってかキスまで――」

「ば、ばかぁぁぁぁあぁぁぁ!!」

 半泣きで怒鳴られる。いや待て、俺は事実を話しているだけであって別にお前のストーカー被害のことは口に出してないぞ。そのへんは伏せるから安心して、って涙ふけ! お前もう涙は流しきっただろ、もう泣くなって!

 俺は呆れながら状態を起こし、七海の頬に手を当てる。

「とりあえず、泣くな。お姉ちゃんが心配するぞ」

 俺は強引に七海を泣き止めせようとするが、

「な、泣いてないわよ! あんたが昨日のこと言ったりするから!!」

 本人曰く、泣いてはいないそうだ。涙目になってたからその言い訳は無意味なのだが、まぁ、そう言うならそうなんだろう。泣かなければそれでいいからな。と、そんな本当の兄貴みたいなことを考えている場合ではなく、俺の横でこの状況を見守っている愉快犯さんから不穏な気配を感じたので視線を向ける。

「まさか、二人がそんな関係だったなんて……。姉妹で修羅場はドロドロすぎじゃ……」

 風美の中での人間関係の設定はどうやらマジモンの恋愛小説よろしく、三角関係というテンプレートなドロドロ関係になったらしい。

 だが、間違ってはいけないのはあくまでこれは風美の妄想に過ぎないということだ。実際は俺は七海にきつい言葉を叩きつけられたりしているわけだし、夏希の方もそんな色恋沙汰になるような会話はしていない、直接言葉に出すことは出来ないが夏希は俺が元の世界に帰るまでの間協力関係を結んでいるだけなのだ。

「べ、別にあたしはお姉ちゃんの彼氏を取ろうとなんて……!」

「か、彼氏じゃないって……! 悠喜はその……友達だよ、ただのッ」

 夏希も夏希でなんとか状況を打破しようとしているのか知らないが、なぜそこで赤くなる。それじゃあ本当にそういうのがあって、必死に隠しているみたいじゃないか。

 というか、姉妹揃ってなんだこの照れ屋な性格。いくら姉妹でもこういうところはあまりにないだろ。せめて似ても容姿くらいで……むしろ容姿は他人であるかのごとく似てないが。まあそのへんは仕方がないのだろう、姉妹と言っても双子ほど似ている例は多くないし、そもそもそっくりになる方が稀だろう。

 俺は清水姉妹を見比べているが、風美はなおも同じ調子のまま爆弾を投下する。

「だって、キスしたんでしょ? それって愛情表現でしょ?」

「そ、そんな事してませんっ!! それはこいつの妄想で――」

「お前俺を盾にして逃げるなよ、キスしてきたのはお前だろッ」

 爆弾だと分かっているのだが、なぜか投下してしまう自分がいる。流石にそんな風に言われてしまっては今までなんとか冷静でいた俺も焦ってしまう。

「な、なんでそういうこと言うのよ!! あの時はちょっとおかしくなってたの!!」

「いや、おかしかったのはずっとだろ。俺からしたらあの時の方が素直に見えたぞ。というかそれよりも…………」

 俺はそこで一旦区切り、呆れながらため息をついたあとで言う。

「そろそろどいてくれないか?」

 なんで俺は七海に押し倒された状態のままさも当然のように会話してるんだ。おかしいだろ、おかしすぎるだろ。確かに表面上で平静を装ってるのは俺だけど、いつまでたっても動向としないのは七海であって俺はあくまで被害者なのだ。

「え? あっごめ――きゃッ」

 ようやく今の状況を思い出したのか七海は慌てて俺の上からどこうとする。だが焦ったためかバランスを崩してそのまま仰向けに倒れてしまう。

「おい、大丈夫か? 全く何やってんだよ……」

 呆れながら上体を起こし、七海の倒れた先を見ようとする。

「ばかっ、こっち見ないで!!!」

 七海が怒鳴ったが時すでに遅し、俺の視線は床に仰向けで倒れたままの七海に向けられる。俺の上にまたがって馬乗りになった状態からそのまま仰向けに倒れたので足の裏は床についているものの膝を曲げた状態であるため俺の場所からでは制服のスカートの中が見えてしまうような体制になっている。

 涙目でスカートを抑えて太ももを合わせてガードすることに成功しているが、なぜか逆にその大勢の方が色々な意味でやばい気がしなくもない。

 しっかりとスカートの中は死守しているのだが、なんか立ち位置的に俺が七海に何かをしようとしているのを必死で抵抗しているように見えなくもないのだ。そして涙目。なんか俺は悪いことをした覚えはないのになぜか自分が悪いと錯覚してしまう。

「ん? つまりどういうこと? キスはしたけどまだ付き合ってないってこと?」

 ハテナマークをいっぱいにしながら訪ねてきた風美。なんかよくわかんないけど誤解を解くのが大変そうだ。

 俺がとりあえず説明をはじめようと口を開きかけるが、

「ご飯できたから来なさい。風美ちゃんもよかったら食べていって」

 母さんの声が俺の言葉を遮ってしまった。

 結局ちゃんとした説明もできないまま女の子三人に引き連れられ、俺も一緒に晩御飯をご馳走になることとなった。


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