友達から他人、友達へ、そして…… ①
新章突入です。この章は短めです。
そして感想や誤字脱字の指摘などお願いします。この作者、誤字等が大変多いもので…………。
七海の一件が終わった翌日、俺はようやく本来の自分の目的に向かって進み始めようとしていた。元の世界に帰り、あの平凡で退屈な日常に戻ることを。
それが目的で俺と夏希のほかにもう一人重要人物と思しき人を呼んだんだ。
だが、なぜかそれのせいで今現在――。
「ねぇねぇ、本当に二人とも付き合ってるわけじゃないの?」
「ぅぅ~~~~~~ッ!」
という具合で、もはや遊んでいるとかいうレベルですらなくなっていた。というか実際夏希に関しては遊ばれてるからな。
「風美、夏希が戸惑ってる。何度も言うけどそういう関係じゃない」
俺が必死に説明してもさっきから同じ事の繰り返し。というか風美、お前は確かめたいんじゃなくてただ単に清水の反応を見て楽しんでるだけだろ。清水は清水で学習しないというか、なんというか……。そこが清水らしいところなんかもしれないが。
「でも、夏希は好きなんでしょ、悠喜君のことが」
「ん!!」
清水は言葉で何かをするということはぜずに首をぶんぶん横に振って否定する。ここで補足だが、俺にも一応感情というものがあってだな、あからさまにこうやって否定されるとなんか傷つくというか、それなりに気にするわけで、こっちのことを考えてもらいたいというわけだ。まあ、軽く呆れるけどね自分自身に。
前は無関心だったくせに、何言われても何も思わなかったくせにこんな……なんかなんて言えばいいのかわからないけど、女々しい感じになっているような気がして、その変化にちゃんと気がついている自分をなぜかおかしいとも思うし、不思議だとも思う。
「というか、今更なんだけど、あたしなんで呼ばれたの? もしかして見せつけるため? うわ~、そういうのはちょっとなぁ~……」
「質問しといて返事を待たずに結論を出すなよ。ってまかずお前がいろいろやり出したから話が進まなあったんだろうが」
と俺が文句を言うと特に悪びれた様子もなくごめんごめんと言う。
俺と風美が話を展開しようとしているにもかかわらず、夏希は今も赤面しながらブツブツと何かを言っている。時たま頭を振るのは何か意味があるのだろうか。
俺はひとまず夏希は放置して風美に説明する。
「夏希経由で俺がお前のことを呼んだのは分かってるよな? まぁ俺の我儘なんだけど、お前に会いたかったから夏希に呼んでもらったんだ」
風美は俺の説明を聞きながら腕を組んで頷いている。なんか変な勘違いしそうで何か嫌だが、そのへんの誤解があったらまた説明すればいいか。
風美は手をポンと叩いてなるほどと顔に出しながら言う。
「もしかして、あたしのこと好きなの?」
想像も予想もしていなかった直球すぎるセリフに俺は内心焦って心臓バクバクだった。な、なんだこれ、今までこんなことなかったのに。落ち着け俺。
俺は風美にバレない程度に深呼吸する。ちらっと横目で夏希このことを確認すると赤面は元に戻っていて普通だったが、なぜか表情がどこか切なげというか、悲しそうだった。
「えーと…………。まぁ、……」
女々しく語尾を濁してしっかりした言葉を使えない俺。
どうしたんだよ俺。なんでこんなに悩んでるんだ。ななみのことで俺だって成長したんだろ。学んだじゃないか。自分の頭でいろいろ考えるんじゃなく、自分の直感的な言葉をそのまま口に出せばいいって。
「…………好きだ、な……。俺は、お前のことが……」
俺が小さな声でそういうと風美は一瞬驚いた顔をして、すぐに笑顔に戻る。
「あはは、嬉しいこと言ってくれるじゃん! でもそういうのは本当に好きな人に言ってあげないと。恋愛対象としての好きな人にね。友達としての好きでそういう風に言っちゃうといろいろ誤解を招いちゃうよ~。それに誰かさんが嫉妬しちゃうかも」
そう言って夏希の方に視線を向ける。俺も釣られて夏希の方に視線を向けると目が合い、とたんにそらされてしまう。耳が軽く朱を帯びているのは赤面している証拠だろう。
俺は一回ため息を付くのと同時に深呼吸をして冷静さを取り戻す。
「夏希をあんまりいじるなって」
俺はなんだか少しイラっとしつつ風美に言う。風美はなおもにははと笑っている。その笑顔が、こう表現するのは少し恥ずかしいが、眩しすぎた。
俺が向こうの世界で見てきた風美の笑顔よりも何倍も明るくて、何かが違う気がして胸が締め付けられるような痛みを感じる。これって、切ないってことなんだろうか。
「ごめんごめん。でもさ、何する? 三人だとそんなにやることないからさ。それに女の子二人に男の子一人っていうのだとどうすればいいのかわかんないんだよ」
「いや、正直それは俺も一緒なんだが……」
こっちの世界に来てからいろいろ女の子と話をするようにはなったが、それだって夏希との元の世界に帰るための相談だとか、七海のストーカーの話とか、まともな遊びとしての会話とかは全くやった覚えがないんだ。
俺は元の世界では風美と一緒にゲームをしたりアニメショップに行ったりしたが、それだって俺からではなく風美からの提案だった気がする。
「うーん、それじゃあ。ゲームでもする?」
「俺はいいけど、夏希はいいのか?」
俺はこんな感じで前もゲームを…………あ、俺今ゲーム持ってないじゃん。ダメだ。
俺は自分の所持物の中にゲーム機というものが存在しないことを思い出してそのことを話そうと思ったが、それよりも先に風美が言う。
「大丈夫だよ、ほら、これでやるゲームだから」
そう言って風美が手にとったのは俺たちが今まで食べていたお菓子の中の一つ、棒状のクッキーの周りをチョコでコーティングしたお馴染みのお菓子だ。
…………ちょっと待て、これでゲームってなんだ。俺の頭の中に不吉な単語が浮かんだんだが、それは違うよな単にお菓子名の後にゲームをつけただけの代物じゃないよな!
夏希も俺と同じことを考えたのか俺の方を見て赤面する。
「これはもう誰でも知ってるポッキ――」
「風美お菓子で遊ぶのは良くないと思うぞ」
早口にそう言い回避を図る俺。こんなことでは到底回避できないと分かっていながらも俺は半ば反射的に口を動かしていた。
「ふふ……。どうやって遊ぶのかなぁ? あたしの考えてるのと違うかもしれないから行ってみてよ」
…………墓穴を掘った。自分の言葉で身動きが取れなくなるってこんな日常的な会話の中にも存在してたんだなぁ。というか、風美確信犯だろ。いや、愉快犯だ。
俺が内心赤くなっているのに同調したのかどうかは知らないが今なお赤面し続ける夏希は救援してくれることはないだろうし、残る当の愉快犯は俺が答えるまで待つ気満々だ。なんで夏希だけじゃなく俺までおもちゃにされてるんだ? いや、別に好きな人にちょっかい出されてるんだから悪い気はしないんだけれども……。
と、俺は直感的に言い訳をひらめく。これなら行けると確信、できなくもない言い訳だ。
「これを使ってやるゲームなんだろ。どうやるのかは知らないが食べ物で遊ぶのはダメだろ。って、なんで俺は小さい子供に教えるテイションで風美を諭してんだよ」
後半は自分に呆れて自分自身に突っ込んでいた。
言い訳の方どうやら成功したらしく風美は納得したような悔しそうな顔をしていたので、俺の後半のセリフについてからかわれることはないと思うが、油断はできない。というか
夏希はいつまでそんなところにいる気だ、こっちに戻ってこい。物理的な距離ではなく精神的な意味で。現実に戻ってこい。
「じゃあ、本当にやってみる? ゲーム♪」
「え?」
俺が風美の言葉に反応して視線を向けると、風美はそのお菓子を口にくわえていた。そしてなんにもやましいことがないのか、というか仮にそんなことを本当にやってしまっても躊躇がないのか満面の笑みでウィンクしてくる風美。
「お前……本気で言ってるのか…………?」
「本気もなにも、ゲームだよ。本当にするわけじゃないでしょ?」
そう言って唇でチョコのスナック菓子――ポッキーを突き出してくる。
俺はこれを食わいていいものかとしばし動揺しながら悩む。
正直、このシチュエーション自体は嬉しいの一言なのだが、何しろいきなりすぎるし、もうひとつ言わせてもらえば近くにもう一人女の子がいるわけで、そのこの前でこんなことをするのは後ろめたいというか……。夏希はもちろん俺のこの気持ちのことは知っているし理解もしてくれていると思う。けどだからといってこんなところで、こんなふうにこんなことをしてしまってもいいのか、とどうしても腰が引けてしまう。
「どうするの、する? それともしない?」
そう言った風美が上目遣いで俺のことを見つめてくる、風美の瞳には動揺して固まってしまっている俺が映し出されている。
ここで悩んで黙っていたら、しないと答えているのと同じになってしまう。それにここでやらなきゃ、もうチャンスはないかもしれない。第一男としてこんな一面を風美に見せたくない。それにだ、ただでさえ風美に会える時間が少ないんだ、ずるい考えかもしれないけどここは…………。
「…………分かったよ」
俺は風美の唇とは反対側のポッキーの端を咥える。
風美がにっ、と笑い俺は照れを隠すために目をそらしながら夏希の方をむいた。夏希も俺と風美の方を見ている。その視線は驚きに見開かれている。それもそうだろう。唐突に始まったポッキーゲーム、それも男女のを見せられているのだから。こっち側には別にそんな気はないのだが、必然的に見せつけるような感じになってしまっている。
だがなぜか、夏希の唇はきつく結ばれて、何かに耐えているように見えなくもない。やはり不謹慎だ。こんなふうに見せびらかしながらこんなことをするのは。
俺はやっぱり止めてしまおうかと思うがポキ、という音と唇に伝わった振動が俺を思考ないから現実の現状へと引き戻す。風美が一口ポッキーを食べ進めたのだ。
もうゲームは始まってしまっている。俺はやけくそになりながらも一口進める。
風美はそれを確認すると笑顔になりもう一口進む。こうなってしまってはいまさらやめようなどとは言い出せない。俺がここでポッキーを折ってしまえばそれで終わるのかもしれないが、それはそれでもったいないというか、チャンスを失ってしまうことを意味する。こういうチャンスはそう頻繁にはないだろう。仮にまた提案があったとしても、次の時は俺自身が絶対に拒否するだろう。
俺は覚悟を決め、一口食べる。
俺と風美の距離が、この数秒でとても近くなる。風美の前髪が俺の前髪と触れそうになっている。風美がまた一口、食べ進める。
あとお互いに二口も食べ進めればポッキーは全て二人の口の中に収まるだろう。ポッキーはそんなに長いわけではない。もともとこんなふうにして食べる物ではないので一人でパクパクと三秒もあれば食べることが可能なお菓子だ。
俺の視界は風美の顔で埋まりつつある。俺は至近距離にあるその顔を直視できなくて、目だけで抵抗し、視線をそらす。俺の逸らした視線の先で夏季が立ち上がるのが見えた。そして物音を立てずに俺たちからさらに距離を取る。そしてそのままこちらに顔を向けずにベットの影に隠れてしまう。
ズキッ、と。胸が何かに貫かれたかのような痛みを感じる。
罪悪感だ。理由も何もかも分かっているし、起こしたのは自分だ。夏季だって年頃の女の子、異性同士がこんな風にイチャイチャしているようにも見えることをしているのをたった一人蚊帳の外では、いたたまれないというか、嫌だろう。
また、唇に振動が伝わる。風美がまた食べ進めたのだ。
風美の頬がほんのり赤くなっているように見えるが、そんなことはどうでもいい。なんで風美はこんなふうに当然のようにこんなことを出来るんだ? 恋人同士で、しかも二人だけならまだわからなくもない、けど今は夏希がいる。なんでこんなふうにさも当然のように、それこそ本当にゲームのように楽しんでいるんだ。
そうだ、風美からは夏希は見えていないのだ。自分の後ろにいる夏希の存在は見えていない、見えるはずがないのだ。風美が、また食べ進める。
明らかに風美は楽しんでいるだけだ、このゲームというものを。けど、これをして夏季があんな行動をしたことが、俺にはいい薬だったのか、冷静になれた。
俺はポッキーを食べ進めるのではなく、切断する。
二つに折れたポッキーはそれぞれ風美と俺の唇が咥えたまま。俺はすぐにその短すぎるポッキーを一口で食べ、風美に言う。
「ここまでだ。ゲームなんだろ?」
俺はいつもどおりの冷静な口調でそういう。
風美は苦笑いしながらも「あれ?」と疑問符で聞いてきた。
「もっと動揺してるかと思ったのに、違った?」
「別に……。それよりこういうのは無しにしよう。なんか、変だ」
俺はそういいながらしっかり動揺していた自分の心臓を落ち着ける。
そして視線を夏希に向けて、夏希にではなく風美に向けていう。
「ちゃんとみんなでできるものにしよう」
そう言うと夏希は俺の方を向き、少し安心した表情を向けてくる。
やっと自分の存在を思い出してもらえて安心したのだろうか。確かに自分一人だけ蚊帳の外なのは嫌だろう。昔の俺ならその程度のことがどうして、と疑問に思っていたかもしれないが、こっちの世界に来てから学んだんだ。自分一人だけが除け者にされるということは、どういうことなのかを。
風美は小さく呟くように言った、
「そうだよね。あくまでそういうことをするのはそこの二人だもんね」
ニヤニヤしながら。