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プロローグ 弐

 そして駅を少し過ぎたところにあるアニメショップに入店。ここは五階建てのビルの地下。そこには駐車場ではなくアニメショップが構えられている。結構大きい。

 俺はアニメを見たりするが、こういう店に来るのは初めてだったりする。外出をめんどくさがってしない人間だからな。将来はニートにでもなりそうだ。いや、引きこもりか。

 ちなみに、俺と一緒にここに来た風美は……。先にどっかに行ってしまった。意外に広いので、ところどころ死角もある。

 仕方がないので俺は漫画が置いてあるコーナーで物色を始める。漫画はある程度買っているので、続きが出ているなら買う。といっても、最後に漫画とかの買い物に来たのは約一年前だったかな? だから結構続きが出ているだろう。

 と、俺が横歩きに進んで本を見ていると、早速見つかった。やっぱり結構出てた。これは買うかどうか悩む。ここで買わないと次に買いに来る機会がいつあるのかわかったもんじゃない。まぁ、悩んだところで金がない俺にはどうでもいいことだ。

 次はライトノベルのコーナー。ちゃんとコーナーが分けられているのは見やすくていいな。

 俺は適当におもしろそうなタイトルの本を手に取っていく。

 ライトノベルことラノベは絵がオタクっぽいとか言う理不尽な意見で一部の人間から嫌われていたりする。一回読んでみればわかるのだ。おもしろいと。

 おっ、俺好みのタイトル発見。いかにも俺の意見が採用されてそうな主人公設定だ。

 と、タイトルを見て、背表紙を見て、元あった場所に戻す。金がないんだ。

「やっぱり本が気になる?」

 と、俺のすぐ後ろから声が聞こえた。どうやら風美が戻ってきたらしい。俺は振り返る。

「…………」

何というか、金は大丈夫なのか? という感じだ。クリアファイルやらキーホルダーやらが大量に抱えられている。それにカードゲーム用のカード。

「……そんなに買ってどうするんだ?」

と、俺が指をさしたのはカードゲームの方。なぜか? 箱買いなんだよ。なんでそんなに大量に買い込んでるんだよ。

「あ~、これ? だって、サインカードとかほしいじゃん? だから箱買い」

そうか、そこまで好きなんだな。好きなものがあることはいいことだと思う。何も関心がないよりは。

「なんか買ってあげようか? 無理やり連れてきちゃったんだし」

「いや、いいよ。お前は自分のを買ってこい」

友達とはいえ、他人に買ってもらうのは気が引けた。友達だから他人じゃないでしょ? といつだか言われた気がしたが。他人だからしょうがない。

「じゃ、買ってくるよ~」

 そう言ってレジに向かう風美。アニメの話をしなければ感情が高ぶったりしないで、フツーの物静かな女の子なんだろうけどな。勿体ないな。

 と、柄にもなく変なことを考えてしまったので首を振って雑念を払う。

 こんなことを考えても仕方がないんだから。

 すぐに風美がレジから戻ってくる。並んでる人がいなかったのか? 買い物っていうのはもっと時間を浪費するものだと思っていたが。

「買い終わったよ。それじゃあ、次はどこ行く?」

「まだどっか行くのか?」

「だからそれを聞いてるんじゃん」

俺に聞いてるのか? てっきり心の中の自分に聞いてるのだと……。そんなことをするのは俺くらいか。

でも、俺はこのままどこかに行ったとしてもやることがないぞ。公園とかでぼけーっとしてるくらいしかない。ゲーセンなんて金がかかるので論外。それと同様の意見でほとんどのことが却下。公園しか残らないな。でも寒いからなし。

……じゃあ、残ったのはこれだけだ。

「帰る」


俺は自転車をこいで家まで戻った。持ち物は自分のスクールバック、あと……

「へー、ここなんだ」

同級生の女子一名。なんかお持ち帰りしてきてしまった。全く、俺は一人で家に帰るという意味だったのに「じゃあ行こうか、悠喜の家」ということになってしまった。

 家に友達上げるなんてずいぶんと久しぶりだな。中学の受験シーズンの勉強会以来だな。みんな受ける高校違ったくせに集まってたな。結局勉強なんてしないでテレビゲームだとか、トランプだとか、マンガ読んだりしてたな。

 でも、女子を家に上げるのははじめてだった。だから俺の親は、

「ど、どうも。うちの息子がお世話になってます」

と、母さんが頭を下げ、

「おにぃちゃんの彼女? イガイー」

と、驚く妹。

 俺の家は一軒家に四人の人間が暮らしている。俺と母さん、父さんに妹。高校生になったんだから一人暮らしもいいと思ったが、家事がめんどくさいことに気付いた。ということで四人で暮らしている。

「妹の清水七海です。兄がお世話になってます。えーと、お姉さん?」

 なんだかいろいろすっ飛ばしたらお姉さんになるのだろうが、安心しろ、その予定は毛頭ない。こいつはあくまでただの友だ――

「よ、よろしくね! 七海ちゃん!」

 そうかそうか。もう下の名前で呼ぶのか。まぁ苗字は全員清水だからしょうがないな。

 それにしても初対面で俺の妹の天然をいとも簡単にスルーできるとは。結構相性いいかもな、この二人。

 っていうか、なんで七海が帰ってきてるんだ? 中学生なんだから部活があるだろう。確か美術部かなんかに入ってたはずだが……。そういえばあの中学の美術部、あんまり活動してなかったな。

「……俺の部屋でいい?」

「あ、うん。どこでもいいよ」

と言われたので二階の自分の部屋に向かう。

「母さん、お茶とかいらないから」

「分かったわよ~、ふふふ」

最初にくぎを刺しておかないと絶対に持ってくるからな。っていうかなんだその笑いは。俺の妄想かもしれないが「若い二人の邪魔はしないわよ~」的な言葉が含まれていた気がするんだが。

 とにかく、そんなことは気にせずに階段を上がって三つある部屋のうちの一つを開ける。

 あんまりいろんなものは置いてないので、代表的な男子の部屋! みたいなことにはなってない。いまどきは結構男子も掃除とかこまめにやってるだろうしな。

「へ~、意外。アニメのポスターとか貼ってないんだね」

そんなの貼ってたら今頃俺は親から奇異の目で見られていただろうな。俺の部屋は壁は壁紙とカレンダーしか貼ってない。フツーはこれくらいだろう。

机の上とかも教科書と黒いケータイゲーム機が置いてあるだけだ。シンプルというよりはこざっぱりしていると自分でも思う。本棚は一応隙間なく埋まっているが。

「悠喜って綺麗好き?」

「いや、ものが少ないだけだろ」

片付けるものがまずない。

「まぁ、女子からしたら少ないかもしれないけど……。男子ってこれくらいなんじゃないかな?」

 そうでもないと思うぞ。壁にネックレスとかがぶら下がってたりすると思うぞ。ワックスやらスプレーであふれてると思うぞ。俺の中学の頃の友達がそうだったから。

「で、特に珍しいもんは何もないが、なんかするか?」

と、ひとまず提案。友達といるのに何もしないのはないだろう。かといって、そこまでやれるレパートリーが多いわけでもないので難しい要望には答えられない。

「ゲームでもする?」

ずいぶんと女らしくない提案をするな。女っぽい提案をされても対応できなかっただろうけど。

「別にいいけど、テレビゲームは一階だぞ」

「これこれ」

と、風美は俺の机の上にあるゲーム機を指さす。

「お前今持ってるのか?」

俺の家にはこのゲーム機は一つしかない。よってできるのは一人だけということになる。

 風美は自分のスクールバックの中をあさり始める。そして俺のゲーム機と色違いの青のゲーム機を取り出す。

「とりあえず音ゲーでもやろうよ」

とりあえず通信をする。

 音ゲーというのは音楽に合わせてボタンを押したりするゲームのことである。なんてほとんどの人が知ってるだろうけど。ゲーセンにもよくあるやつだ。

「まずは一曲目~」

音楽が始まる。いかにもキャラクターソングだぜーって感じの曲だ。結構いろんな曲配信してるからな、このゲーム。

これくらいならぎりぎりクリアできるレベルのリズムだった。あんまりこういうのはやんないからそこまで得意ではない。

で、二曲目が始まったんだけど。ロックじゃん。ロック調全開じゃん!

あ、難しい! 風美は涼しい顔でやってるし。やりこんでやがるな!

「悠喜はこういうのあんまやんないの~?」

風美がこっちに目線を向ける。あんまり必死にやってもダメだ。いったん流して落ち着いたところから入ろう。

「ゲームをつけたのが久しぶりだ」

帰って宿題やって寝る。これをひたすら繰り返してたからな。夜中に起きて深夜アニメを見てまた寝る。も、たまに入ってる。

 堕落しまくりだ。

「悠喜は、なんかやりたいこととか無いの?」

やりたいことか~。高校生だからやりたいことくらい見つけろって言われるけど。やっぱりやりたいことはないかな?

「とくには」

「恋とかしたいと思わないの?」

「まったく」

これは即答。恋をして、なんか変わるのか? いろいろ世界を見る目が変わるとか言うのを聞いたことがあるが、あんまり興味がわかない。それに恋って、したいって思うもんじゃなくて、気付いたら恋してた、っていうのじゃないのか?

「そっかー。悠喜は女子とかかわりなんて持たないしね」

「まずお前とかかわりを持ってることにも驚きなんだがな」

「男子ともあんまりかかわらないしね」

「変わり者らしいからな、俺」

淡々と答えていく。この質問に何か意味があるのかどうかわからないが。

「じゃあさ、あたしといて楽しい?」

「楽しくなかったら一緒にいないっての」

「そう。だったらもっといろんな人とかかわった方がいいよ。悠喜は一人が好きなわけじゃないんだから」

独りが好き、か。そういう人もいるんだろうな。でも俺は、静かに一人でいたいとか言っておきながら、結局は誰かと一緒にいることで安心してる。

 たくさんの人とかかわりを持つことは、素晴らしいことなのだろうな。きっと。

でも、

「俺はお前とだけこうしてられればいいかな」

「へ!? ど、どういうこと!?」

「いや、そのままの意味」

どうした? 急にあわてたりして。あ、もしかしてまたなんかミスったのか? 一体何をミスってるのか自覚しないとやばいんじゃないか? 自覚しててやってたら余計たちが悪いけど。

「たぶんまたミスったんだろうから言うけど。ほかの人間とかかわりを持たなくても、今のところは問題ないし。こうやってお前といれば楽しいからさ」

「だ、だからそれってどういうこと?」

上目使いで聞いてくる。

どうって言われても……。そのままの意味なんだが。仕方ない。もう一回一言で言おう。

「お前以外のやつといなくても構わないってことだ」

と、俺が言うと、なぜか風美は顔を赤くしてうつむいてしまう。どうしたんだ? わかりやすく簡潔に言ったんだが……。逆にわかりにくかったか? じゃあどういう風に言えばいいんだよ。

 俺は風美の顔を覗き込む。が、なぜか顔をそらされてしまう。どうしたんだよ。

 っていうか、ゲームもう終了のサイン出してるじゃん。気付けって。

「風美ー。意識跳んでないかー?」

俺は風美の肩に手を置いて軽くゆする。

「あっ、ごめんごめん! ちょっと動揺しちゃってさ」

いつものことながら、動揺するきっかけは何だ?

「とりあえず、お前時間とか大丈夫なのか? 結構暗くなってるけど」

そう、六時間授業を終わらせて、買い物にも行って、そのあとここに来た時点でもう結構暗くなっていた。女が一人で出歩くのはさすがに……。

「あ、うん、じゃあそろそろ帰る」

と言って、風美は鞄にゲームを入れる。

「悠喜っていつも何時くらいに家出るの?」

「ん? 学校からそんな離れてないから、八時十分くらいだ」

学校が始まるのは八時三十分から。遠い人は七時とかに家を出るんじゃないか?

「分かった。じゃあ明日八時にここに来るから」

「ここ? 俺の家にってことか?」

「そういうことっ。じゃあ明日ね~」

そう言って風美は階段を下りてとっとと家を出て行ってしまった。

 にしてもなんでいきなり明日来るなんて……。登校まで一緒にしようってことか? 悪いうわさが流れるだろうけどな。


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