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プロローグ 壱

世界は実に平和だった。平和が一番、だと思っている人も少なからずこの世界にはいる。俺もある程度その考えはある。平和すぎて退屈してしまうのは嫌だけど。

俺はこの世界の職業で学生をしているごくフツーの人間だ。性格も容姿も目立ったところは何一つないと俺は思っている。

俺の話はいい、今は世界の話だ。

最近この世界はニュースを使っていろいろな出来事を一般市民に伝えている。インターネットやラジオでもいいのだが、一番メジャーなのがテレビのニュース番組だ。

だが、近頃のニュースは何一つネタが上がってこないのか、同じようなものばかりだ。殺人事件、強盗事件、詐欺師の手口。確かにいろいろやってはいるが、俺にはどれも同じものにしか見えない。

それに、俺はニュースが嫌いだった。いろんな情報を手に入れることができる便利なものだと思う人もいるかもしれない。けど、ニュースは決していい情報だけを流しているわけじゃない。むしろ悪い情報ばかりだ。何も間違った情報というわけじゃない。ただ、流れてくる情報は、不幸な出来事ばかりなのだ。

被害者の気持ちを多くの人に知ってもらいたい、そう思っている被害者もたくさんいるだろう。

でも逆に、もうその出来事については触れてほしくないと思っている人もいるのではないだろうか。

勝手にいろんなことをわかったふりしてこんなことを言っているのはわかっている。不謹慎だと思われるかもしれない。だから学生の意見ではなく、独り言だと思ってほしい。

ニュースは人の不幸をネタにして、視聴率だけを上げるために報道している。俺はそうとしか思えない。

今のこの国の経済情報、大いに歓迎だ。むしろ知っておきたい情報だ。

自然環境の状態。これも大いに結構だ。そのニュースを聞いて自分にできることはないかと考える人も出てくるだろう。

だが、警察がらみの事件。これは報道して何になるのかわからない。

世間は物騒だとか、いろんなことに注意しなくてはならないとか、そういうことを伝えたいのはわかる。でも、被害者の言葉、被害者へのインタビュー。これだけは嫌だ。

事をより明確に知るためにやっていることかもしれない。けど、この俺の意見と同じ、個人の心境にすぎないのだから、被害者の嫌な出来事を掘り返すだけのような気がしてならない。

これを読んで、学校の教師がどう思うかは俺には分からない。けど、決して素晴らしいものではないというのは自分で分かっている。いろんなものを批判して、それで終わりになっている。ふざけるなと言われてもいいようなものだ。

でも、こんなものしか書けないのだから仕方がない。これが自分の意見だから。

「…………お前は否定的すぎる。別に悪いとは言わないが、他人に見せる意見文ならもう少し肯定的な明るい文にしてもいいだろうに。これが高校二年生の意見文なのか?」

宿題となっていた意見文を担任に提出したところ、予想通りの感想が返ってきた。

「あくまでそれが俺の意見なんで、変えるのは無理だと思いますけど?」

 学ラン姿の俺はいつも通り答える。

「……お前は変わってるよな、清水」

よく言われる。自分では変わったところなど一つもないと思っているのに、たいていこういう意見文、論文みたいなものを提出すると言われる。訳が分からない。

 ちなみに、清水というのは俺の苗字だ。下の名前は悠喜、清水悠喜しみずはるきだ。

 名前の由来は、俺は長男なので生まれたときに(はるか)長い時間を喜びで満たしてくれた存在だからだそうだ。『遥か』という字の方がいいのではないだろうか?

「先生にそういわれるのは久しぶりですね」

「最近はこういう意見文はなかったからな。この個性的な意見がなければお前は結構優秀な人間なんだぞ」

「先生が一人の生徒に向かって優秀だというのはもはや励ましにしか聞こえませんよ」

先生は「変わってるな」ともう一回呟いてから。俺から受け取った意見文をもう一度読みながら去って行った。

廊下にいつまでも突っ立っているのはおかしいので教室に戻ることにする。十二月だから寒いしな。

教室に戻ったところで、話す相手も一人しかいないのだが……。

「悠喜、どうだった意見文の評価は?」

俺とは違って、明るい声でしゃべるこの女子、俺のたった一人の駄弁り仲間の中川風美なかがわかざみ。容姿、性格ともに男子受けがいいであろうに、なぜか俺の相手ばかりしている変わり者だ。俺なんかよりもよっぽど。

しかもこいつとは苗字ではなくちゃんと名前で呼び合っている。ほんと、何かがおかしい気がする。

「いつも通り、変わってるって言われただけだ」

「あはは~、さすが変わり者だね」

こいつには言われたくない。いったい俺のどこが変わってるんだ? クラスの奴らもみんなそういうし。交友関係を持とうとしないのはそんなにおかしいのか?

「でさ、いきなり話しかけた理由なんだけど。今日の放課後空いてる?」

「理由はちゃんとあるわけな」

 放課後とか、何だ? 俺に説教でもする気なのか? 少しはちゃんと現実を見なさいとかか? 昔言われたなー。アニメばっかり見てたら。だってそれしかやることがなかったんだからしょうがない。

「空いてるには空いてるが?」

「じゃあ、一緒に買い物にでも行かない?」

「お前友達誘えばいいじゃねぇか」

こいつは俺と違ってちゃんとほかにも友達がいる。仲のいい友達と行けばいいだけのことだ。男の俺と行くよりも、同じ女子同士で行った方が絶対に楽しいだろう。

「気軽に誘えるのが悠喜しかいないんだって」

「別にフツーの買い物くらい女子誘っていけば――」

「アニメ系のお店だからさ~」

……確かに、それならそういう話が分かる人じゃないと連れて行けないだろう。だから俺なのか。女子の中にもいそうだけどな、そういう話を分かってくれそうなやつ。

「別にいいけど、時間は?」

「放課後すぐにこのまま行くよ?」

そうか。俺はたいてい家に帰ってから出かけるのでその発想がなかった。寄り道なんてしないしな。する理由がない。

「俺は金持ってきてないぞ」

「じゃあ自転車の二人乗りで行けばいいじゃん」

と、即座に解決。バスの料金とかは心配ないみたいだ。じゃなくてだ、俺は何も買わないのに店に行くのはどうかということだ。まず店の場所知らん。

「とりあえず、放課後に先に帰んないでよ~」

「分かった」

 と、返事を返すと風美は自分の席に戻っていった。

 俺は黒板の上に設置されている時計を確認。次の授業まであと二分くらいか。寝たふりしておこう。そうすれば少し授業さぼれる。

 そういうことにして俺は席に着いたとたんに机に突っ伏した。

 しばらくすると本当に寝てしまっていた。

zzz……

 起きたら結構時間が経っていた。っていうか、昼飯の時間だった。俺が寝たのは一時間目が終わって二時間目に入る前の十分休みだったはず。なんだ? 教師は誰一人俺を起こさなかったのか? まぁ、もう既に見捨てられてるのかもな。意見文で相当目つけられてるしな。仕方ないか。

 昼飯の時間か。面倒なことにこの学校には昼飯の決まりがある。教室の中で昼食をとること。高校生にもなってなぜ教室で食事をせにゃならんのだ。屋上――この学校は立ち入り禁止だが――とか、中庭のベンチ――この学校にそんななごめる場所は存在しないが――とか、いろいろあるだろうが! おかげで俺は教室の友達と飯を食うことになるんだぞ。

「コンビニのサンドウィッチですか~。自炊とかしないの?」

 俺の友達は先ほど言った通りこいつだけ。風美よ、お前はなぜ俺にかまってくるんだ? 俺に気があるのか? などとくだらないことを思っても口には出さない。……いや、口にだしと方がいいのかもな。もしかしたらそれがきっかけでこいつとの仲が気まずくなって一人で静かに過ごせるかもしれん。

 と、思っても、結局口には出せない。俺はヘタレだな。

「自炊とかめんどくさいだろ。お前はその弁当自分で作ってんのか?」

と、俺は風美が左手に持っている弁当箱を指して言う。こいつと弁当を一緒に弁当を食べ始めて、初めてまともな会話につながりそうだ。いつもはアニメがどうとか、ラノベがどうとかばっかり話題にしてきやがる。

「たまに自分でやるけど、ほとんどお母さんが作ってくれるね」

ほらな、自炊を毎日する学生なんかそうそういないって。な、そう思うだろ?

と、俺は心の中で……俺は心の中でいろいろするのが好きだな~。ほかにやることがないのか、と自分にツッコミたくなる。

「フツー自炊なんてやんないだろ? だから簡単に学校の前のコンビニで飯買ってくるんだよ」

「そういうもんかな~? 自炊とかやってる男子は女子のポイント高いと思うよ」

「俺が女子のポイントを高めても意味がないぞ。女友達はお前しかいないんだから」

「パラメーターあげるのは基本中の基本でしょ?」

 あっ、やっぱりそういう話になっちゃうのね。まぁ、いずれはそっちの話に入るだろうとは思ってたよ。

「恋愛ゲームでもそうでしょ。まずはパラメーターあげてなおかつストーリーを進める。そうすればヒロインだって増えてくるよ」

「つまり今のところヒロインはお前だけってことだな」

「え? あ、あたし? や、やだな~、そんなヒロインだとかじゃないよ」

「うん、十分わかってる」

と、俺が一言。ま、この時点で発言をミスったとか思えばいいんだけど、そんなことはわからないバカ野郎なんだ、俺は。

「うぅ……。悠喜はキツイよ。せめてもうちょっとオブラートに包んでよ……」

「俺は何かキツイ発言をしたか?」

全く気付かない。いや、本当にわかんないんだから仕方がない。バカ野郎だって言われてもわからないものはわからない。説明を求む。

「どこがキツイ発言だった?」

「えっ、あ、その……。そ、そういうのは自分で気付けないといけないんじゃないかな!」

 あ、何かわかんないけどごまかされた。いったい何をごまかされたのかすらわからないけど、何かをごまかさせた。

 たまに風美はこんな風にごまかすことがある。毎度何をごまかそうとしてるのかわからないんだが。なんか訊かれたくないことらしい。

「まぁ、とにかく! 恋愛はパラメーターが大切だよ!」

何かわからないけど、注意を受けた。なぜに恋愛? 俺にそんなこと起きるわけないだろ。静かな人生を送って行けばいいんだ。

恋愛は、しなくていい。

べつに過去がどうとかいうシリアスなことがあるわけでもないからな。興味がないだけだ。高校生としてはすこし特別なことかもしれない。……やっぱり俺は変わってるのか?


午後の授業もいたって平凡に終わり、放課後を迎える。平和だとか平凡だとか言う言葉をよく使っているが、そういうことをよく言うとたいてい変な出来事に巻き込まれるんだよな。でも、リアルではそういうことはないから心配ないんだが。

放課後は約束通り風美のショッピングに付き合う。ショッピングと言っていいものなのか少々疑問だが。

で、あいつは朝、自転車で行くとか言っていたが、残念なことに俺は自転車で登校しているわけじゃないので学校に俺の自転車はない。

「だったら悠喜がこいで、あたしが後ろに乗ればいいんじゃない?」

というさも当然だと言いたそうな意見を通した風美は現在、俺のこいでいる自転車の後ろに乗っている。自転車はもちろん風美のものだ。これは警察に見つかったらやばいんだがな。最近はイヤホンで音楽を聴くのすらダメになってしまったからな。

俺は北風が吹きつける道路を自転車で進む。学ラン着てるけど寒いな。

だが、背中は妙に暖かい。なぜかは簡単なことだ。俺の背中に風美が抱き着いているからだ。まぁ、二人乗りすれば自然な体制なのかもしれないな。それにしても風美は体温高いな。カイロの代わりになる。その分前からの風が余計に冷たく感じるのだが。

しばらく道を進んで交差点で止まる。

「どっちだ?」

「まっすぐ~。駅まで行っちゃっていいよ~」

信号が変わるのを待って、まっすぐ進む。

 しばらくそうやって駅の方まで進んでいった。


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