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もう一度君に会いたくて  作者: 澄葉 照安登
第二章 妹だったら
19/55

妹だったら 5

感想等よろしくお願いします。誤字脱字があったらその指摘も。

「あんたおねぇちゃんに何してたのよ!!」

 何とか人気の無い場所――というかとある個室に連れて行かれた俺と夏希は早速七海に怒鳴り散らされた、主に俺がだが。

「何って、俺は別に何も――」

「二人でデートみたいなことしてッ、一つのクレープ分け合ってたくせに!?」

「お前やっと見つけたとか言ってたけど本当はずっと尾行してたんじゃないのか?」

 クレープのくだり見てたならそう考えるのが妥当だろう。まったく、本当にストーキングの趣味があるんじゃないだろうな。

「あんたがちぎって食べてたところからよ! でも、さすがに口をつけて食べなかったのだけはほんの少し安心したけどッ」

 ギロッ、っと鋭い視線が俺の眼球を貫く。

 ここで目を逸らしたら負けだと思い必死に目を合わせる。

「……何その眼。まるでじゃああそこは見られてないのかみたいな安堵した眼は!!」

「お前は超能力者ですか!?」

 俺はいつも通りのいたって冷静な表情で見つめ返していただけなんだが、まさかそんなことまで読み取られるとは思わなかった。

「じゃ、じゃああんたッ、おねぇちゃんに何かしたってこと!? 言いなさいッ、なにしたか速やかに白状しなさい!!」

 七海は身長的問題で俺を吊し上げることは無理なので、つかみかかるようにして俺の胸倉――ではなく首をつかんできたッ。

 年下の女の子に首絞められながら脅迫されてます。お巡りさん助けて。

 などと言っても助けはこない。なんせここはカラオケの個室なのだから。

 なんでカラオケの個室なんかを話し合いの場に選んだのかというと、選んだ本人によれば「周りに迷惑かけないために防音設備のいいとこの方がいいでしょッ」とのことだった。この中で一番年下の女の子がこんなことを言ったのだ、全く、できた娘だ。

 だが、俺はもちろん反対した。怒鳴られるのが嫌だったわけでは無く金銭的な問題でだ。

 何度も言うようだが俺は今持ち合わせ――というか財産がない。ということでカラオケには入れないということが起きる、はずだったのだが。これまた清水家の次女がそんなことまで考えていたわけでは無かろうが「クーポンの半額券が二枚あるから、二人分で入れるのよ」ということで、三人はしっかりと入店することができた。

 そして俺を至近距離で見つめる七海、全体重をかけているようで俺に密着しきっている。

 なので俺はそれとなく指摘してやるつもりだった。

「……胸当たってるぞ」

「ホントに殺すわよッ!! 女の子ならだれでもいいわけ!?」

 七海が俺から飛び跳ねるようにして離れて行った。

 なんだかかなりストレートに言ってしまった気がする。それとなく指摘しようと思ったのに。なかなかうまくいかないものだ。

 などと考えながら正面から飛んできた財布を顔面でキャッチ!

「ィテッ。……七海、あんまり貴重品は投げないほうが……ケータイはまずいと思うなぁ! 壊れると思うよ! おもに俺に顔の一部が!!」

 特に鼻とかがなッ。そのいろいろキーホルダーのついたケータイ投げられたら本当にやばい、下手すりゃ出血大サービス物だぞ。特にプラスチック製のそのハートのやつッ。っていうか狂暴化してない? 朝より狂暴になってない!?

 俺が警戒しながらも静止を訴えたおかげか、それとも夏希が両手を口に当てて目を見開いていたおかげか――おそらく後者のおかげで俺は助かった。

「七海、とりあえず落ち着こうッ、…………マイク構えるの止めて! アンダースローでも意味がないからね!? 器物破損はダメだからね!?」

「…………」

 慌てて七海を静止した俺に向かって、さっきとは少し違う視線を俺に送ってくる七海。

「……あんたなんなの、訳が分からない。変な人……」

 変わってるとは言われ続けてきたが、変な人と言われたのは初めてだった。

「とにかく、また話が逸れてる! あんたおねぇちゃんに何したの!」

 ああ、やっぱり気付かれたか。結構スムーズに話題転換ができた気がしたんだが、おもい上がりだったようだ。七海は簡単に気付いてしまった。

「さっさと白状しなさい!!」

「簡潔に言うと、クレープを食べました」

「…………は? 何言ってんの? そ、それだけ?」

「はい、それだけです」

 間接キスしたこと以外は。

「…………」

「そんなに睨まなくても本当だって」

 ここで夏希に話題を振ってはいけない。確認のためには夏希が俺の言葉にい懐いてくれればいいのだが、おそらく夏希は赤面して七海に悟られえるという結末へ誘導してくれることだろう。なので、それはできない。

「……急いで走ってきたのに、まだ何も起こってなかったなんて……」

「七海、まるでそれは何かが起こっていればよかったと言っているようなものだぞ。お前は夏希の敵だったのか?」

「そんなわけないでしょ! …………え? 夏希、って…………」

「へ? ……………………あッ」

 そういえば呼び方を変えたのを忘れてた。ここは清水と呼ぶべきだったのではないだろうか。

「なんで、名前で呼んでるのよ……。もしかして、二人で出かけたからッ? デート気分でも味わってるの!? ばっかじゃないの! 人生そんなに甘くないわよ!!」

 なんかすごい罵倒された気がするが、問題はそこじゃない。問題は七海の怒りやら憎悪やらのボルテージが急上昇したということだ。これはもう鶴の一声でなくては耳を貸さなくなってしまったんじゃないのだろうか。

 ダメもとで俺は言葉を投げる。

「別にそんな特別なことは――」

「だったらなんなの!? 下の名前で呼ばれてキュンッ、みたいなことを期待したの!? 馬鹿じゃないのあんたみたいな変態に限って、そんなことあるわけないじゃないッ!!」

 ものすごい罵倒が成長した気がする。そして七海がほんのすこし乙女チックなことを考える子だということが理解できた。キュンとかいう表現を使うなんて、ちょっと今までの雰囲気と違うなぁ、と思いつつ、罵倒は今まで通りだ。

「あんたもしかして自分がイケメンか何かだと思ってる!? それこそ愚の骨頂よ! あんたみたいな奴がかっこいいセリフ行ったところでキモイとしか思われないわよ!!」

「大丈夫だ、自覚してるから。別にイケメンだと思ったことは一度もない」

 俺は平然と否定する。そして最後の方は肯定。

「じゃあなんなの!? なんで名前で呼び始めたの!?」

「…………」

 ここで素直に、夏希のそう呼んでほしいと言われたから、と言ったところで何も解決しないのは目に見えている。信用しない上に余計話がややこしくなることこの上ない。

「……てか、なんでお前走ってきたんだ? 電車使えばもっと早かったんじゃないか?」

 俺は無意味なことをした。

 一駅分をわざわざ電車に乗っていくだろうか。確かに多少距離はある。ただ歩けない距離ではない。だから走ればすぐ着くのだ。走るのが苦手でなければ。

 そして俺はこれを無意味でないと信じたかった。七海は――俺の妹の七海は運動系統があまり得意ではなかった。そしてこの世界の清水の妹の七海も姉の走るスピードにはついてこれなかった。

 可能性はゼロではない。話を逸らすことくらいならできる!

「電車なんて使うより走った方が速いからでしょ!」

 うん、失敗だね。正論だ。しかたがないちょっと悪あがきしよう。

「でも、お前走るの得意じゃないだろ」

 確証はないけど、そう言ってみることにした。俺の発言に憤慨してくれれば話が逸れるかもしれない。

「電車とかバスは嫌いなのよ! ただそれだけッ、走るのは嫌いじゃないしッ!」

 おっ、少しは引っかかってくれたみたいだ。これで話が逸れれば……。

「そんなことよりさっさと答えなさいよ!!」

 失敗しました~。うん、七海にこういう手は効かないみたいだ。

 と、言うことはだ。俺は何かしら新しい言い訳を考えなくてはならない。さて、どうしたもんかな。

「…………挑発するためだ」

「ホントに今殺してあげる! この場所で!!」

「いやいや、誤解するな。これは夏希を挑発するためじゃなくて、七海を挑発するためだ」

「そんなのわかってるわよ! だから殺すのよ!!」

 警報警報! サイレンサイレン! 危険信号キャッチ!

 ってそんなことやってる場合じゃないって。なんかさっきとは比べ物にならない殺意のオーラが目に見えてるんですけど! むしろ怨霊が憑依してるように見えるんだけど!!

「七海あの……あたしが説明するよ」

 と、ここでさらに警報音が激しくなる。エマージェシー!!

「あたしが下の名前で呼んでって頼んだの。別に特別な意味はないよ」

 いつもとは違う、冷静な口調で告げる夏希。おっ、これならもしかして?

「なんで……そんなに……いつもと違う……。ッ……おねぇちゃん………………ごめんね…………」

 あ、まさかの効果あり? 助かったのかも。

「あたしが……遅かったから…………。犯されちゃったんだよね……」

 涙ぐみながら何かとんでもないことを口走った妹に対して、夏希があわてて語弊を解こうとする。

「だ、だからっ、別に何もなかったって!」

「……ごめんね、おねぇちゃぁん…………」

 ……あ、これ空気がおかしくなってきた。とりあえず七海を落ち着かせよう。

「七海、とりあえず落ち着け。そしてちゃんと夏希の言葉を聞いてやれ、そして信用してやれ。お前の大好きなおねぇちゃんだろ?」

 なんで俺がこんなことをしなくてはいけないのかわからないが、とにかく今はやるしかない。こんな面倒見がいいお兄ちゃんみたいなこと俺のキャラじゃないのに。

 まぁ、当然俺の言葉で七海が落ち着くわけもなく、俺に向けられた視線は鋭かった。

「ふざけないでッ! あんたがおねぇちゃんをおかしくしたんでしょ!!」

 いやおかしいのは七海さんの頭の中ですからね!? 夏希はいたってフツーだと思うよ、異常な赤面癖がなければの話だけど!!

「ホント最低! 男なんて最低よ!!」

 そう言って俺を罵倒する七海。

 けどなぜだろう、何か違う気がした。確かに罵倒なんだ、けどただの罵倒じゃない。別のニュアンスも含まれてるちょっとした違い。けど、明らかに何かが違う。何が違う?

 俺は必死に考える。この状況が違うだけ? 涙ぐみながらの罵倒だから迫力に欠けるただそれだけ? 絶対に違う。そうだ全然違う、ちょっとの違いなんかじゃない。そう、俺だけに向けられた言葉じゃないんだ。すべての男性に向けられた罵倒。「男」という一括りをまとめて罵倒する言葉。前にもあった、こんな罵倒の仕方が。けど気付かなかった。それを気付かせてくれたのはこの状況だ。何かが違ったんだ、七海の中で。

「七海、落ち着いて。ね……?」

 心配そうに、夏希が声をかける。妹と身長差が五センチもないであろう姉は妹の頭をなで、必死に落ち着かせようと試みる。

「七海、どうしたんだよ。さっきまでの勢いはどうした……?」

 俺も七海の肩に手を置いてなだめようとする、が――。

 パァン、と俺の手が七海の肩に触れた瞬間俺の手が大きな衝撃を受けた。

 俺は突然のことに驚きながらも、俺は話しかける。

「七海、本当にどうしたんだよ……」

 この世界の七海が、崩れていくような感じがする。今まで見ていたのが、七海の一面ではなく、俺の作り出したフィルターだけであったかのような感覚。この世界の七海の人格が、俺の中で崩れていく。

 俺の言葉に返答しない七海を、見つめる。

 なんだよこれ、全然違う。今までのは本当になんだったんだよ。本当に何か壊れちまったのか? 七海じゃないだろこんなの。こっちの世界の七海がどんなのなのか少ししか知らないけど、こんな風にわけのわからない状態にはならないだろ。思い込みが激しかったけど、こんな……いきなり泣き出すなんて言うことはしないような性格だったじゃねぇか。

 それなのに、なんでこんなに、恐怖に震えながら俺の手をはじくんだよ?

「…………おねぇちゃん……」

 七海が、自分の姉を呼ぶ。そして返事をする前に続きを言う。

「帰ろう。こんな人の近くにいたらダメだよ。こんな犯罪者とッ」

 七海が、俺を睨む。その視線は、冗談でもなんでもなく、これ以上ない純粋な殺意と、俺から透かして見た、男性という一括りの人間への、激しい憎悪の視線だった。


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