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もう一度君に会いたくて  作者: 澄葉 照安登
第二章 妹だったら
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妹だったら 1

 本日は土曜日ということもあって、朝から清水が俺に会いに来たわけだが、その清水がおまけまでつけてきてしまったせいで話がややこしくなってしまった。

「あたしが監視するから!」

 なんて言い出す中学生女子が一名。監視ってなんだ? 誰を監視する……あはい、俺ですよね。わかっております。俺が監視されることはわかってるんだけど、監視される理由がな、事実じゃないことなのがな……。

 なんてちょっと納得できないわけだ。ちゃんとした事実があるなら従うんだが……。

 いや、事実はあるんだよ、清水を押し倒したっていうね。でも、七海はそれを知らないわけで、だったらしらを切りとおそうというわけで……。

 あ~、なんか卑怯だな~。

 で、話に戻ろう。

「監視って、何する気だ? ストーカーみたいなことするのか?」

「あんたと一緒にしないで!」

「お前はさっきやってたことをなんて呼ぶんだ?」

「監視よ!」

「違う、ストーキングだ」

「監視だって言ってるでしょ!」

 二人で言い合っているのだが、よく考えたら両方とも同じようなもんじゃないか? だって俺らは警察でもなんでもないわけなんだし。監視する権利はないはずだ。

と、俺はよくわからない結論に達したわけだが……。

俺は清水と顔を合わせる。そしてアイコンタクトのようにして二人とも同じ疑問を顔に出す。目で訴えかける。答えてくれる人はいない。二人ともお互いに質問するような形だ。

 もしかしてついてくる気なのだろうか? と。

 俺たちはなんだかいろいろなことがあって、この後買い物、言い方を変えればショッピングに行くわけだが、七海の監視という言葉を聞く限り、俺たちの買い物についてくるということなのではないだろうか。

「……七海、とりあえず、何をする気なんだかわからないんだが……」

「監視よ! さっきから言ってるでしょ!」

「だからどうやって監視する気なのかを――」

「ついていくに決まってるでしょ!」

「それをストーキングっていうんだぞ」

「違う!」

 是が非でも認めないつもりなんだろうか。それとも本当にストーキングと監視を別だとして考えているだけなのだろうか。どっちかは分からないが、たぶん俺の予想だと俺と同じレッテルを張られるのが嫌だから認めないだけだろう。

 とにかく、七海がやろうとしていることはわかった。なので、清水と相談。

「どうする? 七海もついてくるらしいが……」

「う、うん…………」

「俺は別にかまわないんだが、清水はどうしたい?」

「あたしも別にいいんだけど……」

「? どうかしたのか?」

「……七海が、歩いてるときとかに悠喜のことを、変態って呼んだら……大丈夫かな?」

 ……………………シミュレート開始。

 歩道を歩きながら短い会話をする俺と清水、そしてそのすぐ後ろを歩いている七海。傍から見たら三人で歩いているように見えるだろう。そうして歩いていると、俺が何か発言をミスる、清水が赤面する、七海が俺の発言を聞き清水の様子を確認、するとどうでしょう? あら不思議、真後ろから変態! という叫び声が。そして叫び声なので回りにいる人にも十分聞こえる。それを聞き取った通行人がみんな一気に振り返り、俺の方を一斉に向くなんというイリュージョンでしょう。

 ……………………公開処刑である。

 だが、心配ない。俺はこの世界で戸籍なんて言うものがない人間だ。この世界とはいずれおさらばすることになる。だからそんなことがあっても大丈夫!

 …………でも、俺が何時までこの世界にいるのかは分からないわけで、ついでに言うと帰れるかどうかもまだわからないままで、その状態になるとしたらここで取るべき行動は。

「……大丈夫じゃないと思う」

「だよね……」

 ということで、何としても七海がついてくるのを回避しなければならない。

「……なぁ、俺そんなことしてないしする気もないからさ、少しは信用してくれないか?」

 俺は七海にそう言う、が。

「信用なんかできるわけないでしょ!」

 と、怒鳴り声が帰ってきた。俺、そこまで信用できませんかね?

 たぶん俺が何を言ってもダメだろうと思った俺は、清水にバトンタッチ。それ以外の選択肢がなかった。なんか人任せになってきているが、ここで俺が無駄なこと言っても逆効果なので、ここは素直に清水を頼るしかない。

 俺は清水の肩をたたいてバトンタッチの合図を出す。

「ッ! 何おねぇちゃんに触ってんのよ!!」

 あ、俺の行動ってこういうのもダメだったのか。っていうか本当に俺何にもしないほうがよさそう。マジで話がややこしくなる一方じゃん。

 俺はこの話がどこにたどり着くのか考えようとして、その必要が何もないことに気付く。

「お前さ、過剰に反応しすぎだぞ。別にこれくらいフツーだって」

 一応自分を守るために発言。まぁ、この発言すらも自分の首を絞める結果になることは、一瞬で気付きましたよ。はい、処刑ですね。

「あんた本当に最低ね! 男の人に触れられるのってすっごい緊張するんだからね!! おねぇちゃんがこんな風になってるの見えないの!?」

 だから、それはお前がそうやって煽るから赤面がひどくなるのであって、べつに俺の言葉自体が問題ではなく、この状況こそが…………

 すみません、俺の空気を読まない発言がいけないんです。いやね、鈍感とかそういうのじゃないと思うんだが、何せ対人スキルが低いわけだから…………相手の気持ちとか…………分かんなくて…………? え? これってフツーに鈍感なだけじゃね?

 などとバカみたいなことを思っているが、もちろん目の前の女の子二人は俺に好意を向けることはないわけで、同時に風美に好意を向ける俺はほかの人に恋愛的な好意を向けることはないわけで、現実逃避以外の何物でもないんですよね。

「ってか、お前は俺に触れられて緊張するのかよ?」

「通報してほしいの?」

「ですよね~」

 ケータイを取り出した七海からさらに半歩ほど距離を取って触る気などないという風に両手を頭の上に上げる。

 俺の権力って弱すぎない? いや、この世界じゃ権力も何もあったもんじゃないんだけどさ、いくらなんでも妹にすら勝てないなんて……うぅ…………。

 俺はひそかに精神的ダメージを受けていたわけだ。

「っていうか、話がそれてる!! 話を戻すからね!」

 あ、気付かれた。ちくしょうあのまま行けばあとをつけてくるなんて言うのがバカバカしくなると思ったんだが、どうやらその辺の判断はしっかりできるらしい。

「とにかく、おねえちゃんと二人っきりで出かけるなんて許さない!!」

「おぉ、なんだ、ヤキモチか?」

「ネックレス使って首絞めてあげようかしら?」

「すみません調子に乗りました!」

 妹に向かって全力で頭を上げる兄。泣けてくる絵図らだ。

 まぁ、俺の今さっきの台詞はそこまで場違いのものじゃなかっただろうと思う。だって、まるで本当にヤキモチを妬いてるみたいな台詞じゃないか。二人っきりで出かけるなんて許さないって、あんな台詞今時言うやつほとんどいないぞ。二次元か何かなのかここは?

 まぁね、その場の空気を読むとあのセリフは相当七海をおちょくってる台詞なわけだが、そこはしかたがない。思ったことをすぐに口に出しちまったんだ、自然なことだ。

「あんたさっきからなんなの!? 話逸らして、何がしたいのよ!!」

「いや、何がしたいのかって言われてもな……」

 俺は清水の方をちらっ、と見て自分の今の目的を確認する。俺が今したいのは、具体的な言葉にするとなんだ? 難しい説明とかなしにすると何がしたいんだ? よくわかんねぇ。ただ、二人で買い物に行って、俺のために買い物するとか言ってるけど、その辺は回避して、目的はこいつと一緒に遊ぶことだよな。でも、俺は別にそんな遊びたいなんて思ってるわけじゃないはずなんだ、清水じゃなくて風美と遊びたいんだから。

 …………ああ、やっぱり自分勝手だな、自分で出した意見とか言葉とか否定して、そんなんじゃなきゃ答えを出せないなんて。しかも否定してるくせに自分を正当化しようともしてる。俺が今出した答えがそれを物語ってるんだから。

――清水に恩返しがしたい。

 そんなくだらない自分勝手な言葉だ。俺と一緒に遊ぶのが清水のためになるわけはない。けど清水が頼んだから、望んだから俺がそれに答えるために頷いた、そう思ってるけど、利用してるだけで、恩返しっていう正当化する台詞を吐いても、結局は自分のために清水を利用してるに過ぎないんだ。

 まぁでも、今聞かれてるのはそんなことじゃない。

「言っておくけど、あたしはなんて言われても付いていくからね!」

 俺の目的はこいつの追跡意欲? をなくしてやることだったんだが、無理らしいな。

 でも、どうする? さすがに付いてこられて、道端で俺のことを変態だと叫ばれるのはどうしても避けたい事態である。

 話し合いでは無理だ。だとすると、大人げない手段ではあるが、力でやるという選択肢が…………いや、ダメだ。そんなのがいいはずがない。

……いや、何かわかんないけど、そんな風に思っちまうんだ。この世界に来てから少しづつではあるが着実に俺はフツーの人間ぽくなってきている。だからこんな優しいくだらない言葉が頭をよぎるんだ。

 まぁ、残された選択肢はもう一つしかないからな。

 俺は俺の斜め後ろにいる清水の方に体を向けその右手首をつかむ。

「あッ! 何してん――」

「清水、とりあえず走れ!」

 俺はそのまま足に力を入れて走り出す。七海が何か言おうとしてたが無視。

走り出した瞬間清水が前につんのめって転びそうになるがどうにか持ちこたえてくれた。

 そのまま七海の横を一瞬で走り去る。清水も運動能力は低くはないみたいだ。

「は、悠喜? いいの?」

 どうしてとは聞かなかった。清水も半ば予想はしていたのだろう、こうしなくては回避できないだろうと。だから、確認のためにその言葉だけを発したんだろう。

「清水もわかってるだろ、七海が納得しないことくらい」

 走りながら、清水の方に顔を向けて答える。清水の肩越しに後ろを見るがまだ七海は走り出せずにいた。まぁ、さすがにこういう風に強行突破されるとは思ってなかったんだろう。俺だってこんな手を使うことになるとは思わなかったよ、最初はね。

「なんか悪いな、こんな選択しかできなくて」

「そ、そういうのを言ってるんじゃなくて……」

 ? じゃあどういうのを言ってるんだ?

「よく考えてみたら、悠喜はもしかして、あたしじゃなくて風美と行きたかったんじゃないの……って思って」

 ……さっきまであんなに一緒に行きたいっていう顔をしてたのに、いきなりそんな戸惑ったような迷ったような顔をして、またすぐに人のことを気遣って、

「……お前が行きたいって言ったんだろ」

「そうだけど、やっぱり悠喜は――」

「俺はお前に誘われていくことにしたんだからそれでいいんだよ。風美と行きたいっていうのは確かにあるけど、お前がそうやって気遣ってばっかりじゃ疲れるだろ。少しはわがままになってもいいって、俺は一応協力してもらってる身なんだから」

 走りながら俺はそんな長いセリフを口にするが、息は乱れない。なんせ走るスピードは清水に合わせてるからな。

「……全然役に立ててないのに、やさしいね」

 …………やさしい? この俺が?

 俺はそう言われて照れるとか、うれしいとか思う以前に驚き、疑問に思った。

 いままで、誰一人として、そんな言葉を俺に向けてきた人はいなかったと思う。いや、どこかでいたのかもしれないが、気にも留めなかった、冗談だと思って。

 それなのに、今の俺は間違いなくそれを清水の本心だと信じて疑っていない。冗談だと思っていない。だから驚いてるんだ。

 ってか、役に立ててないっていうのもおかしい言葉だ。

「清水、お前は十分役に立ってる……っていう言い方なんかひどいな。とりあえず、俺のことをちゃんと信じてくれるのはお前しかいないから、それだけで役に立ってくれてるよ。だから、さっきも言った通り、変なこと考えないでやりたいことだけ考えてみろ」

「…………わかった」

 清水は、少し陰りを帯びた表情でそう言った。

「清水、明るくなれ。いつもみたいにさ」

「…………うん」

 清水は、俺の言葉に頷いて笑顔を浮かべた。清水なりの笑顔を……


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