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もう一度君に会いたくて  作者: 澄葉 照安登
第一章 この世界で
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この世界で 十

 冬場の空は、とてもよく澄んでいて、雲がないと日の出の日の光の影響で空全体が虹のように色とりどりに染まっているように見える。

 そんな素晴らしい朝、俺はやっぱり林で目覚めた。

 実は、昨日の夜に気付いたのだが、野宿って全然寝付けるものじゃない。特にこの冬場の時期はやばい。何がやばいって寒いんだって。毛布も何もないんだって。

 俺は昨日いつも通りここで寝たはずなのだが、寝付くのにだいぶ時間がかかった。学ランを布団代わりにするのとか、マジでヤバいって。寒くて永眠しそうなんだって。

 今まではフツーに寝れていた。切羽詰まっていたからだろうか? 寒いなんて感じなかったんだ。寒さには慣れてるはずなのに。……それとも、風呂に入ったせいで髪の毛が濡れていたから、余計寒く感じたのだろうか? うわ~、疲れが取れてない。

 疲労で重くなった足を動かしながら俺は限界に達していると、体が伝えてくれる。

 ぐぅ~、と俺の腹部が音を立てたのだ。

 そう、今までなるべく考えないようにしていたが、俺はこの世界に来た初日、つまり二日前の昼飯から何も食べていないのだ。

 別に人間は一週間は何も食べずに生きていけるらしいのだが、あくまで生きていけるだけで、体力やエネルギーはもちろん消費しているんだ。そして外から食事として取り入れることができないということはつまり、エネルギーの補給ができていないということだ。

「やべぇって、二日でこんなにやばく何のかよ……」

 たぶんこの世界になじみ始めて緊張が緩まってきたのも原因の一つであろうが、なんにせよ、結果はこの現状なわけで……エネルギーがないわけで……。

 もう一度、俺の腹がサインを出してくれる。

 さて、どうしましょう? 服を買うという話が出たときにも言ったが、今の俺の残金は駄菓子すら買えなさそうな値段だ。その金額で腹が膨れるものがあるかと聞くまでもないことはわかる。だからあえて訊こう。あると思うか?

 五円玉を模したチョコレートを一つ二つ食った程度じゃまるで意味がない。それどころか余計に腹が減って逆効果になりかねない。

 したがって、今俺にできる最善の方法は……

「……エネルギーをなるべく消費しないためにはやっぱり寝るしかないよな」

そう言って真後ろにあった木にもたれ掛りながらしゃがみこんでいく。

 侍のように座って寝るなんていうことはできないような気がしたのでそのまま横になって学ランを布団代わりに使って目をつむる。

「悠喜、こんなところで寝たら汚れちゃうよ?」

 と、目を閉じたとたんに最近聞きなれてしまった声が聞こえてくる。

 俺が目開けて斜め上――声のした方を向くと、やっぱり思った通り、

「……清水か、なんでここにいるんだ?」

 この世界の協力者の清水が目の前にいた。

「なんでって、会いに来ちゃいけないの?」

 きつい口調ではなく、それこそ天使の歌声のように優しく、純粋で無邪気な子供のような表情で言うものだから、これはすこし動揺する。ドキッとした。

「でも、用はあるんだけど……」

 清水はそう言ってその手に持っているものを俺に差し出す。

「これ、食べた方がいいよ?」

 そう言って清水が差し出したのは、コンビニで売っているごくフツーのクリームパン。

 俺はそれを見て、言う。

「もらっていいのか?」

「何のために来たのかわかんなくなっちゃうよ」

 そう言われたので俺はためらいなくそのパンを受け取る。

 前までの自分がどんどん薄れていく気がする。たった二日で昔の俺が消えてきている。人とかかわりを持つ、自分から誰かと一緒にいたいと思うようになる。そんなフツーの人間と変わらないことを思っている。俺は変わり者なはずなのに。

「ありがとな」

 素直に誰かを頼ってしまう。まぁけど……

「なんで清水がここにいるんだ? 学校はどうしたんだ?」

 こいつは学生だ。そこはツッコまなければならない。

 朝こんなところに来ていたら学校に遅れるんじゃないか? 今の時間はわからないが冬の日の日の出はだいぶ遅い。そして清水は制服ではなく私服だ。家に戻ってから着替えて、学校に行くとなると、遅れるんじゃないだろうか。

 俺はクリームパンの袋を開ける。

「今日は土曜日、休みなの」

 ああ、そういうことか。確かに俺の通っていた学校は土日は休みだった。ゆとり教育全開である。最近の学校はほとんどそうなんだろうが。

 俺は一口クリームパンをかじる。ああ、うまい。

「だから、早速買い物行こうと思って……」

「そうか、いってらっしゃい」

 俺はもう一口クリームパンをかじる、やっとクリーム部分が見える。このクリームパンはパンの部分が厚くてクリームにたどり着くのに時間がかかってしまうんだ。

 クリーム甘いなぁ、とか思っていると。

「悠喜の買い物に行くんだけど……昨日話したよね?」

「……服を買うっていう話か?」

「そうだよ?」

 平然と、さも当然のように答える清水。だがな、清水。

「俺はいいって言ったはずだぞ?」

 俺は一回断っている。まぁ、理由は清水に気を使わせすぎてると思ったからっていうもっともらしいことなんだが……。俺に似合わず。

 まぁ、理由はどうであれ俺は一回断っているんだから。

「でも、一緒に、遊びに行ってくれるって……」

 あぁ、そっちがメインだったのね。まぁ、べつにそれならいいんだが……結局金がないんだよ。多分買い物とか遊ぶとかやってると金を使うと思うから、金を持ってない俺は何もしなくていいっていうと思うんだが、清水のことだから自分の金をわざわざ使ってくれるんだろうな。ということで、

「…………」

でも、清水はあんなに楽しみにしてたんだ。表情だけで分かる。あんな無邪気な表情をしてたんだ。それなのに、今更行かないなんて言うのはどうなんだよ。

 清水のために行く? それは違うけど……。ここでなんて答えるのか、どう答えなきゃいけないのか、そんなの対人スキルが極端に低い俺でもわかった。

「……約束は、したもんな……」

 そのため息交じりの少しそっけない言葉が、俺なりの返事。肯定。

 でも、そんなんじゃ伝わらない。そんな遠まわしな肯定じゃ伝わらない。だから、

「……行くか。一緒に」

 そんな言葉を発してしまった。

 ホント、バカみたいだ。前みたいに、元の世界にいたときみたいに誰かと遊びたい、と。

 …………いや、違う。そんなんじゃない。友達なんて、たった一人しかいなかっただろ? 誰かとなんて、そんな選べるような立場じゃなかっただろ。簡単なことなんだ。

 俺は風美と一緒に放課後遊んだあの記憶を、あの心地よかった感情をまた、感じたくて。体験したくて。清水を風美の代わりとして使おうとしてる。バカだ。大馬鹿だ。

 でも、そんなことは、他人には伝わらない。

 だから清水は俺の言葉を素直に受け止めて、昨日と同じように笑顔を向けてきたんだ。

「じゃあ、行こうっ!」

 清水は、クリームパンを食べる俺に手を差し伸べてきた。

 これを、とれって意味だろう。すぐにわかる。でも、これを取っていいのか? と、迷いが生まれる。こんな誰かの代わりとして見てるのに、その人の手を取っていいのか?

 それに、だ。もう一つ理由がある。

 さっきからここにいる女の子。こっちをずっと見つめているその視線が気になって、ついついそれにばかり意識が行ってしまうのだ。俺も人間ぽくなったな。

「ほら、立って」

 笑顔で俺の手をつかむ清水。こうされてしまっては従うしかない。俺はおとなしくその場から立ち上がる。あ、クリームパン落としそうになっちまった。

 しっかりとクリームパンを持って、俺は立ち上がった。

 制服についた落ち葉などの埃を落としながら俺はそこにいる女の子を呼ぶ。

「……七海。何してんだ?」

「えッ!?」

 俺から清水を挟んだ一直線上にある一本の木。その後ろで隠れて俺たちをの様子をうかがっていた女子中学生が一人。さっきから視線が気になってたが、清水が俺の手を取った瞬間、殺意を感じるようになったので、そのままだと闇討ちに会いそうだったので、回避。

 清水も七海の声に気付いたのか後ろを振り返りその瞳に七海の姿をとらえる。

 さすがに清水に見つかったからなのか、七海は素直に出てくる。もちろん俺を睨みながら。俺がばらしたからか? お前がここに来る方が悪いんだと思うぞ。

「……で、七海がなんでここにい――」

「この変態! こんな場所におねぇちゃんを呼び出して! どうせえ……えっちなことしようとしてたんでしょ!!」

「…………」

 七海さんや、あんたは姉をどこまでいじめれば気が済むんだい? 清水さんはこんなに赤面しておられるじゃないかい。高熱でもあるのかと心配じゃわい。

「七海、お前の姉はそんなことする奴なのか?」

「そ、そんなわけないでしょ!」

「だったら心配することないだろ」

「あんたに脅されてたら断れないじゃない! このストーカー!」

 それは自分のことか? 清水のことを附けてきたんだろうから今はお前の方がストーカーに近いぞ。ってか、なんでそこまで姉に執着するんだ? もしかしてこっちの世界の七海はそういうやつなのか? 姉妹愛なのか? GLなのか?

 そんな疑惑が浮かんだが、そんな雑念は払って、今の話題へ移る。

「俺は清水を脅してなんかないし、ストーカーでもない。俺はただお前の姉と一緒に買い物に行くって話をだな……」

「おえぇちゃんの服をあんたが選ぶの!?」

「お前ら姉妹はその発想しかないのか?」

 清水も、お前の買い物に行くのか? と聞いたら下着の話になるし。全く。

「おねぇちゃんに変なコスプレとかさせたら絶対に通報するから!!」

「大丈夫だ、心配ない。俺にそんな趣味はない」

「あ、あんた……! 何も着せないなんて……!」

「話が飛びすぎだろ! なんでそんなに上下が激しいんだよ!」

「上下激しい、って……。スカートだけはかせる気!?」

「お前の発想は何がトリガーなのかわかんねぇんだけど!」

「まさか、シャツだけ着させる気なの!?」

「お前マニアックなこと知ってるな!?」

 裸Yシャツではなく、シャツだけ着させるとかいう発想ができる頭だとは思わなかった! 元いた世界の七海はそんなん全然知らなかったはずだぞ! ……いや、俺の知らないところではいろいろあったのかもしれんが、ここまでじゃないはずだ!

 俺はよくわからないが本当の妹をかばうようなことを考える。滑稽だ。

「もう絶対にあんたとおねぇちゃんを二人っきりなんかにしない!!」

 なんか、結論が出たようだが、どうしてそんな結論が出たんだ? なんだ、ヤキモチか? 嫉妬か? 姉を取られたのがそんなに嫌なのか? ……いや、とってないけどね。

「な、七海……? 悠喜はそんなことしない、と思うから……」

 清水さん、毎度のことですけどありがとうございます。ですがね、そういう風に言っていただくのであれば、ちゃんと自信を持って行ってください。じゃないと七海が俺を睨み殺す勢いで…………。ほら、今の状態っすよ。

「やっぱりダメ! 絶対にダメッ! おねぇちゃんは脅されてるからそう言ってるだけで、本当は嫌なんでしょ!? だったら言ってやればいいのっ!」

 七海、そうやって人のこと決めつけるのはいけないことだぞ。

 俺は心の中で一言つぶやいておく。……だって、ここで何か言ったら七海が余計不機嫌になるに決まってるだろ? そういうのは避けるべきなんだ。

 ということで、頑張ってくれ清水。

「べつにいやじゃなくて……あたしからお願い、したんだし……」

「ッ!? おねぇちゃん何言ってるの!? そんなに顔赤くして! やっぱり何かされたんでしょ!? 正直に言わなきゃ!」

「だから……その……」

いきなり劣勢ってそういうことですかい? 清水さん、救援依頼出したそうにこっちを見ないでください。そしてなんか速攻で顔をそらすのもやめてください。その反応は多分アウトなんで、七海のトリガー引いちゃうんで。

「あのね、七海……」

 赤面しながらも必死で説明しようと頑張る清水。まぁ、火に油を注いでるな~、と。

「あんたおねぇちゃんにいったいどんな脅迫したのよ!! おねぇちゃんがこんなになるまで……! 犯罪者!!」

 七海はもう既に聞く耳持たず。

 清水、お前は油を注ぐだけで終わらすな、鎮火作業をしてくれ。

 一体七海がどんな思考を経てこの結果にたどり着いたのかは知らないが、おそらく俺が清水に何かをしたというのが前提条件だろうが。

 なんであろうが、このまま見てるだけだと本気で死にそうなので、行動する。

「何度も言うが、俺は何もしてない」

「ウソ! おねぇちゃんがこんなになるまで何かしたくせに!!」

「だから清水はただ――」

「ただなによ!!」

 ……七海さんや、そこまで感情的にならんでもよろしいんじゃないか? これってあれだよ、何言っても俺が墓穴を掘るようになるようになってるんだよ。ダメじゃん。

「どうせあんたは――」

「な、七海!」

 と、さっきまで小声になりつつあった清水が突然声を張り上げて七海を呼ぶ。これは七海だけではなく、俺もびっくりした。え? 何が始まるんだ? って感じで。

「あ、あのね……あたしが誘ったのは本当のことだし、悠喜は何もしてないの……」

「でも! おねぇちゃんはこんなに赤くなっ――」

「それは、ね……。何でもないの。ただ……恥ずかしいから……」

 清水さん!? その発言ダメじゃない!? 俺が死ぬの手伝ってない!?

 案の定、七海は俺を睨んでいますね、はい。

 そして、昨日のように俺を人差し指でさして挑戦状をたたきつけるように、昨日と同じセリフをここでもう一度改めて言い放つ。

「絶対にあんたとおねぇちゃんを二人っきりになんかさせないんだから!」


七海は悪い子じゃないんです。みなさんならわかりますよね?

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