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もう一度君に会いたくて  作者: 澄葉 照安登
第一章 この世界で
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この世界で 九

「…………」

「…………」

無言で睨む少女、その視線に気づきながらも言葉を発しない高校男子。そしてその少女に盾として使用されている姉。まるで俺がいじめてるみたいじゃないか!

 俺は別にその少女――七海をいじめてるわけじゃない。ただね、さっきのことがあったから俺のことを警戒しているらしく、姉――清水の後ろに隠れているわけだ。

 男子高校生はいつもと変わらない表情でその視線に自分の視線を合わせるだけ。

「…………あ、あの……七海? 何があったの?」

「…………」

 七海は姉の言葉も聞かずにただ男子高校生こと俺のことを睨み続けている。

 ……………………………えーと、そんなに俺はいけないことしたのか? 裸を見るくらいなぁ……俺からすると妹の体には興味ないし……。

 俺は必死に自分の中で言い訳をする。情けないなぁ俺。

「……これ、おねぇちゃんの友達なの……?」

 俺を指さしながら七海は清水に尋ねる。

「そ、そんなところ……どうかしたの?」

 清水はどうやら今のこの空気を理解していないようだ。まぁ何が起こったかすら知らないんだから理解も何もあったもんじゃないだろうけど。

「……おねぇちゃん……」

 と、七海が体をプルプル震えさせてうつむく。え? なんでそんなに体に力が入っておらっしゃられるんですか?

 そして七海は顔を上げると同時に、親の仇でも見つけたかのように殺意を放ちながら俺をもう一度指差す。頭の上から振り下ろす感じで。

「こんな人とかかわっちゃだめ! こんな変質者すぐに警察に突き出さないとだめ!!」

 変態から変質者にランクアップしたけど、それはひとまず置いといてだ。

「こんな人って…………俺は一応――」

「ストーカーで変質者な変態でしょ!!」

「なんでそこまで言われなきゃいけないの!? 俺はフツーに風呂に入ってただけだろ!? それにストーカーじゃねぇ!」

 風呂に入っていた経緯を説明しようとしたが、無理だった。ツッコまなきゃいけない気がした。

「他人の家でお風呂勝手に入って、よくそんなに開き直れるね……!」

「いやまて! 許可は取ってあるから! 清水に許可取ったから!」

「あたしはいいなんて一言も言ってない!!」

「なんでお前の許可が必要なの!?」

 むしろ七海が俺が風呂に入ってるのを確認しないで入ってきたのがいけないと思う。

 …………それを言ったところで、俺のこの状況が好転するとは思えないな……。

「それにあんたは! あたしが普段どんな格好してるかまで……ッ~!」

 えーと、裸Yシャツで家をうろついてるってことか? いや、あれはさすがに忠告した方がいいと思っただけなんだが。それに今まで一緒に暮らしてたわけだし。

 ちなみに今の七海の服装は白いTシャツに灰色――それともネズミ色? あ、同じか――のショートパンツという格好だ。裸Yシャツはやめたらしい。えらいぞ。

「ってか恥ずかしがるなら裸Yシャツ普段もやめろよ。それと下着の上に大きめの上着を着るだけっていうのもやめとけよ」

「ッ~~!? もうヤダッ! おねぇちゃん! 通報しなきゃだめだよ!」

「ちょっと七海落ち着いてっ」

 清水が何とか七海をなだめようとする。

「なんでおねぇちゃんこの人かばうの!? ッ!? もしかして何かされた!? 脅迫みたいなことされたの!?」

「え!? そ、そういうわけじゃないよっ、だた……」

 ……清水、頑張れっ。俺は心の中で静かにエールを送ることにする。

「この人がお風呂にいたのはあたしが入っていいよって言ったからなの。そこは誤解しちゃダメだよ」

「…………本当に?」

「だからさっきから――」

「あんたには訊いてない!!」

…………なんか俺、妹に怒鳴られるって………………悲しい…………。

ってか、こっちの世界の妹性格きつくないか? 向こうではただの天然さんだったぞ。こっちの世界じゃ思いっきり強気のツンデレ娘みたいじゃねぇか。

「それに、仮にそれが本当だとしてっ、なんであんたがあたしの私生活知ってるのよ!!」

「……………………」

 あ、これってあれだね、絶体絶命ってやつだね。素直に俺がお前の家族で兄だからです、なんて言ってみろ、本当にやばい人だ。少なくとも七海は俺がそういうことを望んでる痛い人だと思うに違いない。これは本当のことなのに!

 ほかに何かいい言い訳は…………。実は向かいの家のものです、とか? ……………………いやいやいや! それって結局ストーカーじゃん! 覗いてるじゃん! 犯罪者じゃねぇか! 言い訳でもなんでもねぇよ! ただ罪認めてるだけじゃんか!

 ほかにっ、何かほかに言い訳はないか!?

 と、俺が一生懸命言い訳を探していると、

「それはね、あたしがしゃべっちゃったの。家族の話をしようってことになったらつい…………ごめんね七海」

 ああ清水さん、今日はあなたの奴隷になっても構いませんよ、俺を助けてください。もっと俺の無実を証明する証拠を……。

「でもっ、あたしに襲い掛かったし!」

「待て待て待て待て! 俺がいつ七海に襲い掛かったんだ!?」

「さっき脱衣所で襲ったじゃない!! あたしは絶対に忘れないから!!」

 おいおい、それは心当たりがねぇぞ。俺がこの世界に来たとき清水にしたみたいなことをしたのならわかる。でも、俺は今回何もしてないはずだ。って言うかな、俺はお前にタオルを渡したはずだぞ? 正常な反応をしたはずだぞ? 襲うなんてことはしてないはずだぞ?

「…………悠喜……」

 これには本当に困ったような表情をする清水。ああ、前科がありますものね、はい弁護はないと諦めますよ。ああ、俺はこんな世界で一生を終えるのか。それも牢獄の中で。

「ほらっ、反論できないんでしょ! 変質者! 自殺しろ!!」

 あぁ、なんか妹にこんなこと言われるの辛いもんだな。っていうか、本当に襲った覚えがないんだが……。

「俺が何をしたんだ?」

「とぼけないで! あたしの手首つかんで押し倒そうとしてたくせに!」

「してねぇよ!? 手首はつかんだけど押し倒そうとはしてねぇよ!」

 わかった、こいつの中で話に尾ひれがついてる! 

 清水に目で訴えかける。こいつの言ってることは嘘だ、と。いや、本当のことも言ってるんだが、嘘の部分は訂正しなきゃヤバい。

「七海? それは本当に本当のこと?」

「え? なんで? あたしは本当の――」

「なんかね、尾ひれがついてる気がするんだけど……」

「ッ!」

 清水、ありがとう本当にありがとうございます。俺の視線だけでちゃんと気づいてくれるなんて、自分、うれしくて涙が出るっす。

「た、確かに大袈裟に言ってるところもあるけどっ」

「大袈裟じゃなくてでっち上げてるだろ」

「く~~~~ッ!」

 なんか、悔しかったらしい。何が悔しいんだ? 図星だったからか?

 七海は嘘がばれて赤くなりながらも俺を睨むことはやめなかった。…………俺はどうすれば? なんかいい言葉浮かばないかな?

 対人スキルの低い俺はやっぱりいい言葉なんか浮かばない。浮かんだ言葉は、口に出していいのかどうかわからなかった。

「……やっぱりヘン! こんなにあたしのこと知ってるのは絶対ヘンッ!」

 七海は負けたくないのか、肩に――全身に力を入れながら言う。

「さっき清水も言ったけど、俺が清水と話してる時に――」

「それにしては知りすぎなのッ! 今まで一緒に暮らしてなきゃわからないことまで!」

おぉ、なんと的を射た答え。その通りだ、俺とおまえは兄妹なんだ。思い出したか? なんて言っても思い出すとかいう話じゃなくて、この七海は俺の知ってる七海とは別人なんだ。こんなことを言えるほど俺はバカじゃない。

 とりあえず、こいつはなんとしても俺が悪いという風にしたいらしい。別に俺はそんなに……いやね、俺も悪いんだけどね、それ認めたら絶対お迎えが来るでしょ? 電話一本で、あのホワイトカーに乗ってさ、俺にブレスレットをつけてくれるんだよ。

 だから俺はこういうしかなかった。

「さっき清水が言った通り、話に出てきただけだ。俺が一体お前の秘密の何を知ってるっていうんだよ」

「べ、別に秘密なんかないわよ……」

七海はそう言ってそっぽを向く。いやね、秘密がないならもうこの話は終わりでいいんじゃないかな? ずっと攻められ続けるのは結構効くんです。

「それにあったとしても絶対に言わないッ!」

 七海はよくわからないが強気に言う。少しは落ち着いて話をしたいんだが……。

「あと、あんた! おねぇちゃんとどういう関係なの!? まさか……恋人!?」

「それはないから安心しろ」

「ッ~~~!」

 俺は冷静に事実を伝えるのだが、清水の反応を見るとそれが無駄になってしまいかねない。なんで赤面するだけでだまっちゃうんだよ。ほら、七海だってあんな目してる。

 もちろん清水が自分を主体とした恋愛話的なことが苦手なのはわかっている。けど、少しくらい受け流すということを覚えてもいいと思うんだ。

「おねぇちゃん、これは忠告だから真剣に聞いて。……こんな変態と一緒にいちゃダメ! 変な要求とかされちゃうかもしれないし、襲い掛かられちゃうかもしれないんだよ! おねぇちゃんが嫌がっても男の人の方が力が強いんだから!」

 七海さん、大変申し訳ないのですがその辺には触れないでください。もしかしたらさらに清水が赤面して、七海の疑いが深くなって刑務所送り、なんてことになりかねないんで。

 それに清水さんも、俺の心を読んだように赤面し始めないでください。さっきから赤面が続いているけど、もう赤面と呼べなくなりそうですよ? 首のとこまで真っ赤じゃないですか、服脱いだら全身真っ赤なんじゃないですか?

 と、いつものように現実逃避をしても結果は変わらない。より一層赤くなった清水を見た七海は俺の予想通りに、

「あんたもしかしておねぇちゃんにもう何かしたの!? 最低ッ!」

 もうって、することは確定していたんですね。どれだけ俺危険人物扱いされてんだよ。

 七海は続けて俺に怒声を浴びせる。

「どうせあんたみたいな変態は体目当てなんでしょ!? 相手の気持ちなんて考えないで遊びのつもりだったんでしょ! ホント最低! 男子なんてみんなそうっ!」

 七海さんや、俺を変態呼ばわりするのはいいが、男子全員を敵に回す発言はどうかと思います。ほかの男子が訊いてたらものすごい恨み買ってますよ。…………あれ? そんな風に思われたのは俺のせいだからって俺に恨みをぶつけられる可能性だってあるんじゃ……。やばい、寒くなってきた。いや、もともと冬場だから寒いんだけど。

 そしてもう一つ言いたいことが。七海、おねぇちゃんの気持ちも考えずにいろいろいってるのはお前の方だからな? 自覚しろよ。今清水が赤面してるのお前のせいだぞ?

「早く出てけ! 女心のわからないケダモノッ!」

 変態からさらにランクアップして、ケダモノになったみたいだ。この短時間で俺が人間として最悪な立場に……ケダモノとか、漢字変換したら獣じゃん。人ですらないじゃん。

 俺は心に傷をおった。なんか、この世界の七海、キツイ……。

 それに女心分かってないとか言われたし、わかるわけないだろ! 俺は女性関係なんて縁もゆかりもなかったんだからな! それにその発言、清水が俺に好意を寄せているっていうのを前提にしないと意味がないからな!

「早く出てけ! もうおねぇちゃんに近づくな!!」

 ボロクソ言われて、ここにとどまっていられるはずもなく、俺は七海の怒声を背に出ていくことしかできなかった。その対応しかできないだろう、誰でも。

 俺は夕方を過ぎた凍てつく住宅街へと放り出された。う~、寒い。


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