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もう一度君に会いたくて  作者: 澄葉 照安登
第一章 この世界で
12/55

この世界で 八

風呂場に行くと清水がいて、清水は衣服は一切着用していなかった。なんてことは起きるはずもなく、俺はフツーに平和にシャワーを浴びていた。……平和にシャワーを浴びるってなんだ? 表現としておかしくないか? まあ、いいや。

 二日ぶりのシャワーはとても気持ち良かった。湯船にはつかれないけど、シャワーだけで十分すぎる気がした。なので俺は二十分ほどシャワーを浴びていた。

 その間に考えていたのは、いろいろなことを考えていたので一言では説明できない。

 まずは、清水のこと。清水夏希、俺との共通点はあった。風美だけが友達だという点、対人スキルが低いかもしれないということもある。でも、それ以外は今のところ共通点はない。

だが、真逆な部分もある。まずは言わずもがな性別。そして思考の終着点。あいつは楽しいことを結論として出す。俺の何もかもを否定するような思考ではない。

それに、人のことを気に掛けるというところも俺とは違う。俺が今こうやって協力者を手に入れられたのは、清水がそんな性格だったということ。俺だったら昔風美に対してしていたように、無視をしていただろう。関わるのはめんどくさいから相手にしない、と。

清水とは真逆だ。

 考え方、つまりは根源的な人としての性格が違う。

 身体的な能力についてはまだ全く分からない。学力も同様にだ。ただ、一つ気になったことがある。風美だけが清水にとっての友達、それに間違いはないだろう。俺と同じで。

なら、昔はどうだったのか、ということだ。俺が風美と出会ったのは高校に入ってからだ。清水はどうか知らないが、もしそうだったのなら、中学、小学の時の友達は今どうなっているのか、ということだ。

母さんの話にもあった通り、みんな清水から離れて行ったのだろうか? 清水がきつい態度をとったから。それとも、風美みたいな奴がいたのだろうか? 風美みたいに、清水にきつい態度を取られても逃げなかった奴が。

そしてもう一つ。昔の友達、それは俺の知っている人たちなのか。俺が今まで中学小学と、一緒に過ごしてきた友達と同じ人物なのか、ということだ。二つの世界があると話がややこしくなるが、ゆっくり考えれば大丈夫だ。

俺だって、一応は中学の時に友達はいた。何十人というほどではなかったが、仲のいいグループが。ほんの何人かで固まっていた。

 それに対して、清水はどうだったのか。中学の時の友達はいたはずだ。清水から友達が離れて行ったと話にあったのだから。

 その友達も、全員が全員、清水のもとから離れて行ってしまったのだろうか? 中には、いたのではないだろうか、ずっと清水のことを友達だと思っていた奴が。

 自分と清水、二人を比べるなんてことに意味があるのかは分からない。ただ、可能性があるからやってるんだ。俺のバカみたいな妄想かもしれないけど、同一人物であるなら、本物の同一人物。

つまり、何らかの方法で俺、清水悠喜という人間はもう一つの個体を作り出した。清水夏希という。そしてあろうことか、自分であったはずの清水悠喜という存在が消えた。

……いや、消えたというより、盗まれたという方がいいのか。

俺が存在していたという事実がすべて清水夏希へと移動してしまい、その結果、現実で存在していたという記録を清水夏希に奪われた俺――清水悠喜はこの世界に存在していなかったことになってしまった。というのが、俺が今さっき思いついたことだ。

もちろん、俺はこれが確実に元の世界に変える方法だと思っているわけじゃない。さっきも言った通り、あくまで可能性があるから案の一つとして入れているわけだ。

俺はシャワーをもう一度頭からかぶる。水道代とか大丈夫かな?

そんな心配をしているが、表面上だけだ。もう一つ、考えていたことがある。

中川風美。俺のもとの世界での現在のたった一人の友達。

俺は風美も比べていた。風美と、風美を。

この世界の風美は、自分の元いた世界の風美と違うのではないか、と。思っている。俺のいた世界での風美は、明るくて、俺によくからんできて、たまによくわからない反応をする奴だった。なぜかいきなり焦ったりな。

だが、この世界の風美は違った。俺に絡んでこないのは初対面だからフツーだろう。そこは今は関係ない。このことでも俺が言いたいのは性格だ。

この世界の風美は俺のいた世界の風美と比べて、明るい。活発だ。俺の世界の風美もさっき言った通り明るかったが、こっちの世界の風美はどうもそれが極端な気がする。

 清水の性格もこの世界の風美の性格も、まだ全部わかったわけじゃない。本当は風美は何も変わったところなんかないのかもしれない。俺が初対面なのに同じ対応を……元いた世界と同じ風美みたいに接してくれるわけはない。その時間の差なのかもしれないだろう。

 二つの世界の違い、それが少しずつだけど見えてきてる気がする。帰るためには、何かをしなくちゃいけない。その何かを見つけるために清水といる。自分でも少しおかしなことだと思う。誰かに協力してもらってるなんて。

 俺はそろそろ出ようかと思い、シャワーを止めようとした。

「……はぁ、疲れたなぁ」

 …………誰かが脱衣所に入ってきた。いやね、もちろん清水夏希さんでないことはわかっておるのですよ。あの人は俺が入ってるの知ってるんだし、それでもなおかつ入ってくるようなお馬鹿さんではないのですよ、多分。声からも清水じゃないことはわかるし。

 でもね、この声はさ、男性ではないのですよ。うん、男性じゃないなら両性…………いい加減逃げても現実は変わらないってことを理解しろ、という声が天から聞こえたので正直に今俺が理解していることを率直に告げる。

 今脱衣所にいるのは七海だ。

 ちょうど七海の声が聞こえたと同時に俺はシャワーを止めたのだから、あいつは中に誰かが入っているということに気付いていない。緊張感が高まっているせいなのか、五感がものすごく敏感だ。

 …………つまりな、七海の服を脱ぐ衣擦れの音がものすごく大音量で聞こえるわけだ。いつもならな、妹だから問題ないという風にここから「今入ってるぞ」という風に声をかけられるのだが……。考えてもみろ。今俺と七海は赤の他人だ。その赤の他人が自分の家の風呂でシャワーを浴びていたら……どうするよ? 通報だよね、もちろん。

 別に七海の体を見て動揺するというわけでは無い。ただ俺が動揺しているのはそういうことだ。どうするかな……。

 「あっ、服もってくるの忘れてた」

 あぁ、よかった。これで俺は逃げられる…………なんて思ったら大間違いだったりするぞ。七海が俺の知っている七海ならな、ここで出す結論はとてつもなくバカなんだ。

「……Yシャツでいいかな?」

 ほらな? あいつはそういうやつなんだよ。ってか、七海は学校帰りか? あいつ運動部じゃないのに疲れたって言ったぞ。いったい何してたんだ?

 なんて考えていたら、タイムリミットが来たらしく、風呂場の扉が開く。

……でだ、この風呂場から離脱する方法は何かあるか? 窓から外に出るか? 一応腰に巻く程度のタオルならあるが……出口って言ったらな、窓しかないんだよ。

窓、つまりは外に出るということだ。……通報確定だな。その選択肢はない。

じゃあ隠れる場所は? 簡単だ。もちろんない。こんな風呂場には隠れる場所なんて…………ないなら作ればいいじゃない。ということで俺はからの浴槽の中に入り、上から浴槽に使う蓋を乗せて、回避を図る。かくれんぼなら得意だ! と、言い聞かせる。

これなら問題はない。七海がシャワーを浴びている間だけだ。ばれることはないだろう。

 ぺたぺた、と裸足でタイルを歩く音が聞こえる。緊張感恐るべしである

 そして当然のごとくシャワーの音が聞こえ始める。うん、大丈夫だ。どこかの主人公ならここでモノ音を立ててしまい――くしゃみなど――ばれるというのがお決まりだが、俺はそんなバカなことはしない。

「……あれ? もうお風呂入ってるのかな?」

「ッ!?」

 俺の頭でパトカーの音が鳴っていた。サイレンである。これはもちろん俺が逮捕されたときに聞く音だろう。つまり予知。あはは、能力に目覚めたよ~、よかった~。

 …………現実逃避している場合ではない。いま、七海はなんて言った? 「あれ? もうお風呂入ってるのかな?」と言っただろう。これは簡単に言うとな「あれ? もう浴槽にお湯沸かしてあるのかな?」という文面と同義である。

 つまり、こいつは浴槽に蓋がかかっていたことで、浴槽にはもう既にお湯が入っていると勘違いしたのだ。……いや、まだそこまで行ってはいないか。でも、絶体絶命なのに変わりはない。

 ここで七海がとる行動を予想しよう。…………蓋を取る、この一択だった。七海は絶対に確認のために蓋を取る。そしてなかをチェックするだろう。それはつまり、俺が発見されることを示している。このかくれんぼは恐怖である。

「…………」

 俺は息をひそめるが、蓋がとられるのは回避できるはずもないんだ。オープン。

「…………」

「…………泉の精です」

 体育座りでさらに縮こまった状態で顔だけ上げて七海に向かっていた。え? 何が起こったのかって? 最近分かったんだが、人ってさ、テンパったりすると変なこと言ったりするんだよ。今の俺がいい例ね。

「ぁ……ゃあ……」

 七海、涙目になるのは構わないが、一つアドバイスだ。この場合は――あくまで俺はこいつとは他人なので体を隠した方がいいと思うぞ。左手にシャワーを持って、右手は蓋を開けたため、体を隠すものが全くないんだ。タオルはシャワーを浴びてたから無理だからな、腕くらいしかないんだよ。だから、隠した方がいいと思うぞ。

「いやぁぁぁぁぁあぁぁぁ!」

 ものっすごい悲鳴が近所に響き渡っただろう。女の子独特の甲高い声が風呂場内にも反響して、耳が痛くなる。耳ふさいで何とか抵抗。

 悲鳴を上げると七海はようやく両腕で体を隠した、それプラスしゃがんでガード。そのせいで浴槽用の蓋がタイル床に落ちる。シャワーまで落としやがった。

 とりあえず俺はこのまま風呂場を後にするのはさすがにどうかと思ったので脱衣所にいったん行き、タオルを取ってきて七海の前に差し出す。

「ほら、とりあえずタオルの方がいいだろ」

 俺が差し出したタオルを取ろうとして、止まる。

「どうした?」

「…………向こう向いて」

 睨みながら俺に言う七海。いやさ、兄に向かってその視線はないだろ。兄じゃないんだけどさ。

 俺は七海の頭の上からタオルをかける。そしてそのまま俺は脱衣所に向かう。

 俺はもうシャワーを浴び終わっていたのであとは出るだけだったんだ。

「変態ッ! なんで人んちのお風呂場なんかにいるのよ!!」

 いやさ、確かにここは七海の家だけどさ、俺は清水に許可を取っていたわけで……そして脱衣所に俺の制服があることに気が付かなかった七海にも非があると思うんだ。

 まぁ、ここでいろいろ言い合っても仕方ないっていうのはわかってるんだよ。だから俺は一言だけ言って風呂場と脱衣所を繋ぐ扉を閉めることにする。

「お前、いい加減裸Yシャツやめた方がいいぞ」

「ッ~~~~!?」

 七海は顔を真っ赤にしていたが、構わず俺は扉を閉めた。こういう時はほっておくのが一番。え? なに? 俺のせいだって? 俺はアドバイスしただけだぞ。

 だが、俺がせっかく出てきてやったのに七海の奴、わざわざ扉開けてきやがった。

「変態! 今通報してやるからね!!」

 そう吐き捨てるように言うと、廊下に出て行こうとする。……………。

「きゃッ!!」

 …………え? 俺は何もしてないよ。ただ手首をつかんだだけだ。通報されたら困るからそれを食い止めただけだ。他意はないから安心しろ。そして泣きそうになるな。マジ頼みますから。今の光景傍から見たらやばいからね? 二人ともタオル撒いてるだけだからね? それで女の方は半泣きだからね? 清水の時と同じ感じだ。デジャヴ。

 ぽたぽたと七海の髪から水滴が落ちる。それと同時に瞳からもおおぉいいいいいいいい! ガチ泣きはやばい! さすがにやばい! 

「七海、落ち着いてくれ! これにはわけがあって――」

「やだっ!」

 七海はそう言って必死になって俺から逃げようとする。

「ちょっと待てって! そんなに暴れると……」

 女子のバスタオルを巻くという行為、これはとてつもなく危ないということを知っているだろうか。何が危ないかというとだ、激しく暴れると簡単に取れてしまうということだ。まぁ、撒いてるだけなんだから仕方がないことなのだろう。でも、今はそういうことがあっちゃいけないと思う。

「落ち着けって! 七海!」

「いやっ! ヤダ離して!」

「だからそんなに暴れると――」

 ……ぱさ。

 …………………………ほらな、やっぱりこういうことになるんだ。

 二人とももちろんフリーズ。そして俺はその床に落ちたタオルを拾う。で、七海に向かって投げる。女の子として、裸を見られるのは恥ずかしいらしいからな。まぁ男でも全裸なら恥ずかしいか。異性に見られたなら。

 とりあえず俺はしゃがんで七海にタオルを投げる。

俺の投げたタオルを使って体の前だけを隠している七海を放置して、俺の制服やらYシャツやらをつかんで脱衣所を出る。ここで誰かに発見されようものなら俺の人生は本当に刑務所行きに乗り換えたことになってしまっている。

 俺は素早く脱衣所の前で制服を着る。急いで体を拭いて着ただけなので、髪の毛から水滴がYシャツに落ちる。そんで、俺が今するべきことは……。

「清水の部屋に行こう」

 俺は清水の部屋に向かって階段を上って行った。

七海……通報しないでくれるかな……?


楽しみにしてくださっている方、更新遅れてすみません。

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