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知らない間にチャラ男に奪われていた彼女を取り戻して二人で叩き潰した話  作者: かくろう


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第10話 二人で決めたこと

 俺は目を閉じて息を整える。


 確かに彼女のしたことは許しがたい。


 俺との10年間よりも、たった数回しか会っていない男に夢中になってしまうのだから……。しかもそのうち2回は強姦だ。


 そして彼女の言っている事はミリ単位でも理解し難い。


 自分をレイプした相手に心を許して浮気相手に昇格させるなんて普通の神経でできることじゃない。


 幼馴染みとしての期間を含めれば10年間にも渡った俺との絆よりも、その男とのたった数回のセックスを天秤にかけて、一時の快楽に身を任せてしまった。


 絆の蓄積よりも身体の快楽を選んだ。


 10年かけて築き上げてきた二人の時間を、たった数回のセックスで揺らいでしまうような最低のクソ女だと割り切れたら、どんなにか楽になるだろうか。



 だが、それでも希美を愛してる気持ちに揺らぎはなかった。


 奪い取られてしまった。


 セックスの上手さと陰茎のデカさ。


 たった二つのファクターだけで彼女の全てを奪われた俺は、さぞ滑稽な男に違いない。



 だが問題はそこじゃない。


 彼女との時間。


 その心地よさにかまけて、俺は自分を高めることをいつの間にか忘れてしまっていたんだ。


 将来の為に仕事に打ち込んでいた、なんて言い訳にはならない。


 希美が絆されたのは、オスとしての部分なのだから。


 男女交際とは、精神的パートナーとして互いの成長を支え合う事だと、俺は思う。


 希美の些細な変化にも、俺は浮かれて気が付かなくなってしまったのではないだろうか。


 特にここ最近は、希美にサプライズのプロポーズをするために仕事に打ち込んでいて、希美の変化に目を向けていなかった。


「罪の意識を感じているなら、俺の側にいて。確かに他の男に心も体も明け渡してしまった事は悔しい。憎しみもある。できれば今すぐ殺してしまいたい。それくらい憎いよ」


「アッ君……」


「それでも、希美を愛してる気持ちは揺らいでない。俺に落ち度があったのも事実だ」


「そんなことない。アッ君は何も悪くないよ……全部、私が馬鹿だったの……アッ君……私、最低だ……こんなにも思ってくれてる人が側にいるのに……自分の事しか考えてなかった。汚れた自分を知られたくないばっかりに、取り返しの付かない過ちを犯してしまった……」


「もう一度聞くよ? 希美は俺達の未来をどうしたい? 俺は、希美が一番幸せになれる形を選んで欲しいと思っている。俺は希美を愛してる。絶対に手放したくない。一生側に居て欲しい」


「私は、アッ君と一緒に居たいですっ! 犯した罪は消えません。一生かけても償います……、だから、私は、アッ君の側にいたいです……」


「希美……っ!」


 俺は彼女をもう一度抱き締めた。

 複雑な思いもある。

 心の整理が追いつかないところも多々あった。


 それでも、それでも……。希美がハッキリとした言葉で俺を選んでくれた事が、何よりも嬉しかったんだ。


 もしも、これが浮気がバレての弁解だったら……。


 希美の浮気に、俺が先に気が付いていたら、結果は違っていたのかもしれない。


 その時になってみないと分からないが、それでも俺は希美を手放す選択はしなかっただろう。


「許してくれなくて良いです……。家政婦でも、それこそ肉便器でも、サンドバッグでも構いません。側にいさせてください」


「そんな事は言わなくて良い。俺は希美にお嫁さんになって欲しいんだ」



「嬉しい……本当に嬉しいです……必ず、どれだけ時間をかけても、償います。失ってしまった信頼を取り戻すためなら、どんなことでもします。もう一度あっ君に一番好きになってもらえるように、頑張ります」


 そう。それが一番重要なことなのだ。

 浮気相手を優先させたと言うことは、勘違いであっても、ラリっていたためであっても、俺よりも相手を優先し、俺が一番じゃ無くなっていた時間があるということだ。


 希美はちゃんとそこに気がついた。


 何よりも最優先にすべきこと。


 それは希美を愛してる気持ちを、そんな男に踏みにじられたくらいで手放すことなんてしたくないって俺の気持ちを、彼女に伝えることだ。


 俺が希美を愛してる気持ちは、そんな軽いものじゃないんだということを、今夜の内に伝えておく必要がある。


「罪の意識は、忘れないで。でも、それに苛まれないで良いくらい、幸せにするから……」

「ありがとう……ありがとうアッ君……。私、本当に馬鹿だった。ごめんなさい……。本当にごめんなさい」


「良いんだ。希美が俺を愛してくれてる。その気持ちが残っているだけで、十分だよ。それに……」


「え?」


 そして……。もしも俺が彼女を見放したとしたら、その後に待っている結果が分かっているだけに、彼女を突き放すことはできない理由があった。


「それに希美。死ぬつもりだったろ?」

「え、それは……ど、どうして、分かるの?」


 真意を見抜かれたというのがすぐに分かるほど、希美は大きく目を見開いた。


「分かるさ。まがりなりにも長い付き合いだ。希美の性格なら、これだけの大きな失敗をして自責の念に堪えられる筈がない。思考が極端なのは昔からだ」


 実際に自殺する勇気があるかどうかなんて、分かりっこない。


 だけど、思い詰めやすい希美がこの後どういう行動に出るかを予想すると、自殺というワードがもっともしっくりきてしまう。


 レイプされて、誰よりも傷付いた筈の希美が、自己防衛の為に相手の言いなりになったとして、それは本当に自己責任と言い切れるのだろうか。



 屈強な男に脅され、恐怖で縛り付けられて思考が停止してしまうほど、希美が追い詰められていたってことじゃないか。


 立場や条件が変われば、誰にだって起こりうることだ。


 浮気というカテゴリだけで、万人から責められるほど、希美だけに責任があるとはどうしても思えない。



「希美にとって1番恐ろしかったことは、何?」

「それは……アッ君に、嫌われること。アッ君に軽蔑されること、です」


「そうか。だからいつもと変わらなかったんだな。希美の変化に俺が気がつく事が、1番恐ろしかったんだ」


「はい……絶対に、バレたくなかった……アッ君にバレて、軽蔑されるのが怖かった。アッ君に愛してもらった年月を、培ってきた時間を、思い出の全部を過去にされるのが怖かったの……」


「馬鹿だな……。そんなの心配するに決まってる。軽蔑なんてしないよ。すぐに相談してくれれば、こんな事にはならなかった。そこは信用して欲しかったよ」


「うん……本当に、本当にその通りです……信用、してた筈だったのに」


「分かってる。嫌われるのが怖くて、言いたくても言えなかったんだろ?」


「うん……」


「それは、俺の責任でもある。そういうことを安心して相談できる関係性を築いてこられなかったんだから」


「違うよ……私が、自分のことばっかりだったから」


「じゃあ、お互いに、だね」


 希美がいつもと変わらなかったのも、縋っていた俺との関係という最後の希望を失わない為の、必死の自己防衛だったんだ。


 それが間違いだらけの行動だったとしても、それ以外の選択肢がなかったのだ。


 立場が違えば幾らでも解釈は真逆にできる。


 強い快楽にラリっていた【浮気女の戯れ言】と切り離す事は、それこそ俺達の10年をまるごと否定することにも繋がりかねない。


 だからこそ俺は、希美と一緒にもう一度やり直すように、自分の考えを都合良く解釈することにした。


「あの日、アッ君が救急車で運ばれてから、無事を見届けて死ぬつもりだった」


「誰にも言わずに死を選ぶつもりだった……?」


 コクリと頷く希美。


 希美は全ての経緯をしたためた手紙を準備していた。俺宛と、俺の親、自分の両親。


 家族や関係者に全てを明かした手紙をしたため、自らの手で全てを終わらせるつもりだったらしい。


「でも、病院でアッ君の顔を見たら、ダメだった……。アッ君、ずっとうわごとで私の名前を呼んでくれた。アッ君のプロポーズが嬉し過ぎて、全部吹き飛んじゃった……ダメだね私、最後の最後まで自己保全の塊で」


 やっぱりな。ここまで来ると完璧なメンヘラだ。

 自分の事しか考えてないってのも、まったく否定することはできない。


「死ぬことは、罪の清算にはならない。単なる逃げだ」


 本当に、なんでこんなに厄介な性格の女を好きになっちゃったんだろうな。


 でもしょうがないじゃないか。好きって気持ちに、嘘はつけない。

 それに、それは俺も同じ。俺も大概重たい男に違いない。


「アッ君のプロポーズで、本当に目が覚めた。本当の事を何も言わずに消えるのが、耐えられなかった。酷いことをしたのを、謝ってから死にたかった。許されなくて良いから……思い切り罵倒されて、嫌われてからで良いから……最後の思い出が欲しかったの。アッ君に愛されてるって……私が裏切ってしまった人は、こんなにも愛してくれてたんだって実感して、その思いを抱いて死にたかった」


 俺は甘いのだろう。そんな女とやり直そうとするなんて、大馬鹿やろうと罵られても仕方ない。


「でも、普通に考えてそんな筈ないのにね……。裏切り女なんて、一瞬で冷められて捨てられるのが普通だから。アッ君には、私なんかよりもっと相応しい人がきっといるから」


「そんな人が居たとしても、俺には必要無いよ。俺にとっては希美が良いんだ」



 他人がどんな評価を下そうが、俺は希美を見捨てない。

 絶対に離さない。


 希美が、本当に心の底から反省して浮気を懺悔しているのか。


 単に心がぶっ壊れて悲劇のヒロイン劇場に酔っているだけなのか。


 それとも俺が許したのを良いことに、自分の都合の良いことを言っているのか。


 絶対に違う。希美は、心から懺悔している筈だ。


 じゃあその根拠は? そんなものは無い。必要無い。


 俺がそう信じた。それだけで他に何もいらない。


 客観的な事実なんて必要無い。


 証拠も必要無い。論拠も必要無い。


 主観だけで十分だ。


 俺にとって、希美が言葉にしてくれている。そのことがなにより大事な事実なのだ。


 だって本質的に心の内側の真実なんて、それこそ神様でもない限り分かりっこない。


 希美の言葉が、心からの本音であることを物理的に証明するには、ここで希美と別れる選択をしたら永遠に分からなくなってしまうだろう。



 お互いに心の整理を付ける為に、1度別れるという選択肢もあるだろう。


 だけど、それはできない。希美の心が耐えられないからだ。


 だったら、俺ができることは、ただ一つ。


次のエピソードは18:00です。

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