序章 〜時代は巡る〜
まずはご覧いただきありがとうございます。
二部作になります。
初めての方でも楽しめるかと思いますが、まずは代表作をお楽しみ頂けるとより一層楽しめるかと思います。
目を開けると、足元は硬い石のような地面。見上げれば、空を切り取るように聳え立つ巨大な建造物群。
そして、耳をつんざくような低い唸り声。
視界の端で、何かが動いた。
光沢を放つ巨大な『鉄の箱』。
どうやら『クルマ』と呼ぶらしい──それらがあり得ない速度で流れていく。
それも一台や二台じゃない。うじゃうじゃと、まるで規則的な虫の群れのように。
「──君ッ! 危ないッ!!」
「ふぇ?」
唐突な警告の声。
振り向いた瞬間、目の前には鉄の塊が迫っていた。
避けられない──そう思った時だった。
「『凍てつけ──アイシクルフロー』」
凛とした声と共に、肌を刺すような冷気が爆ぜた。
キィィィィンッ!
高い音を立てて、目前に迫っていたクルマが一瞬にして氷塊へと変わる。
慣性を殺された鉄の箱は、僕の鼻先数センチでピタリと静止していた。
「大丈夫かい!?」
「え、ああ……うん」
駆け寄ってきたのは、燃えるような赤髪の少女だった。
カッチリとした紺色の上着に、ひらりとした短いスカート。
首元には赤いリボンが結ばれている。
鎧でも、ローブでもない。
ひどく洗練されたその服は、この世界で学ぶ者たちが着る『制服』というものらしい。
「君! 私が居なかったら今頃死んでたよ!?」
「死んでた……そうなの?」
「そうなのって……まあ、無事だったから良かったけど」
少女は安堵の息を吐くが、すぐに怒声がかき消した。
「ゴラァッ! ガキッ!! 何してくれとんじゃ!」
氷漬けになったクルマの扉をこじ開け、中年の男が顔を真っ赤にして降りてくる。
「こんな街中で魔法使う奴がいるかボケェッ! 今すぐ溶かさんかい! 端末のログですぐバレるんだぞ!」
「マズイッ! 行くよ! 君!」
「……え、どこに──」
「逃げるの!! こんな街中で魔法撃っちゃったんだもん! 罰金じゃ済まないよ! それにあの人悪くないし!」
ぐいっ、と腕を引かれる。
訳も分からぬまま、僕はその少女に手を引かれて走り出した。
逃げる……?
あれ、僕は一体何を……。
景色がすごい速さで後ろへ流れていく。
ここはどこなんだ。
名前も、過去も、何も思い出せない。
ただ、繋がれた手の温もりだけが、妙に懐かしい気がした。
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どれくらい走っただろうか。
喧騒から少し離れた路地裏で、少女はようやく足を止めた。
肩で息をしながら、彼女は屈託のない笑顔を向けてくる。
「……さっきはありがとう」
「いいよ。ところで……君名前は?」
「名前? ……名前……」
問いかけられ、自らの内側を探る。
けれど、そこには真っ白な霧がかかっていた。
自分が何者なのか。どこから来て、何をしていたのか。
まるでタグの外れた荷物のように、何ひとつ情報が出てこない。
(あれ?……何も思い出せない)
沈黙する僕を、少女は訝しげな顔で覗き込んでくる。
不審がられただろうか。当然だ、自分の名前すら言えないなんて。
「……ふーん、訳ありって感じね。りょーかい!」
「え?」
拍子抜けするほど明るい声だった。
そんな簡単に納得してくれるものなのだろうか。
この世界の常識が、まだよく分からない。
「訳ありの子なんて今の時代少なくないよ? ……って君、記憶無いんだっけか」
「……あ、うん」
彼女は深く追求してこない。
その適度な距離感が、妙に心地よかった。
じっと彼女を見る。
燃えるような赤い髪。意思の強そうな瞳。
どうしてだろう。初めて会ったはずなのに、どこか懐かしさを感じるのは。
まるで、ずっと昔に失くした大事なパズルのピースを見つけたような──。
「あ、そうだ! 自己紹介がまだだったね! 私の名前!」
少女はその燃えるような髪をバサリと揺らすと、ニカっと歯を見せて笑った。
「ルイシャ・シーネット、よろしくね!」
ドクリ、と心臓が跳ねた。
その響きが、空っぽのはずだった僕の記憶の底を、強く叩いた気がした。
ご覧いただきありがとうございました!
更新については不定期になると思いますが、
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