第4話 存在価値
4人で住むようになって数日が経った。
壁にかけられたカレンダーを眺めて織理はぼんやりと考える。
なし崩しのように始まった同棲生活は思ったよりも気楽だった。と言うよりもそうにしてくれているのだろうと分かる。
弦が用意したという二階建ての一軒家、自分の物として与えられた部屋はベッドと机を置いてもまだスペースがある程度には広い。安くて狭いアパートで暮らしていた織理からすると広すぎるほどに。
全員がこの家に住み、其々の家事をこなしながら過ごす。
だが織理がするのは精々食事を作るくらいだろうか。他のことは全て3人の誰かが行っている。買い物だってそう、お金を出すのは織理ではない。
罪悪感すら芽生えるほどの過保護な生活、何も出来ないことに焦燥するのは当然のことだった。
部屋にいるのも何もしていないようで落ち着かない、織理は一階へと降りる。リビングでは攪真がソファに寝転がっていた。
「かく、ま……何か、俺にできることは……?」
「ん? じゃあキスさせてくれへん? それだけで元気なるから」
そう言われてしまえば応じるしかない。それしか出来ないのだから。織理の頬を攪真の指が撫でた。そして顔が近づく。
軽く触れるようなキスから少しだけ角度を変えて舌が交わる。呼吸の仕方はいまだにわからなくて織理は目をキュッと閉じてされるままになった。
「ほんま可愛いわ、織理……」
攪真は特にキスをねだる人だった。でもそれ以上はない。別に織理もそれ以上を欲しがるわけではないが、他の住民に比べた時に攪真はやけに簡単な要求で止まっていた。
――――
「匠、久しぶり……」
「うわ、めっちゃチャラくなってる……元気? 大丈夫?」
久々に会った親友の変わりように匠は素直に驚いた。なんせ2人は陰キャだ。だと言うのに、まさか親友がピアスを開ける日が来ようとは。尤もそれは無理矢理開けられた物なのだが。
織理の両耳に光る互い違いのピアス、そして舌に覗くシンプルな金属。前者は在琉が無理やり開けた金の輪と、弦とお揃いにした十字架のピアス。舌ピアスは言わずもがな在琉によるものだ。
織理は少し泣きそうになりながら匠の側に寄った。
「匠……あのさ、俺って何をしたら良いの」
「何も求められてないならしなくて良いんじゃない? と言うか悪いけどその状態はだいぶ捧げてる方だからなお前……!!」
匠からすれば束縛は十分に加害だ。これに何かを返そうなんて考えるのがアホらしい。何故なら勝手にされてるだけだから。とはいえそれが伝わる織理でもないだろう、匠は少し考える。
「何かしたいなら……まぁ何すれば良い? って聞くとか」
「そこにいるだけでいいって」
攪真はキスを、在琉はよくわかならい装飾や痛みを与えてくるが、共通して『そこにいて欲しい』と言うのだ。
匠はドン引きした。露骨に顔を顰める。
「何で全員そんなに重くなってんだよ……その言葉に従いなって言いたいけどそれが出来ないのが陰キャな俺達。例えば……思い切り甘えてみるとか……多分あいつらそれが1番ご褒美だぞ」
匠は考えられる選択肢を提示する。しかし織理は首を振った。
「なんで、そんなの俺しか得しない……」
「世の中には頼られることに幸福感を覚えるお人好しがいるんだわ」
あいつらはちょっと違うけど。匠は内心で付け加えながら説得にかかる。
「こう、『ぎゅってして?』とか『一緒に寝ても良い?』とか……言ってて気持ち悪くなってきた。とにかくそう、嘘でも甘えるんだよ!!」
「気持ち悪い……」
匠の提案に素直に織理は嫌悪感を返した。自分がそのようなこと言えるわけがない。気持ち悪い。誰も喜ばないに違いない。
「いやでもこれ多分1番効果あるって。いいか、お前はあいつらにとって『頼って欲しい、可愛い織理』何だよ。それを演じろとは言わないけどお前のしたいこと、無いならないで『好きにして欲しい』とか言えば大喜びだって」
自棄になったと思わないで欲しい。匠は織理の性格がわかっていた、――織理は逃げられない。人の悪意には強くても、善意には晒された事が少なすぎる。だから多少大袈裟でも甘え方を指示するしかなかった。
だがやはり織理の顔は険しい。
「そんなこと言わなきゃいけないの……? だって、痛いのは……嫌だ」
「いやー、多分痛くしてくるのは在琉だけじゃ無いかなー……いやでも自分を安売りするのは良く無いし、それが癖になって自分を切り売りし始めたら困るし……」
言葉はどんどん小さくなり、ぶつぶつとつぶやく匠は暫くして答えが出た。
「とりあえず弦先輩に相談しながら振る舞いなさい。間違っても攪真とか在琉に相談するなよ!? あいつら良識ねぇから!」
「匠の中でどう評価されてるの、あの人達……」




