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第12話 報復

「はぁ、本当最悪」


 翌る日、在琉は徐に悪態をついた。隣にいた織理はその言葉に振り向く。昨晩在琉にした事が頭を一気に駆け巡る。


「ど、どうしたの?」


 恐る恐る聞いてみると在琉は舌打ちを一つ。


「……服が擦れて痛いんだよ」


 結局あの後両側に穴を開けて、少し織理とイチャコラしていた彼だったが落とし穴は意外なところにあった。腫れた胸先が服に擦れて痛い。


「でも在琉、俺にそれしたんだよ」


 織理はそう言って在琉をじっと見つめる。責めるようなでも何も語ってこない空虚な瞳に在琉はたじろぐ。それはあの頃のことを多少申し訳なく思うが故の反応。思ったより痛かった行為に今更ながらそんな気持ちが湧いたのだった。

 落ち込んだように見える在琉に織理は手を取って軽く笑う。


「この痛みもお揃いにしようね、在琉」

「……織さん本当に変わったよね。あの怯えてた小動物はどこ行ったんだろ」


 そんな物、この揉みくちゃにされた同棲生活で消えるよ。言い返しはしなかったが、そんなことを思う。別に自信がついたわけではない、ただ在琉に対しての距離感を掴んだだけだった。言うなれば匠に対しての遠慮のなさが適用されただけ。元々織理は臆病なわけでもか弱いわけでもない。ただ人の好意に弱かっただけで、優しいわけではない。


「嫌い? 今みたいな俺が」

「別に? もう泣いてくれないんだって寂しくなっただけ。この程度で嫌いになる程単純な感情じゃないみたい」


 そう言って在琉は織理の手を取った。きっと同棲始めた頃にこの織理だったなら在琉は冷めていた事だろう。けれどこれだけ心を開いて体を重ねてしまった後には、この程度は何の問題にもならなかった。ただ織理の方が若干優位にいる気がする、その事実だけが気になるところだが。


 織理はソファから立ち上がり、近くに置いてある買い物袋を手に取る。今日は食事当番、買い出しに行かなくてはならない。すると、在琉も同じように織理の隣についた。言わずとも一緒に行く気だった。


「在琉ついてくるの?」

「家に残るのも嫌だから行く」


 何事もないかの様に言い切った在琉に笑いつつ2人は外に出る事にした。

 織理を中心としたこの家は、織理が不在になると秩序が崩れる。主に攪真の湿度が高いため、在琉はこれを面倒に感じていた。


 外に出た2人はいつものように商店街へ向かう。今日買う物、何を作るかを考える。特に食べたいものは思いつかない。


「何食べたい?」

「その質問何も思いつかないから困る」


 聞かれた在琉も首を振る。毎日となるとメニューに悩むのだ。あれは昨日食べた、これは5日前に食べた……そのように考えていくと自ずと行き詰まる。他のと被らないように、そうすると前々回の自分と同じ物を作る事になる。まさにレパートリーが無い。


 そうして悩みつつ歩いていると、いつもと変わらない光景の中に妙な出店があるのを見つけた。1人分のテーブルがあるだけの露店。立っているのは同い年くらいの女の子だ。


 何と無く視線を商品に向けて通り過ぎようとする。だが売っている物につい足を止めてしまった。


「相手の気持ちがわかる薬……?」


 ――胡散臭い。小さな小瓶に入った謎の液体。読心術的能力自体は存在する為、これが本物である可能性は捨てきれない。だが怪しい。


「あらー! お兄さん興味ありますー? これ売れてるんですよ!」


 そう言ってビンを手に取り顔の横に掲げる店主。ニコニコ、と純真そうな笑みに少し苦手意識をくすぐられる。とりあえずまるっきり悪い人と言うわけではなさそうな気はした。


 反応が微妙な織理に、店主はさらに続ける。


「好きな人でも家族でも……この人はどんなふうに生きているんだろうって悩むことはありませんか?」


 織理は少し考えた。――人の気持ち、それは本当に察するのが難しく、今隣にいる在琉の考えすら読めた事がない。攪真だけだろうか、なんとなく考えが能力となって溢れているのは。だがその攪真すら最近は謎だ。普段どおりかと思えば急によそよそしくなる。弦の考えは読めたことが無い、こちらの思考は読まれているようだが。


 ふと在琉に視線を向けてみると、彼はじっとその薬を見ているようだった。

 ――興味あるのかな、こんなものに。言ったら店主に失礼だが、眉唾も良いところ。在琉が他人の心に興味があるとも思えなかった。


「効果は2日間、なんせ私の能力で作ったものなので持続時間は短いです! 代わりに値段はこんな感じだよ、どう?」


 値札は1,500円、微妙に買ってもいいような要らないようなラインだった。かつての織理ならそもそも手を出せない金額だが今は少し余裕がある。


 さりげなく自分の能力だと公言した彼女を疑うつもりもない。何度も言うがこの世界ではこんな能力はあり触れている。薬に効果を付与する、と言う能力にしても心を読む能力にしても同じ事。

 ――もしも、自分なら誰のことが知りたいだろう。在琉? それとも弦? いっそ攪真の正常な部分を聞いてみたい気もする。


 ただ、心を読むと言うのは知らなくていいことを聞いてしまう可能性もある。その一歩を踏み込むのは怖い。知らない方が絶対にいい事もある。3人の気持ちを疑う事も今はない。……精々、弦が今どれくらい苦しんでいるのかを言語化されたい程度だろうか。あまりにも何事もなく振る舞われすぎて、怪我してることを忘れてしまうくらいだった。本音を知りたい。


「……副作用は?」


 在琉が口を開いた。やっぱり欲しいのか、と織理は目を見開く。在琉は誰に使いたいのだろう。


「自力で戻れない事ですね。効果切れるまで戻れません」


 しっかりはっきりと言い切った。――自力で戻れないと言うのは少しリスクに感じる。心を読んで、聞きたくないことを聞いてしまったとしても止められないとなると……織理はいらないと判断した。

 しかし隣の彼は違うようだった。ポケットから財布を取り出す。


「……これ、一つ買う」


 呟かれた言葉に店主は「まいどあり!」と軽く返事した。


「え、買うの? ……在琉こんな事興味あるんだ」

「後で話す」


 薬を受け取り、2人は店の前を離れる。可愛い手提げの小さな紙袋に入れられた瓶は、何と無く在琉が持っていると似合わない様に感じた。

 しばらく歩いて、露天が見えなくなった頃ようやく在琉が口を開いた。


「これ、攪真あたりに飲ませて。あいつなら効果に喜んでくれると思う」


 紙袋を突き出し織理に渡す在琉。それを受け取りつつも織理は首を傾げた。攪真が喜ぶものを何で在琉が買うのだろう。


「これなんなの?」

「おそらく、体を入れ替える薬。相手の心を読むなんて代物じゃなくて、相手の環境を体験する薬だろうね」


 ――え? そんなもの買ったの?

 まさかの展開に織理は口が開いた。必要かと言われたら要らない。それを攪真に飲ませようとする意図もわからなかった。


「織さんが使っても良いよ。弦さんと入れ替わって高身長を味わっても良い」

「虚しくなりそうだから絶対嫌……」


 はて、その入れ替わる対象をどうに決めるのかは分からなかったが織理は他の人になりたいとは思わなかった。外見が変わったところで自分の内面が変わるわけではない。弦になってもあの人の良さを殺すだけで、余計に惨めになりそうだった。


「在琉は……使いたくないの?」

「俺は俺で良い。他のやつとか興味もないし。ただちょっと面白そうじゃない?」


 そんな理由で体を入れ替えようとするなよ、と織理は思ったが少しだけ気になるのは事実。病み上がりの弦に使うのは気が引けるが、逆に自分と入れ替えて久々の自由を謳歌させても良いのだろうかとも思う。


「在琉って変なところで優しいね」

「どこが? 何をみてそう思った今?」


 在琉は不審なものを見る目をしている。ただきっと攪真に飲ませようとした原因は、弦を労ってのことなのでは? と織理は思いついてしまったのだ。あの2人を入れ替えれば、弦は歩けるし攪真は自分に能力を使うだけで生活ができる。

 問題は本人の意思を何も考慮していないことだろう。

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