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第10話 ピアス

 お揃いのアクセサリー。今日買ってもらったそれを掲げて織理は見惚れていた。一銭も払っていないことに罪悪感を感じるが、だからこそちゃんとこれを身につけようと思う。


 ――攪真からのシルバーリング、薬指はダメって言われたけれど、右と左どっちが結婚指輪なんだっけ……。太さ的には人差し指か薬指が収まりが良い。


 織理は携帯で指輪をつける位置を検索した。左手が結婚指輪らしい。なら右手にしようかな、と右手の薬指に指輪を通す。利き手側、何かと視界に入るし良いのではないだろうか。つけ慣れない為違和感を感じるがそのうち慣れるだろう。


 弦とのお揃いピアス、これは今まで十字架のピアスをつけていたところへ付け替える。前のものより色味も目立つそれは考えてみると付けたままに出来ないデザインな気がした。形もそうだが、ちゃんとした宝石が貼っている事実に取り扱いがより慎重になる。


 ――選ぶの間違ったかな。でもこれが良かったのだ、弦がこれを着けている場面を想像すると自然と口の端が上がる。


 織理は鏡に向かい合いながらピアスを耳に通す。横髪が多いからか意外とピアスが主張する事がない。よく見るとある、くらいになってしまった。


 こうして2人からのプレゼントを身につけてみると、必然的にそれがない彼の事が頭に過ぎる。


「……在琉には何か買って渡せたらよかったのに」


 在琉、彼からのプレゼントという名の痛みは散々味わった。片耳に輝く金のリングピアスも胸に付けたままのピアスも、舌も臍も割と至る所に付けたままになっている。だがこれらは彼とのお揃いというわけではない。


  4人ではお揃いにした、けれど攪真や弦と別個にお揃いにしているのに彼だけないのはなんとなく寂しい。あの場では自分も手持ちがなかったため買えなかった。学生の身分でこれらに手を出せる弦と攪真が可笑しいのだ。


 もう少しリーズナブルなお店にでも行ってみよう。そしてこれまでのお返しを買おう。

 そもそもの話、開ける箇所が特殊すぎてそれはお揃いも何も無いだろうと言う考えに至る。


 ――人の体には散々あけといて自分には開けてないんだ。


 彼の胸をなぞっても抵抗する触感はなく、腹部に手を這わせてみてもまっさらだった。キスした時だって異物はなかった。


 ――よく考えてみるとそれは不公平では? 在琉も一度この痛みを味わえばいいのに。


 お返しというよりも報復に近い考えが頭によぎり始める。臍は個人的にどうに開けたのかよくわからなくて怖いので、やるなら……。


「いやどっちも痛そう……」


 分厚い舌に針を通すのだって考えれば怖い話で、かと言って胸の先端は心許ない面積しかない。


 でもその痛いのをこっちは味わったのだ。織理は手元の携帯を弄り、なんとなく検索する。


 ――在琉の黒く美しい体には何色が似合うのだろう。今度はこちらが開けてあげようと、想像して笑う。その笑みは純粋なものとは言えない、悪いことを思いついたときのような不適な笑み。攪真が見たならば「織理お前そんな顔出来たん!?」と驚くことだろう。現に織理はそんな顔をした自覚もない、ただ内なる欲望が溢れただけだ。


 ショッピングサイトを見てみると、ピアスは意外とピンキリだった。――開けるなら1番痛くなかった胸がいい。実際には痛いのだが、舌や腎部に比べたらまだマシという記憶がある。とは言えネットの使い方に不安がある織理は、このままサイトで買う気はなかった。実店舗で買おう、多分普通のピアスと構造は同じだ。実際は全然違うのだが、勝手に開けられた織理にそんな知識はない。



 

 ――――




「安めのアクセサリーなら、駅前のファンシーショップがいいんじゃない?」


 織理は早速弦に相談した。自分から在琉にピアスを、プレゼントしたいと。そのつける先など耳以外に考えていない弦は普通に答えた。


 ファンシーショップ、響きからして入りにくい。ただ確かに女の子に賑わう雑貨屋があった気はする。あれに入るのか、と織理は考えた。だったら頑張ってネットで注文した方が良いのかもしれない。


「少し値が張っても良いなら……今日行ったお店から少し進んだところにシンプルな装飾を扱ってるお店はあるよ」

「どれくらいの値段……ですか?」

「確か2、3万くらい」


 ――そんな大金無い。織理はその値段を、プレゼントとは言え報復の為に使えるかと言えば微妙だった。喜んでくれるかもわからない。


 そんな織理の苦い顔を見て弦は苦笑する。彼のお金のなさを知っているだけに、そりゃそうなるよねという感想が出てくる。頼まれれば買ってもいいのだが、それではプレゼントとして微妙だろう。弦がすぐすぐ出来ることは思いつかなかった。


「サプライズ感は無くなるけれど、在琉に相談して2人で買うとかはどう? お揃いにしたいんでしょ?」


 ――相談、確かに。同じように胸につけるのなら一緒に探しても良いのかもしれない。在琉の方が知識はあるだろうし、開け方も自分よりはマシだろう。開けさせてくれるのかは謎だったが。



「在琉、あのさ」

「なーに、織さん」


 在琉はいつもと変わらずにリビングにいた。腕には買ってきた4人でお揃いのブレスレットがちらりとのぞいている。ちゃんと着けていることに驚いてしまう。だが土台のプラチナが在琉の肌によくあっていた。


 織理の視線を感じて、在琉は腕を胸元に戻す。そうして織理は本題に入ることを思い出した。


「俺、在琉にピアス開けたい」

「ピアス? 別に良いですけど……手持ちあんの?」


 在琉も自分のことを棚に上げて、ピアスなんて耳しかないだろうと疑うことも無かった。だからこそ迷うこともなく許可する。


 問題はその手持ちだ。弦に、在琉と相談して……と言われたがいざ目の前にすると自分の都合に在琉のお金を出させようとしているように思えてくる。とても言い出しにくい。


「……お揃いの装飾、オレだけ買ってないから気になったとか? だったら手持ちの片方やるけど」

「よく分かったね。……本当はプレゼントしたかったけど……」

「織さんも金ないもんね。オレもない。換金すればあるけど、あんな高いやつ買う程はない」


 在琉は織理の考えをよく読めていた。そして現状2人ではどうにもならないことも。


 彼は立ち上がるとリビングを出ていく、そのまま二階に上がるようだった。織理は何も言われていないがそれについていく。


 部屋に入った在琉は箪笥を開き何やら漁り始めた。後ろ姿しか見えていないが、何が入っているのだろう。話の流れならばピアスなのだとは思うけれど。


「ほら。これあげる」


 手渡されたのは金のシンプルなピアスだった。在琉がよく付けている物と似ている。


「いいの?」

「金に困ったときに換金するための奴。これなら、対になる物もあるし」


 実用的な物なのか、織理はそのピアスを眺める。在琉の手には対になる同じピアスがあった。


「ピアス、開けて良い?」

「いいよ」


 在琉はすとん、とその場に座る。やや顔を前に出して織理に頭を差し出した。


「……耳じゃないよ」

「は?」


 織理はそのまま在琉の鎖骨部分を手のひらで押す。少し後ろに倒れる体に在琉は眉を顰めた。でも抵抗はされない、だから織理は在琉の服の下から手を差し入れる。そして、柔らかく芯のない胸の先を指で押した。自分とは違ってほとんど感触のないそれ。自分もかつてはそうだったのに、と思う。


「織さん、もしかしてそこに開けたいの?」

「嫌がっても辞めない。ここ本当に痛かった、舌のも、全部痛かった」


 圧を感じる言葉に在琉は少し逃げたい気もした。だが、自分がやった事をやり返されると言う当然の摂理に喚くのもまた情けない。


「……すれば。いいよ、アンタになら」

「冗談じゃないから。……在琉がずっと弄ってくれたここ、俺にも、触らせて」


 先端に針が当たる。織理の体温に染まった針は冷たくない、当たっている事を感じさせない程度には。けれどこれが今から刺さるのだ、と思うと在琉は目を逸らすことができなかった。


 織理はその一歩に手を震わせた。刺したいと思っていたが、いざ手元にあると恐怖が湧いてくる。痛い事を人にする、他人ではなく在琉に行う。在琉は泣くのか、痛がるのか、それともなんともないのか、それすらわからない。本当に開けて良いのか、自分は化膿しかけたのにそれを味合わせて良いの? 自分の中の善性が辞めろという。けれど


「苦しくなったらキスしてあげる……在琉はそうしてくれたもんね?」

「は、アンタそう言う顔するんだ。……いいよ、オレがやったように織さんがして」


 在琉の手はピアスを持つ織理の手に重ねられた。止めようとはしていない、寧ろ推し進めるかのように。


 ぷちん、肌を貫く感触を織理は覚えた。ぴくりと震える在琉の体、けれど悲鳴は上がらなかった。奥歯を噛み締めて耐える姿、それでも堪えきれずに溢れる荒い吐息に背筋を駆け上がる物を感じる。


 ――可愛い、在琉。頬を撫でてそのまま口を合わせる。


「ん、んゔ、……!」

「は、ぁ、……かわいい……好き、ざいる……」


 2人の口を繋ぐ糸が途切れる前に再び口を合わせる。ピアスのついた舌で在琉の何もない舌を舐める。その度に僅かに震える体に歯止めが効かなくなって行く。


「今日はいっぱい、在琉のここ、……可愛がってあげる」

「織、さん……」


 目を潤ませた彼に、織理は止まる気がなかった。

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