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第4話 能力という名の足枷

「弦さん……少し良いですか」

「ん、どうしたの? 神妙な顔して」


 織理の申し出を断る理由もない、弦は片手に持っていた本を閉じ側に置く。その逆の席に織理を座らせた。

 織理は少しだけ視線を遊ばせ、口を開いた。


「……あの、能力の売り買いってどこでやってるんですか」


 その言葉に弦は目を見開く。織理からでるとは思っていなかった話題だった。――先日の騒動で知ったのかな。梨沙の能力の出所を伝えた記憶はない。攪真は現場にいたことや憶測を話したことで知っているが……それを織理に伝えたのだろうか。

 とは言え触れたくない話題というわけでもない。ただ、自分もよく知らないだけで。


「基本的には闇サイト……インターネット上でやり取りされてるらしいよ。俺も見たことはない」


 サイトにアクセスするためには匿名ネットワークにアクセスする環境を整えなければいけない。態々興味だけでそんな物に手を出す気にはならなかった。だから弦は話としてしか知らない。


 ネットに疎い織理は闇サイトがなんなのかなど分かりはしなかったが、とりあえず現実で取引されていないことが分かり落胆した。


「興味があるの? お勧めしないけど……」

「えっと、その……」


 ――在琉の能力が売ってるのか知りたい。この話題を出した理由はこれだった。けれど彼の過去を言いふらして良いのか、いくら弦相手としてもデリケートな話題。在琉はおそらく織理(自分)だから答えてくれたのでは無いかと思う節がある。寧ろそうだったら嬉しい、半分は願望だった。


 言い淀む織理に弦は言葉を待つ。なんとなく察せるものはあった。織理が欲しがっているわけではない、ただの興味本位でこういう事を気にする子でもない。


 だから、恐らくきっかけがあるはず。タイミングを考えると梨沙だが、接点がなさすぎる。弦も流石に織理の本意に辿り着けなかった。彼は在琉の能力の話など知らないからだ。


「必要なら調べるけど……」

「いえ……能力を抜かれるってどんな感覚なんだろうって、思って……」


 織理は首を振った。態々弦に手をかけさせる必要もない、売っていたとて恐らく買えるお金もない。直接やりとりできるのであれば相手を洗脳して……と言う外道も取れたかもしれないが。ただ、そのまま断るよりは理由があったほうが納得しやすいだろう。実際に気になることでもある。


「能力に頼ってきた人ほど辛いとは思う。これまで当たり前にできていたことが、もう出来なくなって治ることも基本的にない……」


 弦の足がぴくりと動いた。頬に添えられた手は無意識に閉じられた左目の瞼を触れる。

 その仕草に織理も自分の右目に触れた。無いことが当たり前になってしまった右目、無くした時にどう思っていたのだろう。痛かったのか、暗く見えたのか、それすらもう遠い記憶になってしまった。


「人は慣れる生き物だって言うけれど……自分の手足にも近い能力を盗まれた事に慣れる必要なんて無いよね。取り返せたら1番良いのに……」


 ――そう、取り返せたら良い。今の在琉に不満などないし、本人も気にしていないかもしれないけれどあの日、ボルトの話をしたあの時の在琉は少し寂しそうに見えた。いや、明確に寂しいと言っていた。あの常に平静な彼がそう言うのだから十分に異常だった。


「その、能力者も判明はしてないんですか? 警察は……」

「判明してない。被害者もその人の顔を覚えていないんだって。警察は……まぁそもそもグレーな行為だからそんなに動いてはくれないかな。割と特殊な能力だし」


 たかが1人の能力のために法を整備するほどは暇ではないらしい。「能力を抜き取る」そんな能力は前例がなかった。似たようなもので「能力の効果を消す」「無力化する空間を作る」などはあっても永続的な物は無かったのだ。


「これだけのことをしても代償に悩まされない……本当に人なのかも怪しい。余程能力者としての才能に恵まれているのか、知られていないだけで効果が永続でもないのか……」


 頭を傾けて考える弦に織理と同じように考える。確かに、普通なら能力の限界を迎えてしまう気がする。人の記憶を消しただけで臓器がいかれる織理からすると想像もできない世界だ。結局能力も才能である、どんなに強い能力を持っていても代償が少ない人もいる。


「調べる時は言ってね。俺も調べるから」

「ありがとうございます」


 自力で解決できないのなら正直動きにくい。明らかに危険な案件に弦を巻き込むのも嫌だった。



 礼を言って切り上げよう、そう思っていた時見計らったかのように在琉が現れた。


「織さん何話してるの?」

「在琉……」


 ――この話って言っても良いのかな。トラウマだったら良くないような……。やましいことを話していたわけでもないが口籠る。


「先日の、俺を攫った人のこと話してたんだよ。あれ、能力を買ったんだって」


 織理よりも先に弦が答えた。織理にとってその情報は初めて聞くことだったが今はそれがありがたい。在琉のことを、在琉のいない時に聞いていたのだから少し後ろめたいのだ。

 在琉はそれで納得したようで、ふーん、と返事した。


「あの人形化、自前じゃないんだ。その割には上手に使いこなして見えたけど」

「あの人は元々一般人だったのにね……在琉まで巻き込んで本当ごめん」


 弦がまた申し訳なさそうな顔をする。織理は自分の軽率な判断に嫌気がさしてきた。最初から正直に言えば良かったと後悔する。


「それは別にアンタのせいじゃないからどうでも。で、なんでそんな話してたの?」


 しかも結局話題が戻ってきた。織理は咄嗟の言い訳が思いつかなかった。と言うよりこの場ではもう何を言っても気まずくなりそうだった。


「俺も能力あれば良かったのにって……そんな話を織理にしてたとこだよ。手を出す気はないけどね」


 そんな話してない。弦が織理の態度に、勝手に嘘の話を作り上げた。それを聞いた在琉はどこか馬鹿にしたように鼻で笑う。


「へぇ、アンタでもそう言う欲があるんですね。俺は能力なんていらないと思うけど」

「え」


 織理は思わず声が漏れた。


「なに、織さん」

「在琉は、能力いらないの?」


「俺はいらない。便利だけど、無くても変わらないくらい弱いから」


 ――あの時寂しいって言ったのは能力をなくしたことではなかったのか? それとも持ってる能力以外はいらないってこと? 織理は次の言葉に悩む。何方とも取れるような、これ以外が答えなような、判断できない言葉。


「織さん間抜け顔……オレのこと心配してくれたんだ? だから弦さんに聞いたんでしょ」


 ――なんでわかるの。織理は目の前の人物の考えが何一つ読めなかった、笑っているのに笑っていない、まるで同棲する前の、嫌味で悪辣な在琉ように歪んで見える。


「そんなに今のオレが役に立たない? 能力の欠けた不良品は……」


 そんなこと思ってない、そう叫びたかったがその雰囲気に言葉が出ない。怒っている、不機嫌だ、あんなに優しくしてくれてた彼を怒らせてしまった。その事実に織理は体を震わせた。


「在琉、落ち着いて」

「……弦さん」


 捲し立てる在琉を阻んだのは弦だった。


「君は賢いのに認知のズレが酷いね。織理はそんなこと言ってなかったよ、ただ心配してただけ。ね、織理?」

「……うん、能力……無くして何か不便がないのかなって……戻せたなら嬉しいかなって……思って」


 ぽろぽろと涙が溢れる。なんて情けないのだろう、そう思いながらも止められなかった。


「ごめん、なさい……勝手なことして」


 泣きながら謝る織理に在琉は拳を握りしめた。


「……ごめん、織さん。オレ、変に過敏だったかも。本当ごめん」


 顔を上げずに彼はそのまま二階へと上がっていく。久々にうまくいかなかった、在琉を傷つけてしまったのかも知れない。

 何か言いたそうな弦に頭を下げて織理も部屋に戻った。

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