第1話 幼馴染から見る攪真のメンヘラ感
「はぁい、攪真。元気そうでなによりだわ。夏休みの間、充実してたのかしら」
夏休み終わりの久々の登校、攪真の元には以前と変わりないヨルハが訪れた。
夜想ヨルハ、攪真の幼馴染であり隣のクラスの能力者。
攪真が織理を弟のように思うなどと世迷言を言っていた頃から、彼女は攪真の好意を見抜いていた。そしてなんか結局同棲に漕ぎ着けたことも知っている。故のセリフだ。
「ぼちぼちやな。でもまぁ、織理と暮らせるようになってめっちゃ幸せではあるか」
当然のように惚気る攪真に『うげ』とでも言えそうな顔を返す。なんせ彼の性格も恋愛傾向も知っている、故に素直に喜べないのが彼女だった。
「4人で同棲してるんだっけ? 本当脳繍さんには同情するわ、馬鹿な奴らなら羨むだろうけど、攪真ですら一緒に暮らしたくないもの」
「えらい失礼な物言いやと思わん? 俺もお前となんか暮らした無いわ」
要はハーレム。これが男女の関係だったならもっと大事になっていただろうに、同性だから何も問題がないのがまた不思議だ。倫理観は何処へ。
顔だけ見ればイケメン3人に囲われる、と言うまぁまぁ羨ましい状態(客観的に見て)であるゆえに、きっとこの織理の位置に収まりたい女はたくさんいただろう。ヨルハは絶対に嫌だったが。
「で、脳繍さんは潰れずに居られてる? 貴方と……あの在琉ってだけでも同情するわ。弦先輩のことは知らないからその人だけでもまともだと良いわね」
攪真はメンヘラだし、在琉は確か人の心がわからなそうな奴だった。こうなると頼みの綱は一年上の先輩だけだが、この面子の中に紛れている時点でまともでもないのだろうとヨルハは思う。それではまるで織理が色物を寄せ集める色物かのようになってしまうが。
攪真は若干口の端を引き攣らせる。
「ヨルハお前やっぱり俺になんか恨みでもあんのか」
「あんたの手癖の悪さを知ってるからね。新たな被害者に同情するのも仕方ないでしょ。それに、攪真ってバカ女どもにすごく人気じゃ無い? その嫉妬が脳繍さんに向かったらどうしよう……とか」
織理に執着を向ける前までの攪真の恋愛遍歴はそこそこ遊んでいた。一線こそ超えていないらしいものの、デートだけなら何人手を出したのかと言う話だ。他の女に優しい男を選ぶ女もバカだが、好意を向けられると嬉しさでデートしちゃう攪真も攪真だ。
この男は潜在的に『自分を好きな奴が好き』と言う部類だった。織理は本当に例外も例外、あんなに鬱陶しがられていたのに諦めなかったのだから本命なのはヨルハも理解している。理解してるけどそのデートまではしてる女達がまだ学校にいることが問題だ。少女漫画ならば集団でのいじめが始まっても文句は言えない立場に織理はいる。
しかし攪真はヨルハの言葉に懐疑的だった。
「考えすぎやろ……確かに割と女の子たちは俺に好意向けてくれるけど」
「きっも」
「お前が言うたんやろが!」
否定しない攪真の自惚れ加減にヨルハは素直に気持ち悪いしウザいと思った。モテる男はいいですね、と冷ややかに目を向ける。
「とりあえず女の陰湿ないじめを受けないように、学校で脳繍さんにベタベタしないようにね。もしくは何があってもすぐ気がつくようにね」
まぁこの男の心配などどうでもいい、いっそ刺されても文句は言えない。だからヨルハの心配は全て織理に対してだ。別に織理が好きとかではなく、腐れ縁の友の素行の悪さが心配なのだ。今までどうにかなっていたのは全部が等しい扱いだったから、本命の影がなかったからにすぎないことをきっとこの男は気がついていない。
「言うて織理はそんなに弱くないけどな。在琉が特殊なだけで他の奴らなんて織理の前じゃ脳書き換えられて終わりやろ」
「うっわ、守ってやるとか言うセリフの前にそれ? 何能力使う前提で居るのよ攪真は」
「うっさいわ、守るのは大前提として、って話やって。いちいち言わんでもわかれや」
「だってあまりに情けない」
ヨルハは基本的に辛辣だ、それも付き合いの長さからくる物だから攪真もそれ以上のことは何も思わない。ヨルハの言葉は割と真理をついているし自分とは違う視点を持っていることも多い。
だからこの妙な『もしも』のことは頭に入れておこうと思った。そんな(嫉妬で織理を虐めるような)低俗な人間がこの学校にいるとも思わなかったが。
でももしも、もしも女の子達が騒いだとして。
「いっそ織理が嫉妬してくれたらめっちゃ嬉しいのに」
「うーん、クズ」
攪真の世迷言をすぐに貶す。根本的にやっぱりこの男は相手に愛されたいし自分のことだけを考えてほしいと願う男なのだ。きっと織理の答えが違っていれば監禁でもしていたのではないか? ヨルハは割と本気でそんなことを思う。
彼女にできるのは、織理の事になるとおかしくなる幼馴染をただ諌める事だけ。意味があるかは知らないが。
「あんたよく4人で、なんて許可できたわよね」
「割と後悔はしとるよ。だって俺のことだけ見ててくれへんもん……でも織理が逃げるくらいなら」
「なんか動機がキモい……」
ヨルハは後悔した。この男、実はあまり納得しきれていないのでは? と言うか逃げる選択肢を塞ぐために3人で囲ったのならそれは一歩間違えば監禁だったのでは、とか。とは言え織理が良い方向に変わっているようだからそこまでは言わない。今更すぎて言う気にもならない。
そんな彼女の侮蔑の視線を受けつつ、攪真はため息を吐く。
「織理の本命になりたかったわ……」
「あ、もう負けてるんだ……」
――誰が本命になってるんだろう、気になるけれどそこまで傷を抉る気にはならない。自分の首を絞めている幼馴染の肩をただ2回叩いてヨルハは教室に戻った。




