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第5話 匠のお悩み相談室

「いや、友達のセックス事情は割と聞きたくない気がするんだけど!?」


 匠の叫びに織理は少し肩を震わせた。


「でも、匠しか頼れる人いない……」

「うーー! 織理がずるい! それは殺し文句すぎる」


 頭を抱える匠に不安が募る。困らせたくて来たわけではないのに、やっぱりここでも自分が強欲で自分勝手になってきているのが分かり織理は俯く。

 しかし匠が肩を掴んで視線を合わせた。


「織理、一つ言うわ。俺、童貞なのよ」

「……はい?」


 それは知ってるけど何を深刻そうな顔で……織理は首を傾げた。


「いやつまり、セックスしたことないからあまり正しいことがわからないと言うか。在琉の気持ちもわからないと言うか」


 匠としてはこれが全てだった。なんせ経験がない、成人向け漫画やゲームはするがそれらはフィクション。現実よりもより誇張された性欲の描写しか知らない彼からすると実体験の織理に対して言えることがない。何故ならフィクションの奴らの性欲は頭ひとつ抜けているからだ。


 よって、在琉の様に奉仕だけで満足と言うのは漫画で見たことが無い。仮にあったとしてもその後に自分で処理するか、結局挿入するかだ。わからなすぎる。


「まぁ一つ言えるのは普通に考えて、好きな人の痴態……えっちな姿を見て勃たない奴はいないんじゃ無いか……? それとも情緒が育ってないと精通すらこないとか……? そんなことあるかね」


 ぶつぶつと考える匠をただ織理は待つ。なんだかんだで真面目に考えてくれる匠は良い人だ。最初の叫びこそ怒らせてしまったのかと心配したが、それが杞憂であった事に安心する。織理はほっと息を吐く。 

 匠と在琉はただのクラスメイトだ。織理経由でしかよく知らないくらいに縁が浅い。ただ元々雰囲気としては何処か人間離れしたところがある。それは見た目もあるが、織理に対して以外は人と関わることがなかった。表情だって変わらない。

 だからこそ入学当初は神秘的な人だとみんなに評されていたほどだ。織理と絡み始めて化けのツラが剥がれたが依然として、それ以外には大人しい。

 とにかくそんな彼だからこそ性癖が歪んでいようが価値観が歪んでいようが驚く事もない。――むしろあの手のキャラは悲しい過去が何たらかんたら、司祭の息子で……とか有ってもおかしくない雰囲気だ。流石に現実と虚構を混ぜることはしないがそう思えるだけの雰囲気がある。


 匠は考えた。そもそもなんで織理に執着してるんだろう、あいつ。玩具って言ってたけれど、なんで織理? そもそも性欲あるのかなあいつ……。


 暫く考えていた様子だった匠が遂に織理に視線を戻した。


「わかんないからもう一つの問いを答えるわ」


 諦めた。やはり実体験のない人間に推測できる物ではない。まして在琉との接点も織理を通して以外は殆どない。

 故にもう一つの織理の不安に対しての答えだけを口にする事にした。


「織理が自分が強欲になったって言ってたじゃん? それ割と正常だと思うから安心しろよなー。本来人は何かしらで認められて賞賛されて、それで次へのモチベーションを高めてまた自分を磨く物だし」

「でも俺のってなんか」

「なんか恋愛してる時って割と馬鹿になるらしくて、相手を求めるし求められたいしその人のことしか頭になくなるらしい。知らんけど」


 だが自分は在琉だけを求めているかと言われればなんとも言えない。根本的には攪真にも弦にも自分を求めて欲しい、もっと自分だけを見て欲しいと思ってしまう。自分が返してもいないものを他の人に求めている現状に気持ち悪さを感じる。

 匠の言葉を疑うわけではないが、自分が彼が言うほど真っ当な人間である自信が一つもなかった。これが恋愛なのかも微妙だ。


「織理の場合今の環境が特殊すぎるんだよ。今まで人と関わってこなかったやつが、いきなり3人に求められてってなれば感覚もバグるでしょ。むしろ誠実だと思うよ俺は、だって3人の気持ちと同程度の感情を持ててるんだからさ」


「……そうなの?」

「そうなの。だって前までお前は怖がってたじゃん、それが今ではそれを受け入れて更に自分からも欲しがってる。あいつらからしたら嬉しいと思うよ」


 知らんけど、とまた匠は付け加えた。本当に彼からしたらわからないことしかない。ハーレムの現場にもいないし、恋愛もしたことが無い。もう漫画で得た知識しかカードがない、お手上げだった。


「多分弦さんあたりにそれ報告するとめっちゃ喜ぶと思うよ、あの人織理のことやけに可愛がってるし」

「こんなこと言って幻滅されない?」

「しないんじゃないかなぁ、あの人たち……寧ろ『織理が俺たちを求めてくれてる!』の方で喜ぶよ。うん」


 匠の目はどこか遠くを見ている様だった。




――――




 織理が家に帰れば出迎えたのは攪真だった。いつの間にか猫耳も消えている、織理は少し残念に思った。

 彼はバイク用のヘルメットを玄関で磨いていたところだったようで、織理を見るとそれを隣に置いた。


「おかえり織理。なんかえらい気分良さそうやな」

「ただいま……気分は良いかも、匠にあってきた」


 一瞬攪真の動きが止まったが、すぐにニヘラと笑う。


「相変わらず仲ええなぁ、二人は。それで、今日は何かあったん?」

「うん、悩み聞いてもらってきた」


 その言葉に再び攪真は動きを止めた。そして恐る恐るというかのように口を開く。


「……もしかしてまたここが嫌になったんか?」


 同居を始めた頃のことが思い出される。攪真にとって嫌なのは織理がこの家から出て行こうとすることだ。最近は全員落ち着いてきたつもりだったが、それでも3人からの好意を受け続けるのが大変なのはわかっている。だから本当は一人に絞って欲しいのだけど。


 しかし織理は首を振る。


「そうじゃなくて……その、在琉とのことで……少し」


 ――また何かアイツにされたんか。攪真はそう言いかけて辞めた、織理の顔は恐怖を浮かべていなかった。むしろ、認めたくないが、まるで恋でもしているかのような……。まさかの在琉? 弦先輩でもなく? 本命そこになったん? 色々言いたいことはあったが全て飲み込む。絶対聞いたら後悔する。


「……解決しそうなん?」


 その言葉に織理は首を振る。


「ううん、匠もわからないって。……前に攪真と俺、……その、せっくす、したじゃん」


 織理は恥ずかしそうに言葉を続ける。


「攪真は、気持ちよかった? 俺との、そういうの……」

「そらめっちゃ良かったけど……どうしたん?」


 その話題に攪真はあの夜を思い出して唾を飲む。なんで今そんな話題が出されるのかと静かに言葉をまった。


「自分ばかりが気持ち良くなって、相手のこと何も考えられてない。それが嫌で……」


「受け入れる側なんてそんなもんちゃうの? 相手に奉仕出来る余裕があるのは優位に立ってる側だけやろ」


 あっけらかんと言う攪真の顔は本気だ。織理を宥める訳でもなくそれが彼の持論なのだ。


「織理には悪いけど、この家にいる奴らみんな。織理に与えたい側なんよ。多分弦先輩がいっちばんヤバくて、あの人タガが外れれば織理をデロデロに甘やかして閉じ込めたいタイプの男や。じゃなきゃこんな家まで用意せんし」


 明け透けな発言に織理は顔を赤くする。弦はいつも優しくて、織理へのスキンシップだって一番軽い。そういった雰囲気にもなったことがない。だからこそ、そんな彼が自分を閉じ込めて溶かすように甘やかす、なんて聞くとその背徳感に身が焦がれるような期待を感じてしまう。


 弦の好意を疑ったことはないがちゃんと自分に興奮してくれる人なんだと思うと嬉しくなる。その考えが自分の考えだと認めたくはないが。


「在琉はそもそも最初から織理に執着しとるしなぁ。ただアイツ感情表現下手くそすぎるわ、最近マシになったとはいえ好きと嫌いすらごっちゃになっとるし。アイツ、普通にSMプレイとかしてきそうでちょっと怖いわ」

「でも、在琉優しかったよ……? 痛いこと、何も無かった」


 ――あ、やっぱり抱かれたんか。攪真は少し泣きたくなった。この同棲を始めた時点でいずれは全員織理を抱くのは分かっていたが、いざ本当にそうなるとやはり来るものがある。根本的には独占したいのに。本当は俺だけを見て欲しいのに、そう思う心を何とか抑える。3人で愛そうという方針に賛同したのは攪真だ。誰か一人を選ばせようとして織理が壊れるくらいなら、と決めたのだから今更何も言えはしない。


「ただ、在琉……俺のことだけ気持ち良くしてくれて多分本人はそうでも無さそうというか……」

「最初なんてそんなもんちゃう? 初めからお互いが気持ち良くなるセックスすんのは難しいわ」

「そうなの?」

「だって明らかアイツ童貞やろ。しかもサドの血もある、普通には興奮せえへん可能性すらあるわ」


 言ってて気分が悪くなってくる。攪真としては在琉との性行為なんて想像したくもない。だがそれで織理がまた自信をなくすくらいなら血反吐を吐いてでも助言せねば。


「……ありがと、少し時間かけてみる」


 織理は攪真の腕を掴み、少し背伸びをした。そしてそのまま攪真の唇に自分の唇を当てる。


「大好き、攪真……」


 それはほんのお礼なのだろう。でもそれだけで攪真は充分に嬉しかった。


「織理お前本当悪い男になったわ……」


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