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第13話 在琉の問い

 朝、目が覚める。ホワホワする頭を起こして窓の外を見る。気持ちとは裏腹に外は曇りのようだった。


「攪真……」


 隣に眠る攪真の髪を掻き分ける。黒く長い髪は意外とクセがあるようで、手がすり抜けていかない。

 体が少しだけ怠いけれど、それ以上に満たされたような感覚がある。こんな自分を攪真は、本当に抱いてくれたのだ。てっきりこう言う行為は痛くて苦しいモノだとばかり思っていたけれど、攪真はあくまで俺の歩調に合わせようとはしていた。出来てたかはよくわからないけど。


「織理……体は大丈夫か?」

「うん……大丈夫。初めてだったけど、そんなに痛くなかったから」

「なら、良かったわ。俺もこう言うのは初めてやってん。……やっぱり、俺は織理が好きやなぁって……。昨日の織理見たら、余計に可愛くなってもうたわ」

「攪真はちょっと目が悪い」

「織理の意地が悪いだけやろ。……もう少しここで一緒にゴロゴロしてくれへん? まだ、夢に浸っていたい」



 ――――



 昼過ぎ、ようやく布団から上がった織理は階段を降りてリビングへ向かった。何がしたい訳ではないが、部屋にいるのも不健全すぎる気がして。

 リビングには珍しい事に在琉が居た。じっと座っている彼は織理に気がついて居なさそうだった。


「在琉……? おはよう」

「おはよ、織さん。お寝坊さんだね」


 どことなく在琉の調子がおとなしい気がする。織理はそう思ってソファに腰掛けた。


「どうかしたの、なんか、変」

「どうもしない。って言いたいけど、少し考えてる。弦と匠? の言う事、頭で咀嚼してた」


 本当にそっちに気を取られているのだろう。在琉は織理を揶揄うこともなくただ虚空を見つめている。


「オレ、織さんのこと愛してるらしいんだよ。でもおかしいじゃん、同性じゃ子孫を残せないし愛する意味がない。多分あいつらの言う愛はこっちだと思ったんだ。一般的な情愛、繁殖のための大義名分」


 在琉はどこか自分の頭を整理するために口に出しているだけで、別に織理の反応は求めていないようだった。


「織さんの愛って何? オレのあの行為を愛だと思うわけ?」


 在琉の行為、つまりあの嫌がらせのような行為。無理矢理に穴を開け、ピアスを飾る行為だ。


「俺にとっての愛は……錯覚? ずっと痛くて怖い物だと思ってた。けど……案外悪くなかったよ」


 織理はそう言うと腕を広げた。首を傾げた在琉に一言。


「ぎゅってしてあげる。俺これ一番好き」

「は?」


 唖然とする在琉を気にせず織理はこのまま抱きしめた。とはいえ優しく、軽い抱擁でしかないが。


「いつも嫌がらせされてるからお返し」

「なにそれ……なんかゾワゾワする」


 そう言いながらも在琉はどこか遠くを見るように大人しくされるままになっていた。心地いいとは思わない、けれど確かに芸術の中の家族や恋人はこうして抱き合うのを一つのゴールとしていたっけ。実感の湧かなかった在琉も合点がいく。


「なんか初めて抱擁ってした気がする。……これ楽しい?」

「……落ち着くとかないの?」


 織理は織理で在琉の存在をなんとなく定義していた。多分この男は自分に近い。自分が弦や攪真にされたようなことを味合わせるのが一番の薬なのではないかと。

 織理にとっての愛し方は彼らから教わったことだけだ。


「まぁ織さんがしたいなら暫くはいいか……今日は遊ぶ気にもならないし」


 そのまま在琉はもたれ掛かるように力を抜く。

 感情の整理ができていなかった、知識と経験、そして今回の指摘。どこに合わせるのが一番正しいのか。自分が愛されたと感じたのはなんだっただろう、そんな物考えたこともない。人に頼られる事は嬉しくなかった、淡々と記憶して求められた計算をする、学術書の受け売りを求める人に伝えるだけ、別にそこに感情なんて要らなかった。


「織さん、愛してるよ」


 感情の乗らない口だけの言葉。記号を並べただけの告白。

 けれど織理はその言葉に笑った。


「……俺も在琉の事可愛いと思ってるよ」


 ――可愛い? たまに変なことを言う玩具だな、なんて思いつつ返す言葉が思い浮かばないので放置した。でも確かに、朧げに誰かに言われたことがある気がする。記憶力だけは秀でている自分がわからないとなれば、物心着く前か。


「在琉、俺にも言って? 可愛いって」

「可愛いよ、織さん……」


 どこか自分の口ではないみたいだ。それは織理も同じでただ何かを埋めるように言われたかっただけだった。


「……わかんない。本当にオレは織さんを生殖相手として好きなの?」

「さぁ……それは俺にもわからないけど。なんか、在琉ってたまに守ってあげたくなるの、可愛い」


 ちゅ、と織理はおでこに唇を落とす。流石の在琉も目を見開いた。だがしてやられているのも癪に触る、在琉もお返しとばかりに織理の首元に唇を寄せた。

 そのまま二人は肩を寄せて、たまに啄むように体のあちこちにキスを落とす。

 変な感覚だが妙に心地いい気がした、だから在琉も拒む気はなかった。




「……なんか猫が戯れてるみたいに見えない?」

「気持ち悪い例え出さんといてくださいよ先輩……俺は在琉をそんな可愛いものとは思えんわ」


 リビングに入ることなく、同居人二人はその光景を見ていた。邪魔しようと言う気にもならないほど、在琉が持ち直るにはこれくらいの刺激が必要だろうと判断した。

 それに、なんとなく自分たちの行ってきた行為をこうして人に分ける織理を見ると感慨深いものがある。


「やっぱ昨日抱いたから大人になってもうたんやなぁ……お兄ちゃん寂しいわ」

「攪真ってちょっと気持ち悪いところあるね、本当に」

 

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