第12話 攪真の懇願
結局いつもそう、匠にしても弦先輩にしても最初に織理を奪うのはあいつらだ。何故いつも俺は二番手以下なのだろう。
織理と先輩が多分正式に付き合い始めた。以前だって二人の距離は俺なんかよりも近くて、そのおこぼれで俺も美味しい思いをしたことはあるくらいで。だから余計に歯痒かった。いっそ先輩を排除したかったくらいには。
とはいえそれでは永遠に変わらないだろう、俺は俺のやり方で織理に選んでもらう努力をするしかない。とはいえ……どうしたらいいのかは全く分からなかった。
自慢になってしまうが俺はモテる側なのだ、自分から誰かを落としに行った事は織理しかない。そして残念なことに織理はその辺が人と違って、わかりやすい喜び方をしてくれない。だから難しい。
いっそ抱いてしまおうかな、前にそれを自分で否定したが俺の心にある1番の欲求は織理を組み敷く事だ。性欲で彼を見ている発言に聞こえるだろうが、本能的に辛いのだ。あいつらよりも先に好きになって、ずっと優しいお兄さんを演じようとしてきたつもり。でも、俺だって在琉みたいに織理の体に自分を刻みたかったし、先輩みたいに織理の甘え顔をたくさん見たかった。
――――
「なぁ織理……いま、俺に時間くれへん?」
「どうしたの、攪真……」
「俺な、どうしたらええのか分からんのや。お前が好き、俺だけのものにしたい。でもそうならへんやろ、織理は俺だけを選ぶ事はきっとない」
攪真の言葉に織理は俯く。確かに一人だけを選ぶ、となったときに彼を選ぶのかは分からない。ただ痛いほどその気持ちは伝わってくる。だから織理は答えに詰まるのだ。
弦の告白を聞いて尚、織理は誰かを選ぶことが出来ていなかった。弦がそれを咎めることもなく、いつまでも待つと言ってくれたから余計に。
「俺はお前無しで、もう生きていけない。お前ならわかってるんやろうけど……、どうも俺の能力は人にだけ作用するわけでもないみたいでな。……下手なことしすぎて自分の中の軸までズレてしもうたみたいなんや」
攪真の告白に織理は眉を寄せる。確かにこの男、定期的に能力が溢れては居たなと思い返す。まさか愛の告白と共に能力の代償について告白してくるとは誰も思わなかっただろう。
「それは、……大丈夫なの? 洗脳で治そうか、?」
「おぉ、優しいなぁ織理は。でもお前も知っとるやろ、代償は治せない。お前の左目やってそうなんやろ?」
――能力の代償、それは各々違う。人智を超えた力を使うには、ある程度の代償が必要で。織理は体の一部を、攪真の代償は自身の精神汚染だった。それに気がついたのは本当に最近のことで、それだけ彼が能力を制御できなかったというだけの話。
「それは、そう……だけど。でも、誤魔化すくらいは俺でもできる、攪真を洗脳するのは……悪いけど簡単だから」
あまり目線を合わさずに織理は言う。あまりにも失礼だと思ったからだ。攪真との絡みが始まったあの実戦訓練の時だって、攪真はほんの一瞬たりとも抵抗できなかった。能力者としてだけならば織理は攪真よりも上だ。
「まぁそうやろうな。だから俺はお前に、あの時一瞬で負けたんやから……なぁ、いっそ俺の記憶を消してくれへん?」
「え、……」
あまりな言葉に織理は攪真を見る。そこには自笑するような顔の攪真がいた。
「お前に選ばれない自分は、このまま壊れるのがわかる。面倒臭い男やろ、でもそれが分かんねや。だから、選ばれないなら全て忘れないとお前らを傷つける事になる」
これは確信だった。そうやって選ばせようって訳ではない、本当に攪真はそれを無意識にするだけの力がある。織理ほど万能ではないが、それでも弱い訳ではない。脳を錯覚させ人を廃人にするくらいなら、ストッパーの外れた攪真であれば可能なのだ。
それを危惧しているからこその発言。そしてそれは同じ洗脳系能力者である織理には痛いほどわかる。自分たちの力は目に見えない形で人を壊すのに最適な能力であると。
だが納得はいかない。
「そんな、だって……それじゃあお前の数ヶ月は何になるの」
同棲し始めて、短いとはいえ二ヶ月は経っているのに。その期間を空白にしたところで違和感に苦しむのは目に見えている。
「織理といられて俺は楽しかった。ただ、本当に俺はダメなんや、このまま放置されても確実に牙を剥く事になる」
自分の腕を強く握りながら吐き出された言葉。脅迫のようだな、と本人ですら思う。でも本当にその予感は放置できない物だった。
「ただ一緒に居るだけじゃ……ダメ?」
「お前は3人同時に一緒には無理やろ。お前を壊したくないんや、お前を犠牲にするくらいなら……」
未練がましい男の嘆きだと攪真は笑う。だが織理以外に記憶を消せるほどの能力者はそうそういない。だからこうやって追い縋るしかない。
「犠牲になんて……なってない。攪真が、意味を失うよりは……攪真は、何をしてほしいの?」
「お前の一番になりたかった。友達としても恋人としても。笑えるやろ、強欲すぎて。弦さんになんか勝てるわけもなかったのに」
友達としては匠がいて、恋人としては弦の方がきっと適性がある。出遅れたことがわかっているからこそ、もう叶わない夢を口に出せる。
織理もその言葉を聞けば俯いた。そもそも織理にとって一番なんて決め難いものだったから。それこそ人に順序をつける傲慢、選ぶことへの重い責任、いくら弦のおかげで前進し始めたと言えどまだ難しい考え方だった。
「……確かに、一番は無理だけど……攪真のこと、弦さんくらいに好き、だよ。いつも俺を気遣って、我慢してくれたんでしょ……? 攪真の目も、能力も……俺を欲しがってるのよく分かってた、から」
「……全部筒抜けなんか。恥ずかしいわ」
少しだけ攪真の顔に羞恥の笑みが浮かぶ。幾ら鈍くとも攪真ほど雄弁に能力で訴えかけられては認めざるを得ない。
「いつも、キスで止まってくれてたけど……本当は、俺と……してみたかったのかな、なんて」
織理も恥ずかしさで目線を下に向ける。そんなふうに見られたことなんてなかった、だからその行為の事も良く知らない。けれどキスのその先として、存在することは知っている。
「あぁ、そうやな。俺はずっとお前を抱きたかってん。でも、付き合ってすぐそれは……勘違いさせそうやから、体目当てだって」
「…………そう、かも。でも、今なら俺……大丈夫だよ」
織理はそう言うと覚悟を決めたようにワイシャツのボタンを外し始めた。攪真の目が見開かれた。
「攪真を一番にはできないけど、……俺の初めて、貰ってくれる?」




