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創造神と龍人7

「ふぅ‥‥‥腹いっぱい」


俺は満足げに腹を撫でながら、焚き火の前で大きくため息をついた。マンティコアの肉の余韻が口の中に残っている。確かに毒の有無は分からなかったが、予想に反して味は悪くなかった。むしろ、野生の獣らしい濃厚な旨味があって、こんな異世界の魔獣料理も悪くないものだと思った。


「それで昨日の続きだけど」


俺は興味深げにモンドの方を向いた。


「使える魔法はどのように決まるの?全て無条件で使える訳じゃないんでしょ?」


心の奥で小さな期待が膨らんでいる。やはり魔法を使いたいんだ。魔力をただぶっぱなすだけじゃなく、かっこいい魔法を。この異世界に転生した以上、魔法使いとしてのロマンを追い求めたいという気持ちが抑えられない。


「魔法の適性は先天的な才能がある場合が一番手っ取り早く使えるな」


モンドは焚き火の薪をいじりながら、教師のような口調で説明を始めた。


「昨日話をしたが、火水土風光闇6属性については、あくまで目安になるが見分け方がある。ある程度の大きさの魔石に魔力を流すと、適性のある属性の魔法が浮かび上がってくるんだ」


俺の目が輝く。これは期待できそうだ。


「さっきのマンティコアの魔石はあまりにも大きすぎるから、我の持っている中魔石でやってみるか。ちなみに我の属性は火と土だ」


火と土、かっこいい。昨日出会ってからこの小柄な少年を一度もかっこいいと思ったことが無かったけれど、魔法の話を聞いた途端、急にかっこよく見えてきた。属性魔法を扱える者への憧憬が、俺の胸の中で静かに燃え上がっていく。


モンドから直径5cm大の魔石を受け取った時、その表面に宿る淡い光が俺の手のひらを温かく照らした。深呼吸をして、心を落ち着かせる。


「かっこいい属性、来い!」


俺は心の中で強く願いながら、魔石に向かって魔力を流してみた。期待と緊張で胸が高鳴る。転生してから初めて感じる、純粋な希望の感情だった。


魔石が小さく光り、その上空に適性のある属性が現れた。それも6つも。


「おお!」


俺の声が森に響いた。


「これは6属性に適応しているってことだよな?すげー!転生してからいいこと一回も無かったけど、これはテンションが上がる!気分上々!」


胸の奥から湧き上がる喜びが、全身を駆け巡った。ついに、ついに俺にも才能が見つかったんだ。


しかし、モンドの表情は明らかに曇っていた。


「ハマー殿‥‥‥これは確かに6属性使用できるだが‥‥‥魔石の上に出てくる属性の大きさを見てくれ‥‥‥」


モンドの声には同情が滲んでいた。


「5cm大の魔石なら属性は10cm程の大きさで表示され、才能あるものなら30cm程度になることもある。しかし、ハマー殿は‥‥‥」


俺は魔石の上を見つめた。確かに6属性表示されているが、全て1cm未満の小さな光点でしかない。希望が絶望へと変わる瞬間を、俺は身をもって体験した。


「ということは‥‥‥」


俺の声が震える。


「気を使わずに正直に教えてくれ、モンドさん」


「6属性使えるが、使えるのは初歩魔法のみ‥‥‥の可能性が高い‥‥‥」


絶望。この世の終わり。


天から地へと突き落とされたような感覚が、俺の全身を支配した。期待していた分だけ、落胆も深い。転生特典どころか、むしろ平均以下の以下の才能しか与えられなかったのだ。


「しかし、ハマー殿は大量の神性魔力を保有しているので、もしかしたら例外的に‥‥‥」


モンドが慰めるように言葉を続けたが、


「それは無理だよ」


シドの冷静な声が割り込んだ。


「確かに魔力は魔力を補完できるけど、それは才能あってこそだからね。それにしても全属性才能無しとはやるねハマー。あ、才能なしじゃなくて極微量の適性ありか。ハハッ」


俺は怒った。そして祈った。最高神に祈ります。このゴミクズ創造神に天罰を!!!


「ふっ、人は配られたトランプで勝負するしかないのさ」


奥義、開き直り!これで幾度の苦難を乗り越えてきた。絶望から立ち直る俺なりの処世術だった。


「その切り替えの速さは凄い才能だと思うよ。ほんとに」


さすがのシドも感心しきりだ。皮肉めいた口調の中にも、僅かな賞賛が混じっているのが分かる。泣けてくる。


気持ちを切り替えた俺は、新たな興味を抱いてモンドに向き直った。


「それじゃあモンドさん、無属性について教えて」


「無属性は筋肉・神経に作用、精神に作用、回復力強化など体内に作用することが多い。循環をすることで先に挙げた効果が得られるとともに、他の属性の魔法もスムーズに発動でき威力も上がる。これも才能の差はあるが、鍛錬することで極力少なくすることが可能だ」


 モンドの説明を聞きながら、俺の心に新しい希望が芽生えた。


「さっきシドから魔力の循環を教わったんだけど、無属性魔法もこんな感じ?」


 俺は魔力貯蔵庫から魔力を循環させてみた。さっきより大分スムーズにできているように感じる。体内を流れる魔力の感覚が、昨日よりもはっきりと認識できるようになっていた。


「おお」


 モンドの目が驚きに見開かれた。


「昨日魔力を獲得できたおかげか、ハマー殿の魔力がほんの微かにだが感じられる。微かにだが、非常に多く、そして密度の高い魔力だと。既にトップクラスの、我以上の循環ができている」


 まさか、こんなところに隠れた才能が。

 しかし、やはり循環させても魔力が見えないらしい。才能だけでなく能力迄も隠れている。やかましいわ!


「属性魔法については火の初期魔法トーチと土の初期魔法アースウォールについては教えることができるが、すぐにやるか?」


 俺は首を振った。大した威力のある魔法が使えないのであれば、今は他のことを優先したい。


「森を出るときでいいよ。次はこの世界の文化レベルを教えてよ。メインで国を移動する方法は?」


「徒歩もしくは馬・魔獣で移動することがメインになる。個人・もしくは国・それに準ずる団体が管理している転移魔法や転移魔法陣も存在する。相当量の魔力が必要みたいだが」


 転移!夢が広がる。


 やはり科学のレベルは低く、魔法以外は中世程度の文化レベルなのかもしれない。だが、それはそれで冒険のしがいがある世界だということでもあった。


「教えてくれてありがとう。ちなみにモンドはどんなことして収入を得てるの?」


「我はハンターとしてハンターギルドに、迷宮・迷宮外の魔獣や鉱物、植物を売ったり、依頼を受けてその報酬で生活をしている」


「ハンター、それは何かの資格?」


「ハンターとはハンターギルトを利用できる資格みたいなもので、ハンターランクは1級~10級まである。特級というランクもあるそうだが、特級ハンターは例外的に設定されているようだ」


モンドは焚き火の光に照らされながら、詳しく説明を続けた。


「10級は試験などなく、受付で登録するだけでなることができるが、7級程度からはある程度の功績が必要だ。7級から中級者として扱われ、ハンターギルドが公認している全ての迷宮に入ることができるのがメリットだ。それ以上のランクは王族付きや貴族付きのハンターになるための箔付けみたいなものだ。ちなみに4級からは上級者、2級からは超級者として扱われる。あとは、階級に応じてハンター証が豪華になっていく」


ハンターいいじゃん。

俺の心に新しい目標が芽生えた。魔獣を適当に狩って、適当に収入を得て、自由に生きることができそうだ。束縛されない生活への憧れが胸の奥で静かに燃え上がる。


「モンドさんのランクは?」


「我は4級だ。里のしきたりとして、13歳になったら男女ともに里を出て、ハンターランク4級以上になる必要があるのだ」


4級!上級ランクじゃん。


モンドの胸に光る金色のハンター証が、焚き火の光を受けて眩しく輝いている。この小柄な少年が、実は相当な実力者だったのだ。


パイセン!モンドパイセン!!


「とりあえず町に行ったらハンターになるぞ。そして適当に生きる!」


俺は拳を握りしめて宣言した。


「あとは生きていく上で注意することはある?」


「この世界では暴力が正義になることが多い。そういう意味ではハマー殿は大丈夫だと思うが‥‥‥やりすぎだけは注意した方が良いな」


モンドの言葉に、俺は苦笑いを浮かべた。シドといるとやりすぎる気しかしない。創造神ではなく疫病神の可能性もある、と心の中で毒づきながら、俺は新しい世界での生活に向けて静かに決意を固めていた。


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