表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/49

創造神と龍人2

「無事終わったようだね。良かった良かった。バンザーイ!」


シドの能天気な声が石造りの祠に響く。その軽薄な調子に、俺の怒りは沸点に達した。

何がバンザーイだ。こちとら死ぬ思いをしたっての。


胸の奥で蠢く激痛の余韻が、まだ俺の全身に残っている。まるで心臓を鉄の爪で掴まれ、グリグリと捻られたような、言語に絶する苦しみだった。息をするのも忘れるほどの激痛に、一瞬意識が飛びそうになったのを覚えている。


殺意を込めてシドをにらみつける。もし俺が邪眼持ちだったら、今頃こいつは塵と化していただろう。しかし現実は非情で、シドは相変わらずのほほんとした表情を浮かべている。


「ごめんごめん。そんなに痛がるとは思わなかったから、そんなに睨まないでよ」


シドは慌てたように両手をひらひらと振る。その仕草があまりにも軽く、俺の怒りに油を注いだ。


「今後は何かするときは相談するようにするよ。緊急時以外は。今したことは君の心臓に魔力貯蔵庫を造ったんだ。君は魔力が非常に少ないから、それがないとまともに戦えないよ。君の為を思ってのことだから許して欲しい」


シドの説明を聞きながら、俺は自分の胸に手を当てた。確かに何かが変わった気がする。心臓の鼓動に混じって、微かに別の脈動を感じる。それは温かく、力強く、まるで第二の心臓のようだった。


「あと、ついでに君の体の最適化も行ったから少しだけ体を動かすときに違和感が出るかもね」


ついでって何だよ、ついでって。俺の体で実験でもしたつもりか。しかし、言われてみれば確かに体が軽い。筋肉の一本一本が精密機械のように調整されたような感覚がある。


「分かったよ。でも次回からは何かする前に必ず事前に話せ。神にとっては些細なことでも俺にとっては命取りになりかねない。必要なことでも必ず」


俺は深く息を吐いて、怒りを鎮めようとした。俺の為と言われてしまっては、感情に任せて怒ることはできない。俺にはそういう所がある。相手の善意を前にすると、どうしても怒りの矛先が鈍ってしまうのだ。感情に任せて怒ることができる人が、正直羨ましい。そういう人の方が、きっと人間らしく生きているのだろう。


「オッケーハマー。それじゃあ簡単に魔力について話しておこうか」


シドは手をぽんと叩いて、まるで小学校の先生のような口調で説明を始めた。


「この世界には魔力がある。厳密には神に由来する神性魔力と個人に由来する一般魔力があるけど、めんどくさいから魔力でいいよ。で、魔力から魔法が使える。でも神性魔法は強い、一般魔法はあんまり強くない。どう?分かりやすいでしょ?」


適当すぎるだろ。おそらくこの世界の3歳児でも説明できる内容だ。こんな雑な説明で理解できるほど、この世界では魔力は一般的で誰でも持っているものなのか。それとも、シド自身がよく分かっていないのか?


「お、おう。随分簡単な説明だな」


俺は苦笑いを浮かべながら答えた。


「よくわからないんだけど長らく封印されてたせいか、記憶が曖昧なんだ。大切なことがたくさんありそうなんだけどほとんど思い出せない。まぁそんな小さなことを気にしてもしょうがないから、説明を続けようか」


記憶喪失が些細なことだと。こいつは俺よりも凄い楽観的な奴だな。それも神故にか?時の流れが人間とは違うのかもしれない。数千年、数万年という時を生きる存在にとって、記憶の一部を失うことなど、人間が昨日の夕飯を忘れる程度のことなのだろうか。


そして、このまま説明を続けられても何か分かるとは到底思えない。シドの記憶が曖昧な状態で詳しい話を聞いても、混乱するだけだろう。


「いや、ざっくりと分かったよ。それで俺は何が使えるんだ?」


「訓練しないと何も使えないんじゃないかな?とりあえず魔力貯蔵庫からボクの魔力を出せるから困ることは無いけど。戦闘に使えそうな魔法か‥‥‥とりあえず魔力を勢いよく飛ばすのがすぐ使えそうかな。神々破とでも名づけよう」


なんと中二病心をくすぐる名前だろうか。三十路を過ぎた俺でも、心の奥で何かが疼く。


「神々破!!!かっけぇな!いっちょやってみっか!」


俺は胸の奥から力を引き出すイメージをしながら、思い切り叫んだ。


「か~み~が~み~~~~は!!!!」


その瞬間、胸の魔力貯蔵庫から熱いエネルギーが溢れ出した。それは黄金に輝く光の塊となって俺の右手から勢いよく飛び出し、祠の石壁にぶつかった。ゴツンという鈍い音が響く。


壁を見ると、傷一つついていない。威力は微妙みたいだ。ふーん、この金色のやつが魔力か。思ったより地味な威力だが、確かに何かしらの力を放てたことに、俺は密かな達成感を覚えていた。


「悪くは無いかな。この威力ならここらの魔獣程度には負けることはないんじゃないかな。多分。知らんけど」


多分って何だよ。知らんけどって何だよ。不安しかない。


「防御の方はとりあえずボクが何とかするから早速外に出ようか。あと武器になりそうなのは‥‥‥いいのがあるじゃん」


シドの適当な言動に若干の不安を覚えながら、俺は成り行きを見守った。シドは自身が封印されていた大剣に目を瞑りながら手をかざす。神々破と黄金色の魔力が彼の手から滲み出て、大剣を優しく包み込んだ。


光が収まると、そこには異形の大剣があった。真っ黒に輝く剣身に赤い血管のようなものが這い、まるで生きているかのように脈動している。見るからに禍々しく、まさに魔剣と呼ぶに相応しい代物だった。空気すら重く感じられ、剣からは得体の知れない威圧感が漂っている。


「あのー、シド君、これはどう考えても呪われている剣なんだけどどうしちゃったのかな?」


俺は引きつった笑いを浮かべながら尋ねた。


「あれ?どうせなら格好よくしようと思ったんだけど、やりすぎちゃったね。でもさすが最高神の剣だよ。このボクを封印できるだけあってモノはめちゃくちゃ良かった。これで当分武器に困らないよ。ハマーの体も最適化されているし、魔力で身体能力強化もできるだろうからいけるね、レッツゴー!」


こんな中二病武器は使いたくない。心の底からそう思った。しかし、背に腹は代えられない。この異世界で生き残るためには、多少の恥は我慢するしかないだろう。


意を決して剣を手に取ると、予想に反して軽かった。見た目は2m近くある大剣だが、まるで木の枝のように軽く、手に馴染む。試しに振ってみると、空気を切る音が心地よく響いた。扱いやすいと言っても剣術の心得なんて無いから、結局はチャンバラみたいなものだが。


「むき出しはいやだから鞘も作ってくれよ」


「ハマーは意外とわがままだね。ほいっと」


シドが軽く手を振ると、空中に魔法陣のような光る円が現れ、そこから簡素な黒革の鞘が生まれ落ちた。こいつ、何もないところから物を創造したのか?こんな簡単に作れるなんて、創造神の名は伊達じゃないようだ。


「お腹空いてきちゃったよ。そろそろ外に出て適当にご飯を探そう」


このバカ神は近所に散歩に出るかのように簡単に言う。こちとら不安でいっぱいだってのに。胃の奥で重い不安がのしかかり、手のひらには嫌な汗が滲んでいる。しかし、ここにいても仕方がない。


そう言っても仕方がないので、外に出ることにした。


封印されているかのように厳重に閉ざされた重厚な石扉を、シドはリビングドアを開けるように軽々と押し開ける。その様子を横目に見ながら、俺は心の中で覚悟を決めた。もう後戻りはできない。


外に出ると、眩しいほどの陽光が俺を包んだ。真昼間だった。

空を見上げると、太陽のような光体があるが、その周りを虹色に輝く6つの星が規則正しく公転している。まるで宝石を散りばめたような美しい光景に、俺は思わず見とれてしまった。異世界にいるんだなと、改めて実感が湧く。


山頂にある祠だったようで、山下を見渡してみる。そこは見渡す限り深緑の森が広がり、町がどこにあるかも分からない。森は生命力に満ち溢れ、木々は地球で見たことのない形をしている。葉の色も微妙に違い、光の加減で青みがかって見える。


俺らが祠から出た瞬間、いくつもの生物が動いた気配がした。木の枝が揺れ、草むらがざわめき、鳥のような鳴き声があちこちから聞こえてくる。確かに生物はいるみたいだが、それが友好的なのか敵対的なのか、皆目見当がつかない。


出た瞬間は高山の薄い空気に息苦しさを感じたが、今は快調そのものだ。肺に入る空気が甘く、まるで酸素濃度が高いかのようだ。これは魔力貯蔵庫の効果かもしれない。

若いころの全盛期以上の体力がある気がする。筋肉の隅々まで力がみなぎり、3徹しても余裕で仕事ができそうなほどに体が軽い。この調子なら、多少の冒険も乗り切れるかもしれない。


ブックマークと高評価を押していただけたら泣いて喜びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ