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創造神と龍人1

読み専が我慢できず初投稿です。誤字脱字、分かりにくい表現等あると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。

薄曇りの秋空を見上げながら、俺は煙草を深く吸い込んだ。肺の奥まで染み渡るニコチンが、かつての栄光を懐かしむ苦い余韻と重なる。


今でこそニートを満喫しているが、俺はエリートだった。鏡に映る自分の顔は三十代半ばとは思えないほど引き締まっている。一流大学を卒業し、一流商社に就職。英語、中国語、フランス語を流暢に操り、185センチの長身に整った顔立ち。合コンでは必ずといっていいほど一番可愛い子から声をかけられた。


深夜まで取引先との接待でウイスキーを煽り、翌朝には何事もなかったかのようにスーツに袖を通す。そんな日々を当然のように送っていた。体力だけは人一倍あった。いや、体力だけではない。頭の回転も、コミュニケーション能力も、すべてが人より優れていると信じて疑わなかった。


三十歳で課長に昇進した時、俺は自分が無敵だと思っていた。オフィスの窓から見下ろす東京の街並みが、まるで自分の手中にあるもののように感じられた。順風満帆—そんな言葉がこれほど似合う人生もないだろう。


しかし、すべては一瞬で崩れ去った。


社内政治という名の泥沼で、同期の佐藤に完膚なきまでに嵌められた。彼の人懐っこい笑顔の裏に隠された狡猾さを、俺は最後まで見抜けなかった。気がつけば重要なプロジェクトから外され、閑職に追いやられ、最終的には肩を叩かれることになった。


「君のような優秀な人材を手放すのは惜しいが‥‥‥」


人事部長の言葉は偽善に満ちていた。俺の目を見ることさえもせずに書類に視線を落とす彼の姿が、今でも脳裏に焼き付いている。


幸いにも、エリート時代に築いた貯金と、仮想通貨バブルの波に上手く乗ることができた。蓄えは十分すぎるほどあった。働く必要などない。元エリートニートとして、自堕落な生活を謳歌する道を選んだ。


好きな時に眠り、好きな時に起きる。一日中ゲームをしていても誰にも咎められない。コンビニ弁当を頬張りながらアニメを見る午後。最高だった‥‥‥少なくとも、そう思い込もうとしていた。


エリート時代、結婚を真剣に考えていた彼女がいた。社内競争で敗れた俺に、彼女は必死に寄り添おうとしてくれた。「一緒に頑張りましょう」と言ってくれた彼女の瞳には、本当に俺を愛してくれている温かさがあった。だが、俺自身が彼女から離れていった。


プライドが邪魔をした。落ちぶれた自分を見せたくなかった。彼女の優しさが、逆に自分の惨めさを際立たせるように感じられた。最後に会った時の彼女の涙を忘れることができない。


「どうして・・・どうして一人で背負おうとするの?」


彼女の問いかけに、俺は何も答えることができなかった。


日本を出て、ヨーロッパの古い街並みを歩いた。石畳の路地に響く自分の足音が妙に空虚に聞こえた。パリのカフェで苦いエスプレッソを飲みながら、東南アジアの喧騒の中でバイクタクシーに身を任せながら—新しい友達もできた。現地の女性と付き合うこともあった。


本も乱読した。哲学書から軽いラノベまで、手当たり次第に。オンラインゲームでは廃人と呼ばれるレベルまでのめり込んだ。食べたいものを食べ、行きたい場所に行く。

充実していた。いや、ただ充実していたと思いたかっただけかもしれない。


心の奥底で、俺は自分が何かから逃げ続けていることを知っていた。新しい場所、新しい人間関係、新しい刺激—それらはすべて、自分の内側にある空虚さを誤魔化すための道具でしかなかった。


そんな日々を重ねるうちに、俺はこの世に対する執着を失っていった。朝起きる理由も、夜眠る理由も、次第に薄れていく。存在することの意味を見失った魂は、ただ慣性で日々を送っているだけになった。


そして今—どうやら異世界に転生するらしい。


「浜崎タカト君でいいのかな?」


突然響いた声に振り返ると、白髪長髪で白い光を纏った老人が立っていた。その存在感は圧倒的で、明らかに人間を超越した何かだった。周囲の空間が微かに歪んで見えるのは、この老人の放つオーラのせいだろうか。


「君は私の世界に転生することになったよ。そっちの世界の神とも調整済みで、残念ながら拒否権は無い」


老人の表情は穏やかだが、その言葉には有無を言わさぬ威厳があった。


「なぜ君なのかって?それは『なんとなく』で、深い意味は無いよ」


あまりにも適当すぎる理由に、俺は思わず苦笑いを浮かべた。最期まで人生は理不尽なものらしい。


「あくまで推測ですけど、おじいさんはどっかの神様?もし転生後に使命とか与えられるなら、めんどくさいから御免ですね」


「私はこれから君が転生する世界の最高神だよ。理由は色々あるんだけど、世界に刺激を与える為に君を選んだんだ。使命やらなんやらは無いから、君が好きなように生きていけばいい」


最高神の声には不思議な響きがあった。まるで遠い昔の記憶を呼び覚ますような、懐かしさと温かさが込められている。


「君が生きてきた世界とは違い、魔力や魔力に溢れている世界で、きっと楽しめると思うよ。ここで色々教えてあげたいけど時間も無いから、早速送るね。大丈夫、きっと悪いようにはならないから。私からは最高神の加護やらチートやらみんな大好きなものは与えないから頑張って生きてね。ああ、不便だろうから、言語だけは誰とでもコミュニケーションを取れるようにしておくね」


「ちょっ!まt‥‥‥」


キムタクになりきる間もなく、俺は真っ暗な世界に落ちていった。体が宙に浮く感覚、そして加速していく重力。大変なことになったなと頭を抱えるも、すぐに諦めがついた。なるようにしかならない—この開き直りの精神だけは、数少ない長所と言えるかもしれない。


暗闇の中で思い返してみる。ニート生活を始めてから、両親・兄弟とは連絡を絶っていた。本命の彼女とは別れ、親友と呼べる友達とも疎遠になっていた。もう、あの世界に戻りたいとは思えないほど、すべてがどうでもよくなっていた。


それなら次の世界で新たな生活をスタートさせた方がいいだろう。そんな前向きな思いを胸に、俺は未知なる世界への落下を続けた。


暗闇の中を漂うこと三十分ほどだっただろうか。突然、薄暗い世界に落下した。文字通り二メートルほどの高さから、ドスンと。

落ちた瞬間、何かがボキッという鈍い音を立てて折れた。金属特有の、冷たく硬い感触だった。


「痛でーーーーーーーーー!!!」


尾てい骨に走る激痛に、俺は思わず声を上げた。まるで骨が砕けたかのような鋭い痛みが背骨を駆け上がる。その場に倒れ込み、痛みが引くのを待つしかなかった。


数分後、ようやく動けるようになって辺りを見渡す。薄暗くてよく見えないが、床は白い大理石張り。壁も白を基調とした建物の中のようだ。小学校の体育館ほどの広さがある空間に、ぽつんと俺一人。


足元を確認すると、折れた金属—どうやら剣のようだった。それも馬鹿でかい。真っ黒な刀身は二メートルはありそうで、見るからに重厚な作りだった。お宝かと期待したが、自重で折れるほどの硬度では大したものではないのだろう。


建物の中には簡易的な照明がついている。電気があるのかは不明だが、それほど原始的な文化ではないらしい。しかし人の気配は全くない。静寂が支配する空間に、自分の息遣いだけが響いている。


どこかの僻地、もしくは閉鎖された施設に飛ばされたのかもしれない。最高神も大概適当だ。誰もいないところに落とされたら、何もわからないまま死んでもおかしくない。

ここに留まっていても仕方がない。探索でもするか—そう決めて歩き出した瞬間だった。

数歩進むと、折れた剣が目を開けられないほどの眩い光を発した。思わず腕で顔を庇う。光は数秒間続いた後、ふっと消える。


そこに現れたのは、十歳ほどの金髪の美少年だった。


「あー、よく寝た。多分十万年位寝たような気がする」


少年は大きく背伸びをしながら、まるで朝起きたばかりのような口調で呟いた。その仕草があまりにも自然で、十万年という途方もない時間を感じさせない。


「あれ、ここは‥‥‥霊峰の祠‥‥‥かな?最高神と遊んでてやりすぎて、封印でもされちゃったのかな?うーん、よく思い出せないや。ボクを起こしてくれたのはキミ?」


金色の瞳がこちらを見つめている。その視線には人間離れした深みがあった。


「わざとじゃないんだけど、剣を折ったのは俺だよ。最高神に落とされたのが剣の上だったんだ。大事なものだったらごめんな」


弁償する気は全くないが、とりあえず謝罪の言葉を口にする。


「ふーん、最高神ね。ということは異世界人かな。なんかしらの事情はありそうだね」


少年の表情が少し真剣になる。まるで俺の正体を見透かすような鋭い眼差しだった。


「ボクは創造神シドだよ。申し訳ないけど封印前の記憶はほとんどない。多分、大昔に天地神大戦ってのがあって、それが原因で封印されてしまったんだと思う。封印中はこの世界の事はほとんど把握できてないから、教えられることはないかな」


神様!どこかの坊ちゃんかと思いきや、いきなり神様の登場である。思いっきりため口で話しかけてしまった。最高神がここに落としたのだから何かしらの意図があるのだろうが、説明が足りなすぎてイライラする。無能な上司がよくやる、方針も示さずに「自分の頭で考えろ」というやつだ。


「私の名前は浜崎です、シド様。この世界でなじみのある名前かどうかは分かりませんので、適当に・・・ハマーとでもお呼びください。確かに私は最高神にここに落とされました。特に説明もなしに、好きなように生きろと。ここがどこかも分かりません。ですので、ここから出てとりあえず町を探そうと考えています」


「何も知らされてないか‥‥‥ボクも記憶がないし、どうしよう」


シドは困ったような表情を浮かべる。その顔はまだ幼さを残しているが、瞳の奥には計り知れない深さがあった。


「見たところキミは魔力がめちゃくちゃ少ないみたいだから、ここの外に出たら細切れにされちゃうんじゃないかな。それなりに強い魔獣がいると思うし」


細切れ‥‥‥。


「あー‥‥‥なるほど。キミの心臓に貯蔵庫を作る隙間があるね。そこに貯蔵庫を作れば良いのか。ボク自身戦えなくはないけど、封印を解いた人のサポート役として限定的にしか力を発揮できないみたいだ。あとボクに敬語は必要ないよ。どうやら長い間一緒にいる必要があるみたいだからね」


強い魔獣、細切れ、魔力が少ない—どうしろというのだ。いきなり詰んでいるではないか。クソ最高神め、何が「悪いようにはしない」だ。次に会ったら右ストレートでぶん殴ってやる。


そんなことを考えていると、シドが俺の心臓に手を当ててきた。小さな手のひらから、温かい光が放たれる。一瞬のことで身を捩る暇もなかった。


「これでいけるかも?」


その一言の直後、心臓が鷲掴みにされるような激痛が走った。


「グギギギギギギギギギギギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ‥‥‥」


声にならない悲鳴を上げながら、俺は痛みに耐えた。心臓から手に、胴体に、足に、そして頭へと、まるで電流のような痛みが駆け巡る。体の細胞一つ一つが作り替えられているような、そんな感覚だった。

やがて痛みは止んだ。荒い息を吐きながら、俺は新しい世界での第一歩を踏み出そうとしていた。


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