進化
俺は翌週からやりたくもないDFをやらされることになった。
点を取ることがサッカーの最高の面白みと感じていた俺は、DFなんて守るだけの地味なポジジョンをするのがすごく嫌やった。
しかし練習をしてすぐ得ることもあった。
俺がDF。
FWは同じ1年の川上修。
パサーは賢吾。
FWはパサーからもらいどうにかゴールを見てるという単純な練習。
DFはシュートを打たせない、打たせても入れさせないこと。
俺はFWやってたから相手の背後にピッタリくっついといたら前向けへんしシュートも打てない。
FWやってたから守り方わかるわ〜。そう思っていた。
しかし一瞬だった。
川上が俺の左側へ膨らみ、俺はピッタリついていく。その瞬間に右側に広大なスペースが空き、川上はそこに指さしてヘイっとパスを要求する。賢吾もそれをわかっていたかのようにすぐにパスを出す。
俺は川上に置き去りにされあっさりと点を決められた。
この時、俺がFWやってた時の動きと川上の動きのち違いに気付いた。
そして、DFをやってるからこそわかるこうされたら嫌やなーってのをまんまとされてしまったのだ。
井上先生が言ってたのはこれかと、、、
頭が悪い俺でも肌で感じることによりすぐに理解した。
俺がもっかい、もっかいやらせてくれと懇願する。
すると次は川上が空いたスペースに向けると思いきや、右斜めに走り俺に背を向けたままボールを要求。そこに賢吾がパス。
え、これなら足元止めて俺がピッタリマークしてるからシュート打てへんやん。俺の勝ちや。
そう思ってたんやが次の瞬間だった。
ボールを足元に止めるのではなく、ワンタッチで空いたスペースに移動させる。ぴったりついていた俺は走っている方向と逆にトラップされたことにより、その動きに反応できずに置き去りに。そしてそのままシュート。
今まで俺はボールを要求するのは足元、そのボールを止めるのも足元であった為、DFからすると容易にボールに触れることができるし簡単に潰される。
川上はワンタッチで相手を交わすトラップをしたのだ。俺はこんな当たり前なことをこのタイミングで学ぶことができたと同時にみんなとの差を感じることになった。
そして練習メニューが代わり、鳥かごをしていたときのこと。井上先生が俺をずっと見ていた。
俺は内心なんかめっちゃ見られてるまた怒られるわって思ってた。そして井上先生が歩み寄ってきてこう言った。
「中村、お前ボランチやってみいひんか?」
「ボランチ?なんすかそれ。」
「簡単に言えばチームの心臓や。1年生で言ったら賢吾と同じポジジョン。お前のプレーを見てたら正確なトラップと正確なパスが賢吾と同等かそれ以上やし、攻撃の起点にもなれる。どうや?」
「わ、わかりました。どういうポジジョンで何を求められるかわかってませんがこれから頑張ってみます」
とは言ったものの、現行のフォーメーションだと4-4-2のダイヤモンド型で、夏季大会に出るこのボランチには賢吾の前に2年生の坂東君がいる。そこに賢吾もいるしレギュラーなんてハードル高そうやなぁ。
そんなことを思いながらも小学校の頃にやっていた壁に向かってボールー蹴って止めるがここに来て生きたことを実感した。