脅威になれる?
1年から3年全員でサッカー部は30人いた。
入学してすぐに春季大会が始まった。
当然俺達1年生はメンバー入りすることが誰もできず、試合を観戦するだけだった。
そして春季大会は1回戦敗退。
夏季大会に向けて今は練習しているところだが、
俺達1年生が初めて練習試合に出場する日がやってきた。
顧問である井上先生は、小学校の頃どのポジジョンをしていたかをヒアリングした上で練習を見て
ポジジョンを決めた。
俺はFWだった。
FWと言えばゴン中山さんが日本で初めてW杯の試合で点を取った先人。
その試合を見ていた俺は点を取りたくてFWをやってみたかった。その願いが叶った形だ。
試合が始まってすぐ、同じ1年の青井裕幸が怒鳴った。
「翔!そんなキーパーの前に張り付いてたらオフサイドになるやろ!ちゃんとやれ!」
察しの通り、俺はルールはほとんど知らなかった。知っていたのは相手を蹴ったり推したりしたらファールってことと、GK以外は手を使ったらいけないこと、相手のゴールネットを揺らせば得点、自陣のゴールネットを揺らされれば失点。これだけだった。
俺はチームとしてサッカーするのはこれが初めてだった。あっと言う間に前半が終わったが、ボールに触れたのは一度だけ。味方のクリアボールを完璧にトラップし、単独ドリブルを開始しすぐに取られたこのプレーだけだった。
井上先生から、「中村!もしかしてルールあんまり知らないか?もし知らなかったらお前はまず勉強からや!プレーすることも大事やけどルールを理解せなあかん。後半は俺の横で座っと見とけ」
この時俺は怒りも悲しみもなく、言われるがままにした。
そして、井上先生から試合を見ながらルールを教えてもらった。そして宿題として一週間でルールを覚えてこいと指令が出た。
そして俺は言われた通り一週間でルールをほぼ理解した。
これで点を取れる。そう思っていた。
翌週末の練習試合で、俺はFWとして出場することになった。
しかし、一向に俺のところにボールは回ってこない。
ヘイっ!ヘイっ!って何度味方に要求してもボールは来ない。
前半が終わり、俺は賢吾に「なんでパスださへんねん!」と聞くと「突っ立ってるだけじゃあかんねん。FWはゴールに背を向けてるだけじゃあかん。DFは背を向けたFWなんて全く怖くないねんか。だから翔はもっと動いてもらわなあかん!頼むで!」
こう言われ、後半俺は必死に動いてボールをもらおうとした。
しかし、どんだけ動いてもボールは来ず疲れるばかりで時間が過ぎていく。結局、後半10分くらいに交代になった。
井上先生からは、「賢吾の言ってることわかるか?動いてもらえってのはがむしゃらに走ってもらうんちゃうねん。中村が動くことによってDFはどうすると思う?そう、ついてくるやろ?ついてくるってことはそこにスペースが生まれる。スペースに走ってボールもらったら相手ゴールに背中向けずに前向けるやろ?そしたらシュート打てるかもしれん。DFは前向かれた時が怖いねん。まずはこれをやってみろ。」
俺はなんとなくわかったようでわかってないような感じでその日の次の試合で実践することにした。
しかし、言われた通りにしたものの思い通りには行かず結局その日シュート0本に終わってしまった。
井上先生から、「難しいやろ?FWの仕事は点を取ることやけど、点を取るまでに色んなことしなあかんねん。もちろん中村一人で点を取れたらそれはそれですごい。でも11人でやるのがサッカー。みんなと連携することも大事。今の中村はDFの脅威になることができない。来週からDFや」
事実上の戦力外通告を受けた感じした。
しかし、これが今後の俺のサッカー人生の礎となるということはこの時全くわからなかった。