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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

永久に勇者と共に

作者: 夢乃間

 ある日、この世界に神の使いが降り立った。名はセレンと言い、セレンは自身が魔を祓う者だと語る。当初、人々はセレンを疑ったが、セレンが持つ聖なる力が魔を退けたのを目の当たりにし、彼女を勇者と祀り上げた。

 勇者となったセレンは、その聖なる力と人徳を用いて、魔によって塞がれた未来への道を切り開いていった。その道中で、セレンに魅入られた人々が一人、また一人と集っていき、集結した他種族の力によって魔は完全に祓われた。世を蝕む魔は消滅し、混沌とした世界はかつての色を取り戻した。日々に幸せを感じ、時に不幸に苛まれる世界に。

 神の使いとしての任を終えたセレンは、神からの帰還を命じられるも、セレンはそれを拒んだ。


「私はこの世界で生き、そして死にます。主の使いとしてでなく、この世界で生きる者達と同じように生きたいのです」


 様々な種族と交流を重ね、絆を深め、共に敵を倒す内に、セレンはこの世界に染まっていた。神は寛大な心と慈しみでセレンの申し入れを受け入れ、その代償に聖なる力を取り上げた。

 聖なる力を失ったセレンであったが、人はもちろん、他の種族もセレンを変わらず称えた。混沌に染まった世界に光を灯した勇者。力を失って尚、セレンは勇者であった。セレンは一挙に受ける愛を受け入れ、そして同時に神の慈しみを神に代わって与え続けた。

 

 そうして、勇者は死んだ。寿命を迎えた訳でも、新たな厄災と戦って戦死した訳でもない。神に囁かれた一人の聖女によって殺されたのだ。皮肉な事に、勇者が神の存在を更に色濃くしてしまった所為で、容易に神の言葉に従う操り人形となっていた。それは特に、人に顕著に現れた。

 勇者を失い、悲しみに暮れる世界の住人達は、神に祈りを捧げ続けた。


【主よ。どうか彼女を生まれ変わらせてください。そして再び、我々の前に姿を現せてください】 


 一人、また一人と息絶えていく。神に祈りを捧げる聖堂には、人の抜け殻で溢れた。他の種族は神を恐れた。高い知能を持つ人が絶滅寸前まで神を狂信する姿に、それを見ているだけの神の壮大さに。

 信仰が禁止され、自分達の種族の教えに従うようになると、戦争が起きた。交流を拒み、自分達が作った都合の良い殻に閉じこもった結果、他種族に対する憎しみが生まれていた。

 ある種族は他の種族の長命さを羨み、ある種族は他の種族の傲慢さに嫌気がさし、ある種族は自らが絶対だと傲慢を露わに。セレンによって繋がり合っていた絆は、セレンによって保たれていた。


 戦争によって再び混沌渦巻く世界。そんな世界の片隅、既に滅んだ人の街で、マリーは死にながら生きていた。時折目を覚まし、すぐにまた目を閉じる。聖堂で腐れ果てている人々とは違い、マリーの体は清いまま。悲しみや怒りを抱えて死ぬ者達と違い、マリーは幸福に包まれて死に、そして生きている。

 マリーは神の囁きによって勇者を殺した。しかし、セレンの殺され方は、本来の神の言葉とは少し違う。神はマリーに「傷一つ無い幼子として産まれ直しなさい」と言った。神はマリーにセレンを殺させ、器から解き放たれたセレンの魂を新しい器に移し替えようとしていた。

 だが、マリーはそれを拒んだ。マリーが抱いていた歪んだ想いが、神を殺した。邪魔者がいなくなったマリーは、セレンを地下室に呼び、自身の想いに身を任せた。


「マリー。私が愛するマリー。私はあなたの中で生き続ける。私が生き続ける限り、あなたは生き続ける。私が愛するマリー。私が愛したマリーのままでいて」


 セレンは死の間際、マリーに呪いをかけた。セレンもマリーと同様に、歪んだ想いを抱いていた。


「セレン。私が愛するセレン。あなたは私の中で生き続ける。あなたがあなたでいる限り、私はあなたが愛した私のまま。私が愛するセレン。私が愛したセレンでいて」


 他の何者にも祝福されない呪いの愛。だからこそ、二人だけの愛であった。身も心も混じり合った二人は、セレンでも、マリーでもない。それは紛れも無く、愛そのものであった。

 暗く、静かな箱の中で、二人は永遠に生き続け、永遠に死に続ける。

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