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もっと!詳しい異世界談義

「ごちそうさまでした!美味かった!」

「ごっそさん!食べたー」

「ごちそうさま」

「ごちそうさまでしたー」

「お粗末さまです。メリナさん、ごちそうさまでした」

「お粗末さまです!サイトさん、ごちそうさまでした!」


 途中めんつゆに惹かれたメリナも一緒にそうめんを平らげて、昴達は一息つく。食器は才途とメリナが運び、2人並んで洗っていた。


「なんでそっち側やねん」

「めずらし、勝間の関西弁」

「似非やん。伊予弁使いやし俺」

「流派みたいに言うなよ」

「おーい、寝るなー、バカ悦司ー」

「……ブーメラン投げるな、バカンザキ」

「喧嘩か?」

「やめろやアホ2人」

「「喧嘩か?」」

「収拾つかないだろ!」

「仲良いですね、皆さん」

「喧嘩するほどね。……なんで俺だけ敬語なの?」


 とんでもなくダラダラしていた。ひどく単純なもので、5人が揃っていること、安全な場所にいること。とりあえず今日飢え死にする心配は無くなったこと。そういった一つ一つの問題が解決していく中で、完全にとは言い難いものの、いつも通りの雰囲気に戻りつつあった。なんとなくそれが嬉しくて、軽口を叩いていても昴は自然と笑みを浮かべていた。


「え、キモ」

「外に放り出すぞ」


 そして、隙を見せればこいつらはすぐに刺してくる。それはもう挨拶代わりに。


「才ちゃん。そろそろ終わるー?情報共有しようや」

「もうちょい待って、意外とそこの方にこびりついたそうめんがしつこくて『いや私がやりますから!』あ、ほんと?ありがとね、メリナさん」


 手を洗う数十秒の間をおいて、エプロン(普段から寮でつけていたもの)を外した才途が席に戻ってくる。

 その手には、くるくると巻かれた何かがあった。


「それなに」

「羊皮紙。俺も博物館以来だよ実物見たの。世界地図買ってきたから説明に使おうと思って。勝間、ボールペン借りていい?」

「ええけど羊皮紙にボールペンって使えるん?」

「分かんない。まぁ同じの二つ買ってるから汚くなったらその時はその時だよ……書けたわ、感動」


 才途は世界地図の羊皮紙とスマホを交互に見ながら、世界地図に文字を足していく。


「まずこの街、エインワーズがある国がここら辺。中心の王都をぐるっと螺旋状に囲むように12の街がある。国の名前がラクスガーデン、ここから、ここら辺まで。で、その他に国が6つ、これが、人間界」

「……なんて?」

「"人間界"だよ、昴。そんでその隣、地図にわざわざ書かれるほどのでかい壁の境界線を挟んで、こっちがまるっと獣人界。国はごめん、三つあるのは分かったんだけど名前はあんまり」

「じゅーじんかい」

「可愛くないぞ慶次。てかお前は一緒に聞いて……なかったわ、服選んでくれてたんだっけ」

「おう!だからさっぱりだわ!」

「ドヤるな。えっと、獣人の説明が難しいな……イメージはできる?ソシャゲの感覚で」

「その感覚でええんなら見た目の想像はしやすいけど、ええの?」

「大体ね。俺も全部説明できるわけじゃないから。人間より優れた身体能力を持ってて、代わりに魔力を持たない種族。」

「魔力」

「さっきのそうめん、氷入ってなかったけど最後まで水冷たかったよね?あれ、魔法で水を冷たく保ってたんだよ。この世界にも科学はあるけど日本……てか現代の地球に比べると遅れてて、でもそんなのが気にならないくらい日常に魔法が溢れてる。これが、俺たちが来た世界ってわけ。」

「うーん……目の前で使われないとなんとも……。」

「分かる。俺もそう思う」


 だけど逆に考えてみて。才途は唸る昴にそう言った。


「繰り返すけどさっきのそうめん、誰も気づかなかったでしょ?そんで俺らが使ってるスマホ。全部の仕組み解説できるやつこの中にいないでしょ?当たり前にこの世界に溶け込んでるんだ。科学も、魔法も、日常に。面白いよね」


 そう語る才途の目はキラキラとしていた。悦司は半ば呆れたように、苦笑いで言う。


「それを面白いって言えんのがすごいよ。そういや才途も慶次と同じレベルのオタクだっけ」

「はい悦司俺をアイツと同じ括りにしないで。俺はアニメも趣味。あっちは全振り」

「……よくわかんねぇけど褒めてる?」

「「うん」」

「昴。こいつら息吸うように嘘言ったで」

「勝間、突っ込んだら負けだからそこらへん」

「なんとでも言え。そんで、この二つほど大きくないけど、点々とこの大きな二つの括りには当てはまらない種族のまとまった国がある。獣人と、そのまとまらないいろんな種族を全部ひっくるめて亜人って言うらしいんだけど……。明言されなかったけど、これ多分差別用語だと思う。外国の人を国関係なくまとめて外人っていう感じ。分かる?」

「要はその言葉使わなきゃ良いんだよね?使ってる人とは距離置いたほうがいい?」

「俺たちが使わないのはそれで良いと思う。距離置くのは、どうかな……。なんかね、何人か聞いた感じ、悪気なく使ってる人もいたから。悪意のある人と、そもそも疎い人がいると思う。対応は任せるよ」


 そんなもんかと、妙に納得してしまう自分がいた。ニュースで度々見かける地球の差別問題でさえ、昴はどこか他人事のように見ていた自覚があった。昴は才途の言葉に頷き、続きを促す。


「最後に、海を挟んでこっちの大陸全部。国は一つで、名前が魔界」

「まかい」

「魔界。種族も分かりやすくて魔族。人間より身体能力が高くて、人間より魔法の扱いが上手い種族らしい」

「無敵やん」

「そんで過激派は敵対してる」

「最悪やん!?」


 酷い現実をあまりに淡々と話すので、勝間は素っ頓狂な声を上げた。


「え、なんで滅ぼされてないん?突然宇宙人が地球攻めてきたようなもんやろ?勝ち目ないやん」

「人口比が凄まじいんだって。それに、十数年前に魔族の王様が勇者によって倒されて、まとまりがないんだとか。敵対は言いすぎたね。仲良くはないんだけど、過激派が散り散りになったせいで休戦扱いみたい。人と仲良くしたい魔族はこの街とかにもいるらしいよ。数めっちゃ少ないけど」

「……距離置いたほうがいい?」

「昴そればっかじゃん。気持ちはわかるけど初見で殺しに来ない限りは話しても大丈夫でしょ。まぁ俺たちのこの翻訳機能が魔族相手にも通じるのかは知らないけどさ」


 何カ国語この世界にあるのとか流石に知らねー。才途はボールペンをくるくると回しながら呟いた。


「てか、王様倒されてんだよな。異世界召喚の目的一個消えてんじゃん」

「仮に俺たちが世界の危機を救うためこの世界にやってきたなら、あんな原っぱに落とされないでしょ。隣の王都のでっかい城に召喚されてるって」

「言えてる。……分かったことも多いけど、分からないことも多すぎるな。」

「図書館も見つけたから、もう少し色々落ち着いたら寄って調べる予定ではあるよ。……さて、皆。とりあえず俺たちは1日目をなんとか生き延びた。分からないことだらけだけど、それでも生きれることはわかった。でも、明日以降どうなるかなんてわからない。ここは1年間の過ごし方がわかったら学校じゃないし、俺たちは学生じゃなくなった。だから、これからのことをいくつか考えていこう。」


 そう言うと、才途はまっさらな羊皮紙を取り出した。左上に大きく、"これからのこと"と書く。


「まず生きていくこと。金を稼ぐ手段を手に入れて、お金を増やしながら生活できる基盤を整える。これが最優先に考えることだ。次に、目的を見つけること。どうしてこの世界に来たのか、元の世界には帰れるのか。帰れるとしたらその条件はなにか。……そして、帰れないとしたらどう生きていくか。これを見つけるための情報を、とにかく手当たり次第に探し続けること。三つ目は、味方を増やすこと。知識を知っている人、身を守る術を知っている人、お金の稼ぎ方を知っている人。どんな人でもいい。俺たちが成長する指針になる人とどんどん仲良くなっていくこと。……そうしていれば、段々とできることが増えていくはずだ。街の門だって1人で悠々と出ていける。今は俺の名前使わないと駄目だもんな、お前らは」

「うっせぇ」

「調子のんな」

「喋んな」

「あれー?いいのかなー?君たち原っぱに置いてっちゃうぞー?」

「皆、ちょっとこいつ今から簀巻きにして外に放り出さない?」

「やめて昴。疲れた体で頑張ろうとしないで。お前が言うと結構本気に聞こえるんだって」


 結構も何も昴はしっかり本気だったが。とはいえ本日のMVPは間違いなくコイツだしなと、昴は一旦許してやることにした。


「とりあえずこんなもんかな。なにかある?」

『異議なし』

「あるねぇ、異議!!」

「……まじか、なによ慶次」

「ほら寄越せよボールペン」


 くいくいと手を振る異議のある男に、話を終わろうとしていた才途は言われるがままにボールペンを渡す。


「目的を見つけるだぁ?あまっちょろいぜ才途。こういうのはなぁ、はじめにどかっと書いとくもん、なんだよ!!」

「……おっけ、慶次。完敗だわ」


 "これからのこと"の余った余白を慶次は大きく使って、『英雄になる!!』と書いた。その筆圧と字のデカさ。何よりあまりに堂々とした書きっぷりに、才途は降参と両手を上げた。


「……はー、ほんま。おいアホ、ペン返しぃ」

「消させねぇぞ」

「消さんわ。さっさと叶えろやへっぽこ英雄。……俺はこれで」

「……『富豪になる』?」

「一回やりたいんよ。札束プール。任せ、どっしゃり稼いでやろ。ほれ、悦司も書き」

「……そうね。んじゃ、『働かなくなったら勝ち』。……明日からは嫌でも動くんでしょ?寝れるようになるまでは頑張るよ。はい、才途パス」

「よくお前らすらすら書けるよな。……昴は?」

「いや俺もまだ……。」

「じゃ、なんとでも取れるようにしとくかね。ここで生きてくなら欲しいもの山ほどあるし、俺は『取り戻す』で。はい昴パス、あと10秒」

「自分が書いたからって……!」


 勝手に制限を設けてきた才途に悪態をつきつつ、ふわっとした考えが浮かんでは消え、あーでもないこーでもないと頭を悩ませる。


「おい昴。被んなよ」

「言われなくてもお前とは被らないよバカ!なんだよ英雄って!」

「銅像とか欲しいんだよ俺」

「土でも捏ねてろ!……はい、書きました。おいこら一斉に覗くな、やめろ、おい」

『……これはねーわ』

「またか!おい!俺だけその流れか!!」

「しょーもない昴くんの表明は置いといて。……あれなんだこれ、畳めねぇ、折っていいかな」

「才ちゃんアホすぎやろ。最初丸めとったやん、ほら貸しぃ」

「頼むわ、ついでに持ってて。実は早速だけど、この世界での仕事は見つけてあるんだ。お金稼ぎチャンス」

「へぇ、早いね。じゃあもう明日から働けるってこと」

「今日登録に行けばね。悪いんだけど、もうひと頑張り頼むよ、みんな」

「……ちなみに、どんな仕事」


 異世界といったらそんなの一つだろと、悦司の問いに才途は答える。


「冒険者。今から、ギルドで、全員、冒険者登録です」


 フェスかってくらいぶち上がった。

「ところで勝間」

「なによ才ちゃん」

「この世界のお金は全部硬貨だぞ。札束プールはできない」

「マジか、お札発行するところから始めんといかんの?」

「国掌握しようとしてる?」

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