そうだよね!目立つよね!偉そうにするのやめようね!
「おい、そこの見るからに怪しい3人組、止まれ」
『……。』
開始1日目にして詰んだ。
こうして勝間、悦司、昴の3人は街の門番に捕まり、潔白を証明できるものはなく、この世界で一生を牢屋で過ごすので……。
「そうは行かないよ!?」
過ごさなかった。というか見過ごせなかった。いや見過ごせないのは門番のセリフであろうが、こいつらだって負けていなかった。
「怪しいとは失礼やね。普通の学生3人やんか」
「この暑い中全身を黒づくめで覆った奴らを止めないで、検閲兵が務まるか」
ごもっともである。3人の姿は学ラン。まだ夏制服の解禁には二月ほどあった。
「だから学ラン脱ごうって言ったじゃん!」
「いや周り見てみぃ。ファンタジーマシマシの服装だらけやん。こんなん着ようが脱ごうが浮いとることに変わらんって」
「既に浮いてるんだから更にハイジャンプするのをやめろって言ってんの俺は!」
「うるさい……眠い……。」
「喧嘩は済んだか?一応規則だから聞いてやるが許可証と通行料は持っているか?」
『あるわけねぇだろ!』
「そうか、お縄につけ馬鹿ども」
まっず。勝間と昴は汗もダラダラに顔を見合わせた。つい学校の教官に対する口調で吠えた2人に、門番は腰の剣に手をやりながら近づいてくる。
「どーーする!?ねぇどうするよ!てかこれ慶次たちもやられてんじゃないかなぁ!?」
「ここで終わりやね……ふっ、異世界なんてこんなもんってことやなぁ」
「うるさいよ!もうバカ!本当にバカ!」
「あのさ」
「なに!」
「なんや!」
「いや、お前らじゃなくて。えーと、門番さん」
「……なんだ」
あくびを噛み殺しながら、1人だけいつもと変わらない悦司が、本当になんでもないような素振りで前に出る。
昴と勝間の汗は倍プッシュだった。なにしろこの男、5人の中で最も教官からの評判が悪い。いや授業中に寝袋を取り出す男なので当然ではあるのだが、この悦司という男の、自分以外の全てを舐め腐ったような態度は、老若男女をキレさせるのだ。
今度こそ本当に終わった。というか始まってすらなかった。死に場所はここかと2人で悟るなか、悦司は続けた。
「俺らと同じ怪しい服装、黒髪の男が2人ここ通ってない? あとから三人同じのが来るって聞いてたりしない?」
「……お前ら、まさか」
「慶次と才途っていうんだけど」
「なんだぁお前らサイトくんの友達かぁ!!そうならそうと早く言ってくれよ!さっ、中にどうぞ」
「……許可証とお金は?」
「いらないいらないそんなの!ほら、途中で冷たいお茶もあるからな。今日は暑いからそのガックランも脱いで楽にしていくんだぞぉ!」
ガシャシャシャ!!(門の開く音)
ズビシィッ!!!(衛兵の敬礼)
「「「……。」」」
突然だが、高専とは一癖も二癖もある異様な人間がごった返す場所である。
その変人ぶりは度を越しており。1日に3件は面倒ごとが起きる。
そんな高専でも問題児側に位置する3人だが、趣味嗜好も違う彼らは、一言一句違わず同じことを思っていた。
『(アイツなにしやがった)』
〜・〜・〜・〜・〜
「ひぇ……。中に入るとすっごいねこれ」
「門の他にはなんかやたら高い建物が一個、てっぺんだけ辛うじて見えるくらいやったからね。でも、これはなんとも」
「あふ……。ん、外国って感じ?」
命の危機も喉元、もとい門を過ぎれば忘れてしまい、3人は街の中に入り、その街並みに圧倒されていた。
エインワーズというらしいこの街は王都の隣に位置する街で、王都の次に人口の多い場所だった。昴はなんとなくそわそわとしながらも、初めてくる日本以外の場所に、少し心を浮き足立てている。
「けどこう入ってみると、尚更俺たちが通せんぼうくらったのも納得だね。すごい綺麗なブロンドの髪。地元でも観光客とかいたけど、ここじゃそれが多数派だもんね。」
「逆に俺らが観光客側やけんねぇ。金銀灰色、赤黄緑!うーん、カラフル。でも染めたようないやらしさはないけんこれが普通なんやろね。漫画みたいやわ」
「そんで、黒はほんといねぇのな。……いや、いるわ」
「いるけどあれは染めとる黒やねぇ。なんやろ。ベタっとしたら感じ?」
「分かる。チラチラ見える黒髪は全部染めてるな。……珍しいんだろうな、俺ら。ふぁあ」
「悦司、もうちょい頑張ってよ?背負うの嫌だからね」
「……分かってる」
背中が少しずつ丸くなっていく悦司に、昴は少し背中を押してやりながら先に進む。
「なんにせよ合流しないとだけど。手がかりがなんもないからなー。意外とさっきの門のところで待ってたほうがよかったかな」
「あっちから見つけてもらう方が楽かもしらんね。ほら、全員学ランやし目立つやろ」
「あつい、早く脱ぎたい」
「「耐えろ耐えろ」」
言うものの、昴と勝間も同じ気持ちではあった。太陽が二つあるからか、より眩しく、より暑く感じる。はじめにやけにフレンドリーになった門番から水分補給こそさせてもらったものの、3人の学生鞄には500ミリペットボトルの飲み物が二つのみ。そして彼らは一文無しだ。
「慶次たちは先に行って何するって?」
「街で主要な……それこそ住民登録とかできる役所と、街に溶け込むための服を一通り。そんでそれができる資金の確保とは才ちゃんがいよったけど……。自信ありそうな顔やったけん任せてしもて、詳しくは聞いてないんよね」
「……カバンの中に、換金できそうなものがあったんじゃない?それこそ俺らの学ランだって、周りと比べてかなり上等な服だぞ」
「悦司の言う通りやね。それに、大人ウケでいうたら才ちゃんが一番良いわけで。」
「教官から才途だけ優等生扱いなの腹立つよな。普段やってること俺らと変わんねぇじゃん」
「たしかに」
うだうだと駄弁りつつ、しかし次第に前に足を進めることに意識が流れ始め会話はポツポツと途切れ始める。
彼らの腕時計がきっかり30分進んだところに、それはあった。
『………………。』
3人、絶句する。歩き疲れて無言になっていたのとは違う。3人の頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。昴と勝間はまだしも、悦司まだ同じようになるのはひどく珍しい。
それだけのインパクトが、目の前にはあった。
大きさにして3メートルほどの、蟹。
金髪銀髪赤毛とカラフルな異界の地に、それでもそれらを有象無象の景色にしてしまう、巨大な蟹。
……しかも不規則に足が動いている。
「か◯道楽」
「「「んぐっふ!……はっ!?」」」
ふと聞こえたその言葉に、3人は揃って吹き出し、そしてそのあまりにも聞き馴染みのある声に振り返る。
「絶対ここで足を止めると思って待ってたよ、3人とも。無事に合流できて良かったとか、学ランちゃんと着ててくれてありがとうとか、色々言いたいことはあるけど……。とりあえず、ご飯行こっか」
「すげえ美味そうな匂いする店あんだよ!金はどうにでもなったから早く行こうぜ!」
才途と慶次が、そこにいた。